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2022年3月 8日 (火)

旅立ち

 3月2日深夜、ちちが旅立った。
 夫には予感があったものか、その夜はワインを飲もうとせず、こころとからだを空けているように見えた。

 知らせを受けて夫は大急ぎでちちが入院している病院に向かったが、結局、息をひきとるその瞬間には、間に合わなかった。しかし、肉体から魂が抜けだしたあと、自由になったひとの魂は、行きたいところへ飛んでゆくのだとすれば、どこに居てもこの世での別れをすることはできる。と、わたしは信じている。
 ちちは家に帰ってきてくれるはずだから、わたしは家で留守番をした。お茶を淹れて、おまんじゅうを一緒に、と待ちかまえていたのである。

 翌朝、夫は、父の旅立ちを知らせるカードをつくる。

                *

 熊谷市代の地で昭和6年(1931年)1月14日に生を受け、妻となった故三子とともに、この地を愛し、耕し、尽くしてきた父・久輝が旅立ちました。直接の死因は肝門部胆管がんを原因とする肝機能不全。
 91歳の生涯を、穏やかな表情で閉じることができました。息子から見ても、とても誠実なひとでした。
(後略)

                *

 これを読んで、昨年12月に受けとった1枚の年賀欠礼のはがきを思っていた。それはわたしの元夫の父・中父(ちゅうとう)さんの旅立ちを知らせる挨拶状だ。
 ここに、元夫のむーくんが、こう書いている。

                *

(前略)
 ひとことで「よく生きた」人でした。
 ともに歩んだ日々を胸に抱き、心持ちあらたに新年を迎えたいと思います。
(後略)

                *

 息子に、誠実を讃えられ、よく生きたと明言されるちちたちが、わたしにはまぶしい。
 ひととして、これ以上の評価があるだろうか。

 さて、ちちの葬儀を前に、いろいろの準備を運びながら、わたしはしきりにもの思わされている。長く魂の容れものの役割を果たした肉体に対してのなつかしさ、感謝、別れがたさが胸のなかでぐるんぐるんとまわっているのである。
 夫とふたりで納棺の儀に立ち合ったとき、ちちのてのひらに触れた。
 大きな大きな手。
 よく働くひとの、力強くもやさしい手。
 その手に触れても、握り返されることはないのだが、この手の力強さとやさしさを受け継ぎたい、とこころから希う。つべこべ云っていわずに、つよく、やさしく。
 
 お父ちゃん、どうもありがとうございました。
 熊谷での暮らしを、見ていてね。
 そうしてわたしが行ったとき、あの世の入り口まで迎えにきてください。

Hisateru_moe
この絵は、大江萌(夫の前の結婚で生まれた二女/
わたしたちの5人娘の3番目です)描くちちの絵です。
ちちを、よおくとらえた似顔絵だと思います。
萌はイラストレーターとして活動しています。

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 

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「日記」カテゴリの記事

コメント

ふんちゃんへ

お便り読んで
なみだがこぼれました。
お悔やみ申し上げます。

お疲れ出ませんように…。
お祈り致します。

投稿: ハチミツ | 2022年3月 8日 (火) 10時42分

ふんちゃん

 わたしも……、なみだがこぼれました。
 とても温かい空気に包まれてなみだがでたという感じでした。
 
 わたしは、父のとき、やさしくなかったな……と思い出し、
 今は、少し仲良くなったよね……と父に話しかけたりしていました。
 コロナさんが有名になってから、何回目かの1人の家です。
 (いつも誰かいる状態で、本当に久しぶりなのです!)。
 子どもたちを送り出し、夫を送り出し、寝ました。

 ちょうど起きた頃、この広場のふんちゃんのお便りが新しくなる時間でした。
 いつもは使わない器の中から、好きなのを選び出し、
 丁寧にコーヒーを淹れて、ここへ来ました。
 じんわりしながら、
 父が好きだったコーヒーを飲み、父に話しかけています。

 この前、Facebookでオノ・ヨーコのことばが流れてきました。
 ジョンレノンが亡くなったあとのことばでした。
 自分も撃たれたかもしれなかったということと、
 その後、ジョンを撃った人や自分を傷つけた人たちを恨むきもちがあって、
 毎日何もできずにベッドで泣いていた、と。
 ある日、「Bless you」(神のご加護を……)ということばを言いながら、
 憎しみを感じていた人たちの顔が思い浮かんでいた。
 「Bless you,〜」と何度も言いながら、
 そのとき思い浮かぶのは、不思議と自分たちを傷つけた人たちばかりだった、とありました。
 そうして、気づいたら、回復してきていたって。
 誰かに「Bless you」ということばをいうことで、
 そのことばが自分に返ってきたんだと思った
 というようなことが書いてありました(とても不確実な文章でごめんなさい)。

 あまり感情的にならないように過ごしていますが、
 どうしてもニュースを見聞きすると、
 何かにやられてしまうようで、ほうけてしまっています。
 それでも、誰かを想うということを続けようと思いました。

 今日、ふんちゃんのお父さまたちへのことばを教えていただいて父を思い出し、
 彼の地の人たちのことを想い、
 これからも、
 自分にとって、好む人と好まざる人とにかかわらず、
 周りの人(橋を渡って行った人たちも含めて)のことを想って過ごそうと思いました。

 ふんちゃん。今日もありがとうございます。
 お父さまのご冥福を心からお祈りします。
 

投稿: 空色めがね | 2022年3月 8日 (火) 11時16分

ふみ虫さま

お父さまの旅立ちに際し
つつしんでお悔やみ申し上げます。

誠実によくよく働き
家族を守ってこられたんだと
思います。

激動の昭和を生き抜いた人たちは
力強いと思っています。

父の旅立ちのとき
一番涙が流れたのは納棺のときでした。

よう頑張ったねえ。
と痩せこけ、冷たくなった頬を
撫でました。

いまはもう空から
母を私たちを雲に乗って
将棋でもさしながら見ていると
おもいます。

お忙しさが続きます。
おあと、おつかれでませんように
なさってください。

投稿: 寧楽 | 2022年3月 8日 (火) 11時36分

ふみこ先生

心よりお悔やみ申し上げます。
どうぞお疲れ出されませんように。
ほんとうに私の二人の父も大きな手でよく働き私を守ってくれました。

投稿: 岡山のこんちゃん | 2022年3月 8日 (火) 12時07分

ふんちゃん皆様こんにちは。


91歳。月並みになりますが立派に
生きたんですね。
そしてそれぞれの息子さんに讃えられる父親。
そんな親でありたいと思いました。


そして久々の萌様のイラスト。
5人娘の3番目と言うところが
ふんちゃんの優しさを感じます


温かみのあるイラストをかかれるかたですよね。
ふんちゃんも誇らしそう!

投稿: たまこ | 2022年3月 8日 (火) 12時32分

自分がウクライナからの情報に動揺して涙こぼしそうになっていた時に
おふたりはお父さまの旅立ちを見送られていたのだなあ、と胸がいっぱいです。

息子夫婦の熊谷への移住をどんなにお喜びだったでしょうか。何よりの孝行でしたね。
田んぼの仕事をご両親はきっと高いところから見守り続け、応援してくださるでしょう。
そしてふみこさん夫妻の熊谷の暮らしが一層豊かなものになるにちがいありません。

お父さまのご冥福を心からお祈りします。

投稿: Liu | 2022年3月 8日 (火) 13時39分

ふみこさま


お父様の旅立ち
こころよりお悔やみ申し上げます。

3月2日私もおひな様の前で
天に届けるようなつもりで奏でていました。
「ちから強くもやさしい手。。」
わたしも受け継ぎたいです。そっと守ってくれて
いますよね。熊谷での生活ずっと応援してくだ
さいますね。どうかご家族のみなさまでゆっくり
する時間持てますようにお祈りいたします。

投稿: 真砂 | 2022年3月 8日 (火) 14時19分

ふみこさま みなさま

働きものの手を持つおとうさま、お茶とおまんじゅうを喜ばれたでしょうね。ホッと落ち着くひとときをご家族と過ごされたのち、奥さまや懐かしい方々のもとへ旅立たれるのでしょうか。本当にお疲れ様でした。

ふみこさんのおはなしから、わたしは祖母の分厚く硬いひび割れた手を、懐かしく思い出しました。そういえば、もうすぐ祖母の誕生日と命日がそろってやってきます。わたしも祖母とお茶を一緒にしようと思います。

「つべこべ云っていわずに、つよく、やさしく。」受け継がれていく想い。とても素敵です。勝手ですが、わたしも受け継がせていただきたいです。

ふみこさまのご家族みなさま、おつかれでませんように。
おとうさまのご冥福をお祈りいたします。

投稿: ハクセキレイ | 2022年3月 8日 (火) 15時34分

ふみこさま

お父様ご逝去の報に接し
心よりお悔やみ申し上げます。

生涯熊谷を愛し、耕し、尽くしてこられたお父様、
揺るぎない強さと優しさでご家族を包んでこられたのですね。
誠実に生ききる、ことほど尊いことがあるだろうか、と
思わずにはいられません。

息子さん、ふみこさんが
お父様からのバトンを受け取り、走っておられるご様子に
きっと目を細めて喜んでおられることでしょう。

どうぞふみこさん、ご家族の皆さま
お疲れがでませんように。

ご冥福をお祈り申し上げます。

投稿: 円 | 2022年3月 8日 (火) 17時48分

ふみこさま

お父さま 自由にどこへでも行けるようになったんですね。
じいちゃんのこと、思い出しました。
誠実な生き方。
私もしたいと思います。
ふみこさん、ご家族のみなさま、お疲れをだされませんように。

投稿: こぐま | 2022年3月 8日 (火) 21時16分

ふみさま、みなさまこんばんは。

何かの虫の知らせでだったのでしょうか、ふみさまと私の糸がひっぱりあったのでしょうか?
ラジオで聞いてどうしてもみてみたくなった映画

『西の魔女が死んだ』

を昨日仕事前にアマゾンプライムで購入して一人で観ておりました。
肉体がら魂が抜け出る脱出。おとうさまも大成功されたのだなあ・・と思いました。

今は恐れも痛みも苦しみもなく、自由になったお父様の魂はふみさまのお茶とお団子で一服したあと、さまざまに訪れたい場所をめぐっているのでしょう。
熊谷には新しい風がふきこまれ、
これで安泰。安心安心。
と、喜ばれながら虹の橋を渡られている姿が想像できます。

おととい夢をみたんですよ

すでに虹の橋を渡っている弟の潤が
「アネキ、俺は休みの日は1日やきとりを焼いているんだよ」
と、かなりかなりはっきりと私に語っている夢を見ました。

きっとおとうさまもすでに潤の焼いたやきとりで一杯やっておられると思います。まちがいございません。


私達もいつかいきましょうね潤のやきとりやさん。( ´艸`)

それまでは
こちらの世界でまだまだ心が痛んでしまうことの多い毎日を、一歩一歩踏みしめながら、つべこべ云わずにつよく、やさしく、進んでまいりましょう。


気温差がかなりある3月です。
どうかご自愛ください。

投稿: おきょうさん | 2022年3月 8日 (火) 23時21分

ハチミツ さん

ありがとうありがとうございます。

ゆったり、やさしく……と
自らに云い聞かせて過ごしています。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時20分

岡山のこんちゃん さん

こんちゃん、
「手」に触れることができて、
幸いでした。

わたしの父のとき、
もうすっかり旅の支度がすんでいて、
手を見ることも、触れることもできなかったのです。
父の手を、とても好きだったなあ……。
なんてことを、いま、思いだしています。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時22分

たまこ さん

萌の絵を、褒めてくださり、
どうもありがとうございます。

一緒に仕事もしています。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時24分

Liu さん

わけのわからないことばかりしてきた
夫とわたしですが、
いつも、ちちはおもしろがってくれていました。

わかるとか、わからないを超えて。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時25分

真砂 さん

やさしいことばを奏でてくださり、
うれしい……。
どうもありがとうございます。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時27分

ハクセキレイ さん

ちちは、まだ、あちらに行っていないような
気がします(うふふ)。
このあたり、家や田畑を見て歩いて……、
耕運しているのです。

片づけてから、行くんじゃないかと。

どうもありがとうございました。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時30分

円 さん

この地で、あたらしい時代を
つくっていかなくては……と、
静かに思わされています。

これからも、ちちとお茶をすすりながら。


投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時32分

こぐま さん

そうなんです、そうなんです。

自由にどこへでも……、
と感じていて、ほっとしたり、
さびしかったり。

明るく見送りたいです。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時34分

おきょうさん さん

ちちは下戸なんですが、
やきとりが大好き。
知らせておきます。

「潤さんのやきとりを探してね」

約束ね。
この世でよく生きて、
その後あちらに行ったあかつきには、
潤さんのやきとりでいっぱい(1杯でない)
やりましょう。

たのしみができました。


投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 00時37分

ふみこさま みなさま
おはようございます。

ずっと蕾だった庭の八重の椿が
ある日ポワンと咲いていました。間に合った?といってるみたいに。ひともまたサワサワと変化しながら季節を受け入れるのでしょうね、身体のなかでなにかしら生まれかわりながら。

いつもお忙しいのでしょうが
この季節と時節がら とくに体調を大事にお過ごしください。

ご冥福 お祈りします。

投稿: こんぺいとう | 2022年3月 9日 (水) 06時41分

こんぺいとう さん

そうですね。
ヒトも変化しています。

わたしも変化しています。
やさしい変化をとげたいです。

こんぺいとうさん、
どうもありがとうございます。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月 9日 (水) 09時57分

ふみこさん

おきょうさん さんのコメントを読んでいて、途中で不意に涙が込みあげました。
ああ潤さんが 焼き鳥を…。
わたしも絶対行きたいです。

こちらの記事で お父さんがお米を育てていると知ったのはそんなに前ではなかったと思います…
ご冥福を心からお祈りいたします。
いつか あちらでお会いできますように。

投稿: 背の高い松の木 | 2022年3月10日 (木) 12時25分

ふみこさま。みなさま。
旅立ち
萌さんが描かれたお父さまの絵を眺めながら、しばらくじーんとしておりました。
会ったことも、ことばをかわしたこともないのに、お父さまの誠実さが伝わってくる思いがするのです。
熊谷の家の田植えがくると、ふみこさんが夫さんと一緒になって
苗床に土を入れる作業の様子を作品で拝見して、今でもその光景が
その時間が宝のように私には残っています。
お父さまの丹精された田んぼや畑の土手にもタンポポが咲き始める春ですね。
お父さまのご冥福をお祈りします

投稿: ユリの木の花子 | 2022年3月11日 (金) 14時16分

ふみこ様

お父さまのご冥福を
心からお祈りします。
 
自由になった魂は
自分の好きなところへ飛んでゆくことができる
私も そう思っています。


ふみこさん 疲れは出ていませんか
お体大切にして下さい。

北海道も 暖かくなってきました。
 

投稿: えぞももんが | 2022年3月13日 (日) 14時33分

背の高い松の木 さん

ほんとう ほんとう。

焼き鳥ね。
ならんで頬張りましょう。

おやさしいおこころを、
いただきました。
どうもありがとうございます。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月14日 (月) 17時15分

ユリの木の花子 さん

わたしは、ほんとうのところ、
田畑のことではたいしたことができないのですが、
「土入れ」はがんばります。
まず、古新聞紙を苗箱の大きさに切る
仕事から。

そのときが迫ってきました。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月14日 (月) 17時18分

えぞももんが さん

ありがとうございます。

疲れていません。
いつもどおりです。

東京で、仕事をしながら、
のんびりしてきました。

そういうなか、
ぐんぐん暖かくなって……。

投稿: ふみ虫。 | 2022年3月14日 (月) 17時20分

ふみこさま

お父さまのご冥福を心からお祈りいたします。

私も昨年父を亡くしましたが、
亡くなってからは、心の中で父に話しかけることが多く
もしかしたら、以前より父のことを思う時間が多くなった気がします。

ふみこさんが、熊谷の生活をおもしろがっていること、
お父さまはきっと喜んでいらっしゃるだろうなあと思います。

私も毎日をおもしろく過ごすことが、父の喜ぶことかなと思って
毎日を暮らしていきたいと思います。

投稿: 焼き海苔の の | 2022年3月14日 (月) 21時32分

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