黙黙
5月6日(水)大型連休最終日。
米農家を営む夫の実家(埼玉県熊谷市)へ。
熊谷駅で、長野市の友人宅に出かけていた長女と合流する。3人で、田植えの準備の土入れ。稲の種籾を蒔くための土を浅いパレット状の苗箱に入れる仕事だ。
夫が苗箱の底に古新聞(あらかじめ底部分の大きさに切っておく)を敷き、わたしが土を入れ、長女が専用の板で土をならす。きれいに土を入れた育苗箱を積み上げてゆく。
全部で100箱。3人で1時間半打ちこむ。黙黙と。
その間3人で交わしたことばは、「ここは風の通り道」「いい風」「気持ちいいね」これだけ。
作業を終えて、のびをし、風にくるまる。
5月10日(日)
午後5時、末娘と顔を見合わせて、「よし」「やろう」と頷きあう。
高校の体育祭の応援団の衣裳係になった末娘を手伝って、プリーツスカートを縫う。副団長(女子)が穿くスカート。光沢のある布で4本の細いテープをつくって前後2枚のスカートに2本ずつ縫いつける。そして、布をたたんでひだをつくる。ひだの数は20本。ウエストに向かってを少しずつひだの幅を絞るところがむずかしそう。
裁断、アイロン、ミシン。末娘と分業で7時間、休みなく作業をつづける。黙黙と。ひだにばってんのしつけをかけて、完成。
日付が変わろうという居間で、そっと握手する。
「ありがとう」「たのしかったね」
5月11日(月)
5時半に起きる。ひんやりとした朝。寝ているあいだに気になってきたプリーツスカートのインサイドベルトの脇の部分を縫い直す。
すがすがしい気持ち。前の日、黙黙と裁縫したことが作用しているのかしら。たしかにわたしは、自分自身と会話していた。作業に打ちこむあいだ、みずからを内観し、いくつかの小さな綻(ほころ)びをさがし出していた。
それはかすかな痛みであり、小さな不安だ。日頃、気づかぬことにしていた、そんな綻びのひとつひとつを認めることで、わたしはわたしを労(いたわ)っていたようでもある。
作業仲間である末娘も、黙って手を動かしながら、自分自身と会話していたのだろう。そういうお互いのあいだに、常よりも静かでやわらかいものが通(かよ)った。相手を思いやる気持ちの元となるものか。
朝刊を開いたら、そこに詩人の長田弘の死の知らせがあった。
「やがて、とある日、/黙って森を出てゆくもののように、/わたしたちは逝くだろう。」
「人生は森のなかの一日」の一節。
実家の畑で出合ったねぎ坊主。
黙黙の王様です。
ここからタネをとります(自家採種)。
畑から間引いてきたにんじんたち。
葉っぱごと天ぷらにします。
これはわたしの大好物です。
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コメント
ふんちゃん皆様こんにちは。
黙々って不思議ですよね。
一種の浄化作用がある作業であり
日頃の動作を思い出せる時間です。
(私にとっては)
ふと、やり残した作業を
思い出したりなんてことも、しばしば。
でもなんだかうまく集中が続かなくて
なんてことも笑
もっと黙々上手になりたいな。
投稿: たまこ | 2015年5月12日 (火) 12時21分
たまこ さん
浄化作用。
ほんとだ、ほんとだと感心しました。
わたし、そうだったんだーとね。
やると決めたら、黙黙と。
と、決心しています。
(ときどきなまけたくなりますが)。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月12日 (火) 12時36分
ふんちゃん
東京行きを決めたこと。
おめでとうと言ってくださってありがとうございます(^^)
とても、晴れ晴れとした気持ちです。
が、やはりどこかいつもと違っていて、
準備をしなければなぁと思っているのに、
やってしまいました…。
今日の午前中。
娘のズボンを「黙黙」作ってしまいました。
やるべきことはたくさんある気がするのに…です(^^;)
初めてのズボン作りで、間違ったこと3回!!
え~っと、右のズボンはこっち?裏はこっち?え?ここじゃなくて?の繰り返し…(^。^;)
本当に「黙黙」でした。
そして、できた~!の時にこちらにお邪魔して、
あ、浄化作用なのか~と納得。
これも、今の私には必要な時間だったんだなぁ~と思います。
私は、どうやら、ほんの2泊だけなのに、子どもたちと離れることがさみしいようです(^_^;)
後は、今週いっぱい仕事やらなんやらがあるので、何でも早めに…と思っているのですが、どうなるか~。
東京は、暑いですか?
半袖なのかなぁ。長袖でもいいかなぁと、愉しく迷っています(^^)
投稿: もも(^-^) | 2015年5月12日 (火) 14時20分
ふみこさま みなさま
こんにちは。
わたしの「黙々」には、おだやかなのと激しいのがあります。
おだやかな黙々は、刺繍の時間。
ゆったりとした黙々です。
激しい黙々は、毎朝の長男の野球の練習着と靴下の洗濯の時間。
これでもかっ!というほど、繊維の奥までしみついた泥と汗の汚れを
がしがしと手洗いするのは、一種の格闘技と同じです。
小4から始まった毎日の激しい黙々も、あと2か月ほどで終わります。
先日の「母の日」に、長男が初めてプレゼントをしてくれました。
ハンドクリームでした。
”9年間の激しい黙々への、何よりのご褒美だなー”と、
とっても嬉しくて、ちょっぴり哀しくて。
長男に、「ありがとう」と言う時に泣きそうになったのを、必死にこらえた母さんでした。
投稿: みぃ。 | 2015年5月12日 (火) 14時27分
ふみこ様、みなさま
大学生になって久しぶりに早く帰ってきた娘
「餃子包もうか」と言って二人で黙々とつくる昨日
穏やかな時間。いいな。
でも同じテーブルで3カ月前までみた娘の真剣な黙々も
なんだかなつかしい。
そうかこの木のテーブルいつも私たちをそっと支えてくれていたんだ
飛騨高山の職人さんの温かいまなざしも伝わってくるような
背もたれのカーブも心地良くて好きだ。
「樹の言葉は沈黙の言葉」という長田弘さんの言葉も好きです。
投稿: 真砂 | 2015年5月12日 (火) 15時55分
ふみこさま みなさま こんばんは
「黙々」には浄化作用があるんだ。。。と妙に納得しました。
自分の「黙々」の時間を思い返してのこと。
さて、これからキャベツの千切りを黙々と作りましょう!
山盛りのキャベツとちょっとスッキリが出来上がるでしょうか♪
おっと!キャベツの相方も作らないと^m^
投稿: かえるのしっぽ | 2015年5月12日 (火) 18時19分
もも(^-^)さん
ああ、わかります。
なぜ、こんなときにこんなことやっているんだろう……
というような、ね。ね。
けれど、
動揺や、不安や、どきどきや、そんなことを、
静めてくれるのが手仕事だと思います。
ズボンね。
プリーツスカートの前に、
末娘が縫うのに、つきあいました。
ミシンを持たない下級生男子の分の2着です。
中表に合わせるのをまちがえたりしてました。
確かめて、確かめて、まちがっていました。
うちでもちょっとした騒ぎでした。
なんか、似たようなことしてたんですねー。
東京は、だんだん初夏めいてきています。
半袖と、はおるもの、というくらいになってゆくと
思います。
また、お知らせします。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月12日 (火) 22時16分
みぃ。さん
激しい黙黙と云っても、
魔法のハンドクリームを贈られて、
文句ないですね。
ほんとうに素敵。
わたしまで、うれしい……。
手がすべすべになるほど、うれしいです。
男の子からハンドクリーム贈られるなんて、
ああ、うらやましいことです。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月12日 (火) 22時21分
真砂 さん
そうか、
その同じテーブルで、勉強もして、
お嬢さんは夢をかなえて大学に進学されたのですね。
テーブルに命を吹きこんだのは、
真砂さんご一家。
わたしのもとにも、
そんな道具や家具があるといいのですけれど。
あるといいのですけれど、じゃありませんね。
命を吹きこめるわたしたちになれますように。
ですね。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月12日 (火) 22時30分
かえるのしっぽ さん
わたしも、きゃべつのせん切りが
先行することが、多多あります。
相方は……という、かえるのしっぽさん、ご同輩!
相方として、何、つくられたんでしょうか。
豚の生姜焼き。
オムレツ。
コロッケ。
カツレツ。
何を書いても、きゃべつのせん切りが
「メイン」になってしまうところが……、
とてもいいなあと思えます。
(タワシでものせておきましょうかね。ふふ)。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月12日 (火) 22時47分
ふみこさま。みなさま。
こんにちは。
みぃさんのハンドクリームのお話、目頭が熱くなりました!
素敵なプレゼントですね!
先日、一年間の役目を終え無事PTA役員を解任され、三人の子供と祝杯をあげました。その時にムスコにもらった言葉を思い出しました。
フツウの"ありがとう"だったけれど、とてもココロにしみました。
ふみこさん。私黙々大好きです!
少し時間の流れがゆっくりになったので、まずは黙々と掃除をしたいです!
投稿: O.あんのん | 2015年5月13日 (水) 13時51分
O.あんのん さん
昨年度のPTA役員のおつとめ、
ご苦労さまでございました。
どんなにお忙しかったかとも思いますし、
種種雑多なご苦労があったことでしょうけれど、
身につけた事ごと、
お仲間とのつながりなど、
大切なものをいっぱい贈られたことと。
お子さん方から「ありがとう」とは……。
なんと、賢い皆さんでしょう。
そうか、ありがとうか、と
感動してしまいました。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月14日 (木) 07時55分
ふみこ様 皆様
黙々、、いいですね。私も久しぶりに、黙々、片付けしたり、お裁縫やろうという気持ちになってきました。
上司に会って、今の気持ち話しました。
今は復帰すること考えられないことも。
まず休んでくださいと言われました。
たてなおす時間がいただけたことに感謝して、今は、お言葉に甘えます。
それでも、復帰無理なら、そのときはそのときです。
今は、まだ傷が浅い状態で口が開いています
同じ場所に復帰すれば、深くなることも怖れています。
人生は選択の連続ですね。
自分が選択したこと、出来事、出会いには必ず意味があるということは忘れずにいたいです。
投稿: ゆきたん | 2015年5月14日 (木) 16時57分
ふんちゃん、みなさま、こんにちは。
もう初夏の陽気ですね。
黙々、良いですね。
ぼくは黙々、というのではなく、淡々ですね。
淡々と日々をこなしているかんじ。
お恥ずかしながら。
似て非なるものです。
黙々は込めていますが、淡々はながしていますから。
でも、生きているだけで充分だとおもっていて。
黙々もどこかにいれてゆきたい、ちいさなことでも、とおもいました。
投稿: 佐々木広治 | 2015年5月14日 (木) 18時34分
ゆきたん さん
よかった。
お休みが認められて。
「そのときはそのとき」と思っていれば、
きっと道はひらけます。きっと。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月14日 (木) 23時25分
佐々木広治 さん
淡淡、坦坦も、好き。
流されるときがあっても、
いいのじゃないかしらん。
わたしね、
生きているだけでじゅうぶん、と、
いつも思っています。
自分自身に対しても、
ひとに対しても。
ほんとうに、それが「すべて」と思えるんです。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月14日 (木) 23時28分
淡路島の祖母は、黙々と作業することを、"むしむし"といいます。
だいぶ曲がった祖母の腰は、むしむしと働き続けてきた証です。
投稿: こいし | 2015年5月15日 (金) 01時06分
こいし さん
むしむし。
いいことをおそわりました。
どうもありがとうございます。
ふみ虫むしむし。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月15日 (金) 08時32分
ふみこさま。
こんにちは。
長田弘さんの、ことば、ふかいですね。
わたしも、ときどき死のことを思ってみます。なにか残せているのかしらん、と。黙々と人生をあゆんでいったら、あとになにか続くような気がしています。孫、家から五分のところの保育園に通い始めました。朝は、ちょっぴり泣きますが、迎えに行ったときは、けろっとして、あそんでいます。
保育園の先生に、感謝です。
では、またぁ。
投稿: こぐま | 2015年5月15日 (金) 10時53分
こぐま さん
「死」については、
いつか、ゆっくり語りたいですね。
……死は、ある意味、わたしの目標です。
ところで、ところで。
保育園生活がはじまったのですね。
わたしの娘は、3人とも、
0歳児保育から、公立保育園にお世話に
なりました。
子どもにとっても、わたしにとっても、
計り知れぬほど、恵まれし経験でした。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月16日 (土) 21時44分
ふみ虫 さま
黙黙と……
なんて良い時間を過ごされて…うっとりしてしまいます。
ちょうど一年前、最愛の叔母を見送ったその日、義母は39度の熱を出し、直後に「マーちゃん(叔母)がね、来てくれたの」と話してくれた。あぁ、叔母はやっと自由になって好きなところに行ってるんだなぁと、ちょっと嬉しかったのを今日、思い出しました。
ーそのとき、ふりかえって、
人生は森のなかの一日のようだったと
言えたら、私はうれしいー(長田弘)
投稿: バッテリー | 2015年5月17日 (日) 15時08分
手仕事 手作業というのは確かに内観の時間になります。
機械化が進み、本来なら私自身が動いてやっていたことが減ってくると、どこかで私はバランスを崩してしまいます。
私はお裁縫が苦手なので、プリーツスカートなど縫えないので、ひたすら掃除だとか、片付けとか ということになります。
観想修道院のシスター方に憧れるのは、そういった 動きを通して自分と向き合い、祈りに昇華されているところかもしれません。
面倒だと感じていることを、気を入れてやってみると、清々しさが残ることを経験的に知っていることは幸せです。
投稿: テレジア | 2015年5月17日 (日) 16時18分
音の商売してますもので
黙々と
にはあえての音楽はいらない気がします
黙々の音は
そのもの芸術だな~と感じるのです
黙々とお料理する音
黙々とお掃除する音
黙々と書き物をする音
黙々とぼんやりする音
すべてが素敵でどれもがここちよい響き・・・
なので音楽大好きなのですが、そんなときは音楽は部屋に流しません。
ふみさまの記事を読ませていただいて、そんな意味では私が指導させていただいている音楽は
黙々が終わったあとに、『お疲れ~~』と黙々した人の心をふんわりさせる音であってほしいかなと思いました。
うん、そんな音楽を目指したいな。と思いました。
あしたからもがんばるゾ。
p・s
わざわざさかのぼってのコメントありがとうございました。
毎日がバッタバタの生活ですとふみさまやみなさまとおしゃべりしたくてもなかなかパソコンにたどりつけず・・・
けっこういつも土曜・日曜・または日付が変わって月曜の深夜の登場が多く・・
そんな感じですみませんギリギリコメントさせていただいちゃってることも多いです。
なのでこれからもふみ様の吹かせるやさしいお返事の風のお当番、させていただけたらうれしいな。
投稿: おきょうさん | 2015年5月18日 (月) 00時38分
バッテリー さん
人生は、森のなかの一日。
長田弘というひとは、
不思議なひとだなあと思います。
大事なものを、つかんでいる存在だなあ、と。
バッテリ−さん(あらためて)、
どうもありがとうございました。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月18日 (月) 04時56分
テレジア さん
ほんとうですね、ほんとう。
「面倒だと感じていることを、
気を入れてやってみると、
清々しさが残ることを経験的に知っていることは幸せ」
これ、名言だわ。
帖面に書きつけました。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月18日 (月) 04時58分
おきょうさん さん
おきょうさんさんの「音」。
とても興味を感じます。
ひとの心をふんわりさせる、音。
ここにも、それが届いているとも
思えます。
「おたより」のお知らせ、
どうもありがとうございます。
感謝です。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月18日 (月) 05時02分
ふみこ様 皆様
片付けする気持ちになって、黙々と片付けしています。
ものを減らしたくて、捨てたりしています。
もっと迷うことなく捨てれるといいんですが。
気持ちも落ち着いてきました。
またここへ来ますね。
いつもありがとうございます。
投稿: ゆきたん | 2015年5月18日 (月) 16時25分
ゆきたん さん
その片づけをしながら、
ゆきたんさんは、いま、
変化のときを迎えているのだと感じています。
片づけのなかで、わたしも、
これまで何度も何度もあたらしい自分と出会いました。
風が通ります。
ふ
投稿: ふみ虫 | 2015年5月19日 (火) 06時29分