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2020年1月14日 (火)

足湯

「ストッキングを買って帰らなくちゃ」
 共通の友だちであるイラストレーター氏の個展を見た帰り、ユビコさん(仮名)が云うので、ついて行く。
 ユビコさんはときどき立ち寄るという靴下専門店に入って、真面目な顔つきで、ストッキングを選んでいる。
 デニールという単位でストッキングの厚さが決まっており、ユビコさん曰く、2030デニールのものはストッキングで、それ以上になるとタイツの領域になるような気がする、のだとか。
「ふんちゃんも買う?」
「ううん。わたしは、5年くらい前にグレー系、肌色系、ブラックを10足ずつ買ったのが、まだあるから、いい」
「なにそれ。そんなんで足りるの?」
 足りる足りる。
 ストッキングというものが好きでなく、足を出すスカートで出かけるとき以外は履かない。帰宅すると、すぐ脱いで洗って、干して、くるくる巻いてひきだしにしまう。そうなのだ、伝染、という事態に陥るほど長時間履かないから、わたしのもとではストッキングが長持ちする。
「そういえば、タイツもあんまり履かないの。どうしてかというとね」
 と云うと、ユビコさんが、おもしろがって「どうしてかというとね、何何?」とわたしの顔を覗きこんだ。
「どうしてかというとね……、足湯にすぐ入れるようにさ、履かないでいるの」
「何それ!」

***
「足湯」と書かれた看板が目に入った。
 こんな街中で、と驚きながら、看板の下の引き戸を開ける。すると、これも番台と呼ぶのだろうか、目の前におねえさんが坐っている。
「足湯1000円になります。タオルがお入り用ならお貸しします」
 千円札を一枚出して、おねえさんの前に置く。
「ロッカーはあちらですが……」
 と云っておねえさんが手で示すほうに目をやると、男ロッカー、女ロッカーと染め抜かれたのれんが見える。公衆電話ボックスふたつ分くらいのロッカー室があるらしい。
「いえ、ロッカーはいりません。タオルもいりません」
 わたしは、そそくさと番台の脇をすり抜けて、ちっちゃな川のみたいな流れのほとりにすわって、靴下を脱ぐ。足を洗う場所で、お湯をかけてごしごしやってから流れに足をつける。
「はああ」
 とため息。
 さっきのおねえさんが、飲み物の注文をとりにくる。料金の1000円にはドリンクの代金も含まれているらしい。
「それでは珈琲をお願いします。ミルクも砂糖もいりません。ええ、ブラックで」
 わたしはつくづく思うのだ。
 ストッキングもタイツも履かないのは、こんなときのためなのよね、と。ただ足先のソックスをひっぱって脱げば、足湯の流れに足を浸せる。
 足湯、足湯……。
***

 足湯とストッキングのはなしはわたしの妄想である。
 このはなしをユビコさんに聞かせたら、あきれられた。
「妄想と云いながら、ふんちゃんは半ば本気だからなあ。足湯を思って、ストッキングやタイツを履かないのね。それにちがいないわ」

 足湯と云えば、母の最晩年、足湯をたのしんでもらったなあ。専用のバケツを買ってきて、お湯を張り、母の足をそっと沈めた。細くなった母の足が湯のなかで、植物のように見えたなあ。青白くて頼りないが、この世につながっている、それはまさしくひとの足だった。
 湯が冷めぬように、ときどき熱い湯を注ぎ足しながら、母の足に触れながら、いろんなはなしをした。足湯は幾度もできなかったが、母の足の感触はわたしのどこかに残っている。

Photo_20200114090901
こんな足湯バケツを買ったのに、
納戸にしまっていました。
使ってみようと思います。

 

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「日記」カテゴリの記事

コメント

ふんちゃん 皆様こんにちは。

寒い冬に暖かいお話ありがとうございます。
私の地域であまり見かけない足湯
気にして探してみようと思います。


さて、私は今年から夢ノートなるものを
つけています。
あるエッセイストの書き方指南をみて、
改めて初めてみました。

ほんの小さな夢ですが
 
食べ切れるゴハンを作りたい
休日のお昼に海外映画をみたい
把握できる範囲のストックをもつ

等、ね、ほんの小さな夢でしょう笑

将来的で長期的な夢かもしれませんが
書きつけておくだけでも励みになります

投稿: たまこ | 2020年1月14日 (火) 10時36分

ふみこさま

おはようございます。
深大寺の秘密の場所のつづきかと思っちゃいました~。

そうそう。。先週浅草に用事がありその後でふらふらと
できたての人形焼きを食べただけでも心がほぐれて
いい感じでした~。あそこらへんにも足湯あってもいいのになあ
なんて。。ふふ。

我が家のベランダは日光でぽかぽかでその隣の部屋も温室
みたいでここに布団を干して置いてお昼ごろあたたかくなった
布団の中へごろんとお休みするのも冬ならではのたのしみです~。
ベランダのビオラたちもあたたかいので
買った時は10センチくらいの苗だったのにいまでは
その2~3倍もあり自由に広がって楽しそうです。
お母様もきっとその足湯の時間は心ほぐれるひとときだった
のでしょうね。
ではふみこさん。みなさんも心ほぐれる時間おすごしくださいね。

ふみこさ~ん。月末用事調整できず、読書会せっかくの機会
作ってくださったのに参加できなくて残念です。
月末から横浜山手芸術祭お手伝い&おとぎオペラがんばります。

投稿: 真砂 | 2020年1月14日 (火) 11時04分

ふみさま、みなさまこんばんは~~

さーて、明日のふみさまブログの更新の前にコメントしなきゃ~
とパソコンを起動させたら、もう更新されてるう~~

そうです、3連休でした・・・
音楽の大学を受験される生徒さんがいらっしゃり、1月に入り土曜も日曜もおいこみレッスンしたり、また、空き家の実家の父の書斎だった部屋のベコベコになっちゃっている床の張替えをだんなさんと超素人の適当作業で開始したため、(床をビローーーンとはがしていって、床の下に土が見えて(゚д゚)!木造の家ってこんな風に簡単に土が見えちゃうんだ・・・とビックリ。土台の梁もかなり痛んでいたりするので果たして復元できるのだろうか・・・。でも楽しい。こんなことでもなければお家ってどんな風につくられているのか知らないで一生を終えたのだろうから。(笑))
もう本当に曜日の感覚時間の感覚がズレてました。

一昨年12月、ご近所仲良しさんらと3人で伊豆旅行にいったとき、散策しながらそこに突然足湯があって、でも私はタイツをはいていて足湯につかれなくて大急ぎでお化粧室を探した事を思い出しました。それ以来、どんなにさむくても、スパッツやレギンスに靴下の態勢で旅行は行くべき。と肝に銘じております。
そうですね。どこに足湯が転がっているかわからないから、履かない作戦はアリだと思います。私もそうしよう。だし、ナイロンのあの感触がそろそろお歳のおきょうさんにはちょっとだめなのかもしれません。皮膚科にお世話になっているのもありますしね。

おかあさまにしてさしあげた足湯。なんだか光景を想像しただけでウルっとしてしまいました。
私の母も今施設にいるため、足湯はしてあげられないけれど、このあいだ、こっそりお正月の和菓子を持っていって若水でいれたあたたかいお茶も隠し持って(外からの食品の持ち込みは基本NG なんです)食べちゃいました。
おいしいね。と笑った笑顔。忘れられないなあきっと。そして来年も若水のお茶一緒にこっそり飲みたいな・・・1つ380円もする和菓子と一緒に(笑)

1つ前の
娘さんとのお正月のお話も、夢の世界で過ごされた元旦のお話も、なんだか私をホッとさせてくれました。
年末にテレビが突然ぶっこわれてしまい、あわてて購入したのですが、今やテレビでもユーチューブでも有料ですが映画でも観られる時代になってしまいました・・・。
いつでも観られるから・と思うとかえって何にも観ないで見る時間を作らずすごしてしまうこともあるような気がします。新しいテレビを前にしてぼんやり思いました。

わざわざ足をのばして、料金をお支払いして、『迫力ある画面や、低音ガンガンのサウンドを楽しむ映画』だけじゃなく『寅さんに会いにいく』こともすごく素敵な時間の使い方だと思います。

投稿: おきょうさん | 2020年1月14日 (火) 18時34分

ふみこさま
足湯のお話、心に染みました。
私は同居した母の足を見たとき、息を飲みました。小さく、骨が出て、青白く。家での入浴を嫌がり、デイサービスでの入浴をしますが、しない日は、家で足湯もよいかな、と、思っていましたら、体調を崩して、慌ただしく入院してしまいました。
あの小さな足もかつては、良く歩き、働き、孫のもりや趣味、旅行と休む暇なく動いていたのです。いまは、歩くのもやっとになりました。もう休ませて欲しいと言っているようにも思えました。2歳の孫の足は、丸々てぷっくり、どんどん
大きく成長しています。これから、沢山の場所を歩き、走りまわるでしょう。夢や希望もあり、
冒険も挫折も。その足が助けてくれるでしょう。
二人の足を見ていると、80年以上の差が明らか。
人生て、長いんだなあ、と思いました。

今は足湯もオシャレなんですねえ。
私も近くにないか探してみます。行ってみたいです。それは、贅沢な時間です。

いつも、素敵な文を読ませていただき、ありがとうございます。

投稿: じゅ | 2020年1月15日 (水) 10時17分

ふみこさま。みなさま。
「ストッキング」と聞いて思ったのです。
最近の私の暮らしは、ストッキングを履くのは冠婚葬祭の時ぐらい。
買い置きなんてしてないから、必要になると急いでコンビニに買いに行ったりです。笑
毎日、二人の孫のお世話、普通の暮らしに近づくために体力作りをしている王子のサポート。
私の日常着としているチノパンやジーパンは気づくと膝が出て穴が開き始めている。そうすると、新調一本と無印良品に買いに行くのが楽しみなんです。

偶然にも二十代のときに書いた文章を見つけました。
添削されているので、短大のころの作品かな。
「私は五十代になっても六十代になっても、ストッキンを履いて装うことを忘れない女性でいたいと思います」と書いてありました。
ストッキングにこだわっているのには笑えましたが、
一日限りのような、はかない靴下に身を包み靴を履きおしゃれをして外出する。もうすぐ、六十代。装う楽しみを持つからね。二十代の私へ。

朝ドラ「スカーレット」の中で主人公きみこが内職の仕事に山のような
ストッキングのほつれを縫い続けるシーンがありました。
今の時代は繕ってまで使うことも貴重になりましたが、このシーンが
とても印象にのこっています。
私の中でもストッキングは大事なものです。

家の近くには足湯がいくつかあります。
温泉。公園にも。しかも無料です。笑

投稿: ユリの木の花子 | 2020年1月15日 (水) 10時37分

たまこ さま

夢ノート。
素敵です。
たまこさんみたいに
ちっちゃい夢が、いろいろ、
というのが、いいと思うなあ。

大きい夢をぎっちり持つと、
見えない力が入る余地が
なくなるような気がして。

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月15日 (水) 13時45分

真砂 さん

足湯カフェというのは、
あちらこちらにあるそうです、ね。

わたしの妄想のは、
「流れ」なんです。

流れている足湯。
いいでしょう?
ね。

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月15日 (水) 13時46分

おきょうさん さん

びっくりしたー。

伊豆旅行の おきょうさん さんの
タイツの経験が、わたしに妄想を
抱かせたのかもしれないなあ。

足湯 = ストッキングタイツだめ

は、いつも頭にあるんです。

歩いていて、突如「足湯に浸かる」なんてこと、
これまで一度もないというのに。

お母さまのこと。
入院していた母のもとに行っては
いい香りのマッサージクリームで、
手足をマッサージするのがたのしみでした。

いま、同じマッサージクリームを
使うと、そのときのことが蘇ります。
泣きそうになるので、
ぱっと母をマッサージしている
イメージに切り替えます。
「おかあちゃま、どう?」
なんてね。
(自分の手足に擦りこみながら)。


投稿: ふみ虫。 | 2020年1月15日 (水) 13時53分

じゅ さん

じゅさんお気に入りの
マッサージクリームで、
手足をこすってさしあげてください。
マッサージしているうち、
頬に赤みがさしてきて……。

そうしてそうして、
マッサージクリームの香り、
忘れられない香りになりました。
いま、また同じ香りに出合うと、
母に云いたいことがあるんだな、と、
思ったりします。

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月15日 (水) 13時56分

ユリの木の花子 さん

予定が入るたび、わたしは、
何を着てゆくか、をまず考えます。
至福のときです。

着るもののことを考えるのが好きですし、
その世界がなくなったら、萎むだろうな、わたしは。
とも思うんです。

……意外でしたでしょうか。

ストッキングを履かなくてすむ装いも、
いっぱいあるのですが、
ワンピースも好きなので、
タイツ・ストッキングにお世話にもなるのです。

で、ストッキングですが、
グレー系が好きなのに、そうは売っていなくなったので、
買いだめしておきます。

好きなブラックのストッキングとともに
ストック。

(うちあけ話、でした)

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月15日 (水) 14時04分

ふみこさま

おはようございます。
流れる足湯いいですね。一緒に入りたいです。ふふ。

そういえば・・川のせせらぎ聞きたくていった箱根宮ノ下の
あたりで偶然見つけた足湯カフェ・・10年近く前でブームでもなかったから
すいていて足湯に使って待っていると頼んだ飲み物もってきてくださったの
なんだかふわーっとおもいだしちゃいました。
ここは奈良屋旅館さんが形を変えて古民家風の建物でたしか古い木々を
そのまま使っていると聞き足湯よりその建物の何から流れてくる
温かいものに包まれてぼーっとしたことなど思い出しうれしくなりました。
またいきたくなって調べてみたら昨日から4月末まで改良工事だそうです。もしかしたら。。ねえねえふみこさん。。。流れる足湯のようなかんじになってたりして。。。ふふ。


さあーて。いい流れのイメージができたので無駄なちからもぬけて
ふみこさんのまねして本番の衣装も昨日きてみたりしたので
今日の練習いい感じでできそうでーす。
では朝から失礼しました~。いい一日おすごしくださいね。

投稿: 真砂 | 2020年1月16日 (木) 08時24分

ふみこさま。

こんにちは。
足湯 いいですね~‼️
私はこの間、娘とはるくんと温泉(スーパー銭湯 )に行って来ました。あったまりました。

着る服ですが、私、今年、30年ぶりに
新婚旅行でオーストラリアに行った時に買った羊毛のセーターを着ています。
若い時は、何だか着こなせなくてずっとタンスの肥やしにしてました。
今日、デニムと合わせて着ていたら、友達に、すごくいいよ‼️ こぐまさんらしいって誉めてもらえました🎵

なんだかとっても嬉しかったです😆🎵🎵
では、また。

投稿: こぐま | 2020年1月16日 (木) 14時58分

真砂 さん

ゆったりとした足湯の思い出
(物語みたいね)、聞かせてくださって、
ありがとう。

足がぽかぽかしてきたよ。

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月17日 (金) 00時52分

こぐま さん

オイルセーターかな。
いいなああ。
素敵だろうなあ。

きょう、わたしは、
ウールのフード付きワンピースを着て、
グレーとブルーが領域を分けているワンピース。
ブルーのタイツを合わせて、仕事に出かけました。
マントコートをはおって。

きょうは足湯には入れない、タイツ外出だったのでした。

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月17日 (金) 00時57分

ふんちゃんへ

足湯バケツ大阪の義母の家にもありました。
体調悪くお風呂に入れない時にヘルパーさんが足湯して
くださってました。懐かしいと思えるようになりました。

ふんちゃんのブルーとグレーのフード付きワンピース姿 拝見
したいな~‼素敵なんだろうな‼
私はタイツ ネイビー派です。
あまり見かけなくなったのでまとめ買いしないとですね。

一昨日、昨日と珍しく平日に2連休でした。
一昨日は友人と福島までドライブしました。
そこで可愛い糸に出会い、昨日はその糸でストールを織り
ました。卓上手織り機で織ります。
太い糸でやさしくゆる~く織りました。
小皿200枚作る きみちゃんのように集中して1日で織り上げました。
それで今日は目がしょぼしょぼ、肩と首に痛みが・・・。
「無理したらあかんでぇ~」ですね。

投稿: ハチミツ | 2020年1月17日 (金) 10時02分

ハチミツ さん

織りまでなさるんですね。
それは、すごい。

とまらなかった、その勢いが
どんなにすばらしい(「いま」を織りこんだ)
ストールを誕生させたのか。
想像しています。

ストールをかけて、颯爽と、
佳い日日を。

投稿: ふみ虫。 | 2020年1月17日 (金) 18時52分

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