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2021年11月の投稿

2021年11月30日 (火)

とくべつな日

 誕生日は、うれしい。
 いくつになっても、うれしい。

 毎日闇雲に歩いているわたしを、そっと立ち止まらせる日(怠ける日でさえ、わたしは闇雲だ)。
 わたし好みのふた文字から成る「闇雲」とは、いったい何だろう。あらためて辞書にあたる。
「前後の思慮のないさま」。
 ほらきた、これこそわたしではないか。
「むやみ。やたら」。
 どうだ、この符丁(ふちょう)。

〈さて、ことしの誕生日〉
 つい朝方まで仕事をしていたため、目覚めたのは午前9時過ぎだった。誕生日だというのに寝坊をして、と思わなくもなかったけれど、最近、夜更かしも朝寝坊も、自分に許すようになっている。
 子どもを、保育園に送ったり学校に送りだす時代には、決してできはしなかったけれども、そういう差し迫った責任を持たなくなっているからでもある。それから、仕事をはじめて調子が出てくると、それを止めずにこのまま突き進んでしまおうという神経が働くようになった。これが「つい朝方まで仕事」の「つい」の正体だ。かつて「つづきは明日やろう」と思っていた「明日」を当てにできなくなっている。

「明日」の自分なんか、どうなっているか、わかりゃしない……。

〈で、ことしの誕生日〉
 起きてから2時間のちに夫を東京に送り出すと、家のなかに三女の栞とふたりきりになった。
 栞がこちらに一歩踏みだして、云う。
「わたしの仕事は16時まで。そのあと、わたしがオンマ(わたしである)を車で好きなところへ連れて行ってあげる。お誕生日だから。……行きたいところはありますか?」
「なんかねえ、ひとがいっぱいいる街に行きたいです」
「え? それじゃ東京?」
「いえ、大宮はどうかな?」
 よく考えて応えているように見えるかもしれないが、「ひとがいっぱいいる街」なんて云っている自分に自分が驚かされている。さらに「大宮はどうかな」なんてのは、誰が考えて云わせた台詞だろうか。

「大宮、いいね。行こう行こう」
「うん」

 そうしてわたしたちは1620分、それぞれ仕事を切り上げ、車で大宮に旅立ったのだ。
 運転免許を取得したばかりのこのひとの助手席に乗って、これまで熊谷市内のみならず高崎、太田に出かけている。助手席のわたしは「ナビの助」となるのである。
 これがやけにおもしろい。ハンドルこそ握らないが、わたしも冒険者である。
 スマートフォンのなかの「ミッコチャン」(カーナビのアプリにこの名をつけて、呼んでいる)と相談しながら、運転者に道筋の指示を出す。これが「ナビの助」の任務だ。
 ところでミッコチャンだが、運転初心者を鍛えようという気満満で、複雑怪奇な脇道へと誘うのだ。1時間ほどで到着するはずの大宮に、2時間近くかかってたどり着く。しかし、冒険だからね。この新種のスリルは誕生日プレゼントだったのかもしれない。

〈誕生日の締めくくり〉
 珈琲と、ちっちゃいがやけに美味しいピスタチオのケーキを前に、小声で「Happy birthday to you」を歌ってもらったあと、帰り道の計画を立てる。往路のような鍛錬をくり返す必要はないだろう。というわけで、復路として「国道17号線+熊谷バイパス」を選ぶ。「ミッコチャン」には休養してもらい、別のアプリを立ち上げ、相談相手となってもらう。このひとの名は「パトリシア」。
 パトリシアの道案内で、ほとんどまっすぐ走行して家にたどり着いたわたしは、もっともふさわしい誕生日の1日を過ごしたことを知る。

 いやこれまでも、毎日毎日、わたしはふさわしい日を過ごして——あれ? いくつだったっけ?——46歳だったかな? ま、そのくらいの歳になってここにいる。へへへ。

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誕生日祝いとして、ことし、
主として家の土間で履く下駄を贈りました。
土踏まずが盛り上がっていて、
履くだけで気持ちのいい下駄です。
履き初めにポストまで歩いてみたとき、
つまずいて転びました。
……これは内緒です。
「転ぶ」(ほどほどなら)ってのは、
なんだか吉兆だと思えます。

【ふみ虫舎番頭からのメッセージ】
街角にジングルベルのメロディーが響き
おせち料理の予約案内が届く季節になりました。
年末年始、ギフトシーズンの到来です。
ギフトに添えるメッセージカード、
山本ふみこのポストカードはいかがですか。

どんな絵柄なのか、Sampleをご紹介します。
山本ふみこが過去に描いた挿絵や描き下ろした絵、
約800点のなかから厳選した12点です。
このカードを舞台にあなたの気持ちを踊らせてください。

Fumimushiポストカード12枚組 1,200円(+送料180円)

Fumimushiポストカード購入方法【その①】
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2021年11月23日 (火)

わたしの「偏見」

 電車に乗り、あいた座席に腰を下ろす。

「ヨッコラショ」

 東京で仕事をする日は、荷物が多くなる。出たついでに用事をいくつか片付けようとして、かかる資料や、ひとに渡すものを持って出るからだ。これでは担ぎ屋の婆あだな、と思いながら、大きなトートバッグを抱えるようにして坐る。

 向かい側の、扉の脇の広告の文字を読もうとして、あれ? と思う。
「言偏」のとなりの「つくり」がぼやけてよく見えない。
「諒?」それとも「謀?」はたまた「諮」のようでもある。
 目が悪くなったのか……。老眼ではある。が、そんなのは、30歳代の終わりにはじまっていたし、どうということはない。見えにくいのは近くのものだけだから、本や新聞を読むときには、あるいはまた原稿を書くときには老眼鏡をかければ、たちまち見えるようになる。
 遠くのものは、ひとの顔でも、文字でも裸眼でゆける。
 自分はつまり老眼であるだけだ、とわたしは思っているのである。
 ところが「言偏」のとなりが見えないとなると……、乱視だか遠視だかもはじまっているわけではないのか。
 眼科検診のときのように、片目で見てみよう。
 片目を塞ぐ黒い道具——あれは遮眼子(しゃがんし)と呼ぶそうである——の持ち合わせはないから、片目をつぶる。右目……。なんだか、よく見えない。左目……。これまただめだ。
 何度か目をパチパチやっていたら、向かい側の座席の男性が、怪訝そうな顔をしてこちらを見ているではないか。

「アラ、タイヘン!」

 そうなのだ。
 ウィンクと勘違いをされている。
 いや、ちがうんです、ウインクでも、ウインクの練習でもないんです。広告の文字を読みとろうとして、目を……。と云いたいが、そんなことできやしないから、下を向いてもじもじする。
 しばらくもじもじしたあと、顔を少しだけ上げてちらっと見ると、向かい側の男性は、何事もなかったように、手もとのスマートフォンを眺めている。
 誘惑のウインクと受けとられなくて、よかった。
 女だてらに、はしたない真似をしたものである。

 それから数日後、新聞(毎日新聞/1121日)で、作家の五木寛之と、池上彰の対談を読んだ。じつにおもしろい対談であった。
 五木寛之が89歳になっていることにも驚いたが、表現者として課題を受けとめる姿勢が柔軟で、うつくしい、と驚かされる。
 課題とは主にジェンダーの問題であった。
 五木せんせいも、つい、不用意な言葉を書いてしまうというのだ。
「この前も『女流作家』という言葉を使ってしまいました。そんなことがしょっちゅうあります。『女々しい』や『雄々しい』という言葉も同じ問題です」
 ジェンダーの問題について理解しているつもりでも、ありとあらゆる偏見が自分のなかにこれほどたくさん詰まっていると思うと、驚きであり、絶望的でもある、と。
 
 いまのいま、ここまで綴ってきてふり返ると、この草稿にも偏見が存在している。
 たとえば「担ぎ屋の婆あ」。
 これには、「担ぎ屋」(野菜や魚などを生産地から担いできて売る人の意)と「婆あ」(老女をさげすむ呼び方)、二重の偏見があるようだ。そんなつもりはなくても。
 それから「女だてらに」は、女にも似合わず、とか女のくせに、いう意味であり、ここには問題があるだろう。
 つづく「はしたない」にも、「女」という性に対する差別がある。

「言葉の問題」に向き合うことは必要だが、そこに存在する矛盾も認識していないと、過去の文学作品を否定することになったり、未来の有りようから自由を奪いとることになる。

 電車のなかでのウインク事件が、思いもかけない課題となって、わたしのなかに棲みついたようだ。

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青トマトをどーっさりいただきました。
「どうしましょう」
と思いかけましたが、こんなときには、
あまり考えず、手を動かすのにかぎります。
どんどん刻んでピクルスにしてみました。
サラダに加えたり、炒めものにしたり。
愉快な調理でした。

【ふみ虫舎番頭からのメッセージ】
山本ふみこのFumimushiポストカード12枚組、
どんな絵柄なのか、興味深々の方にSampleをお見せしますね。
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ぜひ、このはがきの上であなたのことばを踊らせてください。

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2021年11月16日 (火)

 微笑む口

 新型感染症がひろまってからも、出かけること、ひとと会って仕事をすることが少なくはなかったし、埼玉県熊谷市に移住後、古い古い家に訪ねてきてくれる友人もあった。
 活動はむしろ活発になっていたともいえるけれど、それでもなんとなく、心身はまるまっていて、まあるく身を縮めて用事をすませると、ころがるようにすぐ帰宅する生活がつづいていた。家にいるときも、まるまりを感じて、このままだと、人間ハムスターになる、とまで思ったりする。
 想像ついでに、ハムスターになってもかまわないじゃないか、「ヒトは生物である」という自覚をとりもどす意味では……、なんて考える。

 ……ハムスターのような愛らしさはなく、雑食であり(ハムスターに比して相当の量を飲み食いする)、その上電気をいっぱい使う。

 そうだ、この2年のあいだ、わたしは自分が「ヒト」であること、「ヒトは生物であること」、そうして「ヒトよ、調子にのり過ぎるなよ」ということを思いつづけてきた。
 だからこそ、まるまりがちになっていたのかもしれない。

 先週は東京新宿にある教室で、1年ぶりにエッセイの講座を開くことができた。集まった仲間たちは、1年前と変わらないように見えたけれど、じつのところ、それぞれの1年を生きてきた「ヒト」である。
 久しぶりの再会で、誰もが饒舌になるかと予想していたが、皆、話すより聞く「ヒト」になっている。口より耳の「ヒト」である。
 耳が冴えるのはいいが、マスクに覆われた口が衰えるのは、困る。
 食べる、話す、微笑む口を大事にしなくては。
 わたしはと云えば、冴えた耳に向かって、何を伝えられただろう。

「書こうという『気』をこれまでよりも上げて、書いてゆこう」
「隠しようもなく作品にあらわれる書き手の人間性を鍛えよう」
「書くことば、話すことばに艶(つや)を。そのために……まずハンドクリームを手にすりこもう」

 いまのいま、自分に云って聞かせていることを、縷縷(るる)と口から吐くのだった。

 久しく執筆から離れていたひとたちが、新作を見せてくれたのは、うれしかった。
 仲間のひとりのキシコさんがぽつりと、しかし幾度も口にした「勘がいい」ということばがこころに残る。初めての土地に移り住み、あたらしい仕事もはじめもうとしているキシコさんが云う。
「いまわたし、勘がよくなっているのです。何かに呼ばれて動いてるような気がしています」
 前向きに歩みを進めようとしているのが伝わる。
 それを喜びながら、帰り道、気がついたのだった。

 そのときの勘がよかったかどうかは、あとになってわかること。
 何かに呼ばれて動いたとして、その意味はあとになってわかること。

 ともかく「いま」をたのしみながら前へね、キシコさん。

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先週販売を開始した山本ふみこのFumimushiポストカード12枚組、
多くの方に注文をいただいています。ありがとうございます。
山本ふみこ本人を先頭に家族で袋詰め・発送をしています。
https://youtu.be/fGtzrwPQ_Cw

Fumimushiポストカード12枚組 1,200円(+送料180円)

在庫がある限り、ロングセラーをめざして販売していきますので、

ぜひ一度手にとって、山本ふみこの絵とあなたの言葉を
コラボさせてみてください。きっとワクワクしますよ。
(ふみ虫舎番頭より)

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2021年11月 9日 (火)

くまがや日記(23)

11月★日
 出かけるまでに30分ある。
 腕時計を見て確認し、袖口をまくりあげる。
 イショクゴテを握りしめる。ちっちゃいシャベル(それともスコップ?)のことをイショクゴテ(移植ごて)と呼んだのは父だった。

(イショクゴテって、韓国語みたいだな)。

「イショクゴテ ル(r) ソボジャ」(なんちゃって)。

 素焼きのまあるい植木鉢5個、四角いプランター4個をよっこらしょっと運び、鉢底の穴を割れた植木鉢のかけらでふさぎ、赤玉土を入れる。その上から袋を傾けて培養土を……。結局イショクゴテは使わなかった。
 隙間時間をみつけてひとつ作業を片づけようとするときのわたしは、乱暴だ。
 それでも、黒い土の入った素焼きの鉢たちの行列は、期待感にあふれて見える。作業をするのが乱暴者であっても、土は待っている。
 ご期待には、こたえますとも。

 11月のはじめ、翻訳家でエッセイストでもある高橋茅香子せんせいから球根が届いた。それは2種類3パックの寄せ植えの球根。
 ひとつにはクロッカス2種、プシュキニア、チオノドクサが、もうひとつにはチューリップ、ヒヤシンス、アイリス、チオノドクサが詰まっている。粗忽者にも、乱暴物にも、寄せ植えがたのしめるように、詰め合わせとなっているのである。
 しかし、茅香子せんせいから託された球根たちを、ふさわしい深さに植え付けるため、説明書を確かめながら埋(うず)める。クロッカスは、頭の先を土の表面から少し出すように植え付けるように、と書いてある。
 急ぐあまり、寄せ植えの花のイメージを描きながら植え付けられたかどうか心もとないが、きっと、春には花花に会えるだろう。
 球根から茎と葉が生まれ、花が咲きはじめるころ、茅香子せんせいをお招きできたならうれしい。

 30分間の園芸作業を終え、スカートについた土を手で払いながら、駅に向かう。

11月★日
 友人ふたりが来訪。
 東京都武蔵野市の教育委員時代、親しくしていただいた校長、副校長せんせいだ。小学校から離れたあとも、武蔵野市の教育のために力を尽くされている。

 3人で田畑のあいだの道を歩く。
 空を見上げたふたりの、雲の授業がはじめる。
「きれいなすじ雲だ」
「でも、低いところにありますね」
 道端の木を見て、研究がはじまる。
「これが『梶(かじ)』ですよ。赤い実がついているな」
「ああ、梶。桑より少し上等な梶、ですか」
 3人目のわたしは、すこおし利口になって歩いてゆく。

「前校長せんせい、前副校長せんせい、ソフトクリームを歩き食べしてはいけませんか?」
「食べます」
「食べながら、歩きます」

 晴れた気持ちのいい日。

11月★日
 末娘の栞、運転免許を取得。
 これからしばらくのあいだ、運転練習につきあうこととなるだろう。
 後ろ向きな発言、「おお怖」なんてつぶやきは封印して、乗客となることを、自らと約束。

11月★日
 わたしが描いた絵がポストカードになり、そろそろその販売がはじまる。
 これまで拙著に、新聞連載にと描きためてきたさし絵のなかから、末娘の栞が12枚選んで、わたしの友人の佐藤カヲリ(デザインと印刷)とやりとりし、ここまでたどり着いた。
 さし絵たちがうれしがっているのがわかる。
 わたしの手からはなれて歩き出した彼らの、あたらしい旅がはじまる。

「山本さんがわたしに宛ててはがきの隅に描いてくれた、黒猫の絵。これを見て、本のイラストはご自身で、と思いつきました」
 と編集者が云ってくれたところから、絵の仕事がはじまった。
 ……そうか、黒猫の絵からはじまったんだな。
 17年間ともに暮らした黒猫のいちごのすすめだったのかもしれない。ありがとう。

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これまで拙著や新聞連載のために描いてきたさし絵のなかから、
12枚を選んでポストカードにしました。
皆さんのことばが、ここに置かれることが
なんともうれしい……です。 ふ

【Fumimushiポストカード販売開始】
このたびFumimushiオンラインショップを開設いたしました。
オンラインショップは、下記のURLからご覧いただけます。
ポストカードの詳細確認・ご購入もオンラインショップで。
ぜひ一度ショップにあそびにきてください。

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2021年11月 2日 (火)

くまがや日記(22)

10月◯日
 寝る前にもうひと仕事、と思って机に向かう。
 いつのまにか夜が更け、全身冷気にまとわりつかれていた。
「さむ」
 気を散らし散らし仕事するのが得意なわたしだが、ふと我を忘れることもあって、そうなるとまわりがまったく見えなくなる。いつのまにか峠にひとり、佇んでいたりする。夜はことにそうなりやすく、登ってきた山をどんなふうに下りているのだか、わからない。わたしのことだから、「ころがり下りる」のに近い有様(ありさま)ではないのか。
 冷えきりついでに玄関の戸をガラリとあけ、おもてに出る。
 すると、すると、あたりの暗がりの上空に、瞬くものが見えた。
 オリオン座、金星に挨拶。
 じき、水星が見えるかもしれない。
「ちぎれるようなかなしみ」ということばがふと浮かぶ。
 その感覚を記憶のなかに探しながら、この頭上のうつくしさは、それにも似ているようだ、と思ったりする。

10月◯日
「熊谷での暮らしのスタートは、どう? 順調のように見ているけど……」
 と、友だちからメールあり。
「順調」というのが、すらすらと調子よくゆくということなら、それはちょっとちがうかもしれない。
「いまのところ、飽きずに暮らしています。ええと、でもね、いやーなこともあります」
 と、甘えたことばを返す。

 そうだ、いやーなこともときどきある。
 熊谷に移り住んだことに限らず、日常にいやーなことが訪れるのは、あたりまえだと云われればそのとおりだが……、少し前から、「そろそろ訓練のときがめぐってくる」という予感めいたものが脳裏に点滅するようになっている。
 訓練というのは、いやーな体験のことである。

 少し前、それはきた。
 くるな、と思ってなんとはなしに身構えていた。
 こういうときはふわっと受けておいて、「かわす」のに限る。と、思い定めているのだが、このたび失敗す。かわしきれず、がつんとやられた。
「この地域に引っ越してきて、くるまの運転をしないなんて、気が知れない」
 ということばでそれははじまった。
 いま考えると、おもしろい忠告だとも受けとれるのに、あるいは親身なものも嗅ぎとることもできそうに思えるのに、そのときのわたしはおもしろがることもありがたがることもかなわず、云われるままになって、その上過剰に反応した。
 幸いだったのは、逃げる知恵が残っていた。かわせなかったが、口上をつくろって逃げた(文字どおり、下駄をつっかけたまま、おもてに逃れたのだった)。

「このたびの訓練、たしかに完了いたしました。途中しくじり、結末もうまくなかったかもしれませんが、これで勘弁してください」

10月◯日
 訓練の翌日のことだ。
 自由学園時代の友人3人の来訪。
 フランスのリヨンから久しぶりに来日したそのなかのひとりが、リヨンにもどる前日にやってきてくれたのだ。
 3人の目を見たとき、前日の訓練の仄暗い余韻が、一瞬にして消えた。
 このように知的でやさしい友だちを、わたしは持っていたのだったわ。
 4人で田畑のあいだの道を散歩。
 カラスウリをみつけて興奮したり、空を渡ってゆく鳥の鳴き声を真似したりしながら、無沙汰のあいだのことをごく短く、報告し合う。
 遠いコンビニエンスストアでもとめたソフトクリーム(ベルギーチョコとバニラのミックスです)を舐め舐め帰る。笑い転げながら歩いていたら、トゲトゲの草が靴下やパンツにくっつき、「虫に噛まれたかと思ったー」と云ってまた笑う。

10月◯日
 引っ越してきて初めての選挙。
 家の裏門から、徒(かち)で1分の、公民館に行くと、小雨のなか、長い行列ができていた。

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3人の友だちは、
うつくしいお土産、おいしいお土産を
運んでくれました。
おもしろかったのは、そのなかに野菜があったこと。
里芋4つは、小学校で40年、子どもの美術教育に
携わっている友だちから。
子どもたちが里芋の葉、茎、芋をスケッチした
ときのものですって。

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フランスのリヨンのにんにく。
にんにくを愛するお国柄から、
この存在を大事にしていることが伝わりました。

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