置かれる
昨秋あたりから、運が開けた。
おかげで仕事もしごと(職業と区別して家のことをひらがなで書くようにしている)も、人間関係も、万事調子がいい。
と、書いてみたが、ちがうちがう。わたしに開けた運は……。
ひとと会ったとき、相手が「そう云えば」とふと思いついたような顔になり、ハンドバッグや提げ袋に手を入れてごそごそ探しはじめる。よくあることだ。何かわたしにくれようとしている。
友人が、「これ。北海道から届いたの。おすそ分け」と云ってエコバッグのなかからそれをとり出す。
叔母を訪ねた帰り、叔母が「持っていってちょうだいね」と追いかけてきてわたしの腕にそれを押しつける。
近所の友人が「これ、好きだったわよね」と云って、自転車のかごのなかからそれを出して手渡す。
友だちと3人で会っていた喫茶店で、ひとりが提げ袋のなかからそれを出して、テーブルの上に置く。もうひとりが「ごめんなさい。わたしはこれは苦手。ふんちゃんにふたつあげてね」と云うから、わたしの前にそれがふたつ置かれた。
わたしに開けている運は、とろろ昆布運である。
もうもう、強運と云っていいほどの開け様(よう)だ。
乾物をしまう引き出しには、とろろ昆布の袋がぎゅう、と詰まっている。どんどん使おうと思うのだけれども、すまし汁、おみおつけの実とするほか、おむすびに巻きつけるくらいしか思いつかない。強運を活かしきれずに、とろろ昆布はふえてゆく一方だ。
とろろ昆布の思い出について、書いておきたい。
母ははっきりと口にはしなかったけれども、ネバネバ、ドロドロする類の食べものを好きでなかった。子どもにだって、見ていればそのくらいは、わかる。納豆を食べる母、オクラを食べる母、とろろご飯を食べる母を、わたしは一度も見なかった。
それでも母は、弟とわたしにはせっせと納豆、オクラ、とろろを食べさせてくれた。自分は苦手であっても、からだにいい食品であるのだし、食卓風景が偏ることも選ばなかった。おかげで、わたしはネバネバ、ドロドロしたものが好きになった。
だが。
とろろ昆布は母のもとでは食べなかった。出合ったのは、自分が主婦になってからだった。おいしそうに思え、自分の好みに合っているという予感を持った。それにしても、どうやって食べたらいいのだろうか。
出会いはこんなふうだった。
おそるおそる食べたとろろ昆布はおいしく、自分に合っているという予感も当たっていた。それから、というのは初めてとろろ昆布を食べてから、という意味だが、3年くらいたったころ、わたしはめずらしく胃腸をやられる風邪をひいた。何か食べようと思って、椀にとろろ昆布を入れ、梅干しをひとつ置いて湯を注いだ。そこへしょうゆをたらしたのを、すすった。食欲はなかったが、これならいけそうだと思ったからだった。
ところが弱った胃はそれさえも受け入れなかった。拒否である。
以来ざっと10年ほども、とろろ昆布とわたしは疎遠になった。その歳月のなか、ときどき、またとろろ昆布と出合い直す日がくるのだろうか、どうだろうかと思いめぐらすことだってあったのだ。
それはやっとめぐってきた。
そのときも友だちのひとりが、わたしにとろろ昆布を持たせてくれ、おずおずと食してみた。疎遠はあっさり解消し、いまに至っている。
それにしても。
このところのとろろ昆布運には、どんな意味が潜んでいるのか。どんなものでも、自分の前に置かれたものは受けとめよう、ということの連続で、わたしはここまでやってきた。こう記すと、受け身の姿勢があらわになるようだが、わたしにしてみれば、「置かれる」ことで自らの能動が作用しはじめる感覚だ。
ああ、このたびはこれが置かれたか。
そう思って、うしろに飛びのきそうになることも一度や二度ではなかったが、そんなときも及び腰ながら、何とかかんとか受けとめてきた。だからこのところ目の前に連続的に置かれつづけているとろろ昆布にも、目を凝らさずにはいられない。
まずは。
汁ものたちの実と、おむすびに巻きつける以外に、どんな食べ方があるかを研究するとしよう。
聞いてください。
この写真を撮った後、
仕事の打ち合わせに出かけました。
すると……どうでしょう。
打ち合わせの相手から、
富山県の上等なるとろろ昆布2袋を
いただきました。
「根昆布入りとろろ昆布」
「上黒とろろ」
とろろ昆布運、最強です!
〈お知らせ〉
昨年12月にトーク講座をご一緒した
医師で歌手でもある
海原純子さんライブのお知らせです。
あの日、会場でライブの予定をご案内すると
約束しましたので……、ここに。
山本ふみこ宛て、
または添付のフライヤーにある番号まで
お申しこみください。
満員になり次第締め切られますが、
その場合は、またつぎの機会に。
4月6日はわたしも客席に坐っております。
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コメント
ふみこさま。おはようございます。
ふふ。昆布運。きっと「よろこび」あふれる運では
ないでしょうか。
「喜びの歌」演奏した時も昆布巻きつくってからいいことばかり
でしたから。あの時もふみこさんのおかげと思ってました。
置かれるでは4年くらいまえにかいてくださった若松英輔さんの本
「現代の超克」も気になっていたら大好きな神保町のお店で向こうから
どうぞーなんていうかんじで出会えて。。感謝です。
そして先日追悼音楽会で人数たりないからお手伝いさせてもらった
モーツアルトの戴冠ミサ曲。通常のミサ曲と違い壮大で喜びあるれる
感じで最後の「平和の賛歌」のところではここにいることがうれしくて
今もその音楽がこころのなかでずっとなっています。モーツアルトがかいたはずなのにわたしには沖縄音階のように聞こえてなつかしいかんじの
何かに包まれてます。最初は「えーミサ曲。なんだかねえ。音細かいし。。」なんて思ってたのに。。置かれたものに感謝感謝の一日
になりました。
ではふみこさん。皆さん。いい一日になりますように。
ももさんへ(ちょっとおかりしますね。)
本よりもきっと看護師さんとの新たな大切な何かがまっているとは
おもいましたが。。ももさんは大切な方なのでちょっと書きますね。
娘中学生のとき中沢けいさんの「うさぎとトランペット」や三田
誠広さんの「いちご同盟」に夢中になっていたようです。自分も
中沢けいさんすきなので公開講座があると一緒に学生気分でもぐりこんだり。。
ももさんのおかげで懐かしく思い出させてもらいました。どうぞ
ももさんもゆっくりできる時間が少しでもありますように祈ってますね。
投稿: 真砂 | 2019年3月12日 (火) 08時45分
ふんちゃん皆様こんにちは。
とろろ昆布運いいですねー。
ほっこり人とを繋ぐ運みたいですね。
最近坊やが顔中でいっぱいに笑うんです。
手を繋いでお散歩してる時も見上げて笑ってくれて。
それだけでまた頑張ろうと思います。
投稿: たまこ | 2019年3月12日 (火) 22時37分
ふみこさま、皆様おはようございます。
とろろ昆布は温かいうどんやお蕎麦に入れて、麺と絡めて食べるのが好きです。
同じ食材を色んな人から頂いて、食べきれずに、、、
勿体無い事になる失敗をよくします。
私の勝手な解釈ですが、ふみこさまのように面白がり、お祭り気分で、色んな食べ方を
楽しみたいです。
今日の夫のお昼のお握りにはとろろ昆布巻き巻きしました。
投稿: みっこ | 2019年3月13日 (水) 09時32分
真砂 さん
『現代の超克』(若松英輔/ミシマ社)が
古書店の棚の上からてまねきしている「運」は、
見事ですね。
いまでも、『現代の超克』を支えに
ものを考えたり、仕事のイメージづくりにヒントを得たり
しているわたしです。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月13日 (水) 12時31分
ふみこさま
こんにちは。
富山出身の母にそだてられた私は、とろろ昆布
が大好きです。
鰯にクルリととろろ昆布を巻き、梅干しと煮ると美味しいです。昆布から出しがでます。これは京都に住む先生から教わりました。
あと、お弁当のおかずの下に敷くと、余分な水分を吸ってくれます。例えば高野豆腐の下なんかに、昆布も美味しく食べられます。
投稿: うさぎ | 2019年3月13日 (水) 19時23分
たまこ さん
坊やちゃんと、手をつないでお散歩。
そんなことができるようになるなんて……。
奇跡の連続ですね、日常が。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月14日 (木) 10時50分
みっこ さん
たくさんいただいたときには、
お福分け。
と、考えますが、
このたびのとろろ昆布だけばかりは、
あまりたびたびいただくもので、
お福分けの手も止まりました。
しあわせの呆然。
呆然としていないで、
おいしくどっさり食べようと思います。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月14日 (木) 10時53分
うさぎ さん
こんにちは。
おおお、なんと素敵。
鰯にとろろ昆布を巻くなんて……。
きょうは帰りに鰯を買おう。
どうもありがとうございます。
それから。
お弁当のおかずの下に!
そうか、そういう発想ですね。
これで、使い途がひろがります。
重ね重ね
ありがとうございました。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月14日 (木) 10時56分
ふんちゃん、みなさま
いろいろな本をおしえてくださって、
ありがとうございます!
さっそく、ひとつひとつ、娘とインターネットで調べて、
どれを求めようか…考えています。
本当にありがとうございます。
入院したら、いろんな出会いがあり、
思っているほど退屈な時間はないかもしれませんが、
読む本があると、うれしいようなので、
用意だけはしておこうと思います!
あ〜、うれしいです。
真砂さんがかけてくださったことばのように、
わたしも、ゆっくり過ごせるといいなぁ〜と
たのしみにしています(^^)
本当にありがとうございます。
ここは、本当にあたたかい場所。
みなさんのがんばりを、
たのしみを、
よろこびを、
そして、ときにはがっかりやとまどいを、
おしえてもらって、
わたしも、じんわり考えてあたたかくなります。
こぐまさんのぐちも、
とてもあたたかく読ませていただきました。
わたしも!みなさんに同感です!!
たくさん甘やかせてほしいと思います(^^)
ここの地域のママ友は、
甘やかし、親ばか、バンザイ!と
お互いににやにやです。
ぜひ、こぐまさんも…。
はるくん、本当に幸せですね!
とろろ昆布…。
(とってもこっそり…と)苦手だったんです。
けれど、最近、その美味しさを発見しました。
お味噌汁に入れるくらいですが、
出汁をしっかりと吸い取って、
口まで届けてくれる感じが大好きになりました!
それでも…、そんなにたくさん頂いちゃったら…、
困っちゃうなぁ〜、きっと(^^;)
うさぎさんのレシピ!
わたしもやってみま〜す!美味しそう!!
今日は、久しぶりに週の真ん中、のんびりの日となりました。
娘が、シフォンケーキを焼いているとなりにて…。
投稿: もも(^_^) | 2019年3月14日 (木) 14時36分
ふみこさん、みなさん、こんにちは。
とろろ昆布運、すごいですねー!
私は実家が富山県なので、すごく親しみがあります。
うちでは、湯豆腐にとろろ昆布をたっぷりのせて、食べていました。
そのままでも美味しいですが、薬味を足して、少しお醤油たらしたりして。
あとは、梅干しのおにぎりは必ずとろろでしたねー。
昨日は息子の卒業式でした。
3月に入ってから暖かい日が続いて油断していたら、今週は荒れ模様。
急に寒さも戻ってあられも降って、雪の予報まで。
卒業式大丈夫か心配でしたが、当日の朝は曇り晴れ。
小学校最後の登校を外に出て見送りました。
雨上がりの道、雲の切れ間から陽が射して、きらきらして。
なんだか天からお祝いされているような朝でした。
初登校の日。
息子はあまりに緊張して、自分の席から一歩も動けなかったって言って帰ってきましたね。
あれが6年前。
6年間での成長はすごいなぁと改めて思いました。
卒業式が終わって、今日写真を見ながらしみじみしてたら、
じわじわと泣けてきました。
別れと出会いが入り混じる春ですね。
みなさんにとって、優しく穏やかな春が訪れますように。
投稿: さゆ | 2019年3月15日 (金) 13時46分
もも(^_^)さん
おばんです。
入院が、旅みたいに、
冒険みたいに、思えてきました。
(うらやましくさえなってきました。
ごめんなさい……。調子乗り過ぎ)。
たくさんの「初めて」、
たくさんの「愛情」が、
きらきらきらきら降り注ぐことを
信じています。
皆の祈りも、きらきらと。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月16日 (土) 00時06分
さゆ さん
ご卒業おめでとうございます。
王子様、立派になられて。
だからこそ、6年前の
緊張や、恐れの気持ちを抱くちっちゃい存在が
愛おしくも懐かしく思えますね。
おめでとうおめでとう。
とろろ昆布のことも、
ありがとう、ありがとうございます。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月16日 (土) 00時09分
ふみこさん、みなさん、こんにちは。ご無沙汰しております。3月は娘の卒園式、来月は入学式と、新しいスタートが始まります。私もどんなことでも受け止めようという思いです。どんと受け止めようと。ふみこさんのように!実は私もとろろ昆布は給食以来あまり食べていないのです…。でも、息子は大好きでおにぎりに巻いてあげています。祖母も好きらしく、時々食べていますよ。みなさんのとろろ昆布レシピがどれもステキで、ちょっと挑戦してみようかしら!と思っています。子供たちはもうすぐ春休み。春休みは祖父母のお墓詣りに静岡まで出かける予定でいます。春のあの懐かしい空気を吸いに…。
投稿: みゅー | 2019年3月16日 (土) 10時36分
ふみこ様 おはようございます
年甲斐もなく・・というか
いまだに トーベ・ヤンソンの
ムーミンの話が好きです
「そういえば・・・」と バックに手を入れて
ごそごそ 何かを探す ふみこさんのお友達。
それは あらゆるものが入っている
ムーミンママの バックのようだと思いながら
聞いていました。
そうか 出てきたのは とろろ昆布!!
私は 小さいときから とろろ昆布の入った
お味噌汁が 好きでした
あの ツルッと飲めてしまうところ
北海道産のとろろ昆布もたくさんあるのですが
私も お味噌汁 おにぎり・・その程度しか
浮かんできません ごめんなさい
ふみこさん
朝が ぐんぐん早くなってきましたね
嬉しいです!
投稿: えぞももんが | 2019年3月17日 (日) 06時41分
みゅー さん
お嬢さま、卒園と入学と、
おめでとうございます。
ああ、小学生になられるのですね。
愛情に包まれ、たのしい学校生活になりますように。
いまのわたしのう役目を通して、
毎日お祈りしたいと思います。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月17日 (日) 22時42分
えぞももんが さん
今夜は、わたしもムーミン谷に
行こうかな。
あの世界の神秘と、
一方あたたかい日常と、
愛すべき登場人物の行動と。
ふ
ほんとうに、トーベ・ヤンソンさん、
ありがとうございます!という
気持ちになります。
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月17日 (日) 22時44分
ふみさまみなさまこんばんは~~
先週みなさまの前で宣言しましたとおり、
先週から、何かにとりつかれてしまったかのように、
実家の片づけ、&リニューアル作業に奔走しております
本日も仕事前に、朝イチで家しごとをかたづけたあと、車をぶっとばして
実家で先週の間に片づけで出た粗大ごみや、使えなくなった家電ごみを
市の処理場まで持ち込み、処理していただくよう手続きをしてきました。
2往復しました・・・。
父が使っていたサイドテーブル、弟のゴルフバック、私の本棚、母の料理本を収納していた棚、みんなでわいわい鉄板焼きを食べたグリル・・・
どれも蜘蛛の巣が張ってしまい、錆びもひどく、カビもはえてしまって
もう再生の余地はないとわかっていながらも3年間はそのままにしてきてしていました。
前へ進むためにお誕生日の所信表明。
またまた処分場で荷物をおろして引き取ってもらうときはちょっとグッときてしまいましたが、しっかりお礼を言ってさよならできました。(しかしながら、まだまだま~~だまだ果てなき片づけは続く・・・・(^_^;))
でもね。少しずつ、少しずつでもやり続ければいつかは終わりはきますよね。
そして、スッキリした実家のおうちでゆっくりくつろぎにきたり友人読んでお茶を飲んだりできたら、絶対おうちも嬉しいはず。
信じて15畳の応接間の壁紙のはりかえ、10畳の台所の壁塗りを先週完了。そして今週末は8畳の雪見障子の張替えがんばってきま~~~す。
車に荷物を積み込みしているときに、新しい生徒さんのご紹介のメールが板切れにとどきました。
『片づけごくろうさん、古いものは手放しなさい。大丈夫、新しいものが入ってくるよ』
と父が話してくれている気がしました。
とろろ昆布、
父と弟がだ~~~~い好きで
お味噌汁を出せばかならずどさっと中にとろろ昆布を入れて
「これがうまいんだよ」
と2人してお汁をすすっていた姿が思いだされます。ふみさまの記事とタイムリーだわ。不思議。
私も大好き。
でも、なかなか高級品ですから、どうしてもスーパーでかごにちょくちょくは入れられず、私もしばらく縁遠くすごしておりましたが、
そうですね
よろこんぶ。\(^o^)/ですものね。
実家整理をしながらのこの時期、久しぶりにとろろ昆布を求めて、父や弟の想い出を
夕飯でいただこうかな~~なんて気持ちになりました。
投稿: おきょうさん | 2019年3月18日 (月) 18時19分
おきょうさん さん
おばんです。
あたらしいおきょうさん さん、
パワーアップしていますねー。
力強いだけでなく、
たおやかでかわいいい!
ひとは、かわいくなくっちゃ。
と、思いがけない感想が湧いてきました。
素直であれ。
正直であれ。
……というあたりにつながるかわいさです。
しあわせの家!
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年3月18日 (月) 20時44分