夢にも思わない
机の上に郵便物が載っている。
それをひとつひとつ見てゆくなかに、講談社からの包みがあった。
「あ、できたのだな」
居間の書棚に据えている「こころを寄せる場所」。
熊谷守一画伯の「佛前」という絵のはがき(白い卵が3つ描かれている)が飾ってあり、父と母、祖父母、叔父叔母、あの世に旅立ったなつかしい皆さんを思う場所。
ここで、わたしは父ともはなし、叔父ともはなし、たとえば今朝はとっととあの世に行ってしまったマサルクンとぺちゃくちゃおしゃべりをした。
そうして「幸田文さん、幸田さん」と、「庄野潤三せんせい」と、なつかしくも大事なひとにも、語りかけるのだ。
『男』(幸田文/講談社文芸文庫)。
幸田文の「男」をめぐる随筆選の解説の仕事をいただいて、原稿を書きはじめるときも、幸田文さんにこんなふうに語りかけた。
「幸田さんの文庫『男』の解説を書かせていただくことになりました。よろしくお願いします、ふさわしいものが書けますように、どうかお見守りください」
ずいぶん以前に、『男』のゲラは届いていて、たちまちそれを読みきった。どんなときも、締め切りぎりぎりに(短いものだと当日)書くことにしているが、このたびも、そうだった。
ぎりぎりに書きはじめた。
幸田文さんのお見守りがあったからだろう、するすると書けて、わたしは一度読み返して原稿を納めた。
その後初校が出て、それを戻したときも、こう報告した。
「幸田文さん、このたびの仕事をすっかり納めることができました。どうもありがとうございました」
それきりわたしは安堵して、この仕事から離れた。
そうして7月のはじめ、できあがった本が送られてきたのだった。
立ったまま本をとりだし、わたしは、よろけた。
幸田文没後30年 「男」をめぐる初の随筆集『男』。
ページを繰ると、おしまい近く「解説 山本ふみこ」と書いてある。
20歳の年、勤めていた出版社の応接室で初めてお目にかかったときから、40年以上、あこがれて読書をつづけ、その存在を光として追いかけていた作家の……、没後30年記念の文庫の解説文を、わたしは書かせていただいたのだ。
夢にも思わないことであった。
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コメント
ふみこさま
おめでとうございます。
早速「男」の随筆集とふみこさんの解説よんでみたくなりました。
ふみこさん。さすがです。素敵です。
大切な方々に思いを寄せる場所いいですね。
私もあちこちにこころがほっとできる空間を作ってます。
その場所に義母の命日ももうすぐなので花のアレンジを
いろいろ飾ったので心が温かいです。
そして昨日。。。
ふと朝顔を見たら。。やややっ。。
いつの間にかピンクの朝顔のつぼみ双子になっています。
びっくり!
これも天からのプレゼントかもしれないですね。
ちゃんと密にならないように一つのつぼみがふくらんでいて
もう一つは待機中です。しかも3つに一つくらいの割合で
双子って。。おもしろいです。
ではふみこさんみなさんもいいいちにちおすごしくださいね。
投稿: 真砂 | 2020年7月14日 (火) 11時07分
ふみさまみなさまこんにちは~~~
先週までの大嵐は抜けて、本日お天気はアマガエル君のためのような雨の降り方になっています。
シトシト降る雨は嫌いではありません。おうちのなかが静かです。ふきそうじをしたりつくろいものをしたり、ゆったり住まいを整えつつ過ごせるお天気でございます。(いつもはドタドタ騒がしい・・(笑))
私も真砂さんと同じようにこちらのご本を読んでみたくなりました。あわせて幸田文さんの人生もたどってみたいような・・・。
そしてふみさまのその解説もよませていただき、どのようにふみさまがとらえたのか、思いをよせていたのかも知りたくなっております。よい映画や本に出合った後って、
みんなはどんな風にかんじたのかな?
と探ってみたくなっちゃう性格です。( ´∀` )
幸田文さまといえば、お孫さんの
青木奈緒さまとふみさまの対談を受講させていただいたときのときめきが私のなかでまだ昨日のように残っております。
はじめて生(ナマ)ふみこさまにお会いできた日!!
そういったことを考えてみると私にとっても暮らしのエッセイスト、随筆家として広く世に出ていらっしゃるふみさまと面識をもたせていただけたということ。なおかつこちらにて週に1度お話できるということは
びっくりおったまげ(笑)な出来事であり、夢にも思わぬことであります。そしてこちらのみなさまともご縁を結んでいただきました。世の中結構夢にも思わぬことはたくさんあります。素敵。
自分で一歩、勇気をもって踏み出してみることで出会う、『夢にも思わぬこと』をこれからもどんどん引き寄せていきたいなあと思います。、
~~おきょうさんのあさがおにっき~~
まいにちとてもよくふるあめですが、すかーれっとはぐんぐんそだってきました。
くきのとちゅうからもつるがでてきてどんどんしちゅうにまきついていってます。
まきつきなさいよ。
とめいれいしてゆうどうしても、すかーれっとはしらんぷりしてまきつきません。
でもこちらがよそみをしているあいだにしっかりぐるぐるまきついてます。
すかーれっとをのびのびおおきくそだてるには、しちゅうはしっかりたててあげて、しんぱいだけども、しらんぷりをしてあげることがひつようなんな・・・とおもいました。
7がつ14にち
ほんば25まい!つるはぐるぐるになってきました。
投稿: おきょうさん | 2020年7月14日 (火) 13時42分
ふんちゃん皆様こんにちは。
憧れ続けていた人の仕事の
お手伝いをできるなんて嬉しいですね。
きっと、見守りながら
喜んでくれていると思います。
先日、次男のお食い初めをしました。
長男のときとは違い、手作りを頑張り
飾り切りも練習しました。
とっても楽しくできました。
どうかどうか健やかに成長しますように
投稿: たまこ | 2020年7月14日 (火) 14時21分
ふみこさん、みなさんこんにちは。
また寄らせていただきました。
先々週は、久しぶりのふみこさんからのお返事。うれしくてうれしくて、何回も読み直し、温かな気持ちになりました。ありがとうございます。
ふみこさん、本当に素晴らしいことですね。ずっと憧れてきた作家さんの解説文を担当されるなんて。私もぜひ幸田さんの男を手にとってみたいと思いました。
なつかしい皆さんを思う場所。
それは何も仏壇やお墓でなくてもいいですよね。私も亡くなった父に時折、語りかけます。年々、気持ちも変化して、自分の加齢を感じます。笑
投稿: ぞみさん | 2020年7月14日 (火) 16時47分
真砂 さん
双子ちゃんの朝顔、いいないいな。
うちの朝顔は、ひそっとゆっくり
育っています。
たのしみです。
ひとつでも咲いてくれたら、
それでいいような気持ちで、見守っています。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月14日 (火) 19時13分
おきょうさん さん
すかーれっととしらんぷり。
これにはどきっとさせられました。
人同士も、これがいい場合が
少なくないですもの。
哲学的になってきたね、
あさがおにっき。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月14日 (火) 19時14分
たまこ さん
お食い初め。
おめでとうございます。
これからもたのしく、
おいしく、ね。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月14日 (火) 19時16分
ぞみさん さん
おたよりうれしく読ませていただきました。
ありがとう!ございます。
ぜひ、『男』を読んでみてください。
幸田文の作品は、どれもしゃんとして、
立っています。
あらためて読む季節がめぐってきているような
気がしています。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月14日 (火) 19時19分
ふみこさま。みなさま。
今日は雲の間から青空が見えて来ました。
幸田文、没後30年随筆集
解説、山本ふみこ。
うれしいです。おめでとうございます。
あの世とこの世の架け橋がある
時を経て再びつながる。
ステキです。
来週はどうしても乗り越えなければならない出来事があります。
早速、注文しました。
この1冊があれば、なんとか乗り越えそうな気がしたからです。
ふみこさんの解説を1番先に読みたいのですが、最後の楽しみに残して、文さんの作品を味わい解説に到達したいと思います。
本の帯に男はだまってよく働く
だいじにしなければなあと思うとドキリとしました。
夫が43年勤めた会社を先月退職しました。仕事の話は一切しなかった。愚痴も聞いたことはなかった
だいじにしなければ。
このだいじには、これからはもっと愚痴を聞かせて下さいね
愚痴っていいですよ
昼寝もしてくださいよ
そうしてもらいたい。
のんびり、ゆったりと行きましょよと話しました。
随筆集、男を読み終わり
解説を読み終わったころは
私は山を乗り越えて
新しい自分と再会している気がしています。だいじに読ませてもらいます。
投稿: ユリの木の花子 | 2020年7月16日 (木) 09時01分
ユリの木の花子 さん
わかりました。
わたしは、ここで、祈っています。
つよくつよく祈っています。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月16日 (木) 09時54分
ふみこさま。
幸田文さん。凛とした女性のイメージがあります。ふみこさんはお会いしてお話もされてたんですね。そして、今またお話されてるんですね。素敵です。読みたいです!
私、最近マジックを通信教育で受け始めました。今日、保育園で、読み聞かせのあとマジックを披露してきました😃
先生がびっくりしてました‼️子どもたちも喜んでくれてよかった➰😄
明日は、はるくんがお世話になった保育園で読み聞かせの会です。
ヴェノーヴァもオカリナもマジックもやります‼️成功するといいけど。
子どもたちを楽しませたいなぁって思います😃
投稿: こぐま | 2020年7月16日 (木) 19時46分
新しい本を買った時 あとがきとか 解説から先に読むことが多いです。どうしてかと考えると 自分に自信がないのかも知れませんね。私にとってはそれだけ大切なところです。幸田文さんの本早速読みます。
私にとってはこうして山本さんにお便りをして直接お返事を書いていただくのは 「夢にも思わない」ことですよ!!!!何気なく書いたことをほめて下さったり励ましてくださったり そして子育て中の若い方々の頑張っておられる姿を読ませていただいたり!!ありがとうございます!!
孫の描いた絵を刺繡してたのでどうせなら使えるものをと クッションに仕立てました。「どうやって私のところに届くの?」と言うので「郵便屋さんに頼むからね、、」と答えました。さっき郵便局に行って来ました。私にとってとても楽しい時間でした。
投稿: ann | 2020年7月17日 (金) 17時24分
こぐま さん
ひとを楽しませたい、という
こぐまさんの力、エネルギー、
ほんとうに憧れます。
そんな気持ちを少し持てるだけで、
世のなかが変わるなあ、と思います。
保育園の会は、
こぐまさんのスペシャルステージですね。
すごい!
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月17日 (金) 23時37分
ann さん
わたしだってそうです。
直接annさんとおたよりで
語り合えるなんて、夢のようです。
夢のような刺繍のクッションを
つくられる魔法使いのannさんと!
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月17日 (金) 23時39分
ふんちゃん
今日は、久しぶりにあつ〜い!という声を出したくなる暑さの札幌です。
本。
さっそく、注文しちゃいました。
最近…、また夫とケンカをしました。
まだ、して…います。
いつも、同じことです。
こちらから見ると、「勝手に怒り出した」感じの…。
どうもわたしは、父親と一緒に暮らした時間が短かったせいか、
男の人の大事に仕方をしらないようなのです。
なんだか…、夫を尊敬できなくなってきている感もあり、
この本は、わたしに何かをもたらしてくれるかもしれない…と
期待しながら、注文しちゃいました(^^)
梓さんの本を、本当にもったいぶりながら
読み進めています。
ちょっとずつ、ちょっとずつ…。
ひとつひとつ味わいたくなる感じがして、
ひとつ読んでは、そのお店を想像したりしています。
わたしも…、ふんちゃんとこうしてやりとりができる
というのは、本当に夢にも思わないことです。
割と、フツウにやり取りしていて、
「あ?これってすごくない?」と時々思い出して、
うふふふふと微笑んでしまったりしています。
夢にも思わないことは、案外、あるのかもしれないなぁ
と、思って過ごしていたら、
本当になってくるのかもしれない…。
気持ちはあるのだけれど、カラダがいうことを聞いてくれなくて、
なかなか学校に行けない娘に、
そう伝えてみようかと思っています。
元気になっていく自分をイメージすることで、
カラダがついてくるかもしれませんから(^^)。
イメージは、きっと大事!
ですよね…。
では、今週もいいきもちで過ごせますように…。
ふんちゃん、みなさま、どうぞご自愛ください。
投稿: もも(^_^) | 2020年7月19日 (日) 15時27分
ふみこ様 こんにちは
細い火がするすると夜空を駆け上がる。
のぼりきって、ぱあっと花開く前の一瞬、
ためらくようにゆらゆらする。
作家の幸田文が、この「たゆたい」を「花火の味」
と どこかに書いていた。
・・・・・・
今朝の 北海道新聞の 「卓上四季」は
この文章で 始まっていました。
ふみこさん 今年は どこも花火大会のない年に
なってしまいそうですね
残念だけれど
その分 夜空を眺め 星を探そうと思います
私も こうして ふみこさんと
お話ができること
いまだに 実感がないまま
時おり 「すごいことだよ!」と
じんわり 幸せに思うひとりです。
幸田文さんの本 さっそく 探します。
投稿: えぞももんが | 2020年7月20日 (月) 12時21分
もも(^_^)ちゃん
夫は……、ところどころ
息子みたい。
可愛い。
全体的に尊敬しなくていいんじゃないかな。
向こうも……、ところどころ
うるさい婆さん、と思ってる。
ときどき可愛い。
これ、うちの場合です。
お嬢さんも、
「ぼちぼちがんばりゃ、それでいい」
と、自分の脳に伝えたら、どうかな。
ほんとうにしたいことがあったら、
「明日は◯◯へ行くからね」
と伝えておく。
これも、わたしのやり方です。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月20日 (月) 23時27分
えぞももんが さん
しみじみいいですねえ。
花火の味。
べつのそれを
みつけるのが、この夏の宿題。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2020年7月20日 (月) 23時29分