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2019年7月の投稿

2019年7月30日 (火)

あけびの籠を提げながら

 40年近く使っているあけびの籠(かご)の、持ち手が怪しくなった。
 籠の持ち手は、3本のつるがつかむようにして本体とつなげ、支えている。つかみは4箇所あるから、1本2本の緩(ゆる)みは持ち運びに響かないけれど、このたび、つるの1本が切れてしまった。
 この籠は、その昔、やえばあ(元夫の母である)が銀座の「たくみ」(諸国民藝の店)で買ってくれた宝物だ。3年前、持ち手の支えのつるが緩みはじめ、よしと思って修繕を、とたのんだときには、「まだだいじょうぶ。切れたら、そのときお持ちください」と云ってもどされた。

 とうとうそのときがきた。
 修理をたのんだのは、5月の半ば。ひと月待たずに「修理が済みました」と連絡をもらったが、なかなか受けとりに行けなかった。やっと7月のはじめに出かけることができたのだ。
「ずいぶん前のもので、かたちもいまはないものです。この、側面の仕上げの綿密なのには、みんなで感心しました。いや、なつかしいものを見せていただきました」
 聞けば、かつてこの籠をつくった青森県工房はすでになく、べつの工房で修理したところ、あけびのつるの色合いがちがってしまった、とのこと。
「いえいえ、とんでもないことです。なおしていただいて、どんなにうれしかったか知れません」
 そう云ってわたしは、修理代金7,500円を支払った。費用が20,000円のうちでおさまるといいけれど……と考えていたので、これもまた、ありがたいことであった。

 銀座からの帰り道、あけびの籠を提げながら、この籠とともに歩いた40年近い歳月を思っている。
 やえばあへの感謝の気持ちが、あらためて湧く。
 最初の夫とは別別の道を歩くことになったが、尊敬する友となり、やえばあ(もちろん中父さんも)の近況も知ることができる。元の夫の家族も、それぞれ個性を重んじあって、思いやりをもって暮らしている。
 これからますます、この籠を大切にしよう。
 この籠をよすがに、これまで出会ってきたひとたちのことを思いながら、これから出会うひとたちを思いながら。
「ね、」
 と手元の籠を見たら、籠が「アナタ、これからも、損をしながら、わけのわからんこともひき受けながら、ゆきなさいな」と云うのである。
 なるほどそうか。
 おそらくこれまで、幾度となく「また損をした」とか、「どうしてこれを、わたしがしないといけないんだろうか」とか、籠に聞いてもらうともなく、聞いてもらってきたのだろう。
 それは、愚痴である。
 しかし、この年になると、これまでときどき損な巡り合わせを受けとめたことが、自分の人生を支えたような気がしてならない。世のなか的には損であっても、そこには等しく学習の機会があり、それに……。

 それに、あとから決まって、おもしろいことが訪れる。
「あのときはご苦労さん」
 と、労(ねぎら)われるかのように。

 そんな事ごとをあけびの籠は、わたしといっしょに見て確かめていたのにちがいない。
 ところでわたしは、1年じゅう、あけびの籠を持つことにしている。
 冬、そうしていると、決まって知らないひとから「冬も、あけびの籠、持っていいんですね。わたしも持つとしましょう」と、声をかけられる。
「ええ、そうですよ。冬のあけびもいいもんです」

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持ち手、見えるでしょうか。
修理後の、あけびの籠です。
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スタイリストの友人からおそわりました。
「荒目のかごを持つとき、中身が見えすぎないように
なかのものをざっくりスカーフで包むといいわよ」
その日のスタイルに合わせて色を選ぶ
たのしみもあります。

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2019年7月23日 (火)

肋骨3本!

「奈良の橿原神宮の八咫烏(やたがらす)のお守りと、思われます。80歳代ににさしかかるころからの数年間、父は橿原神宮にささやかな奉納をしていたらしく、このお守りがいくつかしまってありました。お守りとしての霊験のほどはわかりませんが、かわいらしいので同封しました。ずーっと戸棚で眠っていたものたちが、あたらしい世界に飛び立ってゆくのもたのしいかな、と。……ご迷惑を承知で」

 手紙と、お守りと、お守りに添えられたアネサマ(友人)のこの書きつけには、618日と日付が記されている。

 616日、夫からmailが届く。
 夫は現在、週日は、埼玉県熊谷市の実家でちちと、20歳を越した猫のタロウを見守りながら、記録映画の編集作業と畑仕事をして過ごしている。
「今朝キウイ剪定中、脚立から落下してコンクリート縁石で右脇胸を強打。日曜日なので救急外来に行ったら、肋骨3本折れてました。安静2週間、全治2か月」
 なんでも自分でくるまを運転して病院へ行って、驚かれ、あきれられ、そして叱られたという。入院をすすめられたが、断って、もどってきたそうだ。
 このとき、わたしは東京の家を離れなかった。
「わたしが行くよ!」
 と云って、末娘が翌朝飛んで行ってくれたから救われたが……、このところ、直接的に夫を助けられない自分自身を省みて、ため息をつく。
 ただし、ため息止まり。
 わたしにはわたしのするべきことがあり、夫のことは念じている。夫には夫のするべきことがあり、わたしのことは理解してくれている。という、現在のお互いの有りようを、確認す。

 それでも、ひとりの胸に納めきれなかったのだ。
 アネサマに向かって、わたしは「あのさあ、」とやった。
 そうして届いたのが、件(くだん)の封書だった。これに、どれくらい勇気づけられたかしれない。手紙のほうには、夫への励ましとねぎらいのことばが綴られていたというのに、「ほら、読んでごらんなさいな」と一度見せたあと、ずっとわたしが持ち歩いている。
 お守りは自宅の、わたしが「こころを寄せる場所」と呼んでいる場所に置いて、毎朝、指をあてる。

 肋骨3本折ってからひと月と1週間。
「整形外科でレントゲンを撮りました。肋骨は順調にくっついています。7月いっぱい、負担がかかる仕事は控えるように、と。本日から毎朝コルセットをはずし、固まった筋肉をほぐすための軽いストレッチをはじめます」

 わたしの胸の、肋骨のこのあたりがムズムズする感覚は、そのうち治(おさま)るだろうか。

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『日本書紀』に、
日本建国の地と記された橿原。
天照大神(あまてらすおおかみ)の血を引く
神倭伊波禮毘古命(かむやまといわれびこのみこと/
のちの神武天皇)が畝傍山(うねびやま)の麓に
創建したのが、橿原神宮です。

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平和な国づくりをめざして九州高千穂の宮から
東に向かうとき、神倭伊波禮毘古命に
行き先を示したのが八咫烏(やたがらす)であったと
云われています。
3本足の八咫烏は、サッカー日本代表の
シンボルマスコットでもあります。

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2019年7月16日 (火)

再会

 この世で一度でも会えたら……。
 直接会うことがかなわなくても、ほんの少しでもこの世で同じ時間を生きられたら……。
 それはもうもう奇跡のうちの出来事である。
 そう思って、わたしは生きている。

 ということもあって、しばらく会えない彼(か)のひとのこと、あのひとのことがふと浮かぶようなとき、それだけで通じ合うもののあるように感じられる。
 ところがこの10日、驚くことがつづいている。
 なつかしい女(ひと)とあちらでばったり、こちらでばったり出会うのだ。
 いずれも声をかけてもらうまで、こちらは気づかないでいる。
「あ、山本さん」「ふみこさーん」という具合に声をかけられ、はっとして立ち止まる。

 東京都千代田区神保町の学士会館での会議を終えて出てきたところで、ばったり。
 地元武蔵野市吉祥寺のはずれで、ばったり。
 最寄駅の三鷹駅の北口で、ばったり。こちらは姉妹だ。

 なつかしくも優しいひとたちとの再会に、驚きながら、つよく励まされる。どのひとも「ばったり」の直後、はて、と頼りなく揺れながら、わたしは一瞬、記憶の箱を揺すってみる。
 それというのも、皆、かつての姿に結びつかぬほどの変身を遂(と)げているからだ。
 あるひとは臈(ろう)たけたうつくしい女性に。あるひとはアーティスティックな雰囲気を携えた女性に。あるひとは落ちついたムードを身につけた女性に。あるひとは……。
 そう、その変化の前にわたしは平伏(ひれふ)したいような心持ちになり、つよく励まされるのだった。
 こんなに不思議なことがつづいて、わたしには何か暗示を与えられているのだろうか。と思いかけながら、それはそれ、と思い直す。

 うるうると視線を翳(かす)ませながら、再会からひたすらに勇気をもらおう。「ばったり」のよろこびを嚙みしめよう。

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写真は、簡単バナナケーキです。
ふだん、おかず貯金に使う耐熱容器で焼いてみました。
そのままふたをして冷蔵庫に入れられると思って。
(実際は、もう少し薄手のもののほうが、焼きやすいことが
わかりました)。

最近よく焼く紅茶ケーキのつくり方を記します。

材料(パウンド型2本分)
薄力粉(ふるう)………………………………………200g
ベキングパウダー(ふるう)…………………………小さじ1
バター(冷蔵庫から出しておく)………………………120g
砂糖…………………………………………………100〜120g
卵(冷蔵庫から出しておく)………………………………3個
牛乳……………………………………………………大さじ2
紅茶(アールグレイがおすすめ)のティーバッグ……2つ
プルーン(種をはずして刻んでおく)…………………適宜

つくり方
・水気のないボウルにバターを入れて、泡立て器で混ぜる。
 クリーム状になるまで混ぜる。
・砂糖を加えて、よくよく混ぜる。
・卵を1個入れる(しっかりと混ぜる)。
・卵2個目と3個目を入れて、ほどほどに混ぜる。
・ここから泡立て器を、へらに持ちかえる。
 ティーバッグから紅茶を出して、加えて、混ぜる。
・プルーンを加えて、混ぜる。
・コナとベーキングパウダーを入れて、さっくり混ぜる。
・焼き型にたねを入れて表面をならし、台から持ち上げて
 落として型のなかの空気を抜くようにする。
・160℃に熱したオーブンで30分ほど焼く。
※プルーンは入れなくても。
 好みでこのほか、くるみ、レーズン、バナナを加えても
 おいしいです。

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2019年7月 9日 (火)

遠くのアナタ 近くのアナタ

 七夕の日、皆さんはどのように過ごされただろうか。

 笹をことしは、夫が埼玉県熊谷市の実家から持ち帰ったのを、「あら」と云って受けとった。こんなふうに「あら」と容易に笹が手に入ることはめずらしい。

 思い返せば、いろいろの記憶がある。
 知らないお宅の笹をいただいたこともあった。そのときの勇気やら、恥ずかしさやらは忘れているが、七夕のための笹を手に入れたいという一念は、鮮やかに思いだせる。
 仕事で出かけた先の花屋で笹をみつけ、思わず買ってしまったばかりに、混んだ電車に笹を抱えて乗る羽目になった記憶もある。

 ことし。
 飾った笹とわたしは、しばし向かい合って、黙った。
 こちらの胸には「ねがいごと」の思案がひろがっていたが、笹のほうは、ひたすらに受け容れるかたちがあった。
「家内安全」、「商売繁盛」、「いま手をつけているそれぞれの仕事が、うまくおさまりますように」という「ねがいごと」が胸をよぎっていく。しかし……、しかし……、それはすでにかなっているようにも思ったし、途上のものに関しても、自分たちの努力によってふさわしいなりゆきに運ばれるだろうという確信に近い思いも湧く。
 そうしてわたしは、とうとう、笹に何も書いてない1枚の短冊を吊るした。
 遠くのアナタ、近くのアナタを思って吊るした。
 知らないアナタ、縁(ゆかり)あるアナタのことも、等しく思いたくもあった。
「平和」をという便利なことばが浮かんだけれども、それがどんなかたちのものであって、どうすることが平和への道と云えるのか、ほんとうのところ、わたしにはわからない。
 これがああなり、あれがこうなりますように、とは、ねがえない自分になっている。それはもどかしくもあり、そのじつ誇らしくもある。
 何も書いてない短冊には、だから、こんな「ねがいごと」を込めたのだ。

「この世のわたしたちが、生き生きとそれぞれの人生を生き抜くことができますように」

 笹はじっとして、短冊を引き受けてくれたのだ。

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2019年7月 2日 (火)

計量

 お菓子づくりに凝っている。

 もう一度書かせていただいてもかまわないだろうか。
 
 お菓子づくりに凝っている。
 お菓子づくりをするわたしが出現するとは露とも思わずにいて、いきなりそうなったことが、照れくさくもうれしいのである。
 そうだ、ほんとうにいきなりだった。
 1日の終わり、机の上も、台所もすっかり片づき、寝るばかりになった子(ね)の刻、翌日会うことになっている友だちの顔が浮かんだ。そうして、ふと、彼女のお母上に何かお菓子をさし上げたい、と思いついた。
 これがはじまり。80歳代になったお母上に、消化がよくて、おかしみのあるものをと思いめぐらしたとき、果物かごのバナナと目が合った。

「アッシヲ ツカッテクダセエ」

 と、バナナが名乗りを上げたのである。
 それで久しぶりにバナナケーキを焼くこととする。

 その昔、幼かった子どもたちによくつくっていた、簡単定番ケーキ。バナナのほか、りんご、にんじん、ココア、レーズンなどをなかみとし(ときには、2種類合わせることもある)、オーブンで焼く時間30分を入れても、50分あれば完成する。
 材料は薄力粉200g、ベーキングパウダー小さじ1と1/2、塩小さじ1/2、シナモン適宜、卵3個、砂糖100g、サラダ油ふたまわし、バナナ2本である。

・薄力粉、ベーキングパウダー、塩、シナモンをふるっておく。
・オーブンをあたためておく(予熱)。
・水気のないボウルに卵を入れて泡立て器で混ぜる。
・砂糖を加えて、ねっとりするまでよくよく混ぜ、サラダ油を加えて混ぜる。
・このボウルに刻んだバナナを入れて混ぜ、ふるった粉類を加えてさっくり混ぜて型に入れる(型を少し持ち上げて落とし、なかの空気を抜く)。
・160℃のオーブンで30分間焼く。
※砂糖で甘みを加え、泡立てた生クリームを添えると、うれしい。

 久しぶりのケーキづくりがたのしかった上、その翌日友だちから渡ったバナナケーキをお母上が喜んでくださったらしいことを聞いて、わたしはうかれてた。
 ほんとうだったら、虎屋の水羊羹あたりをお届けすればまちがいないのだが、まちがいない、というのより、おかしみをわたしは選んだ。
「おそるおそる口に運んだけどね、食べてみたら、わるくなかったわ」とか。
「なかに入ってるこれは何かしら。あ、バナナ。ちくわかと思ったわ」とか。 
 そんなようなことを期待したのだ。

 それ以来、夜、台所がすっかり片づくと、「よし」という気持ちになり、この10日あまり、定番ケーキの材料でリンゴケーキ、にんじんケーキ、とつぎつぎ焼いている。
 調子づいてきたある日のこと。定番から逸れてココアバナナケーキを思いついた。そうしてつい気を抜いて、材料の吟味を怠り、計量をおろそかにした。
 そうしたら……。
 甘みのたりない、寝ぼけた(塩を忘れた!)ココアバナナケーキになった。

 材料をそろえること、計量。
 お菓子づくりには、これは絶対だ。
 おかずなら、途中で味見しながら、なんとかなるのだが。

 さて、これから会議に出かける。
 気を抜けば、寝ぼけた結果となるので、資料を読み、用語について調べ、調べてもよくわからないところには「質問印」をつけた。材料をそろえ、それを計っておくような準備だ。あとはオーブンに入れて焼く、という心持ちで出かける。
 仕事にも、どうしても計量が不可欠なものがある。

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ことしの梅しごと。
庭になった梅の実でシロップを。
シロップを漬けたあとの実でジャムを
つくりました。

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