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2019年3月20日 (水)

壊れる

 ヨーグルトを食べよう。
 と、思って、とっておきの蜂蜜をとり出す。友だちが送ってくれたこれ、「ミツバチさん、ありがとう」と手を合わせたくなるような、それはそれは濃くておいしい蜂蜜だ。
 蓋をとると、蜂蜜は結晶しており、かちんかちんではないが、かなり密度が高まっている。こういうとき、瓶のラベルにも記してある「容器の蓋をとり、60℃くらいの湯煎で加湿し、なかみをかきまぜる」を実行すればいいのである。それはわかっているのだけれど、粗忽者のわたしは、「そんなことをしなくても、ダイジョウブダイジョウブ」という方面に流れる。
 大事な工程をひとつならずふたつくらい平気で飛ばす、というのが粗忽者の特徴である。これによって、少しもダイジョウブでない結果を生むことになる。思えば、そんなことをくり返すのも、粗忽者の特徴と云えるだろう。
 このたびも、ダイジョウブでない結果を生んだ。
 蜂蜜の瓶のなかに木の匙をつっこんで、蜂蜜をすくいとろうとしたときだ、匙の柄がはらりと折れた。ぽきっとではなく、はらりであった。「毀(こぼ)れる」ということばがあるが、これがそんな壊れ方ではないだろうか。
 感心している場合ではない。
 木の匙は友人から贈られたものであり、それだけではなく……、贈られたのはわたしではなく二女である。長い柄を持つうつくしい匙で、本来カレースプーンであるらしい。母娘共通の友人が大分県の土産として持ってきてくれたことを思いだし、パソコンに、
「木の匙 大分県」と打ちこんで検索を開始した。すると、木の匙の画像が数多(あまた)あらわれた。木の匙の行列だ。
 行列は長いものであったが、そのなかに、わたしが折ったうつくしい木の匙と同じものをみつけることができた。匙のみならず木の器をつくるアトリエの電話番号をみつけて、番号を押す。
 電話に出たひとに向かって、
「これこれ云云(しかじか)。壊してしまい、ほんとうに申しわけないことです」というはなしを聞いてもらい、相手に見えはしないのだが頭を下げる。
 その後幾度かやりとりをして注文し、これを書いているいま、匙が届くのを待つところにまで至っている。

 モノは壊れる。
 折れたり。割れたり。砕け散ったり。
 モノを壊すたび、「壊れる」ことの宿命を思わずにはいられないわたしになる。愛用のモノとの別れは、ときとして生身の別れ以上の感傷を生む。ひととの別れには、その後別別の道をゆくという一面があるけれど、モノとはそうはゆかないからだ。
 愛用させてもらったわたしのほうは別の道をゆける。が、モノのほうは、たいてい、そこで一生を終えることになる。

 先週はペンダントの鎖を戸棚の扉にはさんで、切った。これは道具を使って自分で直した。
 その前は読書鏡(リーディンググラス)のテンプル(つる)を立てつづけに、二度壊した。ひとつはいけなくなったが、ひとつは修理可能のように思える。

 壊したとき、「壊れることは、わるいことではない」と自らに向かって云い聞かせる。壊したことを反省しながらも、感傷世界にはまり過ぎないために。壊れること、壊すことが、ひとを変えてゆく……。この一面を省みることこそが、反省の大事な要素ではないだろうか。
 このたびの木の匙事件は、春先のちょっとした物語であった。二女に詫び、贈ってくれた友人にも詫びたり報告したりして、わたしは物語の主人公見たようであった。

Spoon_1
この匙と対の、白木(しろき)のを壊しました。
長さ20cm、すくう部分の最大横幅4cm。
つづきはまた、聞いていただきましょう。

Umihara_1
昨年12月にトーク講座をご一緒した
医師で歌手でもある 海原純子さんライブのお知らせです。
あの日、会場でライブの予定をご案内すると
約束しましたので……、ここに。

山本ふみこ宛で、 または添付のフライヤーにある番号まで
お申しこみください。 満員になり次第締め切られますが、
その場合は、またつぎの機会に。
4月6日はわたしも客席に坐っております。

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「日記」カテゴリの記事

コメント

皆さん

わたしは元気です。
心配してくださった方もあるでしょう。

2日遅れの、ブログの更新となりました。


ブログの大元が、
大規模なメンテナンスをし、
不具合を生じさせたようです。

あわてず騒がず。
待つしかないときもあることを、
学びました。

では、また。

山本ふみこ

投稿: ふみ虫。 | 2019年3月21日 (木) 13時20分

こんばんは。
あー。よかった。
はるとはいえ、ふみこさんのサプライズかなと思ったり。
壊れたことで、毎週、読ませてもらえるありがたさ、そして広場に集まる皆さんのことを思いました。
本当にお元気なご連絡、あー、よかった。

投稿: ユリの木の花子 | 2019年3月21日 (木) 20時16分

ユリの木の花子さん

大騒ぎになっている「場」もあるようで、
静かに再開できたこと、
ありがたいと思いました。

困ったことというのも、
なかなかいいです。
気づきせてもらえますものね。


投稿: ふみ虫。 | 2019年3月21日 (木) 22時08分

ふみこ様 おはようございます

よかった よかった

いろんなこと 
あれやこれやと 心配していました。
「壊れる」の 題に 込められた
意味を考えてみたりもして・・・(笑)

ふみこさん そちらは桜が 咲き始めたのですね
桜を見上げる時間が ありますように。

今朝 こちらは 雪がちらちら 舞いました。

投稿: えぞももんが | 2019年3月22日 (金) 08時38分

ふみこさま。おはようございます。


昨日ふらり旅から無事もどりました。
宮津のおじいちゃんが帰国後大阪のあと広島の港街に
住んでいたことがわかり、その記録の絵の「潮の満ち引き」
「山辺の小道」の絵によばれ3人で宮島へ。

潮が満ちてくるのを待ってボーっとする心地よさにはまって
しまいなんだかまだ時間の枠こわれたままですー。
しかさんたちまで海辺でねころがってぼーっとしてましたよ。
次の日朝霞のかかる山の眺めと水面ぎりぎりの厳島神社の神々しさ。

その日は雨で濃霧で平和記念公園行き航路の船が出るかを待つ間
ほとんどその船を利用する人たちは外国人のかたでしたが(だって
この航路2000円)係の人事情を説明するとみなさん笑顔で
「ノープロブラム」でした。20分くらい遅れて出発。途中海から川にはいる
ので今度は橋の下をくぐる時の潮位が問題に。一番低い橋をくぐるとき
超低速になったのでくぐり終えた時思わず喜びの船長さんの声を聴き
船内から拍手がわきなんだかもう満足みたいになってしまいました。

「潮の満ち引き」「潮位」「潮待ち」なんて言う言葉の余韻に
浸っておりましてよくわからない文章しつれいしました。
キラキラした穏やかな瀬戸内海も。。
(もー文章壊れてるー。すみません。)
(あーでもあわてずさわがず船待ちましたよ。ふふ。)

投稿: 真砂 | 2019年3月22日 (金) 08時41分

ふみこさん、みなさん
こんにちは。


「壊れる」「置かれる」「黙って見守る」
題名の言葉が今のわたしと娘のことのタイトルみたいだなあと思っていました。

びっくりするくらい心が育っている(自分で育てている)娘は、自分を作って育てて壊し、作ったと思ったらまた壊されを繰り返しているように私には見えます。毎日脱皮をしているみたいです。
口を出さないでください、と礼儀正しく言われるので、娘に渡したいもの(手袋とかマフラーとか本とか言葉とか)は、差し出さずに置いておく感覚です。
そして、黙って見守ること、話を聞くことが私に出来ることのようです。

「私才能ないし、コミュニケーションも上手じゃないから、やってることがカッコ悪いけど、カッコ悪いこと引き受けないと、お客さんのままなんだよね。目の前のことこつこつやるよ。」

図書館に行って、久しぶりに『親にしてやれることなんて、ほんの少し』を読みました。タイトルと目が合って、「ホントにその通りよねえ。」と独り言が出てしまいました。
私には、娘、大変カッコよく見えております。


ももさん

『守り人』の新刊『風と行く者』もうお読みになったかもしれませんが…
私もこのシリーズの大ファンなので、お仲間がいるようで嬉しいです。

ドラマが終わってしまい寂しいと思っていたところ、以下の本たちを知り、まだまだここに私の好きなものがある!という気持ちになりました。

菅野雪虫『羽州ものがたり』『チポロ』
伊藤遊『えんの松原』『鬼の橋』
久保田香里『駅鈴(はゆまのすず)』
L.M.フィッツジェラルド/千葉茂樹『スピニー通りの秘密の絵』

それと、ずいぶん昔の作品(今みたら初版は1972年でした)と思いますが、
L.M.ボストン『グリーン・ノウの子どもたち』6巻までのシリーズです。

私は少年少女が誰かと出会って成長し、自分で道を切り開いていく、というお話が好きで、そんなような本ばかり集まってしまいましたが、こちらに置いておきますね。

投稿: cohata | 2019年3月22日 (金) 18時18分

ふんちゃん

 パソコンからだと、
 今までと変わらぬ画面が見られて、
 ホッとしています。
 板きれからだと、
 今までと全然違うので、
 なんだか寂しく思えちゃったりして…(^^;)

 あ〜、戻ってきて良かった〜。
 本当に…、
 ユリの木の花子さんと同じ…
 この広場がどんなに恋しく思っているか… 
 ということを、
 改めて感じました。

 けれどね…、
 いいこともあったのです。
 あれ?ふんちゃんのブログがないっ!
 って思って、パソコンで色々調べてたら、
 ふんちゃんの著書のラインナップが出てきて、
 「はっちり、朝ごはん」という本と出合いました。
 さっそく、アマゾンさんにお願いして…。
 今日、届きました!
 ふんちゃんは、ちょこっとですが、
 それでもうれしく、たのしみなのです。
 うふふふ。

 そして…、
 今日、娘と5番目ちゃんと、
 おべんと持って、
 大きな図書館へ行ってきました。
 最近、歴史が面白くなってきた娘が、
 歴史の本を見たいと言っていたので、
 えいっと行ってきました。
 娘は、自分なりに調べて、探して、
 読んで、かりて…。
 私は、5番目ちゃんに絵本を読んだり、 
 おべんと食べさせたりして過ごしていました。
 娘は、大満足。
 私も、5番目ちゃんにゆっくり絵本を読む機会なんて
 なかなかもてないので、
 充実した一日となりました。
 しかもね…、
 図書館の特別コーナーは、
 お弁当づくしとなっていて、
 ふんちゃんの
 「山本さんちの毎日の手紙のようなお弁当」
 を見つけました!
 うれしいことがたくさんの一日となりました。

 cohataさん
 たくさんの本。ありがとうございます!
 「風と行く者」
 入院までとっておくんだ〜と言っていたのですが、
 なかなか病院から連絡が来ず、
 まだ家に居るので、
 待ち遠しくって、今、読んでいるようです。
 教えてくださった本。
 また娘と一緒に調べてみます。

投稿: もも(^_^) | 2019年3月23日 (土) 16時03分

えぞももんが さん

なんだか、まだ、
『?』な部分もあります。
ITとのつきあい方を思いめぐらせ、
今回、ずいぶん辛抱しました。

アナログの世界を懐かしみながら。
こういう経験を
これから何度もすることになり、
そのたび辛抱するんだなと思ったり。

本日の東京は、久しぶりに寒かった……です。
桜も咲きかけて、縮こまっています。

投稿: ふみ虫。 | 2019年3月23日 (土) 19時21分

真砂 さん

旅の気配が届きました。
……うれしい。

先週中学校の卒業式。
来週小学校の卒業式。
わたしには、これもはるかな旅です。

お帰りなさい。

投稿: ふみ虫。 | 2019年3月23日 (土) 19時24分

cohata さん

そうですね。
子を素敵だと思い、敬愛の情を抱くとき、
その手柄が自分にはほんの少ししかないと
わかりつつも……しあわせな気持ちになります。ね。

ひととひとのあいだに、
尊敬や敬愛が生まれることはありがたく、
それを認めることこそ大切ですね。

投稿: ふみ虫。 | 2019年3月23日 (土) 19時27分

もも(^_^)さん

入院の日が決まったら、
また、おしえてくださいね。

みんなが、それぞれ、
好きな本を音読したりしたら……、
素敵なので。

ことしの春は、ちょっとおもしろい。
のんびり屋であり、ちょっとそそかしい。

投稿: ふみ虫。 | 2019年3月23日 (土) 19時30分

タイトルを間違えておりました。
『親がしてやれることなんて、ほんのすこし』でした。
大変失礼しました。


投稿: cohata | 2019年3月25日 (月) 18時34分

ふみさまみなさまこんばんは~~

今週は春休みをいただいているので
お仕事がお休みなんです。
なので
おもいっきり実家のリニューアルに日夜奔走しております。
きのうは実家の台所の天井をだんなさんとともに張替えました。
上を向きすぎていて、首が痛い。肝心のこれからの桜を楽しめるかどうか・・((笑)

今週末は和室の壁塗りです。
もはや何かにとりつかれたかのように日夜頑張っております。

そんな中での今回のふみさまのスプーンのお話。

壊れるものに感傷しすぎない。

本当に。
でもでも、きっとねなんとなくふみさま、こんかいのはらりと折れたスプーン
ポイッって処分してしまっていない気もするのですよね・・・

『再生』

それまた壊れたものと対になる言葉のような。

実家を再生させながら、
いろいろな思いを胸に積もらせて
でもその時の新鮮な楽しい気持ちも新たに加わって

新しいものにも対面してゆく・・・

ふみさまのところに新しいお匙はとどいたかな?
また新しいお匙とも想い出が積もっていきますね。

大事な物が壊れてしまったとき

身代わりになってくれた

と思うようにしています。
大事なものであればあるほど
私にふりかかったであろう大変なことの身代わりになってくれたと。
なので壊れてしまったものには
「ありがとう助かりました」

と伝えるようにしています


ふみさまも難を逃れたのかもしれませんね。


よかったよかった


場所お借りします

もも(^_^)さんへ

さとうさとるさんのコロボックルシリーズはすでにもう読まれたかな・・っと。

もう時代がずいぶん前の話になってしまうかもしれませんが
私が今まで読んだなかで一番ワクワクしたファンタジーです。

もも(^_^)ちゃんに紹介するにあたり、またまた読み返しております
やはりせいたかさんは私の理想なんだな・・・

私は背がでかいからおちび先生にになはなれなかったけど・・( ノД`)シクシク…

投稿: おきょうさん | 2019年3月25日 (月) 21時16分

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