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2018年11月13日 (火)

夢のような日常

 ある日、仕事で講演会に出かけたときのこと。
 椅子に腰を下ろすや、1匹のハエがやってきて、わたしにまとわりついた。虫がきらいでないわたしは、ハエにまとわりつかれることもわずらわしくはないのだが、100人くらいのひとがおとなしく坐っているなかでは、そうもいかない。

「あとで遊んだげるからさ」


 と、身をよじる。

 その気持ちが通じたのだか、ハエはわたしのグレーのパンツの上に自分も腰掛ける風情でとまると、それきり動かなくなった。しかし「これからの教育課題への対応について」というはなしは、ハエには退屈だったらしく、たちまち集中力を切らして、もぞもぞ動きまわりはじめた。

「いま聞いている『人材育成』のおはなしの、『人』のところをハエに置き換えて聞いていなさいよ」


 ハエはふんとばかりに、わたしのもとを離れ、飛んだ。

 見れば、講師が操作しているパワーポイントの画面に、くっきりとその飛行のシルエットが映し出されている。そうしてふたたびわたしのもとに戻って、とうとう部屋を退出するまで、それはつづいたのである。

「きょうはハエにずーっとまとわりつかれていてさ……」


 帰宅し、仕事をしていた長女に報告する。


「それ吉兆よ」


 思いがけないことばだ。

 ハエに好かれるのは、不潔だからじゃないかとからかわれるのにちがいないと思っていたから、おおいにうれしくもある。
 なんでも、ハエは「これからいいことがありますよ。変化のときが迫っていますよ」と伝えにきているというのだ。こういうとき、わたしは「何故か」とは訊かない。訊いても詮無い類(たぐい)のはなしだし、こんなときには、単純にうれしがるにとどめるのがいいからだ。

 そう云えば、ハエの前はカエルだった。

 うちの庭にずっと棲みついているガマガエルに久しぶりに逢ったのだ。夕方庭に出たところ、カエルがこちらをふり返り、わたしを見上げた。

「久しぶり。よかった。引越ししたかと思った……」

「ココニ スンドル」

 引越しと云ったのはほんとうではなく、いつだったか近所の塀の上を走り去るハクビシンを目撃し、うちのカエルをどうかしなければいいが、と咄嗟(とっさ)に考えた。走り去ってゆきながら、ハクビシンがにっと歯を剝いて歯を剥(む)いたものだから、そんなことが浮かんだ。


 つい昨日のことだ。

 やたらと登場人物の多い、忙しない夢を見た。大勢で洪水から街を守る、というスペクタクルな夢。友人知人が一堂に会するなんてことはまずないし、知った顔がゴチャ混ぜになって働くなんてことは、もっと考えにくいから、目覚めたときには、ちょっとくたびれていた。
 夢のなかではこのひとにあのひとを紹介し、AさんにBさんは会わせないでおこうなどという手管はいらないにしても、だ。
 夢ってのは夢だなあ、とつくづく感じ入りながら、ふと、日常も夢の一部であるように思えてきた。不思議なことがたくさん起こり、気がつかないだけでそれはたぶん、もっともっと起きている。
 気がつかないという意味においては、気がつかないうちにどんどん恐ろしい事態が進行しているようでもある。ヒトが我が物顔でのさばってきたために進行する自然破壊や、権利を主張し過ぎたために生じる争いの火種も、そのうちだ。
 たとえばこのところわたしの前にあらわれたハエやガマガエル(ハクビシンも)は、欲望を満たそうとしてばかりいると、日常が夢と消える、と告げたかったのかもしれない。不足を感じるや、すぐとそれを満たそうとするこころを、戒められているのではなかったか。
 火点し頃、そんなことを考えながら、買いものに出る。
 また誰か、動物や虫に逢いわしないだろうかと期待しつつ、裏道をてくてくゆくと、何か落ちているのをみつけた。
 小銭入れ。
 拾ってみるとずっしりと重く、なかは見ないが、うつくしいかたち。革製。茶色。これを失った誰かさんは、嘆いていることだろう。
 急いで交番に届ける。
 交番は無人の時間帯だったらしく電話機が留守を守っていた。受話器を持ち上げると、駅前の交番に通じており、「いまから10分ほどで、そこへ向かいますから、待っていてください」とのこと。待っていると、5分後、おまわりさんがやってきて、こちらに敬礼。
 子犬のような目をしたやさしいおまわりさんだった。

Photo

友だちが分けてくれたのらぼう菜。
芽が出て、こんなです。
間引きながら育てます。
夢のような日常。

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「日記」カテゴリの記事

コメント

大野 さん

えらい王子様です。
もう、学校にもどられて。
でも、「えらい」は休んで、
「すこやか」でいてほしい、いまは。

この広場には王子のファンがいっぱいいて、
みんなが祈っているんです。
(先日も、友人がわたしにそう云ってくれていました。
いただいた手紙にも、王子のことがありました。
こういう気持ちは、きっと王子様を守ってくれます)。

そうして、
帰り道、「チキン弁当」にときめいている
大野さんを想って、ちょっぴり泣きました。


投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 19時42分

えぞももんが さん

えええ!

そうだったか。
では、そろそろ、
またえぞももんがさんのお宅に戻るかもしれません。

何かを告げたくてきているのだけは、
たしかです。
ああ、わたしもえぞももんがさんへの
メッセージを託せばよかった……。

(託さなくても、いつもわかっているような、
わかっていただいているような気がしていますが)。

いつもやさしいことば、
浄らな気配をありがとうございます。


投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 19時36分

のりこ さん

2日遅れで申します。

お誕生日おめでとうございます。

お父さまお母さまが、祝ってくださって。
小虫さんたちは、橋を渡って「あちら」に行った大事なひと、
遠くで のりこ さんを想っているひとからの
連絡かもしれませんね。

わたしも自分の誕生日には、
「あちら」から両親が「おめでとう」と
云ってくれている声を、
聞きとりたいと思います。

佳い1年を、どうか。

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 19時31分

ふみこさん
皆さま

次男が 学校に戻りました。昨日 送って行きました。また 元気がなくなっても、それでもいいと思えます。
こちらで 沢山のメッセージをもらったから、私は冷静でいられました。ありがとうございます!

帰りの新幹線で おきょうさんの 書いてらした、チキン弁当を食べたいと思ったのですが、見つけられず…
チキン弁当って どんなだろうと考えていたら、隣の席の女の子が 袋から取り出したのが チキン弁当でした!
食べた気分で、嬉しくなりました!

投稿: 大野 | 2018年11月19日 (月) 12時39分

おきょうさん さん

涙に近い旅をされて、
戻られたと思います。

涙って……、大事。

これまでおきょうさんさんは、
涙を流さずきたように思ったので、
ふと、そんなことを思わされたのでした。

旅先からのおたより、
どうもありがとうございます。

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 11時00分

あすちるべ さん

経済第一という視点を
わたしも持ったことがありません。

だからだめなんだ、と
云われたらそれまでなのですが。

だからだめでも、
経済を自分の柱にはしたくありません。
で、経済経済って思わないほうが
経済的なこともうまくゆくという実感も
持っています。

これはわたしの
ちっちゃな暮らしの経済のはなしですが、
世界の経済も一歩引くということで、
成り立ってゆく一面があるはず。


投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 10時57分

もも(^_^)さん

このごろ、
過不足なく……とか、
過剰にならぬように……とか。

そんなことを考えている自分に
気がつきます。
とくに、感情があふれ出るような場面。

悲しみ過ぎないように。
苦しみ過ぎないように。

よろこびは……。
これもまた過剰になると、
いけないのかもしれないと考えたりしています。

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 10時52分

真砂 さん

想像力を、
ひとのために、
未知の世界を理解することのために、
使えるといいなあ。
と、いつも思いながら……。
(遊んでばかりいるわたしです)。

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月19日 (月) 10時40分

ふみこ様

ふみこさん!まとわりついていたそのハエは
「ハエ美」と名乗っていませんでしたか?
立冬のころ 一匹のハエが 家の中に入ってきました。
寒空の中 追い払うのも 忍びなく 家の中にいることを
許可しました。名前はハエ美。
数日 元気に飛び回っていたのですが
いつの間にか姿を消したのです・・・。

ふみこさん
「欲望を満たそうとしてばかりいると、
日常が夢と消える、と告げたかったのかもしれない」
この言葉は ハッとします
9月の地震の後から
次の季節のことが なかなか想像できないなぁと
感じています

夢のような日常なんだよ ですね

追伸・・・・・それぞれの人が
少しずつ 少しずつ 元気になってきた
嬉しいです!
 

投稿: えぞももんが | 2018年11月18日 (日) 15時08分

山本ふみこさま

こんにちはー!
今日は私の誕生日です。
今朝母がお赤飯を炊いてくれて、父は「何かほしいものはあるか?」と聞いてくれました。
この歳になっても“子”でいられることの幸せ。

それともうひとつ。
朝からコバエのような小虫ちゃんがずっと私についてきていて、一度外に出してあげたのに、買い物から帰ったらまた出迎えてくれました。
つくづくありがたい日に思えます。

皆さまも素敵な日でありますように。
いつもありがとうございます。

投稿: のりこ | 2018年11月17日 (土) 13時52分

ふみさま。みなさま。
新幹線こだまの中から板切れにて発信しています。

心配していたお天気は傘マークが消えて、先ほどはきれいな富士山がみえました!

弟が大好きだったチキン弁当を東京駅で買い求めたらふく食べたところです。
またすこし思い出がよみがえりすこし塩味きいてましたが、おいしかったです。
ぷらっとこだまではチケットに1ドリンク券がついてくるので迷わずプレミアムモルツを。 笑笑。
献杯?いえ乾杯ですね。乾杯乾杯。

こんな贅沢な旅は本当にめったにできないのでたくさん見てたくさん飲み食いしてたくさん祈ってきます。

今日は京都を半日ぷらり。
明日奈良の長谷寺をゆっくり回る予定です。
あすちるべさんありがとうございました。
\(^_^)/
お教えどおり、手持ちのスニーカーでいちばん歩きやすいものにしました。

みなさまもゆっくり楽しい週末をすごされますように。


投稿: おきょうさん | 2018年11月17日 (土) 12時21分

ふみこさま こんにちは

日暮れが早くなってきました。あたたかいものがいろいろ恋しい季節ですね。今日はネックウォーマーと腹巻を身に着けてしまいました。

ニュースを見ていて、経済第一みたいなことが流れるとホントにそうかな~?と思ってしまいます。日常を大事にしてのいろいろだと思うのですが、考えが足りない考え方かもしれませんが…。
そういうことをいろいろな不思議が教えてくれているのかもしれないなと思いました。
この間、家にハエが迷い込んだ時、夫とハハは「おとーさん!」と言ってました。ちょこまか飛んでいるところでそう思ったそうです。「元気に仲良く暮らしてるかぁ?」と見に来てくれたのかもしれません。しばらく網戸にとまっていたので外に出してやりました。

おきょうさん さん
明日、奈良に来られるのですね。
長谷寺の駅は山の中腹にあって一度下って、長谷寺は別の山の中腹にあたります。舗装はされていますが、歩ける靴で行かれることをお勧めします。お気をつけていらしてくださいね。奈良は少し寒いです。

投稿: あすちるべ | 2018年11月16日 (金) 17時30分

ふんちゃん
 
 コンポスト!!
 コンポストだったのですね〜!
 なんておしゃれな、コンポスト。
 いいな〜。
 と、思って、札幌でも助成制度はあるのか…と調べてみたら、 
 ありました。
 ちょっと考えてみようかと思っています(^^)

 日常は、夢のようでもある
 というのは、
 今回の娘や地震のおかげで、思うようになりました。
 毎日、変らぬ日常というものは、
 本当に夢のようでもあるんだなぁ…と思えます。
 だからこそ、だいじに、だいじに…と思えたりして。
 この気持ちは、忘れずにいたいなぁと思います。

 毎日、娘がバスに乗るまで見送っていたのですが、
 今日は、笑顔で「今日は、いいですから!」と、
 にっこり1人で出かけて行きました。
 娘についてきてくれと言われて行っていたわけではないのですが、
 笑顔で断られたこと。
 嬉しかったです。
 入院治療となるかどうか、まだ分かりませんが、
 少しずつ…「日常」が戻ってきています。
 ありがたいです。

 明日は、3番目ちゃんの音楽同好会の演奏会です。
 大きくて、プロの方たちが使う会場で、毎年、
 市内の小中学生が演奏会をするのです。
 今年は、とても仕上がりがよく、愉しみです。
 さ〜、たくさん涙を流してくるぞ〜!(^^)

投稿: もも(^_^) | 2018年11月16日 (金) 15時09分

ふみこさま。みなさま。

すみませーん。
今朝ガイコツがでてくる夢みてこれよみなおしてみたら。。
展示のパンフレットをみたのが旅行まえで
君たち骸骨くんたちをみたのはかえってきてからでしたー。

もういつもいいかげんすぎてすみませーん。
でもさ。パンフレットをみてすぐ想像の世界であそべるって
いいことですよね。←いいわけ。ふふ。

Hola!(こんにちは)ってふみこさんのところにも
骸骨くんあそびにいくかもですー。
↑(はやくうーあそびにきてーって)

朝から大変失礼しました。想像力は宝なり。ふふ。
いい一日をですー。

投稿: 真砂 | 2018年11月15日 (木) 08時55分

真砂 さん

お知らせ、かたじけのうございます。

三軒茶屋生活工房
「人はあそぶーーメキシコ民芸玩具展」。

行けるかな、行けるかな。

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月14日 (水) 22時10分

ふみこさま。


おたよりありがとうございます。
のんきにお墓の話書きましたが。。。

ちょっと紹介させてください。
三軒茶屋生活工房にて「人はあそぶ―メキシコ民芸玩具展」
メキシコでの死者の日ー死と戯れるという死生観
近しい死者の魂だけでなくすべての魂をおもって
ゆっくり過ごすというのを大切にする日っていいなと思って
のんきなこと書きました。

その展示をみてから宮津にいったので
よけいに何もせずゆっくり過ごそう。。予期せぬもの
の訪れを楽しみたいと思っていたのがよかったのかもしれません。
いつもよくわからないことばかり書いてすみません。
この展示は12月9日までですー。

ふみこさーん。12月年末にやる第九の会場もあいてないはず
だったのにふっと取れたらしくて。。その日第九初演の本をかかれた
横田さんの命日近くなので。。。ふふ。お祭りみたいに楽しむと決めたら
続々と助けて下さる人でいまいっぱいです。感謝なり。

ではふみこさん。みなさん。夢みたいな一日楽しめますように。

投稿: 真砂 | 2018年11月14日 (水) 09時34分

たまこ さん

できるじゃん、たまこちゃん。
がんばるじゃん、たまこちゃん。

やさしくて、
思いが深いね、たまこちゃん。

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月13日 (火) 23時14分

ふんちゃん皆様こんにちは。

なにかのお告げしかもいい前触れなんて
長女様さすがふんちゃんの娘。
おもしろがる心を持っていますね。


さて、先月よりまた少しできるようになりました。
といってもまだまだ6割くらいかなーというところ。

仕事を教えてくださる先輩が
できるじゃん、たまこちゃん!と褒めてくれます。

できてないと思いつつできてるんだな、と嬉しく
こんなお母さんになりたいな、と思いました。

投稿: たまこ | 2018年11月13日 (火) 21時33分

真砂 さん

登場には、やっぱり意味があるんですね。

イチョウくんをね、やさしいしごと!

投稿: ふみ虫。 | 2018年11月13日 (火) 09時44分

ふみこさま。おはようございます。

ふふ。「吉兆」いいことききました。
旅行中もトンボや部屋に次々に現れた虫との出会いに
3にんでふふっておもっていたんです。

主人も「去年は2たりできてくれたけど、今年は娘もいたから
ご先祖様たちもお祭り状態なんじゃないの。。」なんて。。
私も海が見えるお墓。目の前を走る丹後鉄道。ここにはいるのもいいなあ
なんてのんきなこと考えておかしくなる。

そして。。
「みずとはなんじゃ」の絵本の最終ページ。海のまえにならぶ
たくさんの生き物(うしろのほうにちいさなちいさなだるまちゃん
コックのからすくんたち。。)かこさんとすずきまもるさんの合作。
生命へのあつい思いに感動です。こっそりまさかりどんくんも
かきいれたいきぶんですー。

ではふみこさんいい一日をおすごしくださいね。

(そういえばうちのイチョウくん成長止まったので先日お母さんイチョウの近くに
こっそりうえてきましたー。)

投稿: 真砂 | 2018年11月13日 (火) 09時16分

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