インフォメーション・テクノロジー
かつては、外来語、カタカナをできるだけ使わずに原稿を書いていた。ひとつの試みとして、そうしていたのだ。
書いてゆくなかで、さて、このことば、どう表記するか、と立ち止まるとき、「カタカナでなく……」と決めておくと迷いがないというのが、いい。
もちろん、好きな日本語のことばが使われなくなってゆくことへの抵抗もあった。
ま、なんとなく……だ。
けれど、近年、そうも云っていられなくなってきている。
わたしの書くもののなかにも外来語が増え、カタカナがラインダンスをはじめる場面さえ登場するようになった。
だがそれでも。
「インフォメーション・テクノロジー」なんて題をつけて、何か書こうとするのは初めてだ。いま、これについて書いておかなくては、という気持ちになっている。
先週火曜日の午前中のことだ。
早起きしてブログの原稿を書いて、更新しようとしたら、「メンテナンスのため、更新は午後1時になります」という案内があった。前もってこの情報をつかんで前日に更新する方法もあったのに「ゴメンナサイ」と思った。読者に対する「ゴメンナサイ」である一方、早起きして締切を守ろうとした自分に対しても、挨拶したい気分だった。
「ゴメンネ」
ところが。
午後1時になってもブログは更新されない。ああ、こうなると、わたしに何か起きたのではないかと心配してくださる読者もあろうかと、気が揉める。病に倒れた、とか。何かにぶつかって怪我をした、とか。この日は結局更新ならず。あらあら、と思いながら休む。
ブログが更新されたのは、2日後だった。
ゆき暮れた気持ちになりかかったが、ブログを毎週火曜日に発信するようになってまる12年、こんな不具合は初めて、ということがそも、不思議だと思える。
書き下ろしを頼まれて、「はいはい」と返事したものの、少しも書こうとしないわたしに業を煮やした編集者が、「ブログを書いて、原稿をためましょう」と提案してくれたのがはじまりだった。「ブログって何?」といぶかりながら書いては、1週間に一度更新してもらっていた。その後出版社から独立するかたちになってからもつづけて、12年。わたしにすれば、驚くべき歳月だ。
この12年のあいだに、紙の出版は、ネットの出版に押されてきたし、その世界はどんどん、どんどん、ひろがってゆくようだ。こうして、いつのまにかインフォメーション・テクノロジー(情報技術/IT)の一端にぶらさがるわたしになっていたのである。
このたびの不具合は、そんなわたしにちらりと未来を見せたのだ。
きっと、これからも不具合や事故の類(たぐい)はそこここで起きるだろう。
わたしはなぜか、子どものころ、洗濯機の側面についたゴム製のローラーに洗濯ものをはさんで絞る手伝いをしたときのことも思いだしていた。
自動で洗濯ができる機械も不思議だったが、それでも、その仕組みは、なんとなくふみこちゃんの小さな胸におさまっていたのだ。
一方、電話やテレビはぜんぜんわからなかった。
遠くのおばあちゃんと話ができるのはうれしかったし、「マグマ大使」「巨人の星」「ドリフだよ全員集合」を喰い入るように観ていたが、どのようにしてそれがかなうのか、尋ねられたとしても何も答えられなかった。
誰もわたしには訊かなかったが。
そこから、つぎつぎに展開した「自動」の世界は、わたしを不安にさせるのだった。自動ばかりの世界になったら、いつか、自分は置いてけぼりにされる!
それから何年もたって、おばちゃんになったふみこは、「置いてけぼり」もわるくない!と豪語するようになった。
つづく
わたしが壊した木の匙と、
よく似た匙が届きました。
ありがたいことです。
IT不具合のなか、このやりとりができたことに
救われてもいました。
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