2019年1月15日 (火)

むにゃむにゃ、むにゃ

 年明けから『いつもいいことさがし』(暮しの手帖社)を読んでいる。
 子どもの成長をみつめ、子どもの病気、とくに小児がんと向きあいつづけてきた小児科医・細谷亮太せんせいの本だ。
 10何年か前に一度読んだけれども、このたび、細谷せんせいと小さな会をご一緒することになって、読み返しておこうというくらいの動機で、読みはじめた。
 読んでいると、自分がしあわせな子どもであったこと、部分的にではあるけれども不用意な大人を生きていることの両方に気がつかされて、どきどきした。
 子どものわたしは、いまよりずっとのんびりしてものの少なかった「時代」にも、「家族」にも、「環境」にも恵まれていた。
 にもかかわらず、感謝を忘れた結果だろうか、大人になってからは、自分の後輩にあたる子どもたち、自ら生み育てた子に対して、もっと注意深くてもよかったはずだと恥じ入る気持ちが湧く。ま、いいところもなくはないと思うのだけれども、肝心なところが疎(おろそ)かだという気がしてならない。
 まだしばらくのあいだ、大人人生はつづくわけであるから……むにゃむにゃ、むにゃ。

 さて近年、この現象は何だろうかなあ……と思わされることがある。

 袖振り合った相手が、その場でのあれやこれやを共有しているのにもかかわらず、まったく反応を見せない現象だ。
 ついこのあいだもこんなことがあった。
 風で飛ばされてきたらしいプラスティックゴミの大袋がいくつも散らばり、道を塞いでいた。これを道の側(はた)に寄せ、ふたりの幼子を連れた若いお母さんの通行を援(たす)けたのだったが……。このお母さん、わたしの顔も見ずに、すたすた行き過ぎてしまった。お礼のことばを云って欲しかったのじゃない(にっこり笑うくらいのことは期待したけれども)、そんなことより、その有り様(よう)では、ふたりの幼子に示しがつかないじゃありませんか!
 ひとはおかげさまで、とか、ありがとうと思いながら、云いながら生きてゆくものなのですよ。

 それから、あれだ。

 店でものを買う、食べもの屋で客になる、乗りものに乗る、どこかの観客になる、ほかにもいろいろあると思うけれど、そういうとき、じつに横柄なひとを見かける。こんな場面にも、お世話さま、ありがとう、という思い、ことば、佇まいがなくなってゆくようで、悲しい。こんなことでは、後輩の子どもたちにやさしいふるまいがおしえられない……むにゃむにゃ、むにゃ。

 そんな憂いが溜まっていたところに細谷せんせいの本だ。

 ページをめくるたび、やさしさがあふれてくる。ぽろぽろこぼれるやさしさを拾い集めながらしあわせな読書をつづけたのだ。

 やさしいことはとてもたいせつなことです。やさしくしてもらって、やさしくしてあげることを学ぶのは、そんなに難しくはないかもしれませんが、やさしさに触れずにやさしさを身につけるのは、なかなかできないことだと思うのです。むかし、自然が人間の干渉をはねつけていた頃は、弱い人間がおたがいに支えあわなければなりませんでした。冬でも寒くなく、夏でも暑くなく過ごせるほどに文明が進歩し、自然を克服しつつあると人間がうぬぼれはじめた頃から、人間の結束は弱くなり、バラバラに行動し、人にやさしくできない人の数がふえたのかもしれません。             (『いつもいいことさがし』より)


 細谷せんせい、ありがとう。ありがとうございます。

 そうだそうだ、やさしさに触れることができて初めて、ひと(子ども)はやさしさを身につけられるのである。
『いつもいいことさがし 2』を手にとるころには、目に見えない存在に、自分が支えられていることがわかってきた。それは「むにゃむにゃ」と語りかけたくなる、わたしのなかの……〈見えない誰かさん〉だ。
 〈見えない誰かさん〉はわたしの言動を見ている。
 その目を、わたしは意識しないといけない。
 ひとがどう云おうとも、自分に不足があろうとも、自分が信じることを気弱に「むにゃむにゃ、むにゃ」としか唱えられなくとも、わたしはやさしさを撒こう(蒔こう)。やさしいことを後輩の子どもたちに伝えよう。そうして、そっと天を仰ぐのだ。

W

1月19日(土)に細谷亮太せんせいとの対談が
迫ってきました。
どうか、ふるってご参加ください。
せんせいのお話を聞くことのできる、
またとない機会だと思います(詳細下記)。

〈お知らせ〉

対談
: いまを生きるという発見
細谷亮太せんせい(聖路加国際病院・小児科医・文筆家)と
山本ふみこ

2019
119日(土)
13:00 14:30
池袋コミュニティ・カレッジ
(西武池袋本店別館 8階)

受講料
: 会員 2,808円 一般 3,348円
お申し込み・お問い合わせ
でんわ 03 (5949) 5481(直通)
パソコンから 池袋コミカレ  検索
 

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2019年1月 8日 (火)

黒豆

 2019年は、のんびりはじまった。
 元旦から日に数時間ずつ仕事をしていたし、いつになく勤勉に年賀状のお返事も書いた。それでも、「のんびり」の4文字を胸のなかに置いて歩きはじめたからだろうか、急くこともなく、坦坦と1週間が過ぎていった。
 例年とちがったのは、夫が年末年始不在だったこと。
 夫は現在、埼玉県熊谷市の実家で、ちちとははの介護をしながら日日のことをし、仕事をし、農業をしている。ことに昨年の12月初旬からひと月のあいだ、リハビリテーションの施設で過ごしてきたははを自宅に迎えて暮らしている。
「いのちをまるごと受けとめている感じ」
 だそうだ。
 たすきをかけて、熊谷の家に乗りこみ、手伝うことは考えなかった。乗りこんだとしたら、いっときいっとき状況に合わせてつくりあげているペースを崩すことになる。それに……、このひと月は両親と息子の蜜月を邪魔しないでおきたかった。
 それでわたしは、2018年の暮れのうちから「のんびり」を自分の胸に置いたのだ。
 明けた12日に、こちらから娘3人とともに、熊谷に出かけたときも、「のんびり」を携えていた。家に到着するなりははとおしゃべりをし、ちちのはなしに耳を傾けた。
 しっかりとして見えるが、ときどき記憶が怪しくなるちちに向かって、娘たちは、鸚鵡返しをしている。
「このごろ、会社勤めをしていたときのこと、ことに台湾に単身赴任していた7年間のことを思いだすんよ」
 とちちが語れば、
「台湾に単身赴任していた7年間ね。7年とは長かったね」
 と応えるのだ。
 ひとつひとつ確かめながら会話がすすんでゆくのを見て、ここにも「のんびり」が置かれているな、と感心する。

 お昼。

 炬燵(この冬、古い炬燵から、ははが車椅子で入れるテーブル式に換えた)を囲んで、お餅やら、こまこまとしたおかずやらを食べる。
「そうだ、ぼく、黒豆を煮たんだ。食べてみてよ」
 と夫。
 ちちとふたりで育てた黒豆を暮れに収穫し、煮てみたのだという。
「本を見ながら煮てみたんだ。黒の発色をよくするために、古釘を入れて煮るとあったけど、それをしなかったから、色はいまいち」
 食べてみたら、わたしがこれまで食べたどの黒豆の甘煮よりも美味しかった。

 ああ、ひとは変わるんだ。

 おはるちゃん(わかれわかれに暮らすようになってから、お互いをおはるちゃん、おふみちゃんと呼ぶようになった。……なんとなく)が黒豆を煮るなんて。それもこんなに美味しくね。
「おふみちゃん、これはよく煮えたから、半分持っていってよ。たくさん煮たからさ」
 まるで、女友だちからのおすそ分けみたいだ。

 ああ、ひとは変わるんだ。

2019

おはるちゃんからもらってきた黒豆です。
ふっくら煮えていますが、さっぱりとしています。
ヨーグルトにも入れて食べました。

〈お知らせ〉

対談
: いまを生きるという発見
細谷亮太せんせい(聖路加国際病院・小児科医・文筆家)と
山本ふみこ

2019
119日(土)
13:00 14:30
池袋コミュニティ・カレッジ
(西武池袋本店別館 8階)

受講料
: 会員 2,808円 一般 3,348円
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でんわ 03 (5949) 5481(直通)
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2019年1月 1日 (火)

いまが最上

 昨年大みそか。買いものに出たときのことだ。
「おお寒」
 着ていたニットのブルゾンのポケットに手をつっこんだ。
 すると……、紙の感触がある。何だろう。
 おそるおそるその感触を引きだしてみる。

 たしかに紙。
 名刺の3分の1くらいの大きさに畳まれており、「社大像宗」の赤い文字がある。ああそうか、右から読むのね、「宗像大社」。
 それは宗像大社(むなかたたいしゃ)の「御神籤(おみくじ)」であった。
 運勢大吉。

 記憶の波をかき分けかき分け、このおみくじと自分がどこで出合ったのだったかを思いめぐらしている。宗像大社と云えば、九州は福岡県にある由緒ある神社である。……そのくらいは知っている。が、お詣りしたこともなければ、通りかかったこともなく、思いだそうにも、おみくじをポケットに入れた憶えはない。
 頭を振ってみたり、傾けてみたり、額を指ではじいてみるうち、このニットブルゾンを買った日のことがよみがえった。
 あれは暮れも押し詰まった吉祥寺。
 友人とふたりで、井の頭公園に向かう通りを歩いていた。
 古着店の前を通り過ぎようとして、誘惑に負けたのだ。その店でわたしはこのブルゾンを買った。
 MACPHEE(トゥモローランド)6,500円也。ジップアップのリバーシブルで、色は表も裏もグレーだが、風合いが異なっている。一目惚れして求めて、つぎの日から着ている。
 それでもポケットのなかのおみくじには、3日間ほど気がつかないでいた。それと云うのも、リバーシブル(両面兼用)であるため、タグが脇ではなく、ポケットのなかについており、何度か手をつっこみはしたはずなのに、おみくじはタグのなかに息を潜めていたものらしい。
 友人と立ち寄って買いものした古着店はちょっとした名店で、そこのチェックを逃れることも考えにくいことだった。

 おみくじに気がついて広げたときにも、そしてそれが「大吉」であったことにもときめいたが、何よりどんなふうな旅の末に、わたしのもとに、やってきてくれたかを思うと、不思議を通り越して責任のようなものを感じる。
 隅から隅までおみくじの文字を目で追って、ひとつのことばに釘付けになった。

「いまが最上」
 2019年、どんなことが起こるかわからないが、この気持ちでゆこう。
 いまが最上、いまこのとき、与えられたことが最上、と。

2019
年も、この広場で、
やさしいことばを交換しましょう。
どうぞどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

2019

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2018年12月25日 (火)

兆し

 庭に出ると、ヒヨドリの夫婦がいた。
 口喧嘩をしているのか、さかんに頭を振っているが、もしかしたら愛情表現なのかもしれず、どちらにして邪魔をしないように、わたしはやおらしゃがむのだ。
 すると、浅鉢の土の上にちっちゃな芽が出ているのが目に入った。
 10月に植えこんだクロッカスだ。
 ……クロッカスさん、せっかちか。
 いや、もしかしたら暖冬のせいで、うっかり発芽したとも考えられる。
 ……クロッカスさん、うっかり屋か。
 調べてみると、クロッカスには年のうちに発芽する種類も少なくはなく、開花までは球根の栄養でじゅうぶん保たれ育つ上、寒さにも強いことがわかった。うっかり者のわたしは、自分に照らして、暖かい日にうかれて発芽してしまい、発芽したのはいいが寒さのなかで凍えて、ついには花芽をつけ損なうという想像をしたのだったが。
 チューリップ(赤ばかり60個の球根を埋めた)の鉢の土の表面は、目を凝らしても何も見えない。しかし、見えないだけで、土のなかには発芽の兆しがある。すでに準備は、かなりすすんでいるはずだ。
 発芽の兆しを求めて、庭のなかを動き回っているうち、ヒヨドリの夫婦もいつしかいなくなっていた。

 ことし、辛いことがいくつも起こった。

 集中豪雨、地震、台風による災害。いろいろの事件。国外には戦争があり、内戦があり、難民の苦悩があり、おそらくわたしの知らない絶望も存在する。……誰の人生にとっても、その一部であることし2018年、困りごと心配ごとがひとつも訪れなかった、というひとはないだろう。そうだ、わたしにも心配事はあった。
 そのうちのいくつかは、まだ解決されずに、わたしの内部で燻(くすぶ)っている。一方、たのしみやよろこびごとも齎(もたら)され、その記憶に向かってありがたいと手を合わせてはいるが、燻っている心配事のほうに引かれてゆくのは不思議だ。
 これはわたしの志向性であるかもしれない。
 それぞれ完結しているものとして位置づけているたのしみやよろこびごとに対して、困りごと心配ごとのほうはいまだ動いており、何かが兆しているように思える。兆しを見逃さぬように注意深くなり、わたしはそこに発芽を待っている。
 発芽を信じたいのである。

 皆さん、ことしもこの広場に集ってくださり、誠にありがとうございました。どれほど勇気づけられ、おしえられたか知れません。

 皆さんのなかに、わたし自身のなかに、いまのいま存在する困りごとや心配事には、未来があります。あたらしい何かが兆しています。そうです、それは発芽の機会を育む存在。
 そのことを信じて、2019年に、明るい気持ちで踏み出しましょう。

2018

うちのなかにも、「芽」はあります。
これは台所のみつばの水栽培です。
ずいぶん前に、ご紹介したことがあったと思いますが、
水栽培はつづいています。
ほかにいろいろ試しましたが、
みつばと相性がいいわたしです。
2018_2

こちらはわたしの机の上のみつばさん。
同じく水栽培です。
毎日水を換える。
みつばを使うときは、根元から切って使う
(根元の葉っぱの赤ちゃんを大事に残す)。
ときどき器と、根の部分を洗う。
声をかける。を、守っています。
「兆し」だなあ、これも。

〈お知らせ〉

対談
: いまを生きるという発見
細谷亮太せんせい(聖路加国際病院・小児科医・文筆家)と
山本ふみこ

2019
119日(土)
13:00 14:30
池袋コミュニティ・カレッジ
(西武池袋本店別館 8階)

受講料
: 会員 2,808円 一般 3,348円
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