家のなかの事件
2月21日
予定表を見る。
「明日、家で撮影」
この仕事のテーマは「身近に、春と親しむ」。
なかなかむずかしいお題である。
インタビューに答えたあと、春を親しむ写真を撮ることになっている。
春といえば……、と脳内連想ゲームをくりひろげ、思いついたのが菜の花のおひたしとサンドウィッチだった。
菜の花は同じ青菜でも、ほうれんそうや小松菜のように茹でたあと、水にとらない。ざるの上にひろげてさますのだ。水にとると、花がつぶれ、風味が失われる。これこそが、春の繊細、ではないだろうか。
サンドウィッチを好きだが、冬のあいだはあまりこしらえない。春めいてきたあたりで、とつぜん、つくりたくなる、食べたくなる。
・にんにくを効かせた卵焼き+菜の花
・わさび漬け+しその葉+ハム
のサンドウィッチをつくることとする。
2月22日
仕事にやってきた記者さんに、「サンドウィッチをつくったあと、パンの耳は、どうされますか?」と訊かれ、あまり考えずに「小さく切って焼き揚げにし、クルトンとして、スープの浮き実にしたり、サラダに加えたりします。クルトン、冷凍もできますよ」と答える。
夜になって、はっと気がつく。
「しまった。ピッツアのはなしも聞いてもらえばよかった」
パンの耳を、長細いまま天板かフライパンの上にならべ、その上に具をならべてピッツアチーズをふりかけて、焼く。パンの耳ピッツア、おすすめだったのに。
2月24日
スーパーマーケットへ。
すみっこのレジに、老婦人がふたり並んでいるうしろに、つく。
ひとりめの老婦人モモさん(仮名/桃色の帽子が印象的だった)。
「ポイントカードはお持ちですか?」
と声をかけられ、「あ!」と云ってモモさん、財布のなかを探す。なかなかみつからない。
「ありました、はい、これ」
「ポイントが貯まっていますが、お使いになりますか?」
「貯まっている……?」
「きょうはポイント3倍デーですから、使わず貯めたままにしておくほうが、おトクなのですけれども」
「では、そのまま貯めましょう」
「袋はお入り用でしょうか」
「……」
ふたりめの老婦人ワサビさん(仮名/山葵色のコートが印象的)。
支払いがはじまる。
財布のなかから、千円札2枚を出し、小銭をさがし、レジ横の皿の上にならべる。
「はい、おねがいします」
「ええと、あと30円お願いします」
「30円ですね」
そう云いながら、ワサビさんは、長財布のなかの小銭コーナーを指先でかきまわす。が、30円はなかったらしく、結局千円札を1枚出して小銭をあきらめた。皿の上の5円玉1円玉はそのまま活かせるのかもしれなかったが、皿の上の小銭をすべて長財布に収める。カゴを持ってサッカー台に向かって歩く。
身につまされながら、ため息。
支払い。小銭のこと。ポイントカード。ポイントの使い方。袋のこと。サッカー台への移動。袋詰め。
スーパーマーケットのレジでは、いろいろすることがある。
そうして買いものびとも、いろいろ。馴れたひともあれば、そうでないひともある。わたしが観察したモモさんとワサビさんのように、動作がゆっくりしたお客もある。そしてレジ係。ここも、いろいろ。気を効かせられるひととそうでないひとがある。
高齢の買いものびとを見つけると、つい観察したくなる。いつかわたしだって、いまよりいっそうお金の扱いが下手になるし、動作が遅くなるもの。
2月26日
ストーブ料理、ストーブ料理と浮かれていたからだろうか。
やっちましました。
灯油ストーブで、記事入りの白いコーディロイワイドパンツの腿のあたりを焦がした。
やっちまったのはことしに入って二度目。
じつは一度目の黒スエットパンツのお尻に、手持ちの黒いフェルトで、大きなハート型のアップリケをつくって縫いつけたばかりだ。
昔から、こういうことは得意なのだ。焦がしたり、ひっかけてかぎ裂きをつくったり。
白いコーディロイは、どうするかなあ。だいぶ履いたから、さよならしよう。見るたびにこの事件を思いだすから、今回は、えいっと捨てた。大きく立派に焦がしたからでもある。
寝る前、昼間資料としてとり出した本を書架にもどす。
みつけました。
4日ほど前にカットし、水を入れたコップに挿しておいたみつばの根っこからおいしそうな葉っぱがのびている!
事件である。
家のなかにはがっかりさせられる事件もあれば、うれしくなっちゃう事件もある。
ほらね、これが、みつばの事件です。
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