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2015年8月11日 (火)

夏の記憶④(2015年)

8月△日
 夏の全国高校野球選手権大会がはじまった。
 開会式のあと、鹿児島実業高等学校(鹿児島代表)と北海高等学校(南北海道代表)の試合を見る。結果は184で、北海が破れた。
 甲子園に出かけて行ったと思ったら、一日目第一試合ののちたちまち帰ることになった高校生たちは一所けん命、スパイクバッグに甲子園球場の土をつめている。
「コズキチ(仮名)、お帰りなさい。よくがんばったね。テレビを観て、感極まって泣いたわー。あ、それ、甲子園の土? それ少しもらって観葉植物を育ててもかまわないかな。植木鉢にちょっぴり入れてもらったら、植物もよろこぶと思うんだけど」
「うん。だけど、学校のグラウンドにも撒くんだから、ちょっとな」
 存在もしない高校球児の息子が、甲子園の土を持ち帰る場面を思い描いているのである。真夏の白日夢。

8
月△日 
 先週、M子さんからランチのお誘いあり、暦を見たら、うれしやその日は予定が入っていない。それでは、おいしい和食を食べさせる隣町の店に出かけましょうか、というM子さんからのメールに「たのしみにしています」と返信し、当日たるきょうを迎えた。
 朝6時から気温が上がりはじめ、気がつくとからだがぐんにゃりしている。M子さんはどうやって隣町に出かけるつもりだろうか、徒歩だろうか、自転車だろうか、バスだろうか。
(きょうは、どこへも行きたくない)。
 だらしのない気分ではあったが、恐ろしくきっぱりとしたものであった。
「もしもし、きょうはうちでごはんを食べませんか。うちにもエアコンはありますから、それはつけて涼しくします」
 2キロほど距離のあるお宅から自転車に乗り、その上M子さんは、押し寿司やロールケーキを買って、やってきてくれた。
 お茶を淹れたり、冷蔵庫から茄子の煮ものを出したり、ぬか漬けをひっぱり出したりして、もてなす。
 家から一歩も出ずに、すばらしくたのしい時間を過ごしてしまった。ばんざい!

8月△日

 NHK杯将棋トーナメント。
 きょうから2回戦となり、羽生善治名人が登場する。対戦相手は北浜健介八段。テレビ放送を、どきどきしながら待つ。いつもは毎週日曜午前10時半からの放送であるが、高校野球の放送があるため、午後15分に変更になっている。
 羽生名人が先手と決まり、本局への抱負を語る。
「今回が30回目の出場(NHK杯将棋トーナメント)ということで、月日の流れも感じていますし、張り切って指していきたいと思います。北浜さんとは対戦が少ないので(このたび3戦目)、新たな気持ちで臨めるのでは」
 そも30回のNHK杯出場がすごいが、30回のうち10回の優勝というのは、いったいどんな記録だろうか。これにより羽生名人は、「名誉NHK杯選手権者」の称号を持つに至っている。
 羽生名人先手と決まる。
 解説の屋敷伸之九段による「居飛車対中飛車の対抗形になるのでは」との予想が的中し、居飛車対ゴキゲン中飛車、そして相穴熊となった。
 あっという間に終盤戦となったように見える。
 後手番が先手番の穴熊を崩しにかかり、玉のまわりに金銀が1枚もなくなっている。羽生名人は金銀を自玉のまわりに打つが、後手が攻防。という局面がつづき、あともう一度くり返されたら「千日手(せんにちて)」か。
「千日手」とは、同じ局面がくり返しあらわれることを云う。4回くり返されると無勝負・指し直しとなる(ただし、連続王手の場合は王手の側が手を替えないと反則負けとなる)。
 と、そのとき、羽生名人が飛車を切って攻めに出た。
 結局、166手で、後手北浜健介八段の勝ちとなった。
 千日手が濃厚と思われた局面あたりで、羽生名人に苦悩の表情が浮かんだ。眉間にしわが寄り、ときどき額に指を当てている。NHK杯将棋トーナメントは早指しだから、長考の道も選べない。
 
 この夏もっとも印象に残る風景。

 暑いというのを云いわけにして、考えることからも、迷うことからも、惑うことからも逃げている自分が恥ずかしくなった。こんなことでは夏の暑さが去ったとき、どうしようもない局面がわたしを待っているかもしれない。
 現実世界には千日手もない。

Photo

8
ブルーベリー詰みの一日。
埼玉県熊谷市の夫の実家の畑に
夫がブルーベリー(2年苗)を植えたのが2012年春。
ちちが80歳になり、ちちははとの共同作業と、
田畑の未来を考えてのことでした。
東日本大震災という経験も、後押ししてくれたと
思います。
そのとき植えた30本が、見事な実りをもたらしました。
水を飲み飲み、
実ったブルーベリーを口に含み含み、
摘みに摘んだのです。

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コメント

ふみ虫さま

ここ数年は夏に乗り越えないと
いけないことがやってきます。

少しずつ、和らいできているようにも
思えますが…

高校球児の懸命さに
胸をうたれます。
支える人々の懸命さにも。

ブルーベリー摘み
おつかれさまでした。

土と共に生きる人の
つよさとやわらかさも

投稿: 寧楽 | 2015年8月11日 (火) 12時15分

すみません。
お便り、途中でおくって
しまいました。

つよさとやわらかさも
人を育てるなぁと。

「板きれ」のこと
依存することも
不用意な言葉で傷ついたり
傷つけたりすることも
慎みたいことです。

娘はそれに関する仕事に
携わっています。

本当に必要な人の手に
わたるように
心しているそうです。

投稿: 寧楽 | 2015年8月11日 (火) 12時20分

ふみこさま、みなさま

久々に将棋の楽しみ思い出しました

相手の駒をとっていかせて使えるところ
ユニークですきです

相手とのやりとりで思わぬ展開になったり
どう切り抜けるか

娘の方が夢中になり棋譜をにらんでいましたが
今は楽譜に変わり作曲ソフトで編曲したり
いろいろ楽しんでいるようです

暑くても夢中になれるものは心の栄養のようです
 

投稿: 真砂 | 2015年8月11日 (火) 13時01分

ふんちゃん、みなさま、こんにちは。


またか!と言われそうですが、ふんちゃんの反省というか感慨でしょうか、しっかり考えてゆきたいという締めのことばに、雨ニモマケズをおもいだしました。
ふんちゃんはしっかり行動し、考えていて、でもまだまだだと記す。そこが、ああ賢治さんだとおもったわけです。
今気づきましたが、ふんちゃんと賢治さんはよく似てます。
一見すると、ほのぼのとか微笑ましいとか優しい単純なイメージがありますが、でも実はものすごく厳しかったり怖かったりする世界にも、広がりがあるかんじなところとか。
賢治さんの風や石が、ふんちゃんの台所が、宇宙とか森羅万象につながっています。
賢治さんとふんちゃんは似てる。
今年の夏の最大の発見です。

投稿: 佐々木広治 | 2015年8月11日 (火) 14時41分

ふんちゃん皆様こんにちは。

私は社会人として2回目のお盆休みを迎えます。
去年ふんちゃんから素敵な休みをね、と言って頂き、またそんなふうに言ってもらえるようにと、頑張ってきました。

今では仕事に行くのが楽しみになってしまいした笑
さぁ、今日もあの人に会いに行こう!
あの仕事ができる!

こんなふうに思えるなんて
幸せだな、とつくづく思います。

投稿: たまこ | 2015年8月11日 (火) 19時43分

ふみこさま みなさま こんばんは

街に県外ナンバーが増えてきました。久しぶりの故郷の夏を楽しみにしてる笑顔を運んできてんだろうなぁ。。。と思いながら、いつにも増して気をつけて運転する毎日です。

甲子園。
明日で出場校が全部登場するようです。

ずっと遠い夏の思い出の中に、甲子園の開会式を見る祖母の姿があります。
入場行進が始まると「よくここまでたどり着いたね!みんな頑張ったね!」と拍手しながら涙ぐんでいました。そして、全チームが一斉に前進する時はもう涙がポロポロ。。。と。

自分が親になり、子どもが高校球児の齢を越えてから、なおさら、あの頃の祖母の気持ちがわかるような気がしています。

暇があればTV観戦して、どのチームも応援してる毎日です。
こうして、今年の夏も過ぎていきます。

余談 もし母校が甲子園に行ったら絶対にアルプスに駆け付けようと毎年旅費を算段し体力をつけなくては!と画策してるんだけど、なかなかその日は巡ってきません。でも、それも毎年の楽しみです♪

投稿: かえるのしっぽ | 2015年8月11日 (火) 20時00分

ふみこ様

わたしのよく利用する電車は
甲子園につながっています。
この駅に止まるとドキドキします。
上を向いている人、うつむいている人、
走って球場へ向かう人、重苦しい歩みの人・・・
一つの試合が人の数だけの貴重な体験になってることが
宝物に見えるのです、キラキラ、キラキラ・・・

この夏はまだばてていません。
このままぼちぼちと行こうと思っています^^

投稿: ゆるりんりん | 2015年8月11日 (火) 20時28分

寧楽 さん

高校野球は、
わたしの年二度の支えです。
このひとたちがこんなにがんばっているのだから……、
とか、
たまには涙を流してみようか……、
とか。

投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 09時58分

寧楽 さん

板きれなんて呼び方をして、
申しわけなく思います。

その存在がひとを救ったり、
安全を見守ったり、
苛酷な状況を支えていることも
知っているつもりです。

お嬢さんが、
その尊さも恐ろしさもわかって、
仕事をしておられることも、
知っています。


投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 10時02分

真砂 さん

わたしにとって「将棋」は、
未来を考える考え方の、師のような存在です。

「いま」から「明日」までのあいだしか
見ていないわたしですが、
一手一手が「いま」をつくり、
「明日」を、「未来」をつくるんだと
おしえられる思いがします。

投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 10時08分

佐々木広治 さん

赤面しておりまする。

いやいや、と思いなおしました。
「雨ニモマケズ……」と
調子のはずれた声で歌うどこかの賢治さん。
ああ、そのひとにわたしは似ているのね、と。

投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 10時12分

たまこ さん

いまのしあわせの87%は、
たまこさんの一所けん命と、
たまこさんの謙虚さ、
たまこさんのおもしろがりが
つくったものですね。

ほんとうにすごいや。

それをずーっと眺めてこられた
わたしのしあわせを噛みしめています。

佳い、うんと佳いお盆休みをね。

投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 10時15分

かえるのしっぽ さん

東京は、電車バス、図書館が
すいています!
愉快です。

高校野球をめぐる今朝の会話。
「もし、彼氏が高校野球に出場していたら、
どきどきするんだろうな。行かなくちゃね、応援に」(三女/高3)
「え、わたしはどうしたらいいの? わたしも行きたい。
泊まるのかな。ね、どうする?」(ふ)
「いや、日帰りでいいでしょ。
甲子園球場での応援は一度でいいよ」(三女)
「そっか。じゃ、まず切符を買って……と」(ふ)

やりとりを聞いていた夫が、
「はいはい、妄想はそこまでー。
ふたりとも手が止まってるよ」
と云いましたとさ。


投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 10時22分

ゆるりんりん さん

夏の甲子園球場に向かえるだけで、
しあわせだと思う。ね。
勝ち負けを超えたものをみつける場所ですもの。

そして……。
ゆるりんりんさんは、
佳き電車に乗っています。ね。
「魂の勝利」行き。


投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 10時26分

ふみこさん、みなさん
こんにちは。

今年は、夏休みに入る前から、肩にがちがちに力の入っていた私です。
というのも、娘の夏期講習があり、(4日行っては1日休み、の繰り返し)お弁当や、睡眠時間や、学校の宿題の時間の工面や、何より、お互い機嫌よく乗り越えられるかしらと、心配なことがたくさん。

気がついたら、毎日がとても規則正しいのです。
朝はお弁当を二つ(夫と娘)作りー一つ作るよりもむしろ気楽!
塾まで娘と歩く、または自転車ー荷物が重く、車を持たないので。。。朝の散歩は目が覚めます。
その他にも、短い時間でも気分転換する工夫(早めにお風呂に入るとか、梅サワーを飲むとか、晩ご飯をパンにするとか)や、早寝のために家事を貯金するとか、罪悪感なしで昼寝をするとか、やればできるじゃん、私、と。

なにより、娘が毎日機嫌良く過ごしていることに、とてもとても救われています。

投稿: cohata | 2015年8月12日 (水) 15時18分

cohata さん

拍手拍手。

そのお忙しさでも、
それを「夏休み」と位置づけていることが、
何よりすごい!

わたしたちは、
ほんとは「夏休み」に寄り添い、
いつもより神経をつかったり、
時間のくりまわしに苦心していたりするんです!

が、そんな暮らしも、じつは恩寵。
cohataさんのおたよりからそれが伝わって、
清清しい気持ちになりました。

ありがとう!ございます。

(機嫌のよさって、わたしには何よりの賜物。
自分のも、まわりのも、あらゆるひとびと、虫も花も、天候も!)

投稿: ふみ虫 | 2015年8月12日 (水) 16時29分

ふんちゃん

 私の実家にも、小さなブルーベリー木が3本くらいあります。
 毎年、子どもたちを愉しませたいと母が植えました。
 小さな木で、小さな実しかなりませんが、一粒一粒摘んでは食べるのは、本当に愉しく、幸せなひと時です。
 週末には、娘がそれをジャムにしました(^^)

 そうやって過ごす実家での時間は、なんと貴重な時間だろうとしみじみ感じていました。

 今年は、本当にいろいろなことがあります。
 今は、仕事で出会ったご家族が大変な時で、そのことで頭がいっぱいになってしまったりしています。

 家族仲良く、笑って暮らせるということが、どんなに幸せなことなのか…、
 かみしめる年になりました。
 

投稿: もも(^-^) | 2015年8月14日 (金) 05時40分

もも(^-^)さん

ブルーベリーの実は、何もかもすっかり
食べきれるところがすごいなあと
感心しています。
素直。働き者。
そしてかわいい。ね。

さて。
お仕事で出会われたということは、
ももちゃんが相談にのったり、アドバイスしたり。
つまり一緒に困って、
道を探る役目を果たされているのだと思います。
まず、その方方がももちゃんに出会えたこと、
よかったなあ、ほんとうによかったなあと
思っています。

ひとつ、ものすごく頓珍漢かもしれないことを
ここに、置いておきます。
弱い立場にあるひと、
悩んできたひと、
困り果ててきたひとのたくましさを
忘れてはいけないということです。
それなりの経験をしてきたひとのたくましさ、
強さを引きだすことが大事。
……というようなことを、昨年経験しました。
同情しかかった自分を恥じたんです。

ときどき、ぼんやり呑気にしてください。
こちらから呑気な風を送ります。
ふわーん。ぴゅーぴゅー。


投稿: ふみ虫 | 2015年8月14日 (金) 10時50分

ふんちゃん

 ありがとうございます(^^)

 ふわーん。ぴゅーぴゅー。

 届きました(^^♪
 
 そのくらいじゃなくっちゃ、ね? ですね。

 出会った小さな小さな友だちは、私の末息子と同じ歳。
 その小さな友だちが、家族と離れて暮らすことになったことを、私が受け止めきれないでいるのです。 
 どれほどさみしい、苦しい思いをしているだろう…と。

 仕方のないこと。
 私にはどうしようもないこと。
 わかっているのだけれど、小さな友だちを思うとしょんぼりしたりしてしまうのです。
 そのご家族、しばし、それぞれバラバラに暮らすことになっているのですが、
 今しばらく、仕方がないだけなのです。
 
 しょんぼりしても…

「ふわーん。ぴゅーぴゅー。」
 時々、風を感じます(^^)

 本当に、本当に、いつもありがとうございます。

 

投稿: もも(^-^) | 2015年8月14日 (金) 21時19分

ふんちゃん

 追伸:
  信じようと思います!
  小さな友だちが、少しでも周りの人を信じて安心していけるようになるということを(^^)

投稿: もも(^-^) | 2015年8月14日 (金) 21時21分

ふみこ様
8月△日・・・で綴られる夏の記憶。
暑い暑い夏の暮らしが見えてくる文章。
こういう感じ やっぱり好きだなぁと
思いながら 読ませていただいています。

主人の実家(浜の近くです)に帰ってきました。
かつて 加工場をしていた家なので 一階は作業場
2階が住居部分 3階は広い屋根裏。
3階は物置兼 物干し場になっています。
義母が 日除けに いろんなものに 古新聞をかけています。
10年前の新聞 3年前の新聞 1年前・・・
この新聞を読むのが 楽しいです。
そこで ふみこさんの文章に遭遇!
「ここで ふみこさんに会えるとは!!」と感激でした。

投稿: えぞももんが | 2015年8月16日 (日) 06時57分

もも(^-^)さん

仕方のない辛さ、
どうしようもない苦しさ、
そういう一時期を過ごすことになった男の子、
その家族。

いましばらくつづくであろうそうした経験を、
どうか尊いものにしてくださいと希う気持ちも大事。
過去にそのような経験をしたひとたちを(その経験)を
理解しようとする気持ちも大事。
希う気持ちと、理解しようとする気持ちは、
ひとを守りますもの。
希われつ者、希う者の双方を守りますもの。

ももちゃん、ありがとうね。


投稿: ふみ虫 | 2015年8月17日 (月) 10時15分

もも(^-^)さんの追伸へ

ほんとうですね。

わたしにも、そんな場面が
いっぱいあるんだと思うんです。
気がつかない分も含めて。

信じたいと思います。

そして……、
できれば、わたしの「信」を
そっと伝えたいです。

投稿: ふみ虫 | 2015年8月17日 (月) 10時17分

えぞももんが さん

ああ、わたしも、
浜の近くの広い広い3階の屋根裏に、
じっとしていたんだなと思ったら、
感動してしまいました。

こちら月曜日は、雨模様。
季節の節目の雨だろうと思います。
みどりが考え深そうに、濡れて、光っています。

投稿: ふみ虫 | 2015年8月17日 (月) 10時20分

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