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2015年4月14日 (火)

スターフェリー

 映画祭に招待されたと云って、夫が香港に出かけた(正確には招待されたのはドキュメンタリー映画「三里塚に生きる」と、監督の夫。招待してくれたのは「第39回香港国際映画祭」だ)。

「どのくらい行くの?」

1週間かな」
 ええっ、1週間?
 同じ時期、こちらは仕事の締切をいくつも抱えていたし、市内の小学校と中学校の入学式に参列する役目もあったから、ちょっと緊迫しているというのに。緊迫の手当ということでもないが、こういうときは、はなしを聞いてもらったり、一緒に笑ったりしてもらわないと。わたしの性質のなかに依存性があるとしたら、たぶん、夫へのこれだ。唯一のものではあるが、厄介な依存性。
 だいたい映画祭というのは、何なのだ。
「映画祭」と云うとき、夫はいつもしかつめらしい顔をするが、それはつくり顔ではないのか。映画祭、おもしろうそうだもの。だって、お祭りでしょう? 映画をいっぱい観られるのでしょう? 聞けば、上映後の監督ティーチイン(QA )や、シンポジウムのパネリスト役というような仕事もあるそうで、それは一種の緊迫だとしても。
「とっとと行って、とっとと帰ってきてよねっ」
 と云って送りだす。

 3
日後、香港の夫からメールが届く。
「スターフェリーに乗りました。フェリーそのものは昔のままですが、まわりはすっかり変わっていました(アナタの気に入りのアイスクリーム屋は、場所を移して健在)。ふたりでずっとスターフェリーに乗っているような気持ちで生きてこられたこと、感謝です」

 25
年くらい前に夫とふたりでスターフェリーに乗ったときのことを思いだした。ともに暮らすようになって、初めての旅だった。あのころは……、「とっとと行って、とっとと帰ってきてよねっ」なんかという乱暴なことは云わないわたしだった。そこが初心だとすると、そのころには想像もつかない恐ろしいパートナーになってしまったな。
 初心。
 わたしはこれまでずっと、「初心にかえる」なんてことは云わないように、思わないように気をつけてきた。「初心」になんかかえりたくない。やっとのことでここまで歩いてきたのに、少しは進歩もしたつもりでいるのに、かえったりするもんかという気持ちだ。もしもかえろうとする力が働いたって、歯を食いしばっても抵抗する。そう考えていた。
 ところが、スターフェリーの写真とともに送られてきたメールを見たとき、ふと初心を思っていた。そう云えば思いだした。香港で大げんかしたのだったなあ。頭を冷やすため、わたしはひとりでスターフェリーの往復をし、夫は「香港文化中心」という劇場のロビーで過ごした(奇しくもその劇場が、このたびの映画祭のメイン会場だったそうだ)。
 ああ、こういうのが「初心にかえる」ということなのかもしれない。過去をふり返って「あのときこうすればよかった」というような思いを抱くのはごめんだと考えていたのだが、すっと行って、すぐともどってくればよかったのだ。まちがっても途中で重たいものを拾ったりしないように。拾うなら、そうだ、「感謝の念」とか「笑いのタネ」を選んで拾うとしよう。

 あのときふたりで乗りこんだスターフェリーが、どこへ到着するかなんて、考えなくていい。スターフェリーに運ばれながら、ただ純粋に、できるだけ純粋にひとの進みを重ねられたなら、ほかに望むことはない。


Photo
スターフェリー(天星小輪)。

ヴィクトリアハーバーの渡し船として、毎日約5万人を運んでいます。
香港島(ホンコントウ)と九龍(クーロン/カウルーン)を結ぶ
スターフェリー、
1888年開業。
写真はメインルートである
尖沙咀(チムサーチョイ) 
中環(セントラル)間です。

_1 
航行時間は片道612分。
毎日、630 2330515分間隔で運行しています。
運賃は、2,5香港ドル約37円(片道)。
週末は、ちょっと高くなるとか。

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コメント

ふんちゃん

はは〜ん。ご夫君の「ずっとふたりで」というところが要なんですね。
初心にかえるような思い、は、想像もつかないようなパートナーになったから、ではなくて、
そのとき、大げんかしたからだったのですね。
ああ。
いつでも、初心になんてかえれない。あとから、思いかえしたくもない。
そう思って生きてきたおひとでさえも、すなおにそう思える、そんな思い出なんだな、
なんて、勝手にほっこりいただきましたなり。
香港、わたしは行ったことないですけど。
スターフェリー、25年前は開業して間もなく、船もそのカップルとおなじようにピカピカだったのでしょうか。

投稿: rantana | 2015年4月14日 (火) 13時36分

ふんちゃん

 私も、私も~。
 新しいことに遭遇する時、やることが立て込んでいる時など、夫がいないと困ります。
 心細いを通り越して、困る感じなんです。
 そこここにある、私の中の「ブツブツ」一言一言を聞いてもらいたくって、整理してもらいたくって…。
 それがないと落ち着かない…。

 時折、ふんちゃんもそうなんだなぁと、うれしくてにやにやしながら読ませていただいたのですが、今回は、それがしっかりとことばにされていてにっこりしながら読ませていただいちゃいました^m^

 初心になんて…というのは、ほんとだ!!と目が覚めるような気持ちでした。ほんとだ!ほんとだ!ここまでこられたのだから、初心になんてかえりたくない!そうやって思ってもいいんだなぁと思えました。
 なんだか、大きな声ではことばにできなかった気持ち…。
 私だって、それなりに少しは、ほんのちょびっとでも前進しているのだから~(^0_0^) ふんちゃんのおかげで、大きな顔でいられそうです(^^)

 今年度から、火曜日も家にいられることになって、こうやって火曜日に更新されるここへお邪魔することができました!うれしいなぁ。
 またどうぞよろしくお願いしますm(__)m

投稿: もも(^-^) | 2015年4月14日 (火) 15時19分


ふんちゃん皆様こんにちは。

初心、今の時期は省りやすい時期だと
思います。新入社員の方が入ってきて
1年前の自分を思い出しました。

どんなに失敗してもきっと受け止めてあげるからね!私がしてもらったように!

なんて思ってしまいます笑

そして席と担当が変わった私は
また、すとーんとミスが減りました。
なんでだろう、と思いながら嬉しいです

投稿: たまこ | 2015年4月14日 (火) 15時47分

rantana さん

ごめんなさい。
スターフェリーは127年ほども前から
運行しています。
1888年と書くところを1988年と、
書いてしまいました(訂正済み)。

ふと、スターフェリーにひきもどされた
不思議な感覚だったのです。
こんなこともあるんだな、と。
それをここで白状した、というわけです。

投稿: ふみ虫 | 2015年4月14日 (火) 23時52分

もも(^-^)さん

先年度はお疲れさまでございました。
ゆっくりまた、あたらしい道を
行ってくださいまし。
たのしみに眺めさせていただいております。

自分にも依存性があるのだということを
認めておかないとね、と思ったんです。
お恥ずかしいような、はがゆいような打ち明け話でした。
おんなじーと、云っていただいてほっとしています。

ありがとうね。

投稿: ふみ虫 | 2015年4月14日 (火) 23時56分

たまこ さん

たまこさんは、いい先輩ですね。

失敗やミスから学びとる価値を
知っているひとはつよいです。

「どんなに失敗してもきっと受けとめてあげるからね!
私がしてもらったように!」
には、くらっとしました。
素敵です。


投稿: ふみ虫 | 2015年4月14日 (火) 23時59分

ふみこさま みなさま おはようございます。

街は花の季節を迎えました。
お花見スポットの桜もいいけれど、小さな公園や学校の桜も大好き♪

「初心」って、自分の中のどこか奥の方に眠っているものなんだなぁ~と思いました。
例えば、ダンナとの毎日も毎日を積み重ねての今があって、それは(多分?絶対!)一緒に暮らし始めた頃とはお互い違ってて、でも、何かのタイミングであの頃の気持ちがふわっと顔を見せてくれるんです。
それは仕事などいろんな場面でも同じかな~~

今までも、これからも、きっとね。
そうして、カワイイいじわるばあさんへの道を着々と(*^^)v

投稿: かえるのしっぽ | 2015年4月15日 (水) 09時11分

ふみこ様、みなさま、

スターフェリーからの心地よい風いただきました

思わず25年前の自分。。。
そうそう、まだシングルで「風にふかれてみない」
と仕事仲間にさそわれて、マウイでウインドサーフィンに挑戦

すうっと流される感じ、
いい風を待ってぼうっとすること
自然との一体感

そんな大切な感覚再確認しました
いつもこうやって自分の中の宝物思いださせてもらっていること
うれしく、感謝です

投稿: 真砂 | 2015年4月15日 (水) 10時46分

ふみこさん、みなさん
こんにちは。
昨日、娘の友だちが遊びに来ました。玄関の前で、娘と私と彼女とで、傘の始末をしている時、
「今日、お友だちと気まずくなっちゃって。先生に相談したら、その子泣いちゃって。まだ友だちに戻れてないの。」と、彼女が話してくれました。
「そうかあ。...まあ、お茶でも飲もう。」としか答えられなかった私です。
きなこ餅と麦茶でもてなして、夕方お別れしたのですが、今日になっても、「もう少しなんとか...(良い一言はなかったものか)」と腑甲斐なく思っています。
よい天気です!今日は彼女もそのお友達もひっくるめて、学年で校外学習で森林に行っているはず。いいきっかけが巡ってきますようにと祈っています。

投稿: cohata | 2015年4月15日 (水) 11時57分

ふみこ様

久しぶりにここへ帰ってきました、ただいまあ^^
桜にうかれてしまい放浪していました。
初心、一めぐりしたということでしょうか。
依存わかります、わたしにもあります。
わたしは夫に堂々と言っちゃってます。
「時々かまってくれなかったらぐれてやる。」
だから時々でいいんですけど、
時々仲良く一緒にいます。

投稿: ゆるりんりん | 2015年4月15日 (水) 16時31分

かえるのしっぽ さん

カワイイいじわるばあさんへの道。
いいなあ、それ。

わたしも、それに混ぜていただこう。
カワイイ……が、むずかしいが。

投稿: ふみ虫 | 2015年4月15日 (水) 19時05分

真砂 さん

ほんと、ほんと!

自分のなかの宝ものに気づかずにいながら……、
わからないままでいながら……、
きょろきょろしているのなんかは、
もったいないですね。

宝探しね。

投稿: ふみ虫 | 2015年4月15日 (水) 19時07分

cohata さん

麦茶ときなこ餅をそっとだしてくれる
年上の友だちがあれば……。
自分のために祈ってくれてる存在があれば……。

友だちはいいもんだけれど、
むずかしい一面も持っていることを
学ばなくてはならない。
それは、人生の宿題なんでしょうね。

それにしても、
麦茶ときなこ餅!

投稿: ふみ虫 | 2015年4月15日 (水) 19時10分

ゆるりんりん さん

お帰りなさい。

放浪、素敵。
お帰りなさい。

そうだ、
明日から3日間、わたし、机の上で
放浪しようと思います。

行ってまいります。

投稿: ふみ虫 | 2015年4月15日 (水) 19時13分

ふみ虫さま

先日、急性虫垂炎の手術を受けました。

その前日、とても激しい腹痛をおこして、
たまたま単身赴任先から帰宅してきた夫に
救急病院に運んでもらいました。
あの日、帰って来てくれていなかったら
どうなっていたことか。。

スターフェリーからほろりとする
メールをくれるような夫ではありません。
むしろいつも言葉足らずです。
でもなぜかこんな風に、
ピンチのときは必ずいてくれたなぁ、、と
これまでの結婚生活を振り返っています。

紆余曲折あったにせよ、
傷つけあったこともあったにせよ、
とにかく一緒に歩んでこられたことに
感謝、しようと。
旦那様がふみ虫さんに送られたメールを読んで、
思いました。

入院している間に、桜も終わりを迎え、
もうすぐ新緑の季節が始まります。

投稿: CITRON | 2015年4月17日 (金) 17時46分

CITRON ちゃん

あ、ごめんなさい。
CITRONちゃんと書いてしまった……。

痛かったかな。
痛かったよね。

びっくりしたかな。
びくりしたよね。

わたしの夫、
まったくのことば足らずです。
それが、めずらしくメールをよこしたので、
驚いて、思わず「初心」にかえっちゃったという
はなしなんです。

紆余曲折なんか、あたりまえなのかも。ね。
傷つけあうのなんかも、あたりまえなのかも。ね。

ひとまず感謝しようじゃありませんか。
ダーリン、 CITRONさんを、
タイミングよく病院に運んでくださり、
ありがとうございました。
いまお会いしたら、ハグしちゃうよ、ほんとに。


投稿: ふみ虫 | 2015年4月17日 (金) 20時05分

「初心にかえる」って私も好きではありませんでした。ケチなのか、ここまで進んできたのに 後ろを振り返るのはいやだと感じていたのでしょうね。
 ただ、最近 あそこでこうなったから 今の自分がいるのだ。あの失敗で私はこれを学んだのだ とか そんな振り返りは増えました。
 だけど、初心にかえるとは 違いますよね。

 後で考えると、その当時悪かったことでも、それがあったために かえって 気づかされることがあった などということもあるわけで。初心もその時点では よい選択だったのだ とそんな風に感じています。

投稿: テレジア | 2015年4月18日 (土) 15時08分

テレジア さん

がむしゃらに、
めちゃくちゃに歩いてきたところが
少なからずあるので、
ふり返るのが恐ろしいという一面もあります。
考え無しだったのは、事実なので。

でも、ちろっと過去を覗き見る瞬間が
訪れるたび、
「おそろしく考え無しにはちがいないけれど、
おそらく同じ道を辿ったろうなあ」
とも思ったりするのです。

これからは、自分なりによく考えて
歩いてゆきたいと、思うわたしです。
できるだけ……。


投稿: ふみ虫 | 2015年4月19日 (日) 10時03分

 ふみこさま
 私も同じです。考えているのではなく、反射で動いてしまうので 振り返ると「恐ろしい」どうも考えなく動いてしまう性分のようです。

 だけど、ふみこ様も同じような部分をお持ちだとわかってちょっと安心しました。娘たちから見ると私は「ブレーキのついていない自動車」のように見えるらしいです。

投稿: テレジア | 2015年4月19日 (日) 15時51分

ふみこさま、こんばんは。
長い道を私も歩いて来ました。
自分の弱さをさらけ出せるひとって
他にはいない。
大事な存在ですよねー

てくてく行こう、ですね。

投稿: まみちゃん | 2015年4月19日 (日) 17時48分

テレジア さん

……ブレーキのついてない自動車。

それ、 テレジアさんの「アクセル」への
信頼あってのことじゃないでしょうか。

私のブレーキは、
壊れてる。

でも、純粋ではあると、思ってます。
ひとは恨んでいないから。


投稿: ふみ虫 | 2015年4月19日 (日) 20時14分

まみちゃん さん

きょう、来てくださって、
ありがとう、ございました。
勇気がをもらいました。

わたしたちも、お互いに、
「そういうふうで」あろう!

投稿: ふみ虫 | 2015年4月19日 (日) 20時27分

ふみさまみなさまこんばんは~

『ふたりでずっとスターフェリーに乗っているような気持ちで生きてこられたこと、感謝です』


ああ、これは究極のラブレター(ラブメール?)ですね。

ウットリ。


素敵~~だんなさま。拍手~~
そしてそんな素敵な言葉を言わせちゃうような奥様業を果たされてきたふみさまにも拍手喝采だわ~

うちのだんなさんは何に乗っているような気持ちなのかしらん?

私的にはゆっくりのんびりの宮古島の牛車に乗ってるような感じでいてくれたらうれしいな~と思ったので

「牛車に乗ってるような結婚生活だった?」

と聞いたところ

「ん~~~どっちかっていうとビックサンダーマウンテンかな・・・・」

とつぶやきお風呂に入りにいかれました。トホホ。

投稿: おきょうさん | 2015年4月21日 (火) 00時26分

おきょうさん さん

ビックサンダーマウンテン!
かっこいい!

あ、乗りたくなった。
久しぶりにディズニーランドに出かけて、
うかれてこようかな。
ビックサンダーマウンテンに乗って、
「おきょうさんさーん」
と叫んでみようと思います。

いい季節になりました。
健康最優先で、お願いします。ね。

投稿: ふみ虫 | 2015年4月21日 (火) 09時46分

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