両面
「サヨナラ」と云ったあとクニチャンが、
「お母さんには、わたしの気持ちがわからないの。ダンスを習いたいと思ってる気持ちをぜんぜんわかろうとしないんです」
と云った。
「え、」
「あ、別にいいんです。サヨナラ。チョコレートありがとうございましたぁぁ」
そう云うと、クニチャンは走って、改札口を通り抜けてしまった。
(……え、クニチャン?)
クニチャン中学2年生。脚がすらりと長い、可愛らしい顔をした女の子。自分のことばを獲得しつつあるひと。さる会合でその日初めて会い、夕方、駅までならんで歩いてきた。クニチャンは駅からひとつ下り電車に乗り、わたしは駅を通過し北に向かって歩いて帰る。
ホームで電車を待つクニチャンは、何を考えているだろう。と、駅の長い階段を降りながら、わたしは考える。
駅までの途中、商店街のお菓子屋で板チョコを2枚買い、1枚をクニチャンに渡した。お近づきのしるしに。もしかしたらクニチャンは、板チョコのお返しに、自分の胸にしまったもののうちのひとつを見せてくれたのかもしれない。そして、そんなことしなければよかった、初めて会ったおばちゃんに余計なことを話してしまったと後悔しているだろうか。
クニチャン、そうだとしたら、それはちがうよ。わたしは、ずいぶんうれしかった。その日受けとった運命的なことばに、いろんなことをおしえられて。
クニチャンのお母さんには、ダンスを好きで、ダンスを習いたいクニチャンの気持ちがわからない。けれども反面、クニチャンにはクニチャンのダンスへの気持ちをまだ知っていないお母さんの気持ちがわからない。
そのことに気がついて、わたしはどきどきしている。
ものごとの両面。
わかってもらう、わかろうとする。
認められる、認める。
寄りかかる、寄りかかられる。
話す、聞く。
許す、許してもらう。
クニチャンはそれから、お母さんとよく話し合った。
ダンスのレッスンにも通えるようになった。学校生活と部活動(陸上部)、高校受験との両立を考えて、レッスンは週一回。ダンス部のある高校を受験するという目標もできたそうだ。
わかってもらう、わかるように話す。
ハンバーグの片面を焼く、ひっくり返してもう片面を焼く。
先週、二女の誕生日でした。
いまのところ、贈りたいものも思いつかず、
その日、部屋のベッドサイドに、
花(ブルースター)を生けておきました。
この日、この花と出合って、この花を贈れて、
それだけでじゅうぶんだという気がしました。
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コメント
ふみ虫さま
自分の気持ちから
逃げないで、話をすると
裏側に隠れたことが
表に現れてきたり…
二女さん
お誕生日おめでとうございます!
きっと家の厨しごとに
一番近い人ですね。
モーリス センダック
うちにも!!
佳い日々を♪
投稿: 寧楽 | 2014年10月28日 (火) 10時48分
寧楽 さん
自分の気持ちから「逃げないで」話をすると……。
ふむふむ。
それって、大事なことなんですね。
「逃げてる」つもりはないけど、
見て見ぬふりもあれば、
(うっかりして)気づかないこともある。
自分の気持ち、しっかり認めてやらないとね。
いつものことだけど、ありがとうね、 寧楽さん。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月28日 (火) 11時57分
ふみこ様
クニちゃんはちゃんと自分の気持ちを伝えることができて
良かったです。
気持ちを伝えることとぶつけることは
全然違うんですよね。
クニちゃんは自分の大切にしていることと
お母さんの大切にしていることの
両方の受け取り合いができたのです。
相手の考えを壊して
自分の思う正しさを受け入れなさいと
気持ちをぶつけて
空中分解したことが何度かあります。
いやな思い出になっているけれど、
そういうことは二度としないと決めたので、
今はいいブレーキになっています。
二女さん、お誕生日おめでとうございます!
お花、かわいい!
それにお部屋がシンプルですてきです。
投稿: ゆるりんりん | 2014年10月28日 (火) 12時29分
ゆるりんりん さん
わたしは……、
子どもでいるころに、
「空中分解」した経験があって、
それで、自分が親になったときには、
そうとう気をつけました。
気をつけ過ぎて自分が「分解」しかけたことが
ありますが。
むつかしいです、いろいろ。
ごめんなさい。
何書いてるかわからない。ね。
ゆるりんりんさんには、ちょっとわかってもらえます。ね。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月28日 (火) 20時23分
ふんちゃん皆様こんにちは。
わかろうとする、折り合いつける
ということでしょうか?
今日はこの人はこんな日だから
私はこうでいこう、というふうに
折り合いをつけて日々過ごしています。
先日、母が体調を崩して病院へ行き
なにもなかった報告を受けました。
それだけでその日1日は本当に
ほっとして幸せな1日でした。
大事にしたいと思うひとほど
どうしてうまくいかないんでしょうね。
もっと大事にしていきたいです。
投稿: たまこ | 2014年10月28日 (火) 22時52分
たまこ さん
「わかる」は「わかってもらう」というのとセット。
それは、「結果」を出すというのより、
もうちょっとそっとしたものかなあと思います。
大事にしたいひとほど、大事が募りますね。
これもそうだ、あれじゃない……かな。
大事にする、大事にしてもらう。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月28日 (火) 23時15分
ハンバーグ。
いつも生焼けが怖くて焼きすぎちゃう。
ステーキならミディアムレアやレアが好きなのに・・・
ちょうどよい感じに焼けるのはたま~にですかね。
でも、その日その日でまた、食べる人の好きずきでハンバーグも焼き加減はかわっても良いのかもしれませんね。
ただ、焼かないとただのひき肉のおだんごだから(笑)焼くという行為が大切なのかもしれません。
人とのかかわりも、ハンバーグもまだまだ上手に出来ないけれど、がんばってたくさん練習です。→この歳でまだ修行中(笑)
ここのところ私も娘らとは、ウエルダンな関係ではなくミディアムレアくらいな感じでおります。1から10までを知らず、語らずとも、ほどよい焼き目がついておれば。
女子中高生、父母より友との語らいで成長している最中です。(笑)
ベットサイドのブルースターでお誕生日おめでとうの気持ちを表現。
すごく上等なデミグラスソースがかかったハンバーグのようですよ。
投稿: おきょうさん | 2014年10月29日 (水) 00時06分
おきょうさん さん
ハンバーグは、
小林カツ代さんにおそわった熱湯を注いで
焼く方法でつくっています。
焼くたび、「カツ代さん、ありがとうございました」と
思いながら。
白菜漬け、野菜炒め、筍を茹でるなど、
おそわって身につけたものがたくさん!
はなしは逸れましたが。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月29日 (水) 09時17分
ふみこさま。
おはようございます。
ここのところ、ちょっとストレスがたまって、はじめて手相をみてもらいました。定年のない仕事、書くことが生きがいになりますよ、って言われました。書くことも、なかなか理解されないこともあったのですが、最近、母も応援してくれるようになりました。90歳まで書きつづけたいなぁ・・・と思います。23日は、誕生日でした。ふだんはメールも何もしない学生時代の親友が、毎年、花籠を贈ってくれます。おぼえてくれている、ただそれだけで、心が、ポッとします。
では、また。
投稿: こぐま | 2014年10月29日 (水) 10時37分
こぐま さん
書くことが生きがいになりますよ。
わたしも、そのことばにのっかって、
もう一度こぐまさんに、同じことを告げましょう。
定年はないけれど、本気でないとできないなあというのが、
わたしの実感です。
お互い、本気で……ね。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月29日 (水) 15時10分
ふみこ様
「この日、この花と出会って、この花を贈れて、それだけで十分」
という文章 心素敵だと感じました。
なかなか こういう心境に至りません。そのようにありたいな~と祈るばかりです。
投稿: テレジア | 2014年10月29日 (水) 16時15分
青い花が好きですが、特にブルースター(瑠璃唐綿)ボリジ(瑠璃チ苣)に惹かれます 和名もいいなぁ
ブルースター、それだけでというより、何より嬉しく暖かい想いが伝わりそうですね 花言葉も「信じあう心」だとか・・・
10月4日は長女の誕生日でしたが今年は味気ないラインですませてしまったこと、ずっとひっかかっています
こんなときこそ「たんじょう おめでとう」ですね
なにか勘考しようと思います
投稿: 野生寄り | 2014年10月29日 (水) 16時20分
ふみこさま こんにちは
誰かに聞いてもらって、それで進めることってあります。相談というのではなくただ聞いてもらうだけでも力をもらえるというか…。でも聞いてもらうのも誰でも良いというわけでもなく…。そうして、それを言葉にするにも、とても勇気が必要で…。
クニチャンは、ふみこさんに聞いてもらっただけでも、お母さんに話す背中を押してもらったんじゃないのかな…。と思います。
わかってもらうように話すのはとてもむつかしいです。私は、話しているうちに何を言っているのかわからなくなって、尻すぼみになることが多々あるので、クニチャンに拍手です!
ふみこさんに教えていただいたジャガイモのお焼き風、モチモチして、とても美味しかったです。おかげさまで、元気になりました。
投稿: あすちるべ | 2014年10月29日 (水) 17時15分
ふみこさま、みなさま。
長年の友人が、中学生の時に、私の死んだ母に、彼女がぐちをこぼした時、「聞くだけなら聞けるから、いつでも話してね」と言われてうれしかった……と言っていた話を思い出しました。
全然知らなかったから。母の別な面。
話すことで整理されて場面展開することってかなりありますが、
話すのを躊躇してしまうことが多いです。
えいっと話してみたらやはり肩透かしに会い、そういうものなのかもしれないけれど、さびしい。
自分は聞いているつもりでいるのですが、いざ自分が話すと、聞いてもらえないことが多いと感じてしまいます。
私のわがままなんだろうか?
肩透かしと思うということは、期待しすぎか、自分が望んだ答えを欲しいのにもらえないからか。そこが甘いんですが。
みんなどうしているんだろう?年を取ってから本音を受け取ったり返したりは、難しいのだろうか?望めばかなうでしょうか?
投稿: おまき | 2014年10月29日 (水) 20時16分
ふみこさま、みなさま、こんにちは
ああ、そうなんです。ものごとには両面がある。
人間関係にもある。自分自身の中にも両面がある…。
それはハンバーグを両面焼くのと同じくらい当たり前のことなのに
すぐに忘れてしまって…
今日も、なぜわからないの?なぜいうことを聞かないの?と娘に怒ってしまいました。反省。
あ、でもご安心ください。
反省しつつ、今までのヒステリックな怒り方からは少し卒業できたかな?
などと、能天気なことも考えています。
投稿: ちぇりー | 2014年10月29日 (水) 21時29分
テレジア さん
おことばありがたく、
そしてぽっと顔を赤くしております。
そういうやさしいことばをテレジアさんを、
尊敬します。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月30日 (木) 21時57分
野生寄り さん
「たんじょう、おめでとう」は、
何度も何度も、何度でも。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月30日 (木) 22時01分
あすちるべ さん
わたしも、最近、
聞いてもらうことが「力」になるなと
感じています。
「聞ける」ひとにもなりたいです。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月30日 (木) 22時03分
おまき さん
お母さまのおはなし、いいなあ。
それを受け継いでいるおまきさんは、
やっぱり「聞く」ひとなんですね。
で、「聞いてもらう」ときには、
遠慮がちになっているのでは……と
想像しています。
きっと「聞く」ほうの能力がまさっているから、
おまきさんは、ひとのはなしを聞きながら、
答えを受けとるんじゃないでしょうか。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月30日 (木) 22時15分
ちぇりー さん
ヒステリックを卒業だなんて。
えらいなあ。
(わたしは、いまでもときどきヒスを起こします)。
どうしてひとは、
簡単な真理とか、
やっと気づいた大切なことを、
すぐ忘れるのか。
このあいだ、自分が若いころに書いたものを
ちょっと読んだら、いまより利口なこと書いてた。
いつの間にか忘れていたことを、
若者のわたしにおそわって、ぎょっとしました。
進化はしてなくて、ずれてずれて、ここに
いるのかも……しれないなー。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月30日 (木) 22時22分
ふみこさん みなさま
こんばんは。
親元を離れてから、親に黙って劇団にはいりました。地元で公演することになって、本番の前日に電話で母に打ち明けたら、土砂降りの雨の中(野外で芝居をしていました)、カステラを3本持って、観に来てくれました。それ以来10年間、必ず公演を見に来て、感想も言ってくれるようになりました。
「心配だったけど、飛び込んであなたのいる場所まで行ってみたら、これがあなたの幸せの始まりだということがよくわかったのよ」と今でも言います。もう30年近く前のお話です。
私の番が来たら、やっぱり娘のいる場所まで、じゃっぽーんと飛び込んでみようと思っています。
投稿: cohata | 2014年10月30日 (木) 23時09分
コピー機に、片面2枚を入れると
あっと言う間に両面印刷されて出てくるけれど、
ひとは、そんな簡単じゃないですね。
私も先日、昔、自分が書いたものが出てきて読みましたが
あ、そんなふうに捉えていたんだ・・・と
忘れてしまっていた自分の片面と再会した思いになりました。
小学生の頃、大好きな担任の先生(山本先生)が
「嫌い」だと思ったお友達がいたら、その人の「好き」なところも
見つけてみてね、とみんなに言ってたけれど、
そんな極端な両面も合わさり、回転したりして
気持ちが繋がっていくように思います。
次女さんのお部屋のメリーゴーランドのカップ、素敵ですね。
カップ、大好きなのでくぎづけになります。
rantanaさん、組木のかぶら、見つけてくださって
ありがとうございます^^
この場をお借りして・・・
投稿: どりす | 2014年10月31日 (金) 13時00分
ふんちゃん
私が、ここへお邪魔するようになって感じることはたくさ~んありますが、その中の一つ、だいじ~なことが、
「両面」でした…。
ふんちゃんも、みなさまも、いつも両面をみせてくださる…。
両面があることを教えてくださる…。
だから、端っこに振れそうな時、もう片方の端っこを探すようになりました。
そうしたほうが、心地よいことも知りました。
どっちかに(何かに)振り切ってしまうと、居心地が悪いんです。
何事にも「両面」がある。
そうやって探すことで、少し柔らかくなれるような気がして…。
「かいじゅうたちのいるところ」
ちょうど、子どもたちに読んでいた日でした!おんなじ~(^^)
娘さんに、「おたんじょう、おめでとう!」とお伝えくださいm(__)m
ステキなお祝い♪
投稿: もも(^-^) | 2014年10月31日 (金) 15時20分
cohata さん
きょう、ひと月ぶりに整体の施術を受けて、
心身がゆるんだからでもあるでしょう。
「心配だったけど、
飛び込んであなたのいる場所まで行ってみたら、
これがあなたの幸せの始まりだということがよくわかったのよ」
というところを読んだら、
ぽろりと涙がこぼれました。
勇気と慈愛の混ざった
母ごころ!
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月31日 (金) 18時25分
どりす さん
世のなかが便利になり過ぎていることも、
両面を思いにくくするひとつの要因かもしれません。
ほんとは素朴で、やさしい事ごとが、
なんだかいま、複雑怪奇にねじれてみえる……。
昔はもっと、ひととのあいだも、透明だった
(簡単ではなかったですがね)……。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月31日 (金) 18時37分
もも(^-^)さん
わたしも、この場で、
うまくないことのなかに価値を見出す方法を
おそわりつづけています。
ももさんの「端っこ」のはなし、
とても感心しました。
「どっちかに(何かに)振り切ってしまうと、
居心地が悪いんです」
そうか、ほんとうにそうだなあと、感心しました。
感心していないで、
ゆっくり首をまわして反対側の端っこに
目を凝らさなくては。ね。
ありがとうございました。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年10月31日 (金) 18時41分
こんにちは。
両面でなく、片面のハナシ。
昨日 高2の娘が 帰ってきてお弁当箱を 洗いながら、
「何か怒っとるん?」
と私に聞くんです。
???
よく聞いてみると おにぎりじゃなくて ただご飯を詰めただけだったし、 シチューの人参がゴロンと入ってたし、何か私が、腹を立てていて 何時もと違う そんなお弁当になったのかと
心配してたんですって。
ただ 慌ててたから そんな風になっただけなんですけど。
お弁当は手紙。本当に手紙。
心して作らなければ。
と改めて決心して ふみこさんの ご本を読み直してます♪
投稿: まきはや | 2014年11月 1日 (土) 13時04分
まきはや さん
いや、そのやりとりが
手紙以上のものであり……、
ああ、なんていいんだろうと
思いました。
受け手のお嬢さんが「手紙」と思って
お母さんのお弁当を受けとっているところが素敵。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年11月 1日 (土) 20時22分
ふみこさん おはようございます。
中学二年生。自分の時も 息子たちの時も
この年齢が 一番 気持ちと向き合うのが
難しかった時期だったことを思い出します。
“学校生活と陸上部、高校受験とダンスのレッスン”
大人には たいへんと思えるこれらの事を
クニチャンは ワクワクしながらクリアしていくのですね
それを考えただけで ガンバレ!!と 嬉しくなります。
二女さん お誕生日おめでとうございます。
追伸・・・・ブルースターを初めて 花屋さんで見た時
「うわ~~これは ローラとメアリーの花だ」と、なぜか そう思いました(笑)
投稿: えぞももんが | 2014年11月 2日 (日) 06時29分
えぞももんが さん
段階、段階で「むつかしさ」がありますね。
中2のむつかしさ。
高2のやっかい。
そして、わたしにも
55歳の気難しさがあったりして。
むつかしさはでも、
いつでも、ひととひとの「あいだ」に
存在しますね。
とくに、家のなかのひと同士は、格別のむつかしさ。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2014年11月 2日 (日) 15時43分