2024年6月11日 (火)

麦の伝言

6月5日
 朝早くから端刈(はたが)りに出かけた夫を追って、わたしも田んぼへ。
 このあたりでは「端刈り」と呼ぶが、「角刈(すみが)り」という云い方もあるようだ。田んぼや畑へのコンバインの導入部をつくるために、四隅を手刈りしておく作業を指す。
 これは稲刈りの時も同じで、端刈りは、麦刈り、稲刈りの幕開けとなる。
「いよいよはじまる」

 夫の代で初めて麦を育てた昨年、わたしは麦刈りを少しも手伝えなかった。
 何がそんなに忙しかったのかおぼえていないけれど、机にかじりついたり、出張したり、気がついたときには麦が田んぼから消えていたのである。
 消えていたばかりではない。
 すっかり水を張って田植え前の田んぼに様変わりしていたのだった。
 麦刈りに参加できない運命は、わたしに「そのことを考え過ぎぬように」という戒めを伝えた。

 できることをする。

 それを噛みしめたのである。

「いよいよはじまる」
 ことし、田んぼの端に立ってそうつぶやけることが、うれしかった。

 さてところで、ことしの麦刈りメンバーは、コンバインと夫と長女の梓、わたしの1台と3人。
 コンバインは、刈りとり→脱穀→藁(わら)の処理(裁断、もしくは束化)をする機械だ。
 麦の背丈が低かったため、コンバインが銜(くわ)えた麦を脱穀押しこみながら畑をまわる。

 暑い日だった。
 シークワーサーの果汁を混ぜこんだ水を、こまめに摂る。


6月6日
 晴天。
 暑くなりそうだ。

 きょう刈る麦は、昨日の麦よりも背丈高く育っていたから、コンバインがさくさくと刈りとって、どんどん脱穀してゆく。
 同じ刈りとりでも、稲は水田だから、さくさくとはゆかない。コンバインの刈り残しを手で刈って助けなければならない(うちのコンバインは、旧式であるから、なおさらだ)。

 途中コンバインと夫を残して、梓とふたり梅とびわの収穫をする。

 午後4時。
 夫が麦の籾(もみ)をカントリーエレベーターに運ぶ(出荷)あいだに、午後4時から、梓とふたりでコンバインの藁の片づけをはじめる。広い畑にコンバインが吐きだした裁断された藁を、くまでで集めて袋詰めする作業だ。
 これは1週間後に待ちかまえている田植え(稲作)の準備でもある。
 トラクターで二度耕運して、麦の切り株と畑に残った藁を土に鋤(す)きこむ。このとき裁断した藁を少しでも減らしておくほうが、耕運の助けとなるのだ。

「ああ、この一面の藁くずに火を放って焼くことができたなら……」
 そうすればくまででかき集めたり袋詰めにしなくてすむばかりか、藁の栄養分を土にもどせるのに(焼畑農法)。
 近くに住宅地がひろがるこの地域では、望むべくもないことだ。

 午後6時。
 昨年と同じ6反と、家の裏手の2反をすっかり刈り終える。

 夜、梅酒と梅シロップ、びわ酒を漬けこむ。


6月7日
 昨日の夕方の作業のつづき。せっせとくまでを使い、麦の裁断された藁まみれになりながら、思うこと。
 パンやらパスタ、ピッツァを食べない「グルテンフリー」、米を摂らない「炭水化物ダイエット」ということばに、ひっぱられそうになったこともあるけれど、わたしは小麦も米もありがたく食べるわたしであろう。
 その恵みを心身で知ってしまったのだから。

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2024年6月 4日 (火)

バラごころ

5月28
 庭の野菜たちが育っている。
 いちばん手はスナップエンドウ。これは天に向かって姿勢を立て、つるをのばして実をつけている。つづいていちご、雪小町(白い二十日大根)。ミニトマトの収穫も間もなくはじまる。

 昨夏、ある時期つい収穫を怠ったあと、庭に植えつけた野菜たちとのあいだに、簡単には埋められぬ距離が生まれた。こころがはなれてしまったのである。
 収穫というのは、畑仕事の肝だな、毎日毎日見て、収穫しなければ……ということを思い知ることとなった。毎日野菜たちと顔を合わせることこそが、肝なのだと思う。

 毎日収穫。
 この夏の決心だ。


5月30
 寝室の窓に目をやると、ピンクが揺れた。
「あ、また咲いた」

 ピンク色の花を咲かせるバラである。
 お母ちゃん(夫のはは)が植えたのだと思う。
「あ、また」というのは、どうやら四季咲きのバラだからだ。
 春咲いて、夏も小さいのがちょっと咲き、秋咲いて、冬咲く。
 バラの居場所は、母屋の東側の隅っこだ。ひとひとり通れなくはないが、何かの作業のときやら、草とりをするときやらに踏み入れるだけ。
 はははなぜこんな人目につかぬ場所にバラを植えたのだろうか。

 畑作業を手伝いにきてくれた萌(5人娘のひとり)に、訊いてみる。
「ね、お母ちゃんはどうしてこんな隅っこにバラを植えたのかな」
「元もここは寝室で、この窓辺におばあちゃんの鏡台があったでしょう? おばあちゃん、化粧水をつけるとき、ときどきお化粧するとき、ここからバラを見ていたんじゃないかな」
「……」
 農業(40年間ほどは養蚕も)、家のしごとに精出すたくましいお母ちゃん……。子や孫や、親戚、近隣のひとたちのための尽くした、やさしいお母ちゃん……。ふだんは化粧っ気なしだけれどけれど、出かけるときには眉を描き、口紅を引いて変身するお母ちゃん……。うどんをつくるお母ちゃん……。ほうれんそうを茹でるお母ちゃん……。
 いろんなお母ちゃんを見てきたつもりだったけれど、鏡台の前に坐り横の窓からバラをそっと眺めるお母ちゃんを、わたしは知らなかった。
「バラごころだね」
 と云うと、萌が笑う。
「うん、バラごころだね」


6月2日
 日が長くなった。
 1800まで机で仕事をして、支度をして庭の草とりをするのが、このところのルーティーンとなっている。
 18 : 00から19 : 00までの1時間。夢中で草を抜く。1日の締めくくりに草とりをするというのは、なかなか考え深い。

 さて、ときょうも支度しようとするが、外は雨だ。
 雨では、草とりができない。
 このめぐり合わせも床しい。
 一瞬、1日の締めくくりが歪むかにみえてくるけれど、これでもわたしは百姓だ。別の一手を打つこととする。
 台所で鰯を煮る。生姜をたーくさん刻んで、いっしょに煮る。晩ごはんのためではなくて、これは翌日のおかず。もっとたくさん鰯を買うのだったな、と思いかけるけれど、これでもわたしは厨人(くりやびと)だ。こんどまたたくさん買ってきて、梅干しといっしょに煮るとしよう、と思い直す。

 夜はちょっとヨガ人になり、読書人となる予定。

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雪小町さんです。
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茄子も元気。

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2024年5月28日 (火)

「湯」とか、「喋り」とか

5月24
 めまぐるしい10日間がつづいた。
 泳ぎつづけるような日日だった。
 辛かったかというと、少しもそんなことはなく、こころは平静で、事態をおもしろがっていた。それでも息継ぎがうまくゆかず、アップアップする場面、一度立ちたいと水の底を探すもそれらしいものはみつからず、ひやりとする場面はあったのだ。
 昨夜やっと陸にたどり着く。

 久しぶりに疲れた。
 いつもなら2時間も眠れば、もとにもどるが、そう簡単ではなさそうだった。
「くだらないことを喋ろう」

 そうすることで回復をはかろうとは、10日前泳ぎはじめる前に思いついていたから、二女の梢に「喋ろう」と提案。
 梢のほうも忙しい日日がつづいて、ふたつ返事。
「くだらないことを喋ろう」

 東京でひとつ仕事をしてから、午後、待ち合わせてふたりで町はずれの小さな温泉に向かう。
 バスに乗ってたどり着いたのは、ちょっと不思議な温泉場。
 ひと呼吸してから、異世界に足を踏み入れる。

 静かにくだらないことを喋りまくる。
「ね、くだらないってどういう意味だろう」(ふ)
「……とるに足らない?」(こ)
「きょう、生まれて初めてウィダーインゼリーを買って飲んだ」
「いまはinゼリーね。いまのは森永製菓の製品で、提携していたウィダー社の冠名をはずしたらしい」
inゼリー? 商品名として、ちょっと間が抜けてない?」


525
 梢の家で目を覚ます。
 ふたりできょうは後楽園へ。
 東京ドームに併設されたスパ施設へ。
 湯に浸かったり、岩盤浴で寝そべったり、喋ったりしているあいだに、気がつくとからだの表面に、だるさが浮いてきている。

「このだるさとは、ちょっとの間つきあうことになるかもしれないね」(ふ)
「だるいとか、疲れたとか云えたり、くだらないこと喋る相手がいるのは、ありがたい。それでメンタルが守られてるんじゃないかな、と思う。」(こ)
「おお、そうだねー。ありがとうね」
「こちらこそ」
「ところで、こんどまたここにきて、後楽園遊園地のジェットコースターに乗りたい」
「ははは。お母さん、よみがえってる!」


5月27
 せっせと仕事。
 からだの表面に浮いてきただるさが、まだまとわりついているが、気力はもどった。
 ひとつ原稿を書きあげて、自転車に乗って天ぷらそばを食べにゆく。

 25日に初日を迎えた夫代島治彦の映画「ゲバルトの杜ー彼は早稲田で死んだ」。思いがけないほどたくさんのひとが観てくれているとか。
 若いひとたちも、「この歴史を、まったく知らなかった」「これをいま、受けとめられたことに意味があると感じている」などと感想を寄せてくれているそうだ。

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わたしが泳いだり(比喩です)
呑気に過ごしているあいだに
麦畑は色づいていました。
これぞ麦秋です。

ある日、こんな札が立っていました。
刈りとりは6月3日からするようにと
農協の「見まわり番」が立てたのですって。
うちの麦刈りは
6月3日の週を予定しています。

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夫の映画「ゲバルトの杜ー彼は早稲田で死んだ」

初日舞台挨拶(5/25・渋谷ユーロスペース)。

ドキュメンタリー映画のなかに組みこまれた
短編劇を作・演出した劇作家の鴻上尚史さんと
出演者の望月歩さん、琴和さんたちが並んでいます。

映画に関心のある方は公式HPをご覧ください。
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2024年5月21日 (火)

月夜の水浴び

5月19
 めずらしく、家に、わたしひとりきり。
 こんなとき、わたしは怠けがちになる。寝坊したり、ぼんやりしたり。
 けれど迫る仕事があって、きょうはこれまためずらしくひとり、朝から仕事をする。

 昼に近づくころ、お腹がすいてきた。
 ただすいているだけでなく……にんじん・グラッセが食べたくてたまらない。
 台所に立ってゆき、人参2本をまな板の上にならべ、皮もむかずに大きめに切る。こころはにんじんグラッセでいっぱいだ。小型のフライパンににんじんをならべ、水を注ぎ入れて茹でる。煮立ったところに固形ブイヨンと、ベイリーフを投入。
 ゆっくり、ことこととゆく。さいごにバタを加える。
 冷凍してあった牛肉を焼こう。

 ときどき、こんなことがある。
 きゃべつのせん切りが食べたいあまりに、とんかつ屋の客となったり。
 ……こんなのも、似ているだろうか。きれいな色の靴下をみつけたのを理由に、同じ色のバッグを求めたり。

 きょうのわたしは、にんじん・グラッセ。
 どうしてもにんじん・グラッセ。


5月20
 水をやらなけりゃ。
 水をやらなけりゃ。

 水を……。

 わかっていても、かなわないことがある。
 ちょっと待って。
 ごめんね、もう少し待って。
 もう少し、もう少し。

 そうしてわたしは、夜、庭に出て、水まきをする。
 日差しのある時間帯の水やりは、葉を焼くからこれもありだ、と思いながら、夜まで庭の友だちのもとに立てなかったことが、情けなくてならない。

 気にするな、気にするな。
 月夜の水浴び。
 月夜の水浴び。

 庭の友だちは云ってくれる。

 そしてきょう、水をやろうと午後9時に庭に出たら……、雨が落ちてきた。

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友人が送ってくれたうつくしいお茶。
うつくしいだけじゃない。
滋養いっぱいのお茶。

・ジャスミン
・ハイビスカス
・バラ
・陳皮
・レモン
・氷さとう
・パンダーハイ(木の実)

ね、効きそうでしょう?
ゆっくりいただいたら、
……眠くなってきました。
Good night !

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