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2023年1月の投稿

2023年1月31日 (火)

冬眠風の日日

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 精神(こころ)の働きがにぶい。ぼんやりしている。
 ぼんやりしている場合じゃないぞと、自らを奮い立たせようとするが、うまくゆかない。
 わたしのなかに棲んでいるちっちゃな虫が、いやに力強く抵抗する。

「やだよー」
「きょうは休みたいよー」

 仕方がないから、長女の梓に頼まれていた薄手のセーターの「染め」にとりかかる。ベージュのセーターを黒く染める。
 大きな大きなホーローの洗面器を出してきて、80度くらいのお湯を注ぎ、黒色の染め粉と塩(塩は色止め)を溶き入れる。
 昨年軽井沢に出かけたとき、わたしも「いいんじゃない?」とすすめて求めたセーターだが、仕事先に着て出てみたら、ぴんと来ないというのだ。
「お母ぴー、染めてくれる?」
「よしきた、染めてあげます」
 と引き受けたまま、しまいこんでいたものだ。
 仕事が捗(はかど)らない日には、こういうしごとをしておくのに限る。1日が終わったとき、セーターを染めた!という達成感によって、仕事の計(はか)がゆかなかった情けなさから救われるのだ。

 机の上で、分厚いゲラがこちらをじっとみつめている。

「いいのさー、きょうはセーターを染めたからー」


1月28日
 夫が東京に仕事に出かける朝。
 久しぶりに弁当をこしらえることを思いついた。
 30分でできるだけのことをしよう。

 隠れのり弁(玄米ご飯の下に、おかかと海苔が隠れている)
 梅干し
 豚の生姜焼き
 卵焼き
 ブロッコリのナムル
 たくあんときゅうりの味噌漬け

 たくあんときゅうりの味噌漬けは、熊谷市内のJAの等産物直売所「ふれあいセンター」で求めたもの。「ふれあいセンター」はたのしい。ときどきここで、おもしろいものをさがして、友だちに送ったりする。
 小豆、ささげ、焼きそば、こんにゃく、ごま、切り干し大根など。

「あ、お弁当おいしかったです」
 帰り道の電車からの連絡。


1月29
 結局今週は、ぼんやりしたままだった。
 締め切りのある仕事は間に合わせたが、しておいたほうがいいに決まっている仕事を、いくつか仕損なった。来週を思うと、気が気ではないが、まあ、なんとかなるだろう。
「冬眠風の日日」
 ということばが浮かぶ。

 ムーミン一家の皆さんは、11月に松葉をお腹におさめて眠りについたら、4月まで目覚めない。11月がくるたび、ずいぶん長く眠るなあ……と思う。毎年毎年うらやましがるのである。
 そんなに長くは眠れないけれど、わたしにだって、たまに冬眠風の日があっていいことにしよう。

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2023年1月24日 (火)

たとえ会えなくても

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「会いたいなあ」と思うひとには、そう思ったときに「会う」算段をするといい、というはなしを聞く。
 そうだなあ、そうしたい、と思ったけれども、いまのわたしには容易にはかなわない。けれどたとえ会えなくても、できることはあるのだ。
「会いたい」と思ったら、入浴時、そのひとに佳いことがたくさんありますように、と声に出して祈るのである。
「星子さん(仮名)に佳いことがたーくさん起こります」
 という祈り方である。
(真っ裸の祈りだ)。
 それをするようになってから、わたしの入浴が変わった。カラスの行水から長風呂になった。

 前の週つくったコロッケでコロッケパンをこしらえる。
 焼いてカリッとさせたバゲットの薄切りに、きゃべつのせん切りとともにはさむ。口を大きく開けて噛みつく感覚がいい。


1月19日
 東京で仕事の日。
 朝、二女の梢から「コロナに罹った」という連絡がある。
 夕方、あれこれ買いものをして届ける約束をする。
 仕事の隙間時間をつかって、スーパーマーケットやら薬局やらをまわる。してやれることがある、というのは、ありがたい。
 さいごに、クレープをふたつ買った。
「何か食べたいものある?」
「……クレープかな」
 と梢が云ったからだ。
 クレープというものをわたしは自分で買って食べたことがない。スーパーマーケットのフードコートに店があることを調べて、行ってみて驚いた。
 いっぱい種類があるんですねえ。
 馴れた風を装って、「生クリームチョコバナナと、アップルシナモンをいただけますか?」と云う。
 クレープを焼いてもらっているあいだに、また買いもの。
 それらを玄関前に届け、窓越しに顔を見て、つぎの予定へと向かう。暮れはじめた街を歩きながら、ちょっぴり涙ぐむ。昨年、カナダで三女の栞が同じ病気に罹ったときは、何にもしてやれなかった、と思い返すのである。
 あのときお世話になったカナダの皆さんへのお礼も、わたしは入浴のとき、伝えたのだったなあ。


1月20
 家の畑でとれたさつまいももおしまいである。種類としては安納芋とシルクスイート。
 串を突き刺して穴をあけ、オーブンで焼く。

 焼き芋ができるのを待っているあいだに、友人のアヤコちゃんからメールが届いた。
 昨年結婚したアヤコちゃんは、夫婦のあり方で悩んでいる。
「いつもいつも安定なんかしていないのが、家族のおもしろさだと思うな。パートナーとしあわせになるために一緒にいるにはちがいないけど、ほんとは大変な『時』を乗り越えるために一緒にいるのかもしれない。これ、最近気づいたことだけど」
 と、返信。
 先輩風吹かしたりして恥じ入りつつ、「いい返信じゃない?」と自画自賛する。


1月21
 ビビムパプが食べたくなる。
 これをつくるたび、いたずら心が湧いてくる。
 ずいぶん前、作家の平松洋子さんがお嬢さんのお弁当をつくっていたころのはなしだ。

 学校でお嬢さんが弁当箱のふたをとると、白飯しか入っていないのに、驚く。しかし、添えてあったスッカラでご飯のなかをそっと探ったそうだ。
 すると、ナムルが隠れていた!
 混ぜ混ぜしておいしいビビムパプを食べましたとさ。

 夫にこれを供してみる。
 まあまあ驚く。

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2023年1月17日 (火)

変身

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 きょうも、ストーブ料理。
 大鍋にスープをつくる。
 白菜、玉ねぎ、にんじん、それと鶏もも肉。さいごにかぶとかぶの葉を入れる。
 火の加減なのか、灯油ストーブの上の鍋は、静かだ。土間の冷気を説き伏せてから、周囲の温度を上げてゆく。料理まで引き受けながら。
 わたしも黙って仕事をしよう。ああでもないこうでもない、間に合うだろうか、間に合わなかったらどうしよう、などと騒がずに。


111
 最近わからせてもらったことがある。

 面倒くさいことを先にする。

 面倒な用事が降ってくると、いきなりべつの仕事に手をつけたり、もっとわるくすると、手仕事に逃げたりするのが、わたしだ。
 後まわしにしているうちに、胸のなかでそれはふくらみ、気持ちを占領する。不思議なのは、とうとう片づけはじめると、どうということもない。なぜこんな簡単なことから逃げるのか……、と毎度思わされている。
 たとえばきょうの「面倒」は、メールの返信だった。5本溜めこんでいたのだが、時計を見たら40分で終了。
 面倒くさいことを先にする。
(わかるのが遅過ぎる……などと云ってはいけない。わたしは毎日進化の道を歩いているのだから。えへへ)。

 昼、昨日の大鍋からスープを中鍋に3分の1移して、にゅうめんをこしらえた。生姜を効かせる。


112
 気がつけば1週間あまり、机にかじりついている。
 誰もわたしを仕事人間などとは思わないだろう。だが、自分ではそうではないか、と思っている。
 ときどき「仕事、好きなんだよねー」とつぶやいているのなんかは、その証拠ではないか。このつぶやきが刷りこまれて、好きだと思いこんでいるだけかもしれないが。
 夫との暮らし、子育て、家のしごと、遊びでさえも、わたしは仕事としてやってきたのではないか。いや、たぶんそうなのだ。
「仕事、好きなんだよねー」

 大鍋のスープを、クリームシチュウにする。
 バタで小麦粉を炒め牛乳を加えてホワイトルウをつくり、それを混ぜこんだら、クリームシチュウがあらわれた。澄んだスープの過去、にゅうめんを生んだ過去が消えた。
「過去は変えられるんだな」と台所でほくそ笑む。


113
 カナダで暮らす三女の栞から電話がかかる。ビデオ通話。
 ベトナムに本社を持つITのベンチャー企業の仕事をする傍ら、シェアハウスの管理の仕事を手伝っている(らしい)。
 シェアハウスの住人からの苦情処理で、こころがどんよりしているという。
 さんざん聞かされる。
 日本語を使って話しながら整理することも必要だ。
 吐きだしたまえ。
「これでまた実力をつけたじゃないか。おめでとう」

 昨日のクリームシチュウを、釜飯の釜に注ぎ入れて、ガーリックライスをねじこむ。ちょっと野蛮。オーブンで焼いたら、焦げ目のついたライスグラタンとなる。


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 長いこと、動かすことができなかった仕事が、ことしのはじめに動いた。
 動かす道をつけてくれた若き仕事仲間に「安堵とうれしさから、8分間べしょべしょ泣きました」とメールで伝える。
「安心していただけて、こちらも安心しました。もう出口は見えていますね」
 と返信がある。
「出口」ということばにはっとする。
 これからは「入口」に注意しようっと。そこから入っていいかどうか、よく考えようっと。

 ライスグラタンにはつづきがある。
 釜飯のなかにゆかず鍋に残ったクリームシチュウに、茹でてつぶしたじゃがいもを混ぜこみ、まるめる。小麦粉、卵、パン粉を着せる。ちっちゃなまんまるのクリームコロッケができた。きゃべつのせん切りを添える。
 このたびのスープの「変身」はこれにて幕である。めでたしめでたし。

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これは、4日目のライスグラタンです。

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2023年1月10日 (火)

せんつき汁

1月3日
 空は青く、どこまでも澄んでいる。
 あたらしい年が、光のなかから生まれた。

 2022年の予定表を箱に納めようとして、ぱらりぱらりとめくる。ああ、とため息が漏れる。自らついたため息の成分に、「驚き」が混ざっている。
 役目を終えた予定表に、「苦手」があふれ返っていたからだ。うっかり者ゆえ、それとは気がつかずに「苦手」との対面をつづけてきた。そうして、ところどころ、やり残しをしているのであった。
 まあ、しかたがない。ことしは、やり残しをひとつずつ片づけるところからはじめるとしよう。

 片づけをはじめる前に、ひそっと自分にささやいておく。
2022年を、あなたはよく生き抜きました」


1月5日
「せんつき汁」をつくる。
 学生時代、学校でつくり方をおそわったすまし汁だ。以来ずっと「せんつき汁」と呼んできたが、「せん」は「千」「仙」なのか、はたまた「詮」であるのか、わからない。「つき」のほうも同じで、「月」ではないかと予想しているけれども、「突」「尽」なのかもしれない。
 漢字はどうでも、なかみは大根と里芋である。
 そうか、切り方に名の由来があるのかも知れないことに思い当たり、おごそかに大根を拍子切りにし、里芋はまんまるに。
 灯油ストーブの上に鍋をのせておいたら、たちまちできた。塩とほんの少しのしょうゆで味を整える。さいごに、柚子の皮をちょんとのせる。


1月6日
 昼、「せんつき汁」のなかに、焼いた餅を入れて、雑煮風にして食べる。

 夜の主役はきゃべつである。
 ごま油できゃべつを炒め、そこにだしを入れる。冷蔵庫には常に、水に昆布やらけずり節やら、煮干しを浸けただしのポットが入っている。これを、ととととと、と注ぐのだ。
 灯油ストーブの上で、スープはいい香りをあたりに漂わしている。仕上げは、食べる間際に。

 きゃべつをせん切りにする。
 熱したフライパンに油をひき、だしで溶いた粉を薄く入れる。まあるくのばした上に、きゃべつをのせる。フタをして5分、きゃべつがしんなりしたところに、卵を割り、底の粉部分にフライ返しを差しこんで、ぱたんとふたつ折りにする。これで出来上がり。紅しょうがを添えて、ソースで。


1月7日
 昨日のきゃべつのスープに、庭でとれたちっちゃな大根、間引いたのらぼう菜を刻み入れて煮る。ここにご飯(玄米)を加えて、雑炊に。これを七草粥とする。

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大根の皮と、冷蔵庫の野菜室で発見した
瀕死のエノキダケと。
干しています。

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2023年1月 3日 (火)

広場の皆さま

 2023年がはじまりました。
 
 うさぎ年です。
 うさぎさんにはいろんなウワサがありますね。

・なんでも齧る。
・警戒心がつよい。
・寂しくなると、死んでしまう。
・ときどき怠ける(「うさぎのかめ」のお話由来)。
・なわばり意識を持っている。

 でもね、うさぎさんだって、ほんとうはいろいろです。
 人間をこうだ、と決めつけられたら、困るでしょう?
 それと同じ。

 2022年までの自分を変えたいと思うひともあれば、うさぎさんもまた……。
 2023年、みんなでちょっと何かを変えようじゃありませんか。これまでよりも自分自身に期待しようじゃありませんか。

 どうか本年もこの広場に集ってくださいまし。
 よろしくお願い申し上げます。

 20231月3日   
               山本ふみこ

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うんたったラジオ13

年明け観た映画のこと。ミーシャさん、など。
本年も、うんたったとまいります。

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