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2019年12月の投稿

2019年12月31日 (火)

ふみ虫とふみこ

ふみ虫 ことしも終わるね。
ふみこ 終わるね。ゆったりしていたいから、「2019年が終わって2020年になる」というところを、ぼんやり受けとめたい。
ふみ虫 と、云いつつ、クリスマスの翌日、お正月の支度はじめてたでしょ。せっかちだなあ、と思って見てました。さっきもお屠蘇仕込んでたの、見たぞ見たぞ。
ふみこ まあね。ついね。
ふみ虫 2019年、どんな年だった? 
ふみこ おもしろい年だった。友だちにもいっぱい会ったし、なつかしいひとからも連絡があって、来年早早会う約束をしたの。「生きて元気なうちに会いましょう」って。
ふみ虫 家のしごともたのしんでいるように見えたな。11月は、コズエ(二女)が独立したから、引っ越し、部屋替えにも燃えてたでしょ。畳の部屋をコルクに貼り替えたりして、あれ、すごい勢いだった。おかげでこっちの仕事が綱渡りになりました。どうする気だろう……って思ったよ。締切落とす気?って。
ふみこ あはは。今回、恐ろしくぎりぎりだったけど締切は守りました。
ふみ虫 恐ろし過ぎだよ。たしかに、全部間に合ったけど。余裕ってことは考えないの?
ふみこ 考えない。
ふみ虫 年賀状は出したの?
ふみこ よくぞ聞いてくだされた。1228日に1日かけて200枚書いて、投函した。深夜12時に宛名を書き終えて、もうこれでいいかな?って思っちゃってね。いつもならひとこと何か書き添えるのに、やめてね、地域ごとに束ねることさえせずに、抱えて走って、ポストにどさっと詰めこんだの
ふみ虫 ひとこと書かずに?
ふみこ そうなの。でも、宛名書き自分でしたから、そこに気持ちは込めたつもり。……だめ?
ふみ虫 だめじゃないよ。だめって云ったところで、もう投函したんでしょ?
ふみこ 投函しちゃいましたー。
 ところで、ことし、仕事はどんな感じだったの?
ふみ虫 こちらもおもしろかったよ。よく働いた、と云っていいんじゃないかな。その意味では、そちらの「しごと」とこちらの「仕事」も、勢いでバランスがとれた感覚だったけど、どう?
ふみこ そうだったね。
ふみ虫 教育委員の役目としては、今夏、小学校の教科書採択があって、勉強したー!という実感もあります。会議もいっぱいあったなあ。だけどほら、わたし、会議好きだからさ、充実してた。
ふみこ 前から聞こうと思ってたんだけど、どんなふうに会議が好きなのさ。
ふみ虫 公的な発言の場でも正直であろうとすることにも、メンバーの目を見てやりとりしていくことにも、意義を見出してるのよ。この会議を通して実現させたいこと(実現させたくないことも)をはっきりさせる。この目標があるからこそ、会議に賭けられる。
ふみこ そういうところは、家のしごとも同じだね。夢中になるっていう意味では、共通してるのかも。そうだ、セカンドスクール(小学校の6泊7日の宿泊学習)にも行って、なんだかたのしそうに帰ってきたよね。
ふみ虫 うん。わたしは最初の1泊だけ参加させてもらったんだけど、せんせいの力に目を見張ったの。子どもがみるみる変化していく様(さま)にも驚きました。前の年の中学のセカンドスクールのときにも感じたんだけど、教員という仕事は誰が何と云おうと素晴らしい! まわりの大人として、教職員を理解しようとして、応援して、守って、おもしろがる。これがどんなに大事かって思わされてるの。
ふみこ うちの場合、まず親の力不足というのがあるわけなんだけどさ、まわりの大人たち、学校のせんせいたちにうちの子どもたち、いっぱい育ててもらったからね、恩返しもしないと。そうだ、千川小学校の前校長・飯田信夫せんせいの本を「ふみ虫舎」から刊行したね。あれは、わたしもうれしかったわ。
ふみ虫 ことしのトピックスです。久しぶりの編集作業と本づくり。
ふみこ その仕事が本格的にはじまるとき、お酒辞めたんだったよね。あれ、いつ? 
ふみ虫 2018年の12月はじめ。それから飲んでないからね。
ふみこ 酔って眠くなってる場合じゃないって、こと?
ふみ虫 うん。時間を生みだしたいと思い、どこかを変えたいと思い。大酒飲みだったからねー。辞められてほっとしたの。ああ、依存症じゃなかった、って。
ふみこ でも、70歳まで辞めようと約束したのよね、ふみ虫さんとわたし。
ふみ虫 うん、うん。依存症じゃなかったかもしれないけど、途中でちょっぴりとでも飲んだら、またどっと飲んでしまうような気がしたし、そうでなくても、お酒を飲まないことで、日常的に時間がつくれたのは確かだったし。その分、仕事しようと思った。
ふみこ はい。家のしごともせっせとします。
ふみ虫 仕事のはなしのつづきをするね。
 尊敬してやまない庄野潤三せんせいのお宅に伺って、長女の夏子さん、長男の龍也さん、龍也さんの夫人の敦子ちゃんとお会いしておはなししたり、田辺聖子さんのお洋服をデザインした藤本ハルミさんとお会いしたり、驚くべき出会いもありました。
 12月に作家の青木奈緒さん、働き方研究家で聞き手の専門家でもある西村佳哲さんとの対談はとくに印象深かったな。友情の芽生えによって、仕事が深まることを実感した年でもありました。
ふみこ 「どくしょかい」というのを朝日カルチャーセンター(新宿)ではじめたでしょう? それはうまくいってるの?
ふみ虫 うん、何かやりましょうと、声かけていただいて、「どくしょかい」って答えて、実現したの。1期3回(ひと月1回)やってみて、1期で1冊読むというスタイルができたんだ。いま、『まつりちゃん』(岩瀬成子)を読み終えたところです。
 1月からの期では『貝がらと海の音』(庄野潤三)を読みます。だから、この講座、つづけようと思わず、「今期この本を読むのか、じゃ、参加してみるか」と思って参加していただけるといいなと思ってるの。
ふみこ いいね。お仲間って大事だよね。AIの時代になっていっても、仲間との活動を通して、AIのすることをチェックできると思う。「それ、ちょっとちがうんじゃないかな」と物申したり。「これはこうしたらどうでしょうか」と提案したり。でないと、AIのすることが人間のチェックなしに、落ち着いちゃう。
 はなしがちょっと脱線したけど、エッセイの講座はどうなの?
ふみ虫 10年つづいたの。通信講座を含めて、いま全部で60人の仲間ができたのね。2020年は100人まで仲間をふやそう、と思ってる。地方に住むひととも交流できるように。これは夢。
ふみこ 日常生活って、なんでもないことのようだけど、奇跡が積み上がってできているんだね。……ということがよくよくわかった2019年でした。
ふみ虫 まったく同感。
 ね、おせち料理いっしょにつくろう。

***

広場の皆さま2019年、たいへんお世話になりました。
2020年もよろしくお願い申し上げます。きっと佳い年にしましょう。
                                      山本ふみこ

Photo_20191230220801
「年徳神」父がいたころは、父が大晦日に墨をすって
書いて、居間に貼っていました。
父の字を真似て、書いてみました。

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2019年12月24日 (火)

光を当てる

 12月21日(土)。
 池袋コミュニティ・カレッジでの対談イベントVol.5が開かれた。ゲストは働き方研究家の西村佳哲(にしむらよしあき)さんだ。
 実際にお会いするのは何年ぶりだろう、久しぶりだったけれども、不思議にそんな気はしない。
「こんにちは」
「おう、こんにちは」
 という感じで再会し、それでもお互いかすかに照れながら、近況やら、ちっちゃな打ち明け話やらを重ねた。じきにはじまろうとするイベントのなかみについてはまるで話さなかった。

 さあ、そのときがきた。
 集まってくださったお客さまは30人あまり。
 西村さんは、機嫌よく、はなす。
 なめらかに、しかし時に考えながらことばを探し、選び、ぽつりぽつりと。これまでたくさんのひとと対談し、インタビューしてきたはなしはおもしろかった。ひとの見方感じ方について。「その道」を極めたひとの見方感じ方は、あたりまえのものとは異なる。ひとと同じものを見聞きしても、まるでちがうのだという。
「ひとつ誇れることがあるとしたら、ぼくにはそれをみつける能力がある、ということ」
「見方感じ方ね。そうか、そうなんだ」
「ふみこさんの暮らしの描写はやっぱりおもしろい。家のしごとをみつめるみつめ方感じ方にも、ひととはちがうものがある」
 と云っていただいて、喜ぶ。

 そうなのだ。
 西村佳哲さんは、わたしのなかの何かに光を当ててくれるひとなんだ。わたしは喜んだり、跳ね上がったりして、「そうか、じゃ、この調子でゆこう」なんて具合に自分を肯定できるのだった。
 わたしも、ひとの何かに光を当てたい。
「それ、とてもいいですよ」とね。
「ほら、こんな才能がありますよ」とね。

 これを、2020年の目標とたのしみにしよう。

 西村佳哲さん、どうもありがとうございました。

Photo_20191224110801
クリスマスの玄関飾りです。
佳き、考え深い聖夜を、どうか。

〈お知らせ〉

どくしょかい
朝日カルチャイセンター新宿にてはじまった講座、とてもいい雰囲気です。
つぎの3回は『貝がらと海の音』(庄野潤三/新潮文庫)をとりあげます——各自でご用意いただき、読んできていただきます。
1期ごとの参加も大歓迎です。ご参加お待ちしております。

日時2020年1月27日(月)、2月24日(月)、3月23日(月)3回
   13:00〜14 : 30
受講料 会員 10,560円(入会金は5,500円。70歳以上は入会無料)

     一般 12,540円
お問合せ・申しこみは下記へ
朝日カルチャーセンター 朝日JTB・交流文化塾 新宿
https://www.asahiculture.jp/shinjuku
でんわ 03-3344 -1945

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2019年12月17日 (火)

反省し過ぎ注意報

 2019年が残りわずかとなった。
 60歳になって迎えたことしは、動きの活発な1年だった。
 動き。それは、あたらしい事ごとが待ち受けていたという意味もあり、わたし自身、手足をよく動かした(アタマだって、常よりは回転させたのではなかったか)という意味もあり、だ。
 そうしてこの時期、ちょっとうしろをふり返ってみると、どうだろう……。しくじりやら、行き届かないことやら、仕損なったことやらが、あちらこちらに立って、ぴょこぴょこ頭を揺らしている。
 それを見たわたしは「ええっ!」と叫び、頭を抱えたり、身をよじったりする。

「こんなはずじゃなかった」
「えー、いやだー」

 すんだことは仕方ない。
 その時点に戻ってやり直せるなら、やり直すけれども、それはかなわない。だいいち(ここがもっとも重要な点なのだが)、やり直せるとしても、たいがい似たり寄ったりの結果となる。たとえその地点のことはうまくやり直せたとしても、こんどはお隣りあたりで、しくじる。そうだ、わたしというひとの「出来」は、そんなふうである。
 つまり、すっかり首尾よくやり遂げることかなわず、ところどころ、いつも綻(ほころ)んでいる。縫ったつもりでいるのだが、縫い忘れるのだか、縫い目が荒いのだか、綻びが生まれる。

 その昔、あれは小学5年生のときだった。
 裁縫の時間に、「運針」をやらされた。
 やらされた、などと云うところからして、ひねくれているが、やるにはやったのだ。
 机の上には、手ぬぐいの3分の1くらいの大きさの真っ白い晒し木綿1枚、セルロイドの小さな裁縫箱がのっている。
「はい、それではまず、運針をいたしましょう」
 とアオヤギセンセイが云われる。
「ヨーイドン」というセンセイの掛け声で、各自一斉に、糸を通した針をちくちくやって、晒し木綿の上に縫い目の筋をつけてゆく。
 そうそう、「ヨーイドン」までのあいだに、糸を通して、玉結びをした針を10本机の上にずらりとならべておく。アオヤギセンセイとしたら、運針の上達を目指して「10分間の運針」を考えだしたのに、わたしはともかく数をかせぎたくて、どんどん縫う。まるでレース(競争)だ。針目なんか気にしていられない。あちらへ曲がり、こちらへ曲がり、ときにハードルを跳ぶがごとき曲芸をして、10分を終える。
 まわりを見ると、わたしのようなのもいるにはいたが、圧倒的にきれいな針目、堅実なる針の運びを心がける学友が多かった。男子はいたろうか。いたような気がするが、覚えていない。
 わたしの晒し木綿の上には、縫い目が8本ほどもならんでいるが、じつに恐ろしい針目であった。

 あの針目を、ときどき思い返す。
 2019年をふり返るいまも、額の上のあたりに、あのときの針目が見え隠れしている。さすがに小学5年のときからは少し進歩しているはずだが、思い返して頭を抱えたり身をよじっているところを見れば、それがたいした進歩でないことが証明されようというもの。

 こういうとき、わたしは思う。
 反省はしよう。反省はするけれども、し過ぎないようにしよう、と。
「反省し過ぎ注意報」発令である。
 反省の道筋。初期段階として、仕事全体、関わる団体へ申しわけなさが向けられ、つぎにしくじりの原因を検証。その上で「打ち合わせを綿密にして、◯△と連携してことを進めよう」という具合に、今後の方針が立ち上がる。が、そこから先は、しくじった本人の面目系統の領域に入ってゆく。……ような気がする。
 自分がひとからどう見えているか、という領域だ。
 このあたりから反省は一気に個人的になって、こんがらかり、めんどうになってゆく。
「はい、やめやめ」
 反省はここらで切り上げて、ゆったりするがよろし。

「だからアナタは同じ失敗をなんどもくり返すのよ」
 とは、どうか、云ってくださるな。

 アナタもワタシも、2019年を生きのびました。
 それで、じゅうぶんに……、めでたしめでたし、だ。

Santa
クリスマスの飾りを娘に譲ったり、
ちっちゃな友だちに分けたりして、
手元がさびしくなりました。
そんなわけで、ことし、こんなおじさんを
ある雑貨店から連れて帰りました。
拵(こしら)えは地味ですが、
サンタクロースだと思います。
本人は、そう云っています。
ぼんやりしていて、好きな佇まいなんです……。
大きさは、全長18cm。

〈お知らせ〉

どくしょかい
朝日カルチャイセンター新宿にてはじまった講座、とてもいい雰囲気です。
つぎの3回は『貝がらと海の音』(庄野潤三/新潮文庫)をとりあげます——各自でご用意いただき、読んできていただきます。
1期ごとの参加も大歓迎です。ご参加お待ちしております。

日時2020年1月27日(月)、2月24日(月)、3月23日(月)3回
   13:00〜14:30
受講料 会員 10,560円(入会金は5,500円。70歳以上は入会無料)

     一般 12,540円
お問合せ・申しこみは下記へ
朝日カルチャーセンター 朝日JTB・交流文化塾 新宿
https://www.asahiculture.jp/shinjuku
でんわ 
03-3344 -1945

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2019年12月10日 (火)

じゃがいもの皮

 年に3回は会って、ごはんを食べながらふたりで喋りまくる友だち、ポテコさん(仮名)。
 32年前、ポテコさんとわたしがそれぞれの第二子(どちらも女児)を出産したとき、病院で同室だったという縁(えにし)である。
 仕事を持っていること、北海道出身であること、という共通項もあって……、いや、共通項がどうでも、気が合ったからだと思うが、交流を長くつづけてきた。赤ん坊だった娘たちも32歳になって、それぞれの人生を、自分の足で歩いている。

 毎年、ポテコさんは北海道産のじゃがいもをくれる。
「だんなさんのうちでもじゃがいもを作っているでしょう? それでも、もらってくれる?」
 と訊かれるから、そのたび、
「もらうもらう。いただきます」
 と答える。
 ポテコさんさんのくれる北海道産のじゃがいもは育ちがよく、保存状態もいい(日に当てるとエグ味が出るから、冷暗所に保存)。これをもらうと、わたしは皮ごとごしごしタワシで洗う。そうしてぺろんぺろんと、ひとくちサイズに皮を剥(む)く。ピーラーが得意なひとは、きっとピーラーでこれをやる。
 布巾で水気をとって、からりと揚げる。塩をひと振り。
 そう、じゃがいもの皮のポテトチップスなのである。

 11月に会ってじゃがいもを受けとったとき、ポテコさんが云う。
「若い友人から、揚げないコロッケの作り方をおそわったの。じゃがいもを茹でてマッシュしたら(若いひとは電子レンジでチンするらしい)、缶詰のコーン、塩、マヨネーズを混ぜてまるめます」
「うんうん」
「そしたらパン粉をね、サラダ油をひいて中火で熱したフライパンで、きつね色になるまで炒るの」
「中火で炒るのね」
「このパン粉を火から下ろして、まるめたじゃがいもにまぶしつけます」
「はい。……それから?」
「これで、出来上がり」

 びっくりしたー。
「若いひとのアイデアって素敵よね。『何それ。コロッケは小麦粉つけて卵をくぐらせ、パン粉をまぶして揚げるもの!』なんて決めつけないで、やってみる。そうありたいと思ってるの」
 ポテコさんのこのときのことばも、レシピといっしょに大事にしまう。

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〈お知らせ①〉

12月21日(土)
池袋コミュニティ・カレッジで
西村佳哲(にしむら・よしあき)さんと対談をいたします。
西村佳哲さんは働き方研究家。
2011年1月に奈良で開催された西村さんプロデュースの
「自分の仕事を考える3日間」
というフォーラム(8人のゲストのうちのわたしはひとりでした)において、
あたらしい視点を与えてもらいました。
いわば恩人のような存在です。
あの日から、はたらくことと、生きることを
できるかぎり一致させて生きてゆくという土台ができたように
思うんです。
仕事について、これからの仕事について考えているアナタ、
あたらしい何かを受けとめているアナタ、
ぜひご参加ください。
わたしもとてもたのしみにしています。
日時 : 12月21日(土)13 : 00ー14 : 30
受講料 : 会員 3,410円 一般 3,960円
場所 : 池袋コミュニティ・カレッジ
申しこみ・お問い合わせは……03(5949)5481
パソコン、スマートフォンからは「池袋コミカレ」で検索。
Photo_20191119101501
西村佳哲(にしむら・よしあき)
1964年東京生まれ。プランニング・ディレクター。
建築設計分野の仕事を経て、つくる/教える/書く、
おもにこの3種類の仕事を手がける。
デザインレーベル「リビングワールド」代表。

〈お知らせ②〉

どくしょかい
朝日カルチャイセンター新宿にてはじまった講座、とてもいい雰囲気です。
つぎの3回は『貝がらと海の音』(庄野潤三/新潮文庫)をとりあげます——各自でご用意いただき、読んできていただきます。
1期ごとの参加も大歓迎です。ご参加お待ちしております。

日時2020年1月27日(月)、2月24日(月)、3月23日(月)3回
   13:00〜14:30
受講料 会員 10,560円(入会金は5,500円。70歳以上は入会無料)

     一般 12,540円
お問合せ・申しこみは下記へ
朝日カルチャーセンター 朝日JTB・交流文化塾 新宿
https://www.asahiculture.jp/shinjuku
でんわ 
03-3344 -1945

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2019年12月 3日 (火)

12月1日

 ことしも12月がはじまった。
 12月はじめの日に、決まってわたしは歩みを止める。どんなに急いでいても、忙(せわ)しなくても、立ち止まらずにはいられない。こんな日は、ほかにない。

 121日。
 ぐーちゃんの命日。
 このころの空の色、このころの気温、このころの風の音がこぞって記憶を手繰りよせにかかる。悲しみにからめとられないように抵抗しながらも、わたしはどうしてもぐーちゃんが旅立った朝の気配のなかで立ち止まり、じっとしている。
 痛みに近い悲しみに凍えた朝。34年前の朝。
 あの日、わたしはそれまで思ってもみなかった死生観を身につけた。

 ぐーちゃんは前夫の妹だ。
 同じ学校の後輩でもある。
 自動車事故。手術ちゅうの輸血。C型肝炎。劇症肝炎。
 ぐーちゃんはあれよあれよという間に、旅立った。22歳。確かに見送ったし、白い花一色の葬儀、会場を包んだ映画「炎のランナー」のテーマ曲Chariots of Fire Vangelis(ヴァンゲリス)、アルビノーニのアダージョも記憶に残っている。
 それでもぐーちゃんは、生きている。いつもわたしのなかにいる。もちろんぐーちゃんの父であるチュウトウサンのなかにも、母であるヤエバアのなかにも、兄であるムークンのなかにも、友だちのなかにも、生きているにちがいないから、「わたしのなかにも」と書かなければいけない。
 でもこんな場合、自分でないひとのことは、ほんとうのところよくわからないし、「あなたはどうですか?」なんて尋ねたところで、意味がない。
 ともかく、わたしのなかにも、ぐーちゃんはいる。
「さてこれは……、ぐーちゃんに理解されるだろうか」というのが、わたしの感じ方であり、その感じ方が存在なのである。

 121日がめぐるたび、その昔ぐーちゃんがわたしに贈ってくれた(16歳のぐーちゃんが、学校を卒業する20歳わたしに)本『ぼくたちは幸福だった ミルン自伝』(A.A.ミルン 著/原 昌・梅沢時子 訳/研究社)の分厚い本をばさっと開く。開いたからどう、というわけでもないのだが、これは毎年ぐーちゃんとする遊びだ。

 A.A.ミルンは『クマのプーさん』『プー横丁にたった家』で知られるイギリスの児童文学者、ファンタジー作家、詩人である。プーさんの物語が大好きなぐーちゃんは、手紙に「piglet」とサインする。プーさんの物語に登場する、コブタだ。

 そうしてことし、開いたページで拾ったことばはと云えば、「小説」と「ヒューモア(ユーモア)」だった。そうか、と思う。
 兄のムークンとわたしが離婚したことを、ぐーちゃんに理解されるだろうか、とは、ときどき考える問題だ。「うーん」と云われそうな気がするのだが、そんな気がするたび、こう話している。
「じつはわたしも、説明はできない。『うーん』とか、云っちゃいたい。でも、ムークンと友だちとして生きたかったんだと思う」

***
piglet さま
 ぐーちゃん、121日がまたやってきました。
 あの日からだんだん、わたしは「死」が嫌いではなくなったんだ。ぐーちゃんのおかげです。
 そればかりか、いまは「死」が真の褒美だと思えるような生き方をしたい、と考えるようになってる……。先に旅立ったひとたちとは、あの手この手で会話し、伝えたいことは伝えたい、と思ってます。                    ふみこより

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〈お知らせ〉

12月21日(土)
池袋コミュニティ・カレッジで
西村佳哲(にしむら・よしあき)さんと対談をいたします。
西村佳哲さんは働き方研究家。
2011年1月に奈良で開催された西村さんプロデュースの
「自分の仕事を考える3日間」
というフォーラム(8人のゲストのうちのわたしはひとりでした)において、
あたらしい視点を与えてもらいました。
いわば恩人のような存在です。
あの日から、はたらくことと、生きることを
できるかぎり一致させて生きてゆくという土台ができたように
思うんです。
仕事について、これからの仕事について考えているアナタ、
あたらしい何かを受けとめているアナタ、
ぜひご参加ください。
わたしもとてもたのしみにしています。
日時 : 12月21日(土)13 : 00ー14 : 30
受講料 : 会員 3,410円 一般 3,960円
場所 : 池袋コミュニティ・カレッジ
申しこみ・お問い合わせは……03(5949)5481
パソコン、スマートフォンからは「池袋コミカレ」で検索。
Photo_20191119101501
西村佳哲(にしむら・よしあき)
1964年東京生まれ。プランニング・ディレクター。
建築設計分野の仕事を経て、つくる/教える/書く、
おもにこの3種類の仕事を手がける。
デザインレーベル「リビングワールド」代表。

 

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