2022年11月22日 (火)

100字随想 11月

秩父の宿の露天風呂に身を沈める、夜。あ、月。この日、442年ぶりの皆既月食と天王星食である。「この前のときは織田信長が見ていたそうですよ」隣の男湯からの話し声……欠ける月を信長殿、怖かっただろうなあ。(100字)


さつまいもが豊作だ。安納芋。紅あずま。シルクスイート。紅はるか。焼き揚げにし、ぱらりと塩をふって食べる。蒸し芋になんかしたら、なつかし過ぎて泣いちゃうかもしれない。蒸し芋のおやつは、子ども時代の定番。(100字)。


友だちに手を握られ、ちょっと照れる。習いたてのマッサージをしてくれると云う。「右手のほうが分厚くて、それに、大きいね」……ほんとうだ。毎日右手でペンを握り、文字を書いたり絵を描いたりしているからね。(99字)


ある朝玄関の引き戸を開けると、そこに冬が立っていた。「いらっしゃい」しんとした独特の冷気が忍び寄り、「来ましたよ」と云う。あたたかいお茶を淹れよう。湯たんぽを出そう。手袋も。湯気の立つこころを持とう。(100字)


トレンチコートを着て出かける。羽織るだけで、わたしの「気」を持ち上げてくれる。デニム、カゴバッグ、ブーツと合わせるのが気に入り。このあいだ、ドレスみたいに黒トレンチを着こなすひととすれちがった。素敵!(100字)

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うんたったラジオ12・PEOPLE公開収録ー後篇

引き続き、Peopleでの公開収録を。
決める、うまくいかなさからスタートする、小川町の話などを、
ユミコサン、コバヤシサン、ナッチャン、たみちゃんと共に。

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2022年11月15日 (火)

日記 2022年11月

11月□日
 朝、台所のブリキのゴミ箱の蓋をとると、なかに動くものが見えた。
 カマキリだった。
「どうしてこんなところにいるの」
「……」
 返事の代わりに、カマキリは身をよじるようにしてお腹を見せた。
「わわわ」
 それは、出産をひかえたお母さんの大きなお腹だった。
 大急ぎで庭に運んで、いちご畑の葉の陰におろす。
「ここはどう?」
「……」
 返事の代わりに、カマキリは葉の重なりのなかにもぐりこんでゆく。素早くは動けず、ゆっくりと。

11月□日
 この日予定を空けておいてほしいと、長女梓に云われていたから、そうした。埼玉県比企郡小川町に住む梓の友人タケクンが熊谷の家に遊びにきてくれるのだと、思いこんで「タケクンみえる」と予定表に書いた。

「その日のランチは、どうする? 何を用意したらいいかな」
 と訊いたのは、2週間前のことだった。
「いやいや、お母ぴーとわたしが、小川町に行くのよ」
「あ、そうなの」

「そうだお母ぴー、タケクンのところでは、『うんたったラジオ』の公開収録をするからね」
 と梓が云ったのは、1週間前のことだった。
「初の公開収録だー。告知しないと」
 1週間前に告知と云われてもね。

 さて当日。
 小川町へ。
 熊谷から車で30分も走れば到着する。
 この町にある「茄子おやじ」というカレー店が好きで、ときどきこの町を訪れていたのだが、そのたび、街のなかを歩きまわった。どんどん気になってしかたのない場所になっていった。
「茄子おやじ」、元は東京の下北沢にあったのだ(カレー食堂『茄子おやじ』)。小川町出身の店主が、ご両親の生活を支えるため移転したと聞いている。

 さて本日の行き先はタケクンこと柳瀬武彦さんと田中菜摘さん夫妻のお店PEOPLE。赤い暖簾のかかった母屋「玉成舎」に併設された大谷石の石蔵。そこにPEOPLEはある(小川町駅から徒歩9分)。
 プランナーとして仕事しているタケクンと、発想の豊かさを生かして取り組む料理や食材、雑貨あつめを担当するナッチャンがつくるちっちゃな森のような「場」は、現在、週末を中心に開かれている。

 杉の木の壁。吹き抜けの空間。ドーナツ型の木製テーブル。
 このテーブルに坐って「うんたったラジオ」公開収録。……どうなることか、とわたしは思っていた。

「うんたったラジオ」vol.11vol.12で聞いていただけますれば幸いです。
 タケクンありがとう、ありがとう。また会いに行きます。

11月□日
 10月さいごの日にカナダから三女栞が帰ってきた。
 ひと月後には、またカナダに戻ることになっていることもあって、ぎゅっとなかみの詰まった日日が編まれている。
 週日はリモートで仕事をしているから、時間が生まれると「散歩!」と叫ぶ。
 きょうの「散歩!」を空中でつかまえて、わたしもつきあう!と云って立ち上がる。頭のなかが散らかっていて、胸がざわざわしている。こんなのを整えるときは、歩くに限る。すこおし早足で、スタスタ歩くのだ。
 きょうのコースは12キロ。隣町の深谷まで出かけてコーヒーを飲み、また帰ってくるという散歩だ。歩き慣れた道であり、午後2時半に出発し、5時には戻れるという計画。

 わるい癖が出た。
 帰り道でのことだ。
 いつもの道の2本手前の道の前で、わたしはとつぜん曲がりたくなる。
 これまで幾度、これで失敗したことか。
 思えば栞と初めて熊谷で散歩した日もそうだった。とんでもない遠まわりをして、あたりが暗くなるなか、知っている場所を求めて知らない道を歩きまわった。
 きょうは、車道(バイパス)に入る羽目に陥りそうになり、ふたりで土手の急斜面を降りたりして、とんだことだった。いや、またしてもわたしのせいで、栞をとんだ目に遭わせた。
「とつぜん曲がりたくなる」は、散歩のときだけではない。
 日常の道の上でも、とつぜん曲がる。突飛なことをしたくなるのは、おそらく順風とか、安定が苦手だからだ。退屈ほど恐ろしいものはない。

 午後6時、草だらけになって、帰宅。
「オンマ、これからは知らない道で曲がろうとしないこと。吉祥寺(東京)ではそれもいいけど、熊谷は農道や旧道があるんだから。……でも、おもしろかったね」
 そう云って叱られる。

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「うんたったラジオ」初の公開収録!

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「うんたったラジオ11」は、ここで聴けます。
▼anchor
https://anchor.fm/untatta-radio/episodes/11PEOPLE-e1qm8m0
▼Spotify
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2022年11月 8日 (火)

タケノコごはんと大根のおみおつけ

 10月の終わり、「ふみ虫舎エッセイ講座 in 熊谷」を開く。
 親しい仲間の皆さんと熊谷の家で過ごすいちにち。

 これから先熊谷の家でできることを探ってゆきたいという考えが、わたしのなかに生まれている。そんなムードのようなものを家のなか、自らのなかにつくってゆくことができたなら……、と準備をはじめた。
 しかし、準備はあまりできなかった。窓ガラスを拭いて、座布団カヴァをとり替え、コップの数をふやすのが精一杯だった。お昼のお弁当は、「お花屋さん」という名前のお惣菜店に頼んでつくってもらう。
 前の晩、「そうだ、おみつけをつくろう」と思いついた。皆さんと、大根のセンロッポンのおみおつけを、ふうふういって食べたい!
 うちにある2番目に大きい鍋をガス台の上に置き、27人分のおみおつけの水の分量を、お椀ではかる。そうして鍋のなかに昆布と煮干しを入れておいた。

 当日は快晴だった。
 あたたかい日差しがさしている。

 皆さんが上着をかける洋服掛けを出す。大根を刻む。座布団をならべる。
 ブラインドの羽を拭いたり、鏡磨きをしたかったが、「失礼しちゃおう」と決める。

 11時半になると、仲間の皆さんが、タクシーに分乗して到着、到着、到着。
 そわそわしながらわたしは、大根のおみおつけの鍋を火にかける。だしをとりながら、味噌を溶き入れる2歩前で火を止める。
 講座では、絵本『タケノコごはん』を読むところからはじめる。
 これは、映画監督の大島渚がつくりあげた絵本である。先日、ここでもご紹介した児童文学者の山花郁子さんがおしえてくださった。
 大島監督の息子の武さんが小学校3年のとき、学校から出された「お父さんかお母さんに、子ども時代のことを書いてもらってください」という宿題がもとになって生まれた作品だ。
 読んでみると、戦争のもたらす悲しみと、日常をかたちづくっている平和のあたたかみが、胸に沁みてくる。伊藤秀雄の絵も、いい。
 大島渚の「パパ」としての一面を知ることができて……、うれしくもある。『タケノコごはん』を声に出して読むことが、この講座にはふさわしいことのように思えたが、やはりそうだった。
 講座の仲間のなかには、子どもたちへの本の読み聞かせの活動をしているひとがあるけれど、訊いてみると「この本のことは知りませんでした」という返事がかえってきた。
「それならいつか、子どもたちに読んであげてくださいね」

 さて、講座がおわって食卓を並べたりしていると、土間の台所から声がかかる。
「お味噌汁に、味噌を入れちゃいますよー」

「はーい、お願いしますー」
 と応えながら、心動かされる。

 おみおつけの仕上げを引き受けてくれる仲間へのありがたみと、なんでもかんでも自分でしなければいけないと思いこんでいる自分の情けなさが浮かんできて、心動かされたのである。

 タケノコごはんあり、大根のおみおつけありの、豊かな時間は暮れはじめる前、静かに終わった。

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黄色い座布団カヴァ(欧風)を選んで、
座布団30客を備えました。
これがまた、活躍する日がめぐってきますように。

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山本ふみこ(母)と山本梓(娘)がとりとめもないおしゃべりをお届けする「うんたったラジオ」。
好きなドラマ、ハガキを書くこと、お金、恋愛やうまくいかなさについて……その場でなんとなく決めたテーマで、編集を入れずにお届けしてきました。そんな「うんたったラジオ」もはじまってから、もうじき1年。初めての試みをしてみたいと思います。
埼玉県・小川町の「PEOPLE」で公開収録をします。
お茶を飲みながらおしゃべりしているわたしたちの「いつもの感じ」をご一緒いただけたら嬉しいです。
PEOPLE店主のたけくんもそんなおしゃべりに加わる初のゲスト回でもあります。
山本梓の初の著書『プンニャラペン』(山本ふみこによる出版レーベル・ふみ虫舎刊)の販売もします。

【概要】
「うんたったラジオ」公開収録 in PEOPLE
日時:11月13日(日)14:00〜16:00
料金:2000円(喫茶の飲み物、ふみこと梓のお土産お菓子付き)
場所:PEOPLE(埼玉県比企郡小川町小川197 玉成舎の石蔵)
小川町駅から徒歩8分ほど。

◎お申し込みはこちらへ
fumimushisha@gmail.com




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https://open.spotify.com/episode/1TK4EudMFbjNjwyx0qLVun

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2022年11月 1日 (火)

雲が見ている

 10月おわりの日曜日。
 早起きして田んぼの端に立つと、目の前に黄金色の稲穂の海がひろがっていた。「うつくしいな」とつぶやいてみるが、つぶやく口の奥から不安のようなものがこみ上げてくる。
(この3反をふたりで刈るのだな)。

 この日、残っていた田んぼの稲刈り。
 田からなかなか水が引かず、日延べして、この日を迎えた。
 晴天。晴天。
 けれども……、あれは雲である。太い雲の筋が地上から天に向かってのびている。
(上り龍)。
 そう受けとめることにした。
 コンバインの上の夫にも、おしえる。
「龍が登ってる。吉兆吉兆」
「おお」

 夫がコンバインをあやつって刈り、そのうしろをついてわたしが倒れた稲を起こしたり、コンバインが刈り残した稲を鎌で手刈りしてゆくという役割分担は、前回と同じだ。

 作業がはじまると、不安なんかはたちまち消えてゆき、稲とわたしが存在するだけの静かな時間——コンバインはがなり立てているが——となる。倒れた稲に鎌をひっかけて起こしながら「しっかりしっかり」と声をかける。稲に向かって? いや、それ以上に、わたし自身への「しっかりしっかり」である。
「がんばれ、ふみこ」

 手刈りした稲を、畦(あぜ)4か所に、積んでゆく。
 これはさいごにコンバインを手動に切り換えて、脱穀するのだ。はじめは、畦の稲の山は「すぐそこ」だが、刈りとりが進むと、どんどん遠くなる。この日刈った田んぼは水が残り、深くぬかるんでいる。足がとられる。稲の束を抱えて進みながら、天を仰ぐ。
(あ。また龍)。
 4頭の龍がならんで横顔を見せている。こじつけだってかまわない。
(田んぼの仕事は、神事なのだな)。

 コンバインに脱穀された籾(もみ)がたまると、袋につめて、畦に積む。袋づめの作業も、慣れて素早くできるようになった。

 昼過ぎ、昼食を兼ねた短い休憩をし、すぐ作業再開。
 午後3時半、稲刈りを終える。

 天の龍にお礼を云おうとすると、雲は「ふわふわ」にかたちを換えて、龍はいなくなっていた。雲を愛したたくさんの作家たちのうちのひとり、ヘルマン・ヘッセが綴ったことばを思いだす。

「土地を耕作する者の生活。勤勉と労苦にみちてはいるけれど、性急さがなく、本来憂慮というもののない生活なのだ。なぜならば、その生活の根底をなすものは、信仰であり、大地、水、空気、四季の神性に対する、植物と動物の諸力に対する信頼だからである」(1931年)

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コンバインは反時計回りに稲を刈ってゆきます。
これは、稲刈り終盤、田んぼのまんなかあたりに
残った稲たちです。
記念写真。 

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