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2022年11月 1日 (火)

雲が見ている

 10月おわりの日曜日。
 早起きして田んぼの端に立つと、目の前に黄金色の稲穂の海がひろがっていた。「うつくしいな」とつぶやいてみるが、つぶやく口の奥から不安のようなものがこみ上げてくる。
(この3反をふたりで刈るのだな)。

 この日、残っていた田んぼの稲刈り。
 田からなかなか水が引かず、日延べして、この日を迎えた。
 晴天。晴天。
 けれども……、あれは雲である。太い雲の筋が地上から天に向かってのびている。
(上り龍)。
 そう受けとめることにした。
 コンバインの上の夫にも、おしえる。
「龍が登ってる。吉兆吉兆」
「おお」

 夫がコンバインをあやつって刈り、そのうしろをついてわたしが倒れた稲を起こしたり、コンバインが刈り残した稲を鎌で手刈りしてゆくという役割分担は、前回と同じだ。

 作業がはじまると、不安なんかはたちまち消えてゆき、稲とわたしが存在するだけの静かな時間——コンバインはがなり立てているが——となる。倒れた稲に鎌をひっかけて起こしながら「しっかりしっかり」と声をかける。稲に向かって? いや、それ以上に、わたし自身への「しっかりしっかり」である。
「がんばれ、ふみこ」

 手刈りした稲を、畦(あぜ)4か所に、積んでゆく。
 これはさいごにコンバインを手動に切り換えて、脱穀するのだ。はじめは、畦の稲の山は「すぐそこ」だが、刈りとりが進むと、どんどん遠くなる。この日刈った田んぼは水が残り、深くぬかるんでいる。足がとられる。稲の束を抱えて進みながら、天を仰ぐ。
(あ。また龍)。
 4頭の龍がならんで横顔を見せている。こじつけだってかまわない。
(田んぼの仕事は、神事なのだな)。

 コンバインに脱穀された籾(もみ)がたまると、袋につめて、畦に積む。袋づめの作業も、慣れて素早くできるようになった。

 昼過ぎ、昼食を兼ねた短い休憩をし、すぐ作業再開。
 午後3時半、稲刈りを終える。

 天の龍にお礼を云おうとすると、雲は「ふわふわ」にかたちを換えて、龍はいなくなっていた。雲を愛したたくさんの作家たちのうちのひとり、ヘルマン・ヘッセが綴ったことばを思いだす。

「土地を耕作する者の生活。勤勉と労苦にみちてはいるけれど、性急さがなく、本来憂慮というもののない生活なのだ。なぜならば、その生活の根底をなすものは、信仰であり、大地、水、空気、四季の神性に対する、植物と動物の諸力に対する信頼だからである」(1931年)

Photo_20221101091701
コンバインは反時計回りに稲を刈ってゆきます。
これは、稲刈り終盤、田んぼのまんなかあたりに
残った稲たちです。
記念写真。 

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「日記」カテゴリの記事

コメント

ふんちゃん皆様こんにちは。

しっかりしっかり!稲や周りの環境に
励まされているようですね。


前回ふんちゃんに
ゆったりしてると言われましたが
全然まだまだです。

感情的になってしまうことがあり
(特に子供が叩いたりすることや、公共の場で騒ぐことに)
怒らない子育てなどを調べたりしてますが
なんだか子育て迷子になってしまってます笑


ふんちゃんは子供と同等に接して
子育てしているように感じました。

悪いことしたとき
どんなふうに叱ってましたか?

投稿: たまこ | 2022年11月 1日 (火) 12時29分

ふみこ先生、みなさま

こんにちは。
青空に映え、刈田がきれいですね。お疲れ様でした。
「稲とわたしが存在するだけの静かな時間」ーよくわかります。
土と親しむ時間は、わたしにとっても大切なひとときです。

今日は、久しぶりの本降りの雨です。
やっと明日、雨があがったら、玉ねぎの苗の植え付けです。
今朝は、まだ小降りで畑の野菜たちがピンと天を向いて立っていました。
夫が葉に隠れている根元にも雨水が届くためだろうと言います。
本当に野菜たちの知恵と生命力には、いつも脱帽です。
それに比べて、ヒトであるわたしを振り返ると・・・・・(まあ、いいか!)

「藁ぼっち」の写真を夫に見せると夫は「藁ぐろ」と言っていたそうです。
まわりの自然は、全部自分たちのものだと走り回って、藁ぐろにのって壊しては
大人たちに怒られたと懐かしそうです。

里山と向き合うようになり少しですがヘッセの言葉を実感しています。

3日から3年ぶりに横浜の次男王子のところに行きます。
やっとお嫁ちゃんのお母さまの仏前に手を合わせることができます。
帰りに熱海で一泊する予定です。
熱海の海岸を歩きながら、きっと夫が「熱海のかいがーん散歩する♪」と歌いだすことでしょう(笑)

せんせい、みなさま、今週もご自愛くださいね。


まわり

投稿: 岡山のこんちゃん | 2022年11月 1日 (火) 16時39分

ふみこ様 

稲刈り お疲れさまでした。
稲を刈るときのかまの音
脱穀の時の匂い 
左手の人差し指に 子供のころ
稲刈りの手伝いをしてカマで切ってしまった
傷跡が今でも残っていて 眺めました。

次男が通っていた大学の創立者の言葉が
好きで、時どき 心の中でつぶやきます。

健土健民
「健やかな土地から生み出される
健やかな食物によって健やかな生命が育まれる」 

ふみこさん ほんとうに お疲れさまでした。

投稿: えぞももんが | 2022年11月 1日 (火) 17時24分

ふみこさま

おはようございます。
美しい記念写真。稲のラインがカーブしているところも
なんだかすいこまれそうで素敵です~。
稲穂の波と青空とお二人とコンバインの織りなすハーモニーに私もその場で包まれてみたいです。お疲れ様でした~~。

一筋の雲わたしもそのあたりの日にみたようなきがします。そうそう鎌といえば。。ベランダで30日にパンジーなどの植え替えをしていたのですが。。あらあらびっくりどこからきたのかカマキリくんがプランターのすきまでお休み中。びっくりして煉瓦のほうににげていきましたがずっと終わるまで付き合ってくれていてなんだか
不思議な気分でした。見守ってくれていたのかな。ふふ。ではふみこさんもみなさんも今日もいい一日おすごしくださいね。

投稿: 真砂 | 2022年11月 2日 (水) 06時33分

たまこ さま

悪いことってどんなことかな。
「これは……?」
と思ったことは、こちらの気持ち、考えを
伝えるようにしてきました。

激しいのでは、こんなことがあったなあ。
車の通行の少ない道の横断歩道でのこと。
押しボタン式の信号機がありました。
三女がボタンを押さずに(赤信号のまま)
横断歩道を渡ったのを見て、
思わず平手打ち(鼻血を出しましたね)。

わたしは「叱る」より、
「あやまる」のほうが多い母です。
平手打ち(鼻血)のときも、
「危ないから注意したのはまちがってないけど、
思わずぶったりしてごめんなさい」
とあやまりましたねー。

感情的になってぶつくさ云っては、
「イライラしていたせいで、怒りました。
許してください。ごめんなさい」
とかね。

あはは。

投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 2日 (水) 12時40分

岡山のこんちゃん さん

こんちゃん、
佳い旅をね、なさってください。
お嫁ちゃまのお母さま、よろこばれますねー。

わたし熱海が大好きなんです。
洋食店「スコット」も大好きです。

投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 2日 (水) 12時43分

えぞももんが さん

健土健民のことば、
どうもありがとうございます。

つぎは麦です。
がんばりますー。

麦踏みをするのだろうなあ。

投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 2日 (水) 12時45分

真砂 さん

稲刈りの日、
虫やカエル(大勢)をみつけるたび、
わたしも同じこと思っていました。

つきあってくれて、
いっしょにいてくれて、ありがとう!

って。

投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 2日 (水) 12時47分

ふみこさま

稲刈り お疲れさまでした。
ほんとに神事ですね。
素晴らしいなぁと思います。
はるくん、明日は休日なので、喜んでいます。
なんとか学校も行ってます。
勉強の必要性を感じてないんだな。
勉強がいやだ、なんて言ってます。
給食を楽しみにしてるので、それはそれでいいか、と思ったり。
今日の岡山は暑いくらいの晴天でした。
お布団干しました~。
ふかふかの布団に、はるくん大喜び。
まぁ気長に見守るしかないかなと思っています。

投稿: こぐま | 2022年11月 2日 (水) 20時59分

こぐま さん

好きなことをみつける。

これが大事。
給食が好き。
 というの、素敵素敵。

はるくんが、
食に関わる仕事をするようになったりしたら、
たのしみじゃないですか。

投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 3日 (木) 10時00分

ふみこさま

ありがとうございます!
将来どんな大人になるのか楽しみにしています~

投稿: こぐま | 2022年11月 3日 (木) 12時44分

ふみこさま、皆さま

お二人の稲刈りを、上り竜が最後まで見守ってくれたんですね。
すべての田んぼの稲刈りを無事終えられて何よりです。
お二人で収穫された新米はどんなに美味しいことでしょうか!?

だんだんと旅が生活に戻ってきていますね。

この秋、入国者制限がなくなり、
海外からの観光客をご案内する仕事も
少しずつ戻ってきました。

昨日は、日本最古の古道、山の辺の道へ。

大和青垣の山裾に沿って進むと、
柿畑、ミカン畑などの果樹園、田んぼや畑が広がる農村に
大小いくつもの古墳が溶け込む風景が広がります。

普段、真っすぐなアスファルトの道に慣れている私達には、
農村集落の小路、畦道、砂利道、石畳の道・・・と
様々な表情の道を歩くこと自体がワクワクするものなんですね。

ゲストの親子も、鳥の声に耳を澄ませたり、
生き物を観察したり、
無人販売所で買った果物を頬張ったり、
五感で楽しんでくださってる、
それを目の前で見ていることが
信じられないくらい、うれしい秋の一日でした。


投稿: 円 | 2022年11月 4日 (金) 23時17分

円 さん

ああ、なんていいお仕事でしょうか。
いろんなひとがあるから、
ご苦労は計りしれませんけれど、
円さんの案内のもと旅する皆さんは、
しあわせです。

山の辺の道。
歩きたくなります。
初めて歩いたのは20歳のときのことで、
以来ときどき歩きましたが、そのたび、
思わされることが異なるような。

投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 5日 (土) 09時24分

ふみさまみなさまこんにちは~~

11月に入り秋晴れのさわやかなお天気の日が多くプレゼントされている気がしております。おかげさまで夏物シーツや上掛け、クッションカバーなど、お洗濯物もよく乾き、無事押し入れにしまわれました。また来年よろしくね。

ふみさまのこの1年は、土とともに流れていったような気がします。季節ごとのお話にもたくさん実りのことが書かれておりました。
大きくそだったお化け野菜たち、たわわに実ったブルーベリー、そしてこの神事のお米の収穫・・・。

うっとりしながら楽しませていただきました。そして『実る』ということが本当にありがたく、またそこに行きつく前にどれだけの時間と手間と祈りがこめられているのか、ということをスーパーに並ぶニンジンを前にしても感謝の心で受け止めたいと思うように。
ありがとうございました。そしてこれからもたくさんの土とお世話と実りのお話を楽しみにさせていただきますね。

またまた奇遇ですが、
私も竜の雲を私もここのところよくいかけていたのです。
雲一つない青空だったのに、ふと気が付くと私の上にだけ大きなうろこののようなひだひだの雲が。そして最後に龍のお顔・・・。
久しぶりに帰省してきた次女をつれ、か家族で空き家実家にバーベキューしに行ったときも、昨日母の施設に2カ月ぶりにやっと許可がおりて10分間面会しに行った時も真っ青なそらに一筋の上り龍・・・。
こじつけだってかまいませんよね(;^_^A
上を見上げながら見守られている安心感をしっかりうけとれました。

ふみさまもおつかれさまでした。


足腰痛みなどでませんように、ゆっくりお風呂につかってお休みくださいね。

投稿: おきょうさん | 2022年11月 7日 (月) 13時23分

おきょうさん さん

おんなじ龍が、わたしたちの頭上で、
遊んでいたのですね。

うれしいね。


投稿: ふみ虫。 | 2022年11月 7日 (月) 23時13分

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