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2019年11月19日 (火)

わたしはバスを待っている

 その日。
 わたしはバスを待っている。
 行く先は境橋。
 どこかに障害を持っているらしい青年と、介助者が寄り添って立つ。青年はリズムをとりながらカラダを揺らしている。となりにならんだ、わたしも、つい揺れる。
 素敵なのは……、介助者が黒人男性であるところ。なんだか、映画のワンシーンみたいだ。3人ならんで、なんとなく揺れながらバスを待っている。
 バスが来た。
 先に乗ってもらおうと一歩うしろに下がると、介助者が云う。
「オサキニドウゾ」
「サンキュ」
 15分後、わたしが先にバスを降りることになる。
「バーイ」
「バーイ」
 光に満ちた朝。
「きょうは何があっても耐えられる」なんて思う。

 その日。
 わたしはバスを待っている。
 行く先は保谷駅南口経由天神山。
 となりには、背筋をぴんとのばした老婦人。黒いワンピースの上に、黄緑色のカーディガンをはおっている。黄緑色、いいな、いいな、と盗み見る。
 そこへ自転車が通りかかり、黄緑さんに声をかける。
「あらお久しぶり。お出かけ?」
「市役所からの帰りなの。……夫がね、死んだの。突然だったの」
「え!」
 と叫んだのは、わたしである。
 黄緑さん、黄緑さん、はじめて会ったアナタの未来を祈りたい。
 バスに乗りこんだあと、ぎゅっと目をつぶる。

 その日。
 仕事先から友だちとバスに乗りこむ。
 行き先は武蔵境駅。
 座席の前とうしろに腰掛ける。うしろの友だちは膝の上に書類をひろげて、何か調べている。
 バスを降りてから「何を調べてたの?」と訊くと、友だちは「あ!」という顔になった。
「バスに乗ると、仕事するのが習慣になっているんだわ、わたし。ほら毎日バスを3本乗り継いで通勤してるでしょ? バスのじかんは仕事の時間。原稿1本くらい書けちゃうのよ」
「へえ。わたしのバスのじかんは、そうね、観察の時間」
 と、これはわたし。
「お茶して帰ろう」
「ケーキ、食べちゃう?」

*** 
 わたしの住む地域は、バスの路線がいっぱいだ。
 活きのいいサカナが泳ぐように、バスがいっぱい。
 その昔、バスの車掌に憧れて「大きくなったら、ぜえったいバスの車掌さんになる!」と決めていた。大人になる頃には、ワンマンバスが主流になっていたためバスの車掌にはなれなかったが、いまでもバスが大好きだ。
 バスを待つ停留所にも、乗りこんだ車内にも、何かがはじまる気配が漂っている。それで、みんな物語を織る姿勢になってゆく。

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数日前、ことし初めてストーブを炊きました。
みなさん、佳い日日をお過ごしください。

〈お知らせ①〉

12月21日(土)
池袋コミュニティ・カレッジで
西村佳哲(にしむら・よしあき)さんと対談をいたします。
西村佳哲さんは働き方研究家。
2011年1月に奈良で開催された西村さんプロデュースの
「自分の仕事を考える3日間」
というフォーラム(8人のゲストのうちのわたしはひとりでした)において、
あたらしい視点を与えてもらいました。
いわば恩人のような存在です。
あの日から、はたらくことと、生きることを
できるかぎり一致させて生きてゆくという土台ができたように
思うんです。
仕事について、これからの仕事について考えているアナタ、
あたらしい何かを受けとめているアナタ、
ぜひご参加ください。
わたしもとてもたのしみにしています。
日時 : 12月21日(土)13 : 00ー14 : 30
受講料 : 会員 3,410円 一般 3,960円
場所 : 池袋コミュニティ・カレッジ
申しこみ・お問い合わせは……03(5949)5481
パソコン、スマートフォンからは「池袋コミカレ」で検索。
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西村佳哲(にしむら・よしあき)
1964年東京生まれ。プランニング・ディレクター。
建築設計分野の仕事を経て、つくる/教える/書く、
おもにこの3種類の仕事を手がける。
デザインレーベル「リビングワールド」代表。
http://www.livingworld.net/

〈お知らせ②〉

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『ブダペスト日誌』(飯田信夫・著)


第1章 ブタペスト日誌
1988−1991年まで文部省(現・文部科学省)から
ハンガリー共和国ブダペストに派遣。
補習校教員として赴任した日日の記録。

第2章 教師のひとりごと

第3章 子どもの周囲(まわり)

100冊限定で、お頒けします。
お名前/冊数/住所/電話番号
を明記の上、下記へご注文ください。

yfumimushi@gmail.com

定価1,500円+送料100円=1,600円は、
本到着ののち、お振込みください。


ふみ虫舎

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「日記」カテゴリの記事

コメント

ふみ虫さま

その2011年のその場に
私は
ふみこさんをめがけて
会いにいったのでした!

その間にほんとにいろんな
ことがありました。

子供たちがそれぞれに成長し
ひとり歩きをはじめ

父が鬼籍にはいり

あの時のお話、覚えています
断片的ですが(*^^*)

異端、孤独に惹かれると

他の方のことは全く覚えていないという
失礼な(*^^*)
主催の方は覚えていますが


長男が住む街も
本当にバス路線がたくさんあって
乗り継ぎをして大きな駅に行く
とのこと。

バスの中でのこと
時々、教えてくれます。

遠く離れ
ひとりでなにもかも
している もう、大人の息子に
これはどうかなと
考えながら、おくったりして
親バカしています。

投稿: 寧楽 | 2019年11月19日 (火) 10時41分

ふんちゃん 皆様こんにちは。

バスとか電車って物語がありますよね。
一コマ一コマが身近に感じられます。

もう電車やバスに乗ることもないけれど
電車に乗りながらスロー音楽を聴いて
人を見つつうたた寝するのが好きでした。

寒くなってきました。体調は崩していませんか?

私の実母が久々に風邪を引き
自分の家も坊やも赤ちゃんもいるし
差し入れを渡すしかできない日々でしたが

なんとか治ってよかったです

投稿: たまこ | 2019年11月19日 (火) 12時15分

寧楽 さん

奈良のフォーラム。
あの日、2011年の1月
(思えば東日本大震災の、直前です)、
寧楽さんに出会えたのでした。
大きな恩恵でした。
そしてそれは、いまもつづいている……。

あらためて、あのとき、
どうもありがとうございました。

これからも、いろいろいろいろ
おしえてください。

「親バカ」のはなし。
だんだんかたちは変わってきていて、
尊重する大人の相手への、
それは敬意だろうか、と。

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月19日 (火) 13時38分

たまこ さん

ありがとう、元気でいます。

たまこさんも大事な時期です。
どうか佳い日日をね。

どんと構えている様子が伝わり、
たのもしいかぎり。
ほんとうに、立派。

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月19日 (火) 13時40分

ふみこさま

私も、時々はるくんと一緒にバスに乗ります。はるくんと一番後ろの席に座って景色を眺めます。楽しいひとときです。

働き方のお話、聞きたいなぁ。
ちょっと遠いので残念。

私、最近、「ちょっと童話が書けるおばちゃん」になりたいと思い始めました。
のんびり創作していきながら、庭仕事なんかもしていこうって!

先日、はるくんとチューリップとクロッカスの球根を植えました。楽しかったです。
じいちゃんも、こんな気持ちで庭仕事を楽しんでたんだなぁ➰なんて思いました。

はるくんが毎朝、水やりをしてくれています。

投稿: こぐま | 2019年11月19日 (火) 13時48分

ふみこさま。


バスじゃなくて世田谷線&田園都市線に乗って今帰宅。
わたしもボランティアと言いつつこの電車にのると
温かい感じがしたりなにかおもいだしたりほっとするのが
好きでやっているのかもです。

そう言えば。。「バスを待って」石田千さん(2013)小学館
の作品読んだばかりで。。たしかそのなかに武蔵野市のムーバスの
事も出てきたような。。この本読むつもりじゃなくて図書館で
見つけてさーっと読んだので。。なんだかそのつづきみたいでした。ふふ。
20篇くらいこころなごむお話だったかな。

世田谷線の猫電車今日の出番は夕方からの日なのであえず。。
いくつかパターンがあってなんだか気まぐれな猫みたいで
面白いです。車両からみたサザンカ3メートルくらい上から
下までピンクの花おみごとで元気いただいてきました。
ではいい午後お過ごしくださいね。

投稿: 真砂 | 2019年11月19日 (火) 14時49分

こぐま さん

おことばを返すようですが、
すでにこぐまさんは、
「童話を書けるおばちゃん」
ではありませんか1

「もっともっと童話を書くおばちゃん」
ということ?

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月19日 (火) 17時48分

真砂 さん

猫電車に会う感覚、いいな、いいな。

うちのほうの関東バスさんにも、
猫バスつくってくださーい!と
頼んでみようか。

「空を飛ばなくていいです。
地面の上を走るのでじゅうぶんですから」

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月19日 (火) 17時52分

ふみこさま

なんていうか、プロになりたいって思うこともあったんですが、最近、趣味で童話を書いていきたいなぁ、と思うようになりました。
好きなときに感じたことを童話にしていこうと思います。
まぁ 今までどおりってことですね。
あはっ。

投稿: こぐま | 2019年11月19日 (火) 18時09分

こぐま さん

プロとかアマとか、
そういうことじゃなく、作品に
ひたむきに取り組もう、とすることが
目標ですよねー。

自分が描きたいタネを、
うまくキャッチして、育てて、
観察もして。

わたしは、いま、「正確なことば選び」を
探りたい思いでいます。


投稿: ふみ虫。 | 2019年11月20日 (水) 00時27分

ふみこさま

はい。
私も、読んでくださった人が、
ほっとしてくれるようなお話を書きたいです。

ありがとうございました。

投稿: こぐま | 2019年11月20日 (水) 17時48分

こぐま さん

ほっとしとりますー。

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月20日 (水) 23時43分

ふみこ様 おはようございます

車の免許を持たない私は
11月になると 
どこに行くにも一緒だった自転車を降り
バスを使う 季節になります。
行動範囲は ぐんと狭くなるんですが
ふみこさん 私も 人間観察。
いろんな人の 暮らしを 想像して 乗っています。


その日 私はバスに乗っていた

まだ 5時前なのに 外はもう真っ暗で
少し心細いぐらい。
後ろの席は 3歳ぐらいの女の子とお母さん

「おかあさん レイゾウコに いくらある?」
「いくらは ないよ」
「じゃ たらこは ある?」
「たらこはあるよ」
「やった!!」

ホカホカのごはんの上に たらこをのせて
おっきな口を開けて 食べるんだね
いいね。

投稿: えぞももんが | 2019年11月24日 (日) 05時54分

えぞももんが さん

えぞももんがさんの
バスの風景。
お腹もこころも満たされる思いがしました。

ありがとうございます。

バスの旅をしたくなりました。
たらこも食べたくなりました。

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月24日 (日) 10時22分

ふんちゃん

 バスの旅。
 いいな〜、いいな〜。
 わたしは、いつも車。
 それはそれで…、
 歌も思う存分歌えちゃうし、
 涙だって流せちゃうし、
 ラジオを聞いて笑っちゃえるし、
 と、たのしいこともあるのですけれども、
 そこでであって、感じるヒトとのつながり…。
 いいな〜。です。

 先日はね…、
 ちょっとだけ遠い月1回行っているお家へ行った帰り、
 リンゴ農園に立ち寄りました。
 そこには、先に2組のお客さん。
 わいわい、農家のご主人とお話ししながらリンゴを求めていました。
 なんだかたのしそうだな〜と思って、
 わたしも寄って行き、仲間に入れてもらいました。
 「この辺にはさ、リンゴ農園が並んでるけど、ここのが一番だよ!」
 と教えてもらい、
 最後に残った1人だから…と、
 「3つくらい多く入れとくよ」と
 こっそりご主人がおまけしてくれたり…と、
 車の旅のたのしみも味わってきました(^^)
 ダンボール一箱買ったのですが、9キロなんです。
 10キロじゃないんだ〜と、わたしがつぶやいていたら、
 「昔はさ、木箱で売ってたの。その木箱はさ、
 なんぼ入れても18キロでさ。
 その半分で9キロってわけさ」と
 ご主人が教えてくれました。
 長靴を履いて、のんびりとした動き方をするご主人を眺めながら、
 急いでいたわたしが、なんだかもったいないことしてたなぁ〜と、
 体内時計をリセットした気持ちにもなりました。
 ああ、こういったちょっとした出会いって、
 温かいですね。

 わたしも…
 「これからの仕事について考えているアナタ」なのに、
 対談の場所が遠くて行けない(^^:)
 さみしいなぁ〜。
 けれど、昨日求めた「天然生活」で、
 ふんちゃんに会いました!

 今日ね、今日ね、
 生のたらこで、たらこスパゲティーのお昼ご飯しましたよ。
 うふふふふ。
 しあわせです(^^)
 うれしかった〜!!
 今年のシュトーレンは、どこのを買おうかなぁ〜と、
 のんびり思いを年末へむけています。

投稿: もも(^_^) | 2019年11月24日 (日) 14時20分

ふみこさま。みなさま。
バスには思いがたくさんあります。
6年くらいかな、通勤が毎日バスでした。都会と違い、田舎なのでお客さんは3人くらい。どこでも自由にお座りくださいという感じ。
毎日、同じ時間のバスに乗り、帰りもほぼ同じ時間のバスで帰宅。
次第に、運転手さんとも顔なじみになり、1週間運転手さんがシフトで代わってきました。
朗らかな人、おもしろい人、神経質そうな人、人間観察でした。
A運転手からは美味しいラーメン屋さんを教えてもらったし
B運転手からはマンガ、じゃりんこチエの楽しさを聞いたり、
今でも、道路ですれ違うと運転席から笑顔で手を振ってくれます。
私も手を振ります。

もう1つのバスは王子に付き添って、大学病院の送迎のバスを駅前で待ちます。
こちらは、いつも満員。王子はヘルプマークをつけています。
外からは普通に見えても、普通の人のペースでは歩けません。
だから、降りるときはいつも1番最後。
その時に「ありがとうございました」と王子は運転手さんにお礼を必ず
伝えてゆっくりおります。その後ろを私が見守りながら歩きます。
胸がいっぱいになり、涙がでそうになります。
いろんな思いを抱えていても「ありがとう」と言える王子に私はいつも教えられています。

西村佳哲著「わたしのはたらき」を再び読み返しました。
ふみこさんのページはもちろん、川口有美子さんのページにも元気をもらいました。

投稿: ユリの木の花子 | 2019年11月24日 (日) 19時14分

ふみこさま

こんにちは。
ふみこさんと同じ名前の母は、若いころ保育士をしていました。その母が働いていた保育園に、私も年長さんの1年間だけお世話になりました。

家の近くまで園のバスが毎日来てくれて、2人して乗っていくのですが、バスが来るまでは「お母さん」、バスに乗った途端に「ふみこせんせい」になる訳です。

教えられた訳では無かったそうですが、バスに乗ってからの私は自分の母親のことを、「ふみこせんせい」と呼んだそうです。子供なりに気を遣っていたのでしょう。

園に着けば母は、違うクラスの担任でしたから、接する事はほぼありません。私は私の世界で、一日を過ごすわけです。5才の私は朝のバスの中での緊張を、日中の私の世界の中で、和らげていたのだろうなと思います。

園での一日が終わり、またバスに乗って帰る訳ですが、バスを降りた途端に、「ふみこせんせい」が「お母さん」に戻ります。手を繋いで歩いた道を、歌を唄いながら歩いた道を、懐かしく思い出します。

私にとってのバスは、世間の中での自分の立場を、子供ながらに初めてわきまえた場所だったのだな…と、ふみこさんのお話を読んで、少しだけ切ない気持ちで思いました。

投稿: みぃ。 | 2019年11月25日 (月) 16時06分

もも(^_^)ちゃん

そうか、クルマを運転しながら
歌ったりできるんですね。
それ、いいね。
泣いたり、笑ったり、
ぶつぶつ云ったり。

わたしは運転ができないから、
それ、憧れます。

りんごのはなしも、
とってもいいね。

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月26日 (火) 00時41分

ユリの木の花子 さん

バスも素敵なんですが、
やっぱり、王子さまが素敵です。

どんなときでも、
辛い日も、
戸惑う日も、
「ありがとう」と云えるんですもの。

それから。
ユリの木の花子 さん、
町で、もててるね。

投稿: ふみ虫。 | 2019年11月26日 (火) 00時44分

みぃ。 さん

ああ、みぃ。さんは、
子どものころから、
みぃ。さんだったんですね。

わきまえてて、
やさしくて、落ち着いていて。

ひとりでおもしろいことを
考えている みぃ。ちゃん。

大人になってからは、
ふみこちゃんと 友だちになってくださって、
ほんとにありがとう!ございます。


投稿: ふみ虫。 | 2019年11月26日 (火) 00時48分

ふみ虫さま、私の次男は今最寄り駅が武蔵境の大学に通っています。以前からふみ虫様と同じくらい、料理家の高山なおみさんが好きで、ずっと彼女の著作も読んできたので、吉祥寺辺りは憧れの町でした。おとと息子の大学の入学式で初めて足を踏み入れ、何となく空気がのんびりしていていい場所だなと感じました。
私は車で通勤しています。会社の少し手前に最近障がいを持った方達の作業する農園ができ、数台の送迎バスで次々と出勤される様子を見ます。先に着いて列になって並んだ人たちが、後から入ってくるもう一台のバスに向かって、ゆっくりと大きく手を振っている姿を見て、胸が熱くなりました。仲間とまた会えた喜びをまっすぐに表現する事が、今の私たちは苦手になってきたなと感じました。

投稿: 槻田潤子 | 2019年12月27日 (金) 16時12分

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