香港〈その後〉
香港に来るのは、3度目だ。
過去2度の旅は24年以上前のことで、当時の香港はイギリスの租借地(そしゃくち)であった。
アヘン戦争後の1842年、香港島はイギリスに割譲(かつじょう)される(事実上の植民地)。1898年には九龍(カオルーン)半島、新界、諸島もイギリスの租借地となった。租借期間は99年。1997年に香港は、イギリスから中国に返還された。
今回は、夫の映画(「三里塚のイカロス」)が招かれた「国際現代ドキュメンタリー・プログラム」(INTERNATIONAL CONTEMPORARY DOCUMENTARY PROGRAMME)という映画祭に出かけてきている。夫にくっついてきたのだが、返還後の香港を歩いてみたかった。
これを書いているいまは旅の3日目で、途中にはホテルの部屋でひとり、持ってきた仕事をする羽目に陥ったりしたが、それでも2019年現在の香港を肌で感じることができているのは、現地のひとたちと会って話す機会を持ったからだった。
国際現代ドキュメンタリー・プログラムのことしのテーマ。それはAFTERMATH。
「AFTERMATHってのは何?」
「その後、だよ」
と夫は云い、そのことばを受けとった瞬間、「AFTERMATH・その後」ということばがわたしの胸のなかに棲みついた。
香港の「その後」はイギリスから返還後された〈その後〉であり、2014年に若者たちを中心に起こった「雨傘運動」の〈その後〉である。前者はもちろんのこと、「雨傘運動」は、普通選挙を約束していたのに中央政府にとって都合のよい制度になることに対する抗議デモであり、それがどれほど香港にとって、大きなことであったか。
日本だって同じだ。
古くは明治維新の〈その後〉。それから第二次世界大戦の〈その後〉。東日本大震災の〈その後〉。関西淡路大地震をはじめ、各地が経験した自然災害の〈その後〉。
このたび香港の「国際現代ドキュメンタリー・プログラム」に招待されている夫の映画「三里塚のイカロス」は、1966年から70年代に起こった「成田空港反対闘争」の〈その後〉を描いている。
ひとも、それぞれ、いくつかの〈その後〉を生きているはずだ。
〈その後〉。
それは過去のはなしではなく、むしろ〈未来〉を指すことばだ。過去を検証して(反省もして)、〈その後〉をどうみつめ、どう生きるかが〈未来〉を決定する。
2日目、ホテルで仕事をしていたところを、映画祭の主催団体のリーダー(プロデユーサーと云っていいのではないだろうか)のCheung Tit leungさん(以下ティット)がわたしのことも、映画祭の会場となる中環(セントラル)の「大館(Tai Kwun)へと誘いだしてくれた。
タクシー(的士)で中環に向かい、立派なレンガの建物の前で下車すると、そこには「警察服務中心 POLICE SERVICES CENTRE」とある。「大館って警察か?」と、どきどきする。「警察で、映画祭?」
ティットの説明によると(英語と広東語だから、さわりだけ……)、1年前、ここ旧警察本部の跡地(敷地のなかには中央警察署、中央裁判所、監獄がある)が、香港の芸術、文化を発信するランドマークに生まれ変わった。大きな映像施設と、野外ライブスペースも有するとのこと。
「ダイシマさん(夫)の映画はここで上映します」
ということが、やっとのことでわかった上で、大館のなかに残る「ビクトリア監獄」を見学する。残るとはいっても、再現され、映像を組みこんで、有罪判決ののち投獄され、懲罰を受け、労働する囚人の様子を見ることができるようになっている。
この施設のなかの、モダンな中華レストランで昼食をとりながら、ティットが「アクチュアル・イメージ」という発音をした。
「実際の、とか現実のって……いう意味のアクチュアル? アクチュアル・イメージってドキュメンタリー映画のことを云ってるのかな」
と隣にいた夫にこっそり確かめる。
「うん。そうだけど、アクチュアルにはドキュメンタリーよりもつよい意味が含まれているとも、いえるかな。ティットの考えるそれは、社会に働きかけるっていう意味をもっていると思う」
「AFTERMATH・その後」につづいて、
「ACTUAL・社会に働きかける」だ。
〈その後〉×〈働きかける〉=〈未来〉
これから荷物をまとめて日本に帰ります。
香港・中環(セントラル)の「大館(Tai Kwun)にて。
左からティット(Cheung Tit leungさん)、ダイシマ、
カオせんせい(Kuo,Li-Hsinさん/台湾の映画研究者、国立政治大学教授)。
〈お知らせ〉
6月1日(土)13:00−14:30
池袋コミュニティ・カレッジ
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一般 : 1回 3,348円
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03ー5949ー5481
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内多勝康さん
国立成育医療研究センター
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