トミーからの伝言
ことしもこの季節。
静岡県三島市三嶋大社お向かいにある「大社の杜(もり)」に出かけた。
ここで開催される「ブックフェス2018」に参加するために。
昨年は、長女の梓が営む「アズアズ書房」にくっついて物見遊山気分で出かけたのだが、ことしはわたしひとりだ。
「アズアズ書房」は移動古書店で、店主としては寅さん(映画「男はつらいよ」)のテキ屋稼業もイメージしている一方で、これはという文庫本をあつめているところは実直で、そこのところは「ちょっと寅さんとはちがうのだ」と考えているらしい。
袋に文庫本を入れて封をし、ならべる。つまり、どんな本が入っているかわからない。陽に透かしたって見えはしない。袋に書いてある「新しい空気に触れたい」「なつかしい日を思いだしたい」「勇気を出そう」ということばを手がかりに、お客となったひとはえいっとばかりに300円で買ってゆく。そう、一律ひと袋(1冊)300円だ。
そんな梓の師匠である富永浩通(とみなが・ひろゆき)さんのことを書かなければ。彼の屋号は「放浪書房」。旅の本を扱っている。旅関係の本をそろえているというだけでなく、全国を旅してまわりながら集める本そのものが旅をして「ここ」にあるわけだ。旅する本たち。本には値段といっしょに地名の書いてある札がはさんである。
誰も彼も富永さんを「トミー」「トミーさん」と呼ぶ。
この日わたしは、三嶋大社にもひっぱってもらい、コミュニティ活動の場たる「大社の杜」にもひっぱってもらい、ちょうど1年前に知り合ったひとたちにもひっぱってもらい……、家から2時間半かけて「ここ」へやってきた。
三嶋大社にお参りしてから「大社の杜」に赴いたのだが、鳥居を背に道を渡るとき、「大社の杜はほんとうにあるのか」という気持ちにさせられる。こんなところもわたしの気に入りの場所であることをあらわしている。
「大社の杜はほんとうにあるのか」
ありました。
「大社の杜」のスペースも、スタッフも、そうしてそうしてトミーさんも入口近くで「放浪書房」の店を開いている。
ブックフェス2日目の朝のことだ。
トミーさんが「ふみこさん、ふみこさん」と手招きをして云う。
「今朝ね、本たちも屋台も、やっと機嫌がなおりました」
「機嫌がなおったって、きのうはどうだったの?」
「きのうはいじけているというか、ひねくれているというか、まったくうまくゆかなかったんです」
トミーさんは笑っているが、その目は真剣で、ほっとしているようでもある。
「じつはここしばらく『放浪書房』を休んで、ほかの商いをしていたんです。そんなこともあって、ぎくしゃくして、きのうは本の動きがよくなかった……」
そんなやりとりののち、トミーさんの商いの様子を眺めるともなく眺めていると、風がぴゅーっと吹いてきた。「大社の杜」はその間口に比して、奥深い。そんなこともあって、風の通り道になるのだが、風は複数の三角形の旗をあしらった木製の装飾(ガーランド)を揺らしてカタカタッと鳴らす。まるでカスタネットのようだ。
「うれしいうれしい」
と鳴っている。
そう云えば……1日目であるきのうも風はあったが、ガーランドは鳴らなかったな。
「きのうはいじけて音も立てないでいたのね」
本の屋台を覗くお客さんたちとことばを交わす合間、トミーさんがおもしろいことをおしえてくれた。
動かない(売れない)本というのがあるそうだ。その様子ときたら自分はずっとここに居坐ると決心しているような佇まい。
「それを動かして、ならべ方を変えてやると、いきなり売れてしまったりするものなんですよ」
動かないときは動かす。
これがわたしの何と重なるか、いまはまだ明言できないが、たとえば自分ののなかの動こうとしないでいる何かを動かしてやることができるかもしれない……?
胸のなかでガーランドが音を立てた。カタカタカタッ。
「放浪書房」の屋台です。
トミーさん手づくりの屋台とガーランド、素敵です。
本を紹介するPOPも、読みものとしておもしろい。
今回わたしも、決心しました。
児童書を扱う「ふみ虫書房」を準備します。
本をあつめることを思うと、わくわくします。
どこかでお会いしましょう!
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コメント
ふみこさま。おはようございます。
おかえりなさーい。カタカタの音とどきましたー。
こちらもリハーサルの旅からかえりました。
企画もり込みすぎでオーバーヒートしそうだったこころが
今年もおおらかな助っ人指揮者&バイオリン弾きのおかげで
すっかりほどけました。
なんでしょう。この場にいるすべてのひとびとをまきこんで
しまうような笑顔。お互いを大切に大切に思っている空気が
広がってくる感じ。。この感じが私は大好きなんだーと気づく。
(あれっ。ことばでも音でもないじゃんね。。んー。
ふみこさんみたいにね。きっとこのかたの心の奥にある楽器が
聴こえない音を奏で始め包み込まれるからだと思うのね。。おそらく。)
おまけに彼は海外交流にも力を入れているから、本番には
海外の民族楽団もつれてくるという。手作り楽器でどんな音を
披露して下さるのかすごく楽しみなんですー。
だからもう部屋中に花アレンジしてゆっくりして臨もうと思います。
いつも支えてくれている洗面所とかトイレとか小さなコーナーとか
も。。結構これが楽しかったですー。
あーふみこさんの「ふみ虫書房」も楽しみ。楽しみです。
嬉しい朝のはじまり。はじまり。。ふふ。
投稿: 真砂 | 2018年4月24日 (火) 08時40分
ふみこさま
みなさま
おはようございます。
動かないで凝り固まっていた心をツンツンして
今朝はお邪魔させていただきました。
トミーさんのお話。
とてもとても参考になりました。
私の宝箱にもあてはまりそうで。
大社の杜の風は
千と千尋の神隠しに出てくる
あのトンネル?を通る風のよう。
大社の杜も、実は異世界なのかも。
そんな風に思ってしまうのは
三嶋大社からの神聖な風が
ピューっと流れてくるからでしょうか?
ふみ虫書房、楽しみにしていますね。
投稿: みぃ。 | 2018年4月24日 (火) 09時10分
ふみ虫さま、みなさま、こんにちは。
ふみ虫書房に、ぜひ加えてもらいたい(もちろん、書房代表者のおめがねにかなえばですが。)本があります。
本当に最近知って読んだ本で。
『顔のない男』という作品です。
母子家庭の、女性だらけのなかで、虐げられているというのはちょっと強いかな、そうともいえなくもないんですが、疎外感をもつ少年が主人公で、避暑地で知り合った顔のない男といわれる男性から勉強を教えられながら、愛を恐れず受け入れてゆくことを学ぶ物語。
セクシュアリティがどうこういわれるようですが、あまりそこは気にすることなく、問題にすることではない気はされます。
ふたりの関係が、マリラとアンをおもわせられました。ある種。
本当に顔のない男とは、そのせんせいではないとか、みずみずしく、あたたかく、きもちよく読め、胸がふるえました。
終わり方を悲しいととらえるむきもあるようですが、明るいしひろがりのある、言い方をかえれば可能性のひろがった清々しい閉め方で、とても好きです。
出会えてよかった本でした。
投稿: 佐々木広治 | 2018年4月24日 (火) 11時23分
ふみこさま。
こんにちは。
とっても素敵なお話ですね~。
ふみ虫書房さんに置いてもらえるような絵本を作りたいです。
「こうくんとゾウのくに」 今日、アマゾンで発売日でした。
イラストレーターの方とは、次の構想も練っています。
心はもう次の絵本へととんでいます!
来月は、朗読会もします。
どれだけの方がいらしてくれるかなぁ~。
ちょっぴり不安です。
では、またぁ。
投稿: こぐま | 2018年4月24日 (火) 13時30分
ふんちゃん皆様こんにちは。
あれからもう1年ですか早いですね。
梓さんのお話最近多いですね、ほっこり。
さて最近、前向きが板についてきた私。
よく義理姉や義母が息子に私達の面倒見てねーと言います
(冗談か本気かさておき笑笑)
前は面倒見させるために産んだんじゃない!と思うだけでしたが、今は
面倒かけあって助け合って仲良く暮らせってことね了解!
とたくましく捉えられるようになりました
投稿: たまこ | 2018年4月24日 (火) 14時24分
真砂 さん
花をアレンジして助けてもらうという
やり方、真似しよう……。
玄関には百合がいつも生けてありますが、
それは「浄化」みたいな感覚です。
もう少し、元気よく助けてもらおう……。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月24日 (火) 23時29分
みぃ。さん
おたよりありがとうございます。
三嶋大社の風は、とても不思議。
不思議で、だけどとてもたしかなものを
わたしに受けとらせてくれたような気がしています。
大感謝。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月24日 (火) 23時31分
佐々木広治 さん
ふみ虫書房。
基本的には古書店なのですが、
だからこその出合いにも期待しています。
どこかで、『顔のない男』が待ってくれている
ような気もされます(この表現、広治さんの真似。
とても好きなんです)。
どうもありがとう!ございます。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月24日 (火) 23時35分
こぐま さん
おめでとうございます。
本は、作家の元から離れて、
旅をはじめます。
その感覚が、好きです。
どこでそうしていることやら。
という感覚もあって、
そこからつぎの仕事がはじまります。
佳い旅を。
『こうくんとゾウのくに』さん!
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月24日 (火) 23時37分
たまこ さん
面倒かけ合って、仲よく。
これが人づきあいの土台なのだわ、
と気づかせていただきました。
たまこさんのたくましさのおかげで……!
ありがとうございます。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月24日 (火) 23時39分
ふんちゃん おはようございます。
放浪書房 トミーさん!
ちょうど 1年前 三島の後で松山にも来られました。
アンティークシールバイキング 楽しかったぁ。
シールを選ぶだけなのに あんなに 真剣になれるなんて。
大人になって 初めて。楽しかった。
風が吹いても 鳴らないガーランド。
動かないときは 動かす。
えいっとばかり 引いちゃった 貧乏くじ、1人ではないと思えば 勇気が出ます。
今年は 思い切って 動いちゃおう。
投稿: まきはや | 2018年4月25日 (水) 08時49分
三島大社の杜でのよき時を今も大切に心に残ってます。ありがとうございました。
ふみこさんの夏の装いも自然な語りもステキでした。
来年はトミーさんにコーヒーとおにぎりを差し入れしたいな。そして出会った美香ちゃんたちにもまた会いたいのです。三島大社の杜はふみ虫さんたちがつながって、つながって集まる……、ステキです。
投稿: ユリの木の花子 | 2018年4月25日 (水) 13時43分
ふみこさま。おはようございます。
おたよりありがとうございます。
ふふ。「もう少し元気に。。」ではっとしました。
「カタカタ」じゃなくて「カタカタッ」でしたね。失礼しました。ぺこり。
「ッ」には何かそこに流れ込んでくる気配を。。躍動感を感じます。
それでね。うちの花瓶たちなんですが。「カタカタッ」って。。
洗濯機の横の飾り棚の2段目。振動で動いてふれあったりすると
風鈴みたいな音をたてたりします。小さい花瓶たちです。
たまたまくっつけておいたからそうなったんだと思うんですが
なんだか楽しいです。種類と振動の仕方で音がかわります。へへ。
「最近ぼくかつやくしてないよー」なんていうのでせいぞろい
花をかざってみました。かたいつぼみがほどけていくような
やわらかな音と生命あるものが持つ力強い音をもらえそうだから。。
ではふみこさんへ。「カタカタッ」いい一日をです。
投稿: 真砂 | 2018年4月26日 (木) 08時09分
まきはや さん
そうでしたそうでした。
シール。
あれは「タイムアドベンチャーレコード」
というものだそうです。
つまり、アンティークの紙もの。
昨年、わたしも三島ではまって……、
興奮していたらまきはやさんも
はまって……、うれしかったのでした。
トミーさん、ことしはこれから九州だそうです。
まきはやさん、
動いて動いて!
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月26日 (木) 17時00分
ユリの木の花子 さん
決して近いとはいえないのに、
三島までいらしてくださり、
どうもありがとうございました。
宝もののようなひとときでした。
ほんとうにうれしかったです。
またお会いしましょう。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月26日 (木) 17時03分
真砂 さん
気持ちのいい音を
自然につくっているのですね。
……さすが。
うちには音の出るものは……。
無印良品の鳩時計。
(鳴かなくすることもできます)。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月26日 (木) 17時05分
ふみこさんの「ふみ虫書房」のことを想像するだけでも
わくわくします。
児童書はいいですよね。
私は小学校の図書室で出合った「大きな森の小さな家」(ローラーインガルス・ワイルダー、福音館書店)と、もう何十年ものお付き合いですが、ちっともあきないっばかりか、
ますます大好きになっています。
そして何人の人に勧めたか分からないくらい、この本を紹介しています。
本を読む面白さ、その幸せな気持ちを知ってるから、伝えたいんです。
「ふみ虫書房」誕生を楽しみに待ってます。
投稿: マドレーヌ | 2018年4月26日 (木) 18時24分
マドレーヌ さん
師匠からおたよりをいただいてしまいました。
……光栄です。
ゆっくり段ボール1箱分、
児童書をためてゆく。
ということになるかと思います。
たのしくなってきました。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月27日 (金) 09時54分
ふみこ様
放浪書房のガーランドがカスタネットのように
「うれしいうれしい」と鳴る
音が聞こえてきてような気がします
家の近くの小さな神社さん
前を通るとき お参りします
境内には絵馬がかかっていて 風が吹くとカラカラと
音を立てます
お願いごとに手を合わせた時
カラカラカラ・・・となると
「わかったよ」と返事をしていただいたような
気持ちになります
風の音には そんな時がありますね
ふみこさん 「ふみ虫書房」!しかも扱うのは児童書!!
あ・あ・・楽しみです
どんな本が並ぶのだろう
お会いできるのを 心底 楽しみにしています。
投稿: えぞももんが | 2018年4月29日 (日) 15時27分
えぞももんが さん
絵馬がカラカラ、カラカラ。
ほんとうに、「わかったよ」と
云ってもらったような。
ねがいごとは、ねがいごととしても、
お参りするひとの内面は、
〈わかられている〉ような気がします。
カラカラはだから、
あなたを知っている、という音なのかも
しれませんね。
このたび三島で過ごすなかで、
児童書!とひらめいて跳び上がりました。
大人にこそ児童書を、と思って、
書いたり伝えたりしてきたつもりなのですが、
ちっちゃな屋台でそれを伝えるというのは、
直接的でわかりやすい!と思ったんです。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2018年4月30日 (月) 11時23分