旅の駒
「防府」をわたしは、3年くらい前まで「ぼうふ」と呼んで(読んで)いた。
そんなことだから、まったく防府に行くなんて機会にはめぐまれなかった。けれどとうとう呼びまちがいが許されたのかもしれない、防府へ、という仕事が舞いこんだ!
東京からどう行ったものか。
「飛行機なんじゃないの? ほら、宇部空港があるもの」
というアドバイスもあったが、陸路を行きたかった。
東京駅から徳山まで新幹線「のぞみ」で行き、山陽本線に乗り換え、防府駅へ。
仕事をして一泊し、防府天満宮に詣り、新山口駅に出て、バス(スーパー萩号)に乗って1時間、萩へと向かう。同じ山口県ではあるけれど、瀬戸内海側から一気に日本海側に渡るのだ。これを山陽から山陰へ、と云っていいのだろうか。
長女の梓が、折しも萩で仕事をしていたので、落ち合って、案内してもらおうという計画だ。
生まれて初めて、ゲストハウスに泊まる。
木の香りが立つ、清潔・シンプルなふたり部屋。洗面所、トイレ、ダイニングキッチンは共有で、到着するなりキッチンでアメリカ人のカップルから「こんばんは」と挨拶される。
Is this your first time in Hagi?
気持ちのいいベッドに横たわったら眠ってしまい、「あ、食糧の買いだし!」とあわててスーパーマーケット「サンリブ」に飛びこむと、閉店(20時)3分前だった。一緒に飛びこんだおじさんが「もうだめかね」と店員のお姉さんに聞いて、「ええ、もうおわりです」と云われている横で、お惣菜をつかんでレジに置く。ギリギリセーフを決めこむ迷惑な客になってしまったー。ゴメンナサイ。つかめたのはサバの味噌煮、筑前煮、蓮根の煮もの。それからこの町に着いてすぐ、求めておいたyuQri(ゆくり/パン店)のりんごパンと夏みかんピールのカンパーニュ、という夕食。
翌朝。
ひとりで町の映画館に歩いて行き、「初恋 お父さん、チビがいなくなりました」(監督/小林聖太郎、原作/西炯子)を観る。バスが着いたとき、映画の看板が目に入り、計画するともなく計画していた行動だ。観客はわたしひとり。バッグにしのばせたパンプディングを堂堂とスプーンで口に運ぶ。
倍賞千恵子、藤竜也、市川実日子。魅力的な俳優ばかり出てくるが、チビを演じる黒猫にはとくに胸を締めつけられる。すでにこの世にはいないけれど、いまも家族でいてくれる黒猫の「いちご」と暗闇のなか再会したようで。
好きな映画だった。
映画の後、ひとりであちらこちら歩きまわったおかげで、あたりの地図が頭のなかにひろがり、つながってきた。萩市立図書館で梓と待ち合わせて、仲間のリエさん経営のカフェレストランに連れて行ってもらう。ものすごくおいしいワンプレートランチ。本日のメインは、エビチリソースだったが、これまで食べたなかで、いちばん「気に入りました」。
ふたりでまたまた歩く。木戸孝允(たかよし/桂小五郎)の生家だ。日本海だ。菊ヶ浜だ、指月山が見える。浜崎町だ……。
夜は梓の友だちとごはんを食べたり、おしゃべりしたり。萩に住むひとの悩みのようなものに耳を傾けながら、まじめに地元を愛してる……ことに、感動する。
翌朝、うどんをすすり、梓と別れる。
スーパー萩号のバスに乗り、新山口駅に出る。
駅前のコンビニエンスストア「ポプラ」で、読むものと、ヨーグルト、ナッツを探す。書棚が充実していることに驚く。なんと、なつかしい『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー、池内紀 訳/新潮文庫)をみつけたので、興奮して求める。
もうひとつ興奮したのは、店内に、ご飯スペースが空いている弁当が置いてあり、レジに持ってゆくと、店員がそのおかずだけの弁当を電子レンジにかけて温め、大きな炊飯器から炊きたてのご飯をよそってくれることだ。店員さんは忙しくなるし、弁当の客もそうでない客もちょっと待たされるが、なんとも温かい。
「ポプラ」で『飛ぶ教室』を手に入れたことは、今回の旅の不思議な締めくくりであった。『飛ぶ教室』を読みながら、わたしは東京に戻された。
旅を記録するにあたり、歴史的なこと、ひととの会話、仕事のなかみについてはほとんど触れずに、ちっちゃな駒のようなことばかりを記してみた。
駒というのは日常を支えるが、旅をも彩る。そのことが証明できたなら、うれしい。
萩で知り合った素敵なご家族から、
山の栗をお土産にいただきました。
そうして、帰ってみたら、福岡の友だちから、
すだちが届いていました。
お父さまの形見のすだちの木の、すだち。
「収穫中、近所のネコちゃん2匹が見守ってくれて、
地面に落ちたすだちでコロコロして遊んでいました」
というお手紙つきで届きました。
旅の前には、京都の銀杏をいただいたばかりです。
作物があつまるしあわせに、震える気持ち。
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コメント
ふみこさま。おはようございます。
萩でお嬢様と待ち合わせての旅と様々の出会いに
こちらまでこころがふわっとしました。。
旅の駒を取り出しては今も温かい思いに包まれていい朝スタートでしょうか。。お仕事おつかれさまでした。
私も昨日横浜で用事がありふらっと訪れたそごう美術館での
「不思議の国のアリス展」。はじめてみるルイスキャロルの涙の池の
スケッチ。直筆の絵のあたたかさにくらっとしながらやっぱり
ボートで川下りをしながら生まれたこの作品創作への思いにちょっと
近づけてうれしかったです。35年くらい前に訪れたオックスフォード
の川さんぽの光景もふっと浮かんできて不思議の国へ一瞬ワープ
しちゃいました。ふふ。外へ出ると港からシーバスもでていて
乗っちゃおうかなーと思いましたがね。。帰ってきました。
小さな旅の駒。いいですね。アリスの世界にちょっとまだいます。
ではふみこさん。皆さん。いい一日お過ごしくださいね。
(ふみこさんと皆さんで終わらないお茶会したいですー。ふふ。)
投稿: 真砂 | 2019年10月22日 (火) 10時41分
真砂 さん
アリスの国にも行きたいです。
いつもご案内をありがとうございます。
わたしも真似して、くらっとしたい。
こういうつながりにも、
くらっとしつつ……。
終わらないお茶会の日まで、
「またね」。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月22日 (火) 11時20分
ふんちゃん皆様こんにちは。
旅をすると様々な出会いがあり
こころがリフレッシュされますよね。
梓様もお元気そうでお話聞けて嬉しいです。
私も旅に出たいどこかに行きたい!という衝動に駆られていますがまだまだ行けません。
実家に行くことも中々の旅です。
体が弱ると母が恋しくなるものですね。
大人になっても恋しいのだから
毎週帰ってくる義理姉に疲弊している
場合ではない、と反省しました
投稿: たまこ | 2019年10月22日 (火) 12時55分
ふみこさま、皆さま
しばらくご無沙汰しています。
旅で出会った人びと、食事、本、音楽はいつまでも残りますね。スーパー閉店滑り込みセーフでゲットした純和食のおかずとパンの取り合わせ、想像してこちらも楽しくなりました。
学生時代、旅先で翌朝のごはんを探すもお店がなく、見つけたお菓子屋さんでバームクーヘンの切れ端袋(パンの耳袋みたいな)をゲットし、翌朝わいわい食べたこと、思い出しました。
1ピースの駒にもくり返し励まされます。
今夏の長雨のせいか、8月、大量のミノムシ達がどこからか引っ越ししてきて、庭の南天があれよあれよというまに丸裸になってしまいました。ちょうど母の体の変調、入院と重なり、「難を転じる」木を切るのはためらわれたのですが、復活を信じて切りました。
すると2週間ほど前から、新しい葉っぱが勢いよく生えてきてくれています。紅葉、落葉の季節なのに、芽吹くなんてなんとたくましいこと!
そして今日は球根をたくさん買いました。チューリップ、水仙、シラー、クロッカス、ムスカリ。自分の家と実家の土にどんどん植えて、芽がでるのを楽しみにしようと思ってます。
先月、母が自宅療養をはじめました。ゆっくりと日常生活を取り戻しつつあった今月はじめ、今度は父が倒れました。母が付き添えないため、父も不安が募るのでしょう。リハビリを断固拒否し、情緒不安定や見当意識障害が強くなってしまっています。「少しでも歩けるようになって早く家に帰ろう!」のメッセージを柔らかく伝えられるように、父がリハビリに応じてくれるように・・・願いをこめて。
投稿: 円 | 2019年10月22日 (火) 23時23分
たまこ さん
毎日、旅気分でいるのですが、
ほんとの「旅」は、やはり、
おもしろみが深いです。
たまこさんも、
大事ないのちの旅をされています。
どうか、お気をつけて、佳い旅を。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月23日 (水) 22時02分
円 さん
お庭の南天の芽吹きは、
不思議に素敵ですね。
佳い兆しですこと!
お父さまも、リハビリへ進まれて、
あたたかい日に、おうちに帰られますように。
帰られますように。
お祈りします。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月23日 (水) 22時05分
ふみこさま。
旅いいですね。
私は、なかなか旅に出られないのですが、毎晩、はるくんに絵本を読んで、お話の旅をしています。
はるくんは、ヨシタケシンスケさんの「みえるとかみえないとか」という絵本が好きで、よく「読んで!」とリクエストされます。
私も、このお話、好きです。
昨日は、5冊読みました。
そして、昨日は、私の誕生日だったのでした。
5冊の本を旅して、のどはからからでしたが、楽しかったです。
最後は、私の作った「ねこばあちゃん」の本をリクエストされ、読み終わるころにやっと、はるくんは眠りについたのでした。
では、またぁ。
投稿: こぐま | 2019年10月24日 (木) 12時38分
こぐま さん
お誕生日おめでとうございます。
いいお誕生日でしたね。
本を5冊もはるくんに読み聞かせて、
喉がカラカラになる、しあわせなお誕生日。
ことしもまた、佳い1年に、
創作の365日に、なりますように。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月25日 (金) 20時19分
ふみこさま。
ありがとうございます。
今日は、お祭りでした。
今年は、ひいじいちゃんが亡くなったので、主人も祭りに参加できず、
さみしそうでした。
ばら寿司、作りました!
ほとんど主人が!
今年のばら寿司は、一段とおいしかったです。
私は、はるくんが大好きな、柿の皮の天ぷら を作りました。
おいしいんですよ!
投稿: こぐま | 2019年10月26日 (土) 20時16分
こぐま さん
喪中の年は、お祭りに参加できない、と
いうこと……?
ほんとは参加して、
天にお祭りを捧げたいのに。
でも、ばら寿司もあります!
柿の皮の天ぷら!
なんだか、とってもこころが湧きます。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月27日 (日) 10時25分
ふみこ様 こんにちは
ふみこさん いい旅ですね
閉店間際に ザザザッと買った
食材も
一人で入った 映画館も
「ポプラ」で買った本も
どれも これも うらやましく
響いてきます
秋らしい旅
こちらは 木についている葉より
道に落ちている葉の方が
多くなってきました
それを ガサ ゴソ ザザザと
踏みしめながら 子どものように
歩いています
今週も ありがとうございます!!
投稿: えぞももんが | 2019年10月28日 (月) 13時33分
ふんちゃん
ステキな旅の一コマを「お福分け」していただいたきもち。
ありがとうございます。
実はね…、
わたしも、奈良へ旅に行っていました。
今回は、家族み〜んなで…。
2番目ちゃん娘とわたしだけ、飛行機でしたが、
残りは、車でフェリーに乗り込む旅でした。
コワイものを抱えているので、旅は何かと神経をつかうのですが、
今回は、優先席を利用させていただいたり、
飛行機でもいろいろな手助けをしていただき、
旅のコツみたいなものをつかむ旅立ったような気がします(^^)
歴史がだ〜いすきになった2番目ちゃんは、
体調のいい時を見計らって、古墳巡りをしてきました。
そこここで石を拾ってきて、うれしそうでした。
大神神社には、家族みんなで行き、おいしい三輪索麺を
食べてきました。
雨の日だったので、あったか〜いにゅうめん。
本当においしかったです。
大家族で嫌がられることもあるのですが、
お店の方は嫌がらずに、
とっても優しくしてくださいました。
「ゆっくりしはってくださいね〜」
と、とっても柔らかいことばにほっこり。
長谷寺にも行き、そこの草餅やさんでは、
「寒いし、お茶、いれましょか?」と、おばあちゃん。
あっちにもこっちにも…、温かい人、空気はあるのだなぁと
しみじみ感じる旅となりました。
帰ってきたら…、札幌は紅葉がきれいです!
次の2番目ちゃんの受診日には、きっと
すご〜くキレイなイチョウ並木が見えるのだなぁとウキウキです。
雪解けからの春、花が咲くのが、一度に色々…と、忙しい札幌ですが、
案外、秋はゆっくり、そして、本当に色とりどりになるのだなぁと
見とれています。
この景色。毎日、見れるこの景色を、大切にしたいなぁと思う今日です。
投稿: もも(^_^) | 2019年10月28日 (月) 13時42分
ふみこさま。みなさま。お元気におすごしですか。
近くへの旅、遠くへの旅、見知らぬ地への旅はいいですね。
最近はひとり旅が好きになりました。
仲間との旅は気づかれしてしまうからなんて言うとずい分年を取ったみたいな感じがしますが、
毎月,1日でよいので自分を解放する日を作っています。
そうしないと自分がパンクしてしまいそうだから。
あれや、これやをこの日だけは横に置いてでかけます。
笑顔でいられるために
機嫌よく家族と過ごせるように
お気に入りの洋服を着て出かけます。
先日は近くの海辺に朝7時からオープンしている石窯のパンやさんがあり
焼きたてを買って、広ーい海を眺めながら食べました。
なんて、のんきと見えるかも?
でも、どんな人も見えているだけがすべてではないので。
喜びも、しんどさもみんな持っていますよね。
カリカリとパンの声が聞こえてくるようで
海は青く、穏やかにしてくれた小さな旅でした。
次の月の旅は
私の夢でもあった東京、池袋、自由学園、明日館に行ってみたい。
旅の計画を楽しんでいるこの頃です。
投稿: ユリの木の花子 | 2019年10月28日 (月) 14時28分
えぞももんが さん
えぞももんがさんは、毎日旅人のようです。
葉っぱを見上げたり、
落ち葉を踏みしめたり。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月29日 (火) 08時02分
もも(^_^)さん
壮大な、そして歴史的な旅ですね。
歴史的な……、には、
ももちゃん一家の歴史入り!
佳い旅を、おめでとう、
おめでとうございます。
奈良、行きたいなあ。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月29日 (火) 08時04分
ユリの木の花子 さん
海辺。
朝7時に開く石窯のパン店。
焼きたてのパン。
ユリの木の花子さんの、
旅の知恵でもあります。
知恵と工夫、
時間みつけ。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2019年10月29日 (火) 08時08分