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2022年4月の投稿

2022年4月26日 (火)

日記(2022年4月)

4月◯日
「……疲れた」
 あ、また云った。

 口から「疲れた」ということばが出ることがある。こう云っておけば気がすむのか。どういうふうに、何の気がすむのかわからないけれども。
 あまり疲れないが、わたしはときどき眠たくなる。睡眠時間があまり長くない、ということもあって、電池が切れたようになって、昼間でもとつぜんちょっぴり眠ったりする。こういうときは「……疲れた」は出ない。
「ちょっと眠ります」
 と云って、ほんとうにちょっと眠るだけだ。

「……疲れた」は、たぶん場面転換の合図なのだ。
 合図であるにせよ、「疲れた」と口で云うだけで、自分もその気になるのではないか。それは困る。せっかく疲れにくく、眠たくなるだけだというのにさ。

「何もかもうまくゆく」
 とか云ってみよう。


4月◯日
 畑の際の梅の木に、実がたくさんなっている。
 昨年5月にここに越してきたとき、目を逸らそうとした光景だ。
「あ、なってる」
 と気がついたけれども、なにしろそのときは台所なし、浴室なし、洗濯機なしの生活だったし、梅の実をどうかするなんて、とても無理だと思ったからだ。
 だが、生きて育っているものを無視することは、もっと無理だった。長女と小梅と大きいのを摘みとって、自分たちで梅干し、梅酒、梅シロップを漬けに漬けたりしたのだった。切羽詰まったしごとが功を奏したものか、昨年の梅干しはうまくできた。


4月◯日
 あたらしい冷凍冷蔵庫がやってきた。
 冷凍部分の働きがあやしくなってきたのはことしの3月だったけれども、15年一緒にやってきた相棒だったから、じたばたする。久しぶりに取扱説明書を出してきて、不具合解消に挑むけれども、かなわず。
 結局あたらしいのを求めることとなったのだ。

 もとの冷凍冷蔵庫からすっかり食品を出したとき、決して食べることはないだろうと思われるいくつかのもモノと対面することとなる。
 すぐ処分するわけにはゆかないから、凍らせて、あるいは冷やして時間稼ぎをさせられているモノたち。


4月◯日
 あたらしい冷凍冷蔵庫の取扱説明書の別冊「クラウドサービスガイド」というのを見ながら(片手にスマートフォンを持っている)操作をすすめてゆくと……、冷蔵庫との会話が実現。

「きょうの天気は?」
 と尋ねる。
「晴れときどき曇りです。降水確率は10パーセント」
 と、これは冷蔵庫。

 いつか煩わしく感じるようになるかもしれないけれど、こういうことに慣れておきたいという気持ちをわたしは持っているらしい。……らしいという表現は奇妙だが、実際、慣れておきたいという気持ちとわたしとのあいだには距離がある。
 いったいどんな未来が待ち受けているのだか。
 そう思いながらも、未来の有りようをないがしろにはできないと感じているのだ。

「遅くまでお疲れさま。おやすみなさい。きっといい夢を見られますよ」

 冷蔵庫に云われて、どきどきする。
「おやすみ」

Ume
梅の実がなりました。

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2022年4月19日 (火)

ふるさと

 わたしは道産子(どさんこ)である。
 北海道小樽市富岡町の社宅で、お産婆さんにとりあげてもらった。そして4歳から5歳になろうとするころ、東京に移り住んだ。つまるところ、道産子にはちがいないけれども、「出身は北海道小樽市であります」というだけであるようでもある。
 小樽および祖父母の家のある札幌の記憶をひとつひとつたどって、左手の親指から順に折ってゆくと、右手の中指のあたりで、もうあとがなくなっている。
 それでもわたしのまわりには、幼いころから「北海道」が在った。
 生まれも育ちも北海道という父と、生まれは東京神田だが、育ちは函館という母のあいだに生まれ、親類縁者の多くが北海道と縁あるひとびとであった。
 言葉遣いやら、料理やら、そのほか佇まいやらになんとはなしに「北海道」が匂うのだ。

 たとえば「手袋を履く」なんてことを平気で云ったり、町じゅうのひとにふるまうかというばかりに天ぷらを揚げたりする(北海道人は——すべてではないと思うが——食べるものをどっさりこしらえる)。

 しばらく、ほんとうにしばらくのあいだ、「北海道」とはそんな感じでやってきた。ところが10年ほど前から、それが変わった。
 気がつくと「北海道」は近くに在り、ほら、こんなふうに……、片方の肘で親しげにわたしの脇腹をつつくようになっていた。

「わたしは札幌(北海道)に単身赴任をしていました」
「ぼくの実家は遠軽(北海道)」
「このはなしは、苫小牧(北海道)」
「函館に移り住みます」

 こんな具合に北海道に縁あるひとたちが、わたしのそばに大勢いたのだった。彼らは北海道のおいしいもの、北海道の特産物、植物を運んできてくれることもある。こうしてわたしは、自分が北海道に縁ある者、小樽市生まれの道産子であるということを、自覚させてもらっている。
 ふるさととの縁を噛み締め、いいようもないなつかしさに包まれるようになった、というわけだ。

 このはなしはここで終わらない。
 昨年5月8日に引っ越してきたこの地、埼玉県熊谷市との縁はどうなっているか。生まれ故郷を何十年越しに噛み締め、やっとのことでなつかしくてたまらなくなった、というテンポでは時間がかかり過ぎる。
 熊谷とはすみやかに親しくなりたい。
 ……そう思っている。

 熊谷をたいてい好きである。
 好きになろうともしている。
 少しずつだが、友人知人もできてきた。

 とつぜんのようにこの地に運ばれてきたこと、この地の先輩たち(この世から旅立ってあの世からこちらを心配そうに窺っている存在も含め)のこと、もっとありがたがろうっと。

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庭の3本のリラの花(ライラック)。
これも、北海道と縁深い花です。
北海道の花が、熊谷に咲く。
うれしいことです。

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2022年4月12日 (火)

100字随想 4月

ことしはたんぽぽがいっぱい。ほとんど西洋たんぽぽである。「外来種」ということばの前に、またしてもうろたえる。「在来種」が消えるのは困るけれど、一方の肩ばかり持つのは……。ことしはたんぽぽがいっぱい。(99字)


中央線(東京)の昼下がりの車内。目の前に腰かけている6人のうち3人が、読書をしている。本を開く姿は、床しい。わたしも鞄のなかの本をとり出す。『パテ屋の店先から——かつおは皮がおいしい』(林のり子著)(99字)


季節の変わり目、シーズンの買いものの計画を立てる。計画というよりも、夢。この夏、サングラスをさがそうと思う。さりげなく洒落ていて、かけても虫みたいに見えないグラス。色はブラウン、憧れは「ロエベ」。(98字)


東松山に住む夫のいとこが、掘りたてのたけのこを届けてくれる。茹でる。大鍋から立ち上がり、ひろがるおいしそうな香り。たけのこご飯を炊く。こういうときはわたし流にかぎる。もとは母からおそわったつくり方だ。(100字)


ことし初めての半袖Tシャツ。Mirocomachikoのモチーフで、胸の上がワクワクしている。大分県日田市の小さな映画館を応援しようと求めたTシャツが、かえってわたしをワクワクさせ、応援してくれる。(99字)

Img_1331
ほら、 mirocomachikoEndFragment   のTシャツです。
応援メディア「ソダテタ」に掲載されている
日田市の映画館の記事。
興味のある方はこちらでご覧ください。
https://sodateta.jp/articles/detail/80

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2022年4月 5日 (火)

村祭り

「久しぶりにロケットベーカリー開催しますかね」
 と、ササキシンイチさんが云う。
「そうですね」

 そうですね、と云ったものの、わたしには「ロケットベーカリー」(The☆Rocket BARKRY)がどういうものなのか、よくわからなかった。
 わからなくたって、いい響きじゃない? 
「ロケットベーカリー」って。名前を聞いた瞬間、すでに心を奪われていたのだった。

 ササキシンイチさんは、現在熊谷の家の庭づくりを一手に引きうけてくれているガーデンデザイナーだが、庭ばかりじゃない、「つくる世界」のかみさまみたいなひとだ。かみさまの得意分野のひとつに……自家製酵母のパンづくりがある。
 オープンサンドを中心としたワンプレートと、スープ、デザートをたのしめるランチ。これを仲間とたのしむのが「ロケットベーカリー」。
 ごく簡単に説明するとそういうことになるけれど、それだけじゃないのが「ロケットベーカリー」。何が生まれるかわからないのが「ロケットベーカリー」。

 かつて月2回開催していたという「ロケットベーカリー」だが、御多分に洩れずコロナのおかげで開けなくなった。けれども熊谷の家と庭だったら、いけるのではないか。ということで、4月のはじめ、実現したのだった。
 これまでわたしも自宅にひとを招いてきたし、手料理で仲間と「食べる」「飲む(お茶もお酒も)」をたのしんできた。
「ね、スープくらい、つくらせて?」
 そう云っても、ササキシンイチさんは、静かに笑う。
「ホタテの乾貝柱でスープとってるからさ。だいじょうぶ」
「デザートに参加の余地はあるかなあ」
「だいじょうぶだよ」
 ササキシンイチさんは、またしても静かに笑う。
 これは……、「ロケットベーカリーをあなたもたのしんで」という意味だと思えた。ひゃー、それじゃ、たのしませていただきます。
 スープをつくらせてもらえるのは、まだ先のことだ、とも思えるのだった。

 こうしてわたしは、ひとを家に招いておきながら、お茶の準備をしておくほか、なにもしないで「当日」を迎えた。

 この日久しぶりに開催した「ロケットベーカリー」のお客さまは、ササキシンイチさんのお友だちの「群馬泉」の酒蔵+蔵元のシマオカさん、酒店のセキさん、グラフィックデザイナーのアマノさん、オカミッチャン、美人の師匠(このひともブックデザイナーだが、それより何よりたぶん宇宙一の酒豪)、粘土会社を営むモテギさんとその子どもたち。
 わたしの元夫のいまの家族とわたしたちの5人娘のうちの娘4人。
 しあわせ過ぎるメンバーでの「ロケットベーカリー」。
 みんな、それぞれのんびりし、庭をたのしみ、プレートに舌鼓を打ち、運転しないひとは残らず「群馬泉」を飲みに飲んだ。

 お互いに、お互いを思いながら「ひとり」を味わう日だった。
 そうして、ひとりずつ静かに去っていった。
 こういうのが、現代の村祭りかもしれない、わたしも「ふみ虫おむすび」なんていうような村祭りを、開けそうにも思う。

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覗き写真です。
ササキシンイチさんと、
助手のわたし。
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この日の「みんな」の一部。
また、熊谷で開催します。
皆さんも、お出かけくださーい。

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うんたったラジオ
https://anchor.fm/untatta-radio/episodes/01-e1d6l07

うんたったラジオも4回目になりました。
春の合間の冷たい雨の日。熊谷の家のストーブにあたりながら、
お茶を淹れつつ母娘でおしゃべり。
今回はお金について。応援したい気持ちについて。(あ)
▼ソダテタ
https://sodateta.jp

▼パイナップル ツアーズ
https://motion-gallery.net/projects/pineappletours


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