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2016年3月22日 (火)

ソツギョウシキ・ニュウガクシキ

 2がはじまるころに、その風は吹きはじめる。


 胸のなかが波立ってくる。しようとすることになかなか気持ちをあつめられない、という状態になる。

 そうかと思うと、目の前に5個も6個も夏みかんをならべて、皮を剥いて果肉をとり出すことに熱中したりする。そんなときでもぼーっとしているのか、自分では一房も口に入れないうちに夏みかんの果肉の房は、消える。

 この時期、遠出はしない。

「遊びましょう」
 という誘いも、4月半ばまでは……ごにょごにょと口を濁して先延ばしにする。

 何がこうもわたしを波立たせるのか。

 問われても、これです、と答える術(すべ)を知らない。
 何とか口にのぼらせることがあるとすれば、「ソツギョウシキ ト ニュウガクシキ ガ オワルマデハ……」という呪文にも似たことばの連り。

 2012
11月、東京都武蔵野市の教育委員を拝命し、明けて2013年の卒業式と入学式のときには、このような波立ちは感じなかった。中学校卒業式、小学校卒業式、小学校入学式、中学校入学式と、それぞれ1回ずつ(全4回)役割を担う。卒業式の「告辞」(それにみずからのことばで祝辞を添える)と、入学式の「祝辞」を伝え、捧げるのが役割。初めてのときにはそれは緊張して、卒業式と入学式が近づくと眠りが浅くなった。いまから思うと、自分の役割を果たせるか、という一点において緊張し、おののいていたのだった。
「一応お伝えしておきますが」と云って教育部のU教育企画課長が手渡してくれたあんちょこを見ながら、登壇するたび8回の礼というのを、居間でぐるぐると練習したりした。

「ね、
Uさん、まちがえたらどうしよう」
「だいじょうぶです。まちがえても堂堂としていらしたらいいのです」

 当日、学校の体育館に赴(おもむ)くと、練習した礼の回数や諳(そら)んじていた祝辞などはどこかへ去ってしまい、目の前の階段を踏みはずさずに登って降りてこられたら、もうもう上出来、というほどの頼りない希(ねが)いだけが胸に宿った。

 つぎの年も、似たようなものだった。
 昨年(2015年)になると、それが変わった。もっともっと早い時期から胸が波立つようになったのだ。
 セレモニーとしての有り様(よう)には慣れたし、礼の回数にびくびくするようなことは、もはや、ない。時を経て中学校も小学校も、校長・副校長せんせいとも絆が深まったし、学校それぞれの持つムードのようなものも、察せられるようになった。その分、何でもなく当日を迎えられそうでもありながら、なぜ、こんなにも波立つ……?
 〈ソツギョウシキ〉と〈ニュウガクシキ〉の精霊がささやく声を聞き分ける耳を持ったのだろうか、わたしは。大袈裟が過ぎるようにも思われそうだし、賢者にでもなったつもりかと嗤(わら)われそうだが、畏(おそ)れが宿るようになったのは確かなようだった。
 大事な大事な宝ものである子どもたちの門出を思い、あたらしい出会いを祝福する役目が、こんなにもこころふるえるものであったなんて。

 〈ソツギョウシキ〉で「修める」
月。
 〈ニュウガクシキ〉で「ひらく」4月。

 こうしてやっと、〈ソツギョウシキ〉と〈ニュウガクシキ〉の精霊に揺さぶられるわたしに……、なった。

Photo

近所の友人のノゾミさんから
「植えてみて」と云って分けてもらった、
木いちごの苗。
3
年越しで、やっと花をつけました。
Photo_2

この花に、どれほど励まされていることか。
なんて、うつくしい……

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「日記」カテゴリの記事

コメント

ふみこ様

冬が春へと姿を変えるのは
何年生きていても毎年不思議です。
その神秘を感じる気持ちが
どんどん高まっていくようになりました。
ゆっくりとそれを味わいたい。
体は忙しくても
心はちゃんと見えないものも見えるものも
感じていたいと思います。

投稿: ゆるりんりん | 2016年3月22日 (火) 10時16分

ふんちゃん皆様こんにちは。

入学式がひと段落するまでもう少しですね。もしかしたら気持ちにいっぱいいっぱいになって潰されたりしまわないように祈っています。
もういっぱい!っていうような時は
ここに吐き出してみてください。

もし自分だったら何て言ってほしいかと思い書いてみました(^ ^)


さて、もう少しで新人が来るというのに
つまらないご迷惑をかけてしまい
自分に悔しいこの後。

悔しい!がんばりたい!という生々しいの気持ちを聞いてくれる先輩に感謝しながら、こんな先輩になりたいと思いながら今日もがんばります!

投稿: たまこ | 2016年3月22日 (火) 12時43分

ゆるりんりん さん

ああ、それなんだな、
とわからせていただきました。

その神秘を感じる気持ちが、
どんどん高まってゆく。

その神秘への畏敬の念が、つのる。

跳ねるような気持ちになりました。
ほんとうに、いつも、
ありがとうございます。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月22日 (火) 18時23分

たまこ さん

おやさしいおたよりを、
どうもありがとうございます。

もう、いまは〈いっぱい・いっぱい〉に
なることはないですが、
その方面に傾きかけたら、
「吐きだそう!」と云ってここへ駆けてきて、
吐きだします。

締めくくりのとき。
あたらしい扉のひらくとき。
……がやってきました。ね。


投稿: ふみ虫。 | 2016年3月22日 (火) 20時35分

ふみこさま、おはようございます

卒業式の季節にあるもの
卒業式の歌にあるものいいですね

涙で声にならない女の子の音と
男の子の力強い低音の重なりに
空気が震える感じ
感謝の気持ちをこの一瞬にとじこめようとする
子供たちの思い。親の思い。
見守る人々のいろいろな思いが
つくる特別な「とき」

そんな特別な揺らぎを感じるような
どこまでも空間がひろがっていくような
そんな「とき」は精霊さんのおかげだったのですね

ふみこさん、今日も卒業式ですか?
こちらも温かい気持ちで1日すごせそうです。

投稿: 真砂 | 2016年3月23日 (水) 08時16分

ふみこさま 皆さま こんばんは。

東京ではサクラが咲いたようですが、春はちょっと足踏みしてるのかしら?

今日の地元のTV局のプチ特集で「下宿屋さん」を取り上げていました。
大学生相手の下宿屋さん。6畳のお部屋に無料レンタルの家具、食事は朝夕2食24時間ご飯はOK。
「離れて暮らすお母さんのかわりの目と手になろうと。。。」「ここは通過点。卒業していく姿を見るのはホントにうれしいこと」などなど、大家さんの言葉がこころに残っています。(ちょっとウルっときました~涙もろくなる季節)

小学校では小学校ならではの、中学校でも、高校でも、大学などの学校でも、その時ならではの出会いと別れがあるんだなぁ。。。と毎年この時期になると思います。

来週はもう4月。
ピカピカの新年度が始まりますように♪

投稿: かえるのしっぽ | 2016年3月23日 (水) 19時30分

ふみ虫さま

桜が咲きはじめましたね。
入学式にはもう、葉桜かな

泣かずに笑顔だった
長女、長男の高校卒業式

涙、涙
担任の先生まで号泣された
次男の卒業式

どの卒業式も親として感謝で
いっぱいでした。

ふみこさんと勝手に出会った
新聞のコラム

卒業、おめでとうございます。

終わりは始まり。

投稿: 寧楽 | 2016年3月24日 (木) 11時40分

ふんちゃん、みなさま、こんにちは。


午前中こちらはわりと雪が降っていました。
市内で梅が咲きはじめたところもあるようですが、まだ目にしていません。
桜は来月後半くらいなようです。


ふんちゃん自身が卒業であり、入学なんですね。
ぼくもふんちゃんを知ったのは、毎日新聞の紙面ででした。
随筆ではなく、乃南アサさんとの対談で。そのころ、ふんちゃんのことを全く知らず、実は乃南アサさんの本も読んだことがなくおりました。
そして、新聞の随筆よりたぶんオレンジページのブログでたまたまみつけ、あ、そういえば乃南アサさんと対談されていた方だと気がつき、読んだのがきっかけとなりました。
オレンジページのブログがなければ、たぶん知ることがなかったろうなとおもいます。ふんちゃんの随筆の立ち位置が、ほんとに不思議なところにありますから。
ジャンル別けとしてはお料理本とか片付けもの、家庭エッセイとされるとおもいますが、かといって、これだと断定できなくもあり。それが良くもわるくも。
少なくとも、ブログがなければ、ぼくは読むことはなかったろうなとおもいます。
そのオレンジページも卒業されましたね。

自分のはなしをすると、去年から今年にかけて、卒業と入学がありました。
住む場所からかわり、生まれ故郷ではありますが、全く未知の場所になっています。
知人もいないに等しいですし。
とはいえ、いっそ清々しいような気もしています。
入学の新鮮な気持ちですね。
あまり緊張感はなく。緊張感ももった方がよいのかもしれませんが、やっぱり年をとると図太くなるので。

でも、それがなくとも、みんな毎日が入学で卒業ですよね。
赤毛のアンの台詞をふとおもいだしました。
「明日が まだ何ひとつ失敗をしない 新しい日だと思うと うれしくない?」

投稿: 佐々木広治 | 2016年3月24日 (木) 13時35分

真砂 さん

卒業式に連ならせていただくと、
感度が上がって、ビリビリッと
電気が流れる感覚になります。

歌もそうです。
ほんとうに。
ビリビリッ。
おひとりおひとりのお顔も。
ビリビリッ。

明日、小学校の卒業式です。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月24日 (木) 20時58分

かえるのしっぽ さん

いいおはなしを聞かせていただきました。
どうもありがとうございます。

そんな「下宿屋」の大家さんにはなれずとも、
若いひとたちに応援の気持ちを伝えられる
おばちゃんになりたいなあと、つくづく思います。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月24日 (木) 21時28分

寧楽 さん

ひとつとして同じ「卒業式」は
ないけれど、どの「卒業式」にも、
感動がありますね。

明日、当市小学校の卒業式ですが、
背中をふわっと押していただけた思いがします。
感謝します、ありがとうございます。

そして……毎日のこと、
卒業おめでとう!と云っていただいて、
とてもうれしかったです。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月24日 (木) 21時33分

佐々木広治 さん

近況を、清清しくお知らせいただき、
ありがたく思いました。
また、あたらしい境地、
「新・広治」について、ここへお伝えいただきたく。

広治さんとの縁をつくってくれたのも、
毎日新聞だったのですね。
そうだ、「新・ふみこ」にもご期待ください。
と、申し上げてみましょうかしら。

うふふの、ふ

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月24日 (木) 21時47分

ふみこさま。

こんにちは。

卒業式、入学式、で、ふみこさんからお言葉をもらえる子たちは、しあわせですね。式は、やはり気持ちがひきしまって、いいものです。
子どもたちの入学式と、卒業式を思い出しました。
親としてでる卒業式は、自分のときとはちがって、また一層感慨深かったような気がしています。

わたしは、今、花粉症で、春を感じています。
ぐすっ。

投稿: こぐま | 2016年3月25日 (金) 14時38分

ふんちゃん

 今年は、末息子が卒園しました。
 これで、自分のおなかからやってきてくれた子では、
 最後の卒園式になります。
 なんだか…、いつもにやにやへらへら~な末息子のせいか、 
 息子の顔を見るにつけ、笑ってしまった卒園式でした(^。^)
 式が始まる前から、大きくなった子どもたちを見て、
 涙があふれている先生たちを見て、私も涙がこぼれました。
 こうして、子どもたちは、いろんな大人に見守られて、
 愛されて、託されて、大きくなっていくんだなぁと
 しみじみ感じたのです。
 その温かさに涙がこぼれました。

 まだ具体的なことが決まっていない状態ですが、
 本当に里子ちゃんが来てくれることになったら、
 いろんなところへ一緒に行って、
 いろんな人に抱っこしてもらって、話しかけてもらおうと思っています。
 「マザーウォーター」のぽぷらくんみたいに…。

 春は変化の時なのだなぁと改めて思いました。
 いつも不調になりがちで、うまく春を迎えられないのですが、 
 変化に弱いからでもあるんだなぁ~と、 
 自分のことでちょっと発見です(^.^)

 ふんちゃんも、みなさまも、どうぞお大事にお過ごしくださいm(__)m

投稿: もも(^-^) | 2016年3月26日 (土) 07時30分

ふみこさま、おはようございます

昨日出かける時
こぶしの花に会いました

卒業式を一緒にお祝いしているような気分でした。
白い花はいろいろな気持ちによりそってくれますね

モクレンの花のみんな上に向かって咲くのも好きですが
こぶしの花のあちこち好きな方に全開して咲く姿
自分みたいで好きです
嬉しい気持ち秘められなくて。。
(何度もここにきたくなちゃって。。お許しください皆様)

あとこぶしの花のつけねに葉が一枚
何か秘めているようで知りたいです

ふみこさまの大こぶしさんも元気でしょうか
ふみこさんも新しい何かイースターの卵のように
隠し持ってうふふって知りたいです。

投稿: 真砂 | 2016年3月26日 (土) 07時49分

ふみこ様

今日は 北海道新幹線開業で テレビ、ラジオ 街が
賑やかです。

ここのところ 私の気持ちも落ち着かないのは
「ソツギョウシキ・ニュウガクシキ」のせいだと
しっかりわかっているのですが
あえて 気づかぬふりをしています。
5年と言う約束の仕事を 今月 主人は卒業します。
これから どうなるのか 方向は定まっていないのですが
 ただ 自分の気持ちに負けたくないと思っています。

ふみこさん、たくさんの ソツギョウシキ・ニュウガクシキを
してきましたね。
たくさんの エネルギーがいりますが
「これから どういう風に進もうか それを思うとワクワクする」
少しでも そう思えたら 良いなぁと
北海道新幹線が 開業した 今日 思います。
とりあえず 今日は 函館方面 いい天気でよかった!

投稿: えぞももんが | 2016年3月26日 (土) 15時43分

こぐま さん

同じ卒業式、入学式でも、
立場によって、味わいが異なるのですね。

この3月、浄らな卒業式を経験して、
〈涙に近いもの〉が満ちています。
式をつくり上げる、ひとりひとりの思いが
打ち寄せて。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月27日 (日) 22時39分

もも(^-^)さん

王子さまご卒園おめでとうございます。
卒園。
泣きじゃくるほど
泣いた記憶があるんです。
ありがたいのと、さびしいのとで。

子ども共ども育てられ、助けられ、
学んだという気持ちがつよかったし、
園で過ごす時間も長かったし。
何より、子どもがうんとうんと小さかったからでしょうか。

ももちゃん、
わたしも、春に弱いみたい。
生物として、ちょっと不調。
変化少なからぬこの春でもあります。
そろそろ、抜けだそうね。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月27日 (日) 22時44分

真砂 さん

こぶしも、木蓮も、
いいですね。

天に顔を向けて、健気。可憐。

見かけるたび立ち止まって、
思わず語りかけてしまいます。

桜も咲きはじめました。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月27日 (日) 22時47分

えぞももんが さん

だんな様のご卒業、
おめでとうございます。
この先の道も、祝福したい思いです。
お疲れさまでございました。

寄り添う身にも、
卒業の、入学の、門出の……、
複雑な思いがありますね。
さりげなくありたいと思いながらも、
つい、感情が波立つのを感じて、
びっくりしたり。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月27日 (日) 22時50分

ふみこさま

我が家の娘も先週の金曜日に無事卒業を迎えました。
とてもいいお式で、親の私も感激しました。来賓の皆さんにもしっかりと6年生の晴れ姿を見ていただいたと思います。

今はじわじわと寂しさが込み上げてくるのですが、新しい生活に期待して、今度は入学式を迎えたいと思います。

投稿: 焼き海苔の の | 2016年3月28日 (月) 17時44分

焼き海苔の の さん

の さん、
お嬢さんのご卒業おめでとうございます。
ああ、その場にいたかった……と、
思ってしまいました。

佳い卒業式になって、
ほんとうによかったです。
それは、卒業生たちの集大成でもあり、
支える大人たちの希いでもあり。
その上でやっとかなうものだという気がしてなりません。

おめでとうございます。

ご入学もね。
あたらしい日日に祝福を。

投稿: ふみ虫。 | 2016年3月29日 (火) 08時36分

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