くまがや日記(21)
10月△日
寒くなってきた。
わくわくする。年年、冬が好きになってゆき、かつてそうでなかった時代からすると、夢のようだ。子どものころ、あまり冬が好きでなかった。
「毛糸のパンツを穿きなさい」と云う母に追いかけまわされた記憶。オーバーコートを着たくなくて子ども部屋に(オーバーコートを)隠した記憶。早くあたたかくならないかあと、そればかり思いつづけていた記憶……。冬に申しわけなかった。
この歳になってやっとのことで、この星(地球)のこの区分け(日本)、この地域(埼玉県熊谷市)を1年を通じて愛するという意味で、感覚の四隅が整ったということとしよう。うん、そうだ。ずいぶん時間がかかったけれども。
土間でガスストーブ、灯油ストーブを焚いてみる。
大工のテバカさんが、どこかの現場から新品をもらってきてくれたガスストーブと、長くわたしたちとともにあった灯油ストーブと。両者ははじめ、睨(にら)み合っていたのだが、15分もすると、するりとこの場の住民となってみせた。
5本指のハイソックスを求めてきて、わたしはそれを穿く。そうして下駄。
10月△日
若いひとと話すときの注意点。
娘たちも同じだ。
決して云わないと決めていることがある。
「で、あなたは何をしたいの?」
夢を語る後輩に、将来を悩む後輩に、「で、あなたは何をしたいの?」は禁句。
それをみつけたいと思っている後輩たち、若いひとたちには、「したいこと、するべきことはやがて、あなたのところに訪ねてくるよ」と伝えたい。
人生劇場の登場人物には、恋愛、学び、たのしみとの出合いが待っている。たとえば恋愛なんかは「やらかしちまったー!」という体験も含まれるわけだが(いつかこの「やらかしちまった!」の価値について書きます)、それらは、自分で選びとってゆくものだ。
が、したいこと、するべきこと=仕事や役目は、「そのとき」の自分めがけて訪ねてくる。だから、「自分の天職はなんだろう」なんて考えず、「で、あなたは何をしたいの?」なんてことには答えず、いまできることをすればいい。
と、これは、この日会った若きひとに伝えることができた。
「だからいまのいま、訪ねてきた仕事、役目は断らないほうがいいよ」
10月△日
ポストカードをつくる。
たくさん溜まっているわたしの描いた挿絵のなかから、12枚を選び、それを友だちのりーちゃん(くまがや日記No.20に登場の)がデザインし、りーちゃん夫妻経営の印刷会社で「刷って」もらった。
ポストカードをつくることは長年の夢だった。
りーちゃんとのやりとりのなか、それを生みだしたかった。そんなことを40歳のころから云っていたのだが、そうならなかった。しかし、かなったなあ。
10月△日
二女梢の誕生日。
3人娘とわたしと、4人で誕生日鍋の会を開く。
牛肉あり、豚肉あり、もつあり、野菜いっぱいの鍋の会だ。
「おめでとうおめでとう」と云いながら、口口に愚痴ばなしがはじまる。このメンバーでしかできない愚痴の発表会だ。
おめでとうの梢が、いちばんの聞き役になっているのがおもしろい。
そういえば、このひとの姉、妹、そしてわたしも、梢に「聞いてもらって」気をおさめる場面が少なくなかった。
「聞いて聞いて。仕事でとんでもなく欲張りおばさんに会ってさ」
「聞いて聞いて。自慢話を3時間も聞かされたー」
「聞いて聞いて。なんか忙しくて、日常がぐしゃぐしゃしてるー。落ち着かないー」
梢、水餃子のお尻に噛みつきながら、云う。
「あはは、そういう星めぐりなんじゃないかな、いま」
おしまい。
ポストカードを袋詰め(内職)する
ふみこ……。
近く、お求めいただけるルートをお知らせします。
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