2026年5月19日 (火)

ステーキを焼いて食べる

514
「『はじめに』と『おわりに』の原稿、ありがとうございます。
 恨むなんて、とんでもない! 恨めしいことなど何ひとつないのが『ふみ虫舎』とのお仕事なので。
 今回も書き手のみなさんの原稿、楽しく、ときにウルッときたり、ハッとしたりしながら読ませていただきました。日常のおもみや深みを感じてグッときました」

 というメールが届いていた。
 ブックデザイナーの柴田裕介さんから。
 前の日の、わたしのメールに対するお返事である。
「ふみ虫舎エッセイ講座」のあたらしい本の「レイアウト」(その昔ゲラと呼んでいたのと意味合いも工程も同じ)を受けとったお礼のメールをわたしは、した。

「ほんとうに、どうもありがとうございました。
 こんなに急いでいただいて。
 どうか恨まないでください。
 いえ、少し恨んで、『気』を抜いていただきたいです」

 柴田さんのやさしいメールに、涙がこぼれる。


517
 苗運びをする。
 約束の仕事が複数あって、頭を掻きむしったが、掻きむしりながら、それらをあとまわしにすることとする。

 Daichii286個(もち米を加えて、その数になった)の苗箱をひとりで運んでもらうのはしのびなかった。
 田畑の仕事は「待ったなし」と云われるが、そしてそりゃそうだとわかっているけれども、わたしの机仕事だってほんとうは「待ったなし」なのだよ、と思う。
 ひとつ落とすと、永遠に仕事がずれてゆく……。
 永遠に? それは大袈裟。
 そこにたどり着いて笑う。
 なんとでもなる。
 いいわけだって、堂堂としよう。

 3日前に萌がやってきて、Daichiiとふたりで苗箱の土に蒔いてくれた籾種がむしろの下で発芽している。小さなもやしみたいな、芽。
 それを苗代田(なわしろだ)に運ぶのだ。半日がかりで運び、夕方、そこに虫除けネットをかける作業をした。

 夜は、ステーキを焼いて食べる。

A2b6e1c8aaca4e4d9a16f969d0b3dc45
32ce65c877fe4fa685d922e5202a13f7
92451f14d24646c1b9d6fa4468059ffa

F_fun20260516
ちょっとめずらしい仕事をしました。
「フェリシモ」商品の製作に少し関わったのです。
カタログ(Kuraso/クラソ)にエッセイや
イラストもかきました。見てね。

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi  

| | コメント (11)

2026年5月12日 (火)

麦から米へ

5月9日
 朝、東京から友人がふたり、きてくれる。
 きょうは、ことしの稲作第一歩の日。
 育苗箱(いくびょうばこ/以下、苗箱)に「土入れ」をする。

 友人のひとりは、初めてうちに遊びにくるというのに、「土入れ」作業を引き受けてくれ、作業着、長靴をかついでやってきてくれた。
 まず苗箱(なえばこ)にシートを敷く。これは、保水性をよくすることに加えて、苗箱をならべて田植えを待つ「苗代田(なわしろだ)」の土に、根が付くのを防ぐためでもある。苗代田に苗箱からのびた根が張ると、苗箱を持ち上げるのに苦労する。——経験がある。

 シートの上に土を満遍なく入れてゆく。
 専用の機械もあるが、うちはずっと手作業でやってきた。
 苗箱を置く→シートを敷く→土を入れて表面を定規のようなものでならす→苗箱を運んで重ねる。
 この作業を友人ふたりと、Daichiiが進める。
 わたし? わたしは昼ごはんの準備と、庭しごと。人数が多過ぎても、テンポが乱れる。3人でさくさく働いている。

 昼はドライカレー。
 新玉ねぎのサラダ。
 ルバーブをのせたヨーグルト。

 同じ姿勢で作業をくり返すため、身体がかたまり、時として腰が痛くなったりする。が、誰ひとりため息すらつかずに、流れるように、作業は進んでゆく。だんだん名人芸の域に入るようだが、やがて、それは終了する。午前10時にはじめて、午後3時半にすっかり片づいた。

 夕方みんなでバスに乗って、市街地に出て、町中華の店で、乾杯する。
 芝海老のマヨネーズ和え、やけに美味しかったな。


5月11
 夜、萌がやってくる。
 明日、籾種蒔き。

 新玉ねぎとそらまめのクリームパスタ(そらまめは畑のもの)。
 きゃべつのサラダ。
 もずくとちくわと、きゅうりの酢のもの。

 毎年、これから先の作業を助けてくれる道具(種蒔き)や機械(コンバイン)が無事に働いてくれますように、と祈っている。誰も彼も年とってきて、ときどき不具合が出る。わたしがこの家に来てからは、何かしら問題が出ている。
 そのたび、農協のドクター(機械担当)が往診してくださって、なんとか麦も、米も出荷できてきた。

 道具たちと肩を抱き合い、あちらこちらさすり合いながら、働く。

 いま現在、田んぼでは麦が青青として、風に揺れている。
 そんななか、つぎなる稲作の準備をはじめるといううつろいは、まさしく神事だ。道具の不具合でさえ、床しき試練である。

20260512
今年の苗箱は、275箱でした。
餅米もつくります。

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi  

| | コメント (18)

2026年5月 5日 (火)

リラックス・ウィーク

4月28
 ことしも、「明日29日からゴールデン・ウィーク」がやってくる。
 わたしにはあまり関わりのない「ウィーク」なのだが、仕事先からは一切メールが来なくなるから、背中に張りつく緊張が緩む感じがある。
 少しは仕事をしなければならないけれど、ことしはわたしも微(かす)かに「ゴールデン」的な日日を過ごそう。


4月29
「ゴールデン・ウィーク」の名の由来って、何だろう。いったい何がゴールデンなのだろう。
 調べてみたら、1950年代に映画業界で起こった春のにぎわいがはじまりのようだ。当時も4月終わりから5月はじめにかけてお休みがあって、映画館が繁盛したのだとか。それで景気づけに「ゴールデン」ということばが選ばれたのだ。
 いまのわたしには、「ゴールデン」は敷居が高いから……ええと、そうだ、「リラックス」を選ぼう。「ゴールデン・ウィーク」から落ちこぼれているようなひがみを捨てて、まずは「リラックス・ウィーク」を自分に贈ろう。


4月30
 福井県の友だちから、おいしいものがいっぱい届く。
 ご当地のおいしいお菓子たち。
 甘いものに食指が動かぬわたしだが、この箱のなかのものは、みんな好き。素朴なお菓子に、こころをつかまれる。
 たとえば「けんけら」。
 400年も前に、越前の領主が愛したお菓子なのだとか。当時は。粗挽きした大豆粉に地飴を加えてこね、こぶし大に固めたものだった。その硬さは、剣で切り割らねばならぬほどであったため「剣切羅」と呼ばれるようになる。これが「けんけら」の名の由来だと、袋に記されていた。
 ふーん、と感心しながら、ひとりですっかり食べきる。Daichii、すまぬ。


5月2日
 とうとう本格的に「リラックス・ウィーク」はじまる。
 昨夜遅くやってきた二女・梢と、散歩。おすすめのバーガー・キングに行き、久しぶりにでっかいバーガーを食べる。野菜を増せるだけ増してもらって、大満足。「リラックス・ウィーク」にふさわしいひととき。

 夜はライスペーパーで、ありとあらゆるものを包んで食べる。


5月3日
 庭仕事。
 ドクダミを切りまくる梢。
 茎ブロッコリ、こかぶ、えごま(昨年のえごまの子ども)を、植えるわたし。
 黙黙と働いているのに、土としきりに会話するひととき。静かなる饒舌。

 ことし初めてルバーブを収穫する。
 夜、これを煮てジャムをつくる。


5月4日
 梢、庭仕事。

 ふみこ、雑務。

 夕方てくてく、3人で回転寿司店へ。
 浮かれて、たらふく食べる。
 こうなると、わたしの「リラックス」が「ゴールデン」に傾いてゆくようで、こそばゆい。タラバガニのふんどし、美味しかったな。

Niwa01
Niwa02
Niwa04
庭のなかに小さな畑を点在させています。

91
\うんたったラジオ91/
ハトがベランダに卵を生んだ。ハトの帰巣本能はヤバイ。研究するために図書館へ行き、ハト関連の本を読む。「読む」ができるようになったあずさ。本を読んで行動をする楽しさ。子どものころから本が友だちだったふみこ。それぞれの得意と不得意に合わせてできることをやる、など。

◆あずさのベランダにハトがやってきた話はこのブログで
「鳩と豆鉄砲」
https://note.com/jamamotocapisa/n/n43459af8df82

◆詩をテーマにした文芸雑誌『鳩よ!』とは
https://ja.wikipedia.org/wiki/鳩よ!

◆『ことば飯』アマゾン・楽天ブックスからも購入できます!
https://www.amazon.co.jp/ことば飯-ふみ虫舎文庫-山本ふみこ/dp/4991428904

▽お便りはこちら
https://forms.gle/rb9gqcwHJzKafpJr6

▼うんたったラジオ91
Spotify、Apple podcastで聴けます

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi  

| | コメント (25)

2026年4月28日 (火)

ジローとその妻

4月18
 時間をみつけて庭に出ている。
 このところのわたしはなんだか、生きものであることから遠ざかっていたような気がする。土を耕してタネを蒔き、花を植え、水を撒き、草むしり(最近は主として草切り)をしているだけで、虫に近く、トカゲに近く、カラスやヒヨドリに近くなってゆくようだ。

 だからだろうか、虫たちが寄ってくる。トカゲも、わざわざ、石の陰から出てきて、ちょろちょろとわたしの前を走って見せる。
 カラスのジローもだ。わたしがいるのに、平気で庭に下りてきたりする。近づこうとすると、さすがにぴょんと後方に跳ねて、あわてて飛んで行ってしまうのだけれど。
 庭にやってくるカラスの夫婦を「ジローとその妻」と呼んでいる。もう2年もそう呼んでいるが、2年前のジローと、このカラスは同じジローなのだろうか。カラスは、どのくらい生きられのか。調べてみると野生下では7年から10年生きるらしい。
 というわけだから、たぶんこのカラスは、ジローだ。

 前の週、Daichiiが『チッソは私であった——水俣病の思想』(緒方正人)をあらためて読んだと云った。
 漁師として不知火(しらぬい)海とともに生き、自ら水俣病患者となった著者の緒方正人さんは、のちに水俣病を「文明の罪」として背負い直している。
 いま、何をおいても読みたい本である。
 どうしてこの本の話になったかというと、このところの自分が生きものであることから遠ざかっていたように感じたことにつながる。この感覚はいまのわたしの大事な岸辺なのだ。ここから漕ぎだし、ここにもどってくるという、約束の岸辺。
 そんなことを考えていたとき、石牟礼道子の『苦海浄土(くがいじょうど)』を思いだした。水俣病の患者とその家族の苦しみを綴った「いのちの文学」と位置づけられる本だ。
 石牟礼道子は、生前、ヒトを中心(主語と云っていたような)としてでなく「生類(しょうるい)」として云いたいと語っている。

 ヒトを超えた生類。

 土に触れると、「生類」ということばが胸に迫ることがある。
 目の前の青いニラの分身として、わたしは生かされている。

20260428
田畑には、麦、玉ねぎ、じゃがいも、かぼちゃ、きゅうり、オクラ、
なす、ミニトマトたちが育っています。

写真はそら豆です。

庭担当のわたしは、
土と交わりたいと希いつつ、働きたいと思うのです。

90
\うんたったラジオ90/
前回はしゃべりすぎたとし、今回は聞き手にまわるというふみこ(ほんとうか?)。昨年、「東京の介護って素晴らしいグランプリ2025」のコラム部門で審査をしたあずさ。最優秀賞の作品を、特別に朗読させてもらいました。介護の現場で見かける宝物の瞬間。書くこと、視点の置き方、など。

◆「東京の介護って素晴らしいグランプリ2025」コラム部門作品集
https://koureikyo.com/wp-content/themes/original2023/asset/pdf/column_book.pdf

◆「東京の介護って素晴らしいグランプリ2025」とは
https://koureikyo.com/#result

◆『ことば飯』アマゾン・楽天ブックスからも購入できます!
https://www.amazon.co.jp/ことば飯-ふみ虫舎文庫-山本ふみこ/dp/4991428904

▽お便りはこちら
https://forms.gle/rb9gqcwHJzKafpJr6

▼うんたったラジオ90
Spotify、Apple podcastで聴けます

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉

https://instagram.com/y_fumimushi  

 



| | コメント (15)