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2023年2月の投稿

2023年2月28日 (火)

家のなかの事件

2月21
 予定表を見る。
「明日、家で撮影」
 この仕事のテーマは「身近に、春と親しむ」。
 なかなかむずかしいお題である。
 インタビューに答えたあと、春を親しむ写真を撮ることになっている。
 春といえば……、と脳内連想ゲームをくりひろげ、思いついたのが菜の花のおひたしとサンドウィッチだった。

 菜の花は同じ青菜でも、ほうれんそうや小松菜のように茹でたあと、水にとらない。ざるの上にひろげてさますのだ。水にとると、花がつぶれ、風味が失われる。これこそが、春の繊細、ではないだろうか。
 サンドウィッチを好きだが、冬のあいだはあまりこしらえない。春めいてきたあたりで、とつぜん、つくりたくなる、食べたくなる。

・にんにくを効かせた卵焼き+菜の花
・わさび漬け+しその葉+ハム

 のサンドウィッチをつくることとする。


2月22
 仕事にやってきた記者さんに、「サンドウィッチをつくったあと、パンの耳は、どうされますか?」と訊かれ、あまり考えずに「小さく切って焼き揚げにし、クルトンとして、スープの浮き実にしたり、サラダに加えたりします。クルトン、冷凍もできますよ」と答える。
 夜になって、はっと気がつく。
「しまった。ピッツアのはなしも聞いてもらえばよかった」
 パンの耳を、長細いまま天板かフライパンの上にならべ、その上に具をならべてピッツアチーズをふりかけて、焼く。パンの耳ピッツア、おすすめだったのに。


2月24
 スーパーマーケットへ。
 すみっこのレジに、老婦人がふたり並んでいるうしろに、つく。

 ひとりめの老婦人モモさん(仮名/桃色の帽子が印象的だった)。
「ポイントカードはお持ちですか?」
 と声をかけられ、「あ!」と云ってモモさん、財布のなかを探す。なかなかみつからない。
「ありました、はい、これ」
「ポイントが貯まっていますが、お使いになりますか?」
「貯まっている……?」
「きょうはポイント3倍デーですから、使わず貯めたままにしておくほうが、おトクなのですけれども」
「では、そのまま貯めましょう」
「袋はお入り用でしょうか」
「……」

 ふたりめの老婦人ワサビさん(仮名/山葵色のコートが印象的)。
 支払いがはじまる。
 財布のなかから、千円札2枚を出し、小銭をさがし、レジ横の皿の上にならべる。
「はい、おねがいします」
「ええと、あと30円お願いします」
30円ですね」
 そう云いながら、ワサビさんは、長財布のなかの小銭コーナーを指先でかきまわす。が、30円はなかったらしく、結局千円札を1枚出して小銭をあきらめた。皿の上の5円玉1円玉はそのまま活かせるのかもしれなかったが、皿の上の小銭をすべて長財布に収める。カゴを持ってサッカー台に向かって歩く。

 身につまされながら、ため息。
 支払い。小銭のこと。ポイントカード。ポイントの使い方。袋のこと。サッカー台への移動。袋詰め。
 スーパーマーケットのレジでは、いろいろすることがある。
 そうして買いものびとも、いろいろ。馴れたひともあれば、そうでないひともある。わたしが観察したモモさんとワサビさんのように、動作がゆっくりしたお客もある。そしてレジ係。ここも、いろいろ。気を効かせられるひととそうでないひとがある。
 高齢の買いものびとを見つけると、つい観察したくなる。いつかわたしだって、いまよりいっそうお金の扱いが下手になるし、動作が遅くなるもの。


2月26
 ストーブ料理、ストーブ料理と浮かれていたからだろうか。
 やっちましました。

 灯油ストーブで、記事入りの白いコーディロイワイドパンツの腿のあたりを焦がした。
 やっちまったのはことしに入って二度目。
 じつは一度目の黒スエットパンツのお尻に、手持ちの黒いフェルトで、大きなハート型のアップリケをつくって縫いつけたばかりだ。
 昔から、こういうことは得意なのだ。焦がしたり、ひっかけてかぎ裂きをつくったり。
 白いコーディロイは、どうするかなあ。だいぶ履いたから、さよならしよう。見るたびにこの事件を思いだすから、今回は、えいっと捨てた。大きく立派に焦がしたからでもある。

 寝る前、昼間資料としてとり出した本を書架にもどす。
 みつけました。
 4日ほど前にカットし、水を入れたコップに挿しておいたみつばの根っこからおいしそうな葉っぱがのびている!

 事件である。
 家のなかにはがっかりさせられる事件もあれば、うれしくなっちゃう事件もある。Photo_20230228090201
ほらね、これが、みつばの事件です。


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2023年2月21日 (火)

干しいも、干しいも

2月14
 文旦を3個いただいた。
 実1個分と、皮3個分で、ママレードをつくる。
 皮の内側の白いわた部分をはがし、苦味をとるために3回茹でこぼすのが、おいしくつくるコツ。
 茹でるのを灯油ストーブが引き受けてくれた。
 おかげで、傑作が生まれました。


2月15
 ネイルサロンへ自転車に乗って行く。
 4年前、ふと爪をきれいにしようと思いついてから、月に一度、ネイルサロンに行って、ジェルネイルを施してもらっている。
 東京に住んでいたとき通ったサロンに、転居したあとも1年以上熊谷から通っていたのだけれど、それが時間的にとうとうできなくなった。このとき、その事情をネイリストにわたしは伝えた。こうして挨拶しておけば、いつかまた立ち寄って施術してもらうこともできるだろうし、何よりひと同士のことだ。とつぜん、いなくなったりしたくなかった。

 半年前、熊谷市内で、サロンを探し当てる。
 技術もあるが、ひと月に一度1時間半ほどもともに過ごす相手との相性のようなものを、わたしは気にしている。
 そうして熊谷でもいい出会いを得たのである。

「子どものころから、器用でいらしたのでしょ」
 と、ネイリストのアリさん(仮名)に訊く。
「いいえ。そしていまでもわたしは器用じゃありません。でもね……、器用じゃないというのも、わるくないなと思うことがあるんですよ」
「それは、どんなとき?」
「器用なひとは仕事が早いし、どんなことでも難なくこなしますでしょう?後輩にアドバイスしたり、技術を伝えるような場面で、器用なひとには、相手のうまくゆかなさや、とまどい、迷いがわからないことがあるのです。『こうやってこう、で、つぎはこうね』でおしまい。そのとき様子を見ていて、後輩がどこで躓(つまず)いているかがわかりました。ああ、わたしが器用じゃないからわかるんだなと思ったのです」
「ほお」

 さて本日のネイルカラーはレッド系のブラウン。いつもワンカラー、色はベージュ系、グレー系を選んでいるが、きょうのは赤みがつよい。たくさん仕事をする予定が待ちかまえていたから、爪に励ましてもらおうと。
 帰りがけ、アリさんから包みを渡される。
「干しいもです。このあいだ、干しいものはなしで盛り上がったでしょう? それを思いだして、ふたつ求めてきました。どうぞ」

 夜、ストーブの上に網を置き、干しいもをあぶる。レッド系ブラウンの爪ではさんで持ち上げる……。


2月16
 東京で2日つづきの仕事。
 夜は二女の梢の家に泊めてもらう。

 ごはん
 チキンソテーきのこクリームソース
 にんじんときゃべつのサラダ
 里芋の煮っころがし

 を、ごちそうになる。
「おみおつけをつくる時間がなかった」
 と梢は云うが、仕事上がりのホワイトソースは立派よ、と思う。
 にんにくや生姜をときどきだめにするから、みじん切りにして麹に漬けておくという計画があるという。
 台所仕事をおもしろがっている様子。

 その後ふたりでてくてく銭湯に行く。
 銭湯前にファミリーレストランに寄り、梢はいちごのパフェ、わたしはハイボール(濃いめ)と温野菜サラダを注文。夜のファミリーレストランって、異次元世界だ。ネコ型ロボットが2匹働いていた。


219
 夫が夕食をつくってくれる。
 タジン鍋を使って、ちゃんちゃん焼きみたいなもの。
 献立はほかに、里芋とのらぼう菜の入ったかきたま汁(これはわたしがストーブでこしらえた)、酢のもの(何だったかな、忘れた)。
 タジン鍋、大活躍だ。
 ずいぶん前に流行ったとき求めて、使いつづけている。とてもいい具合だ。サカナ料理を引き受けてくれるのがいい。本日は鮭。先週はかじきまぐろと、鯛の切り身(特売だった)を食べさせてもらった。かじきまぐろはのらぼう菜と、鯛の切り身は青梗菜と。

Photo_20230221103001
文旦のママレードです。

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2023年2月14日 (火)

赤飯を炊く

2月4日
 夫の誕生日は立春である。
 この日がめぐるたび、静かに微光があふれはじめるような日だ、と思う。
 赤飯を炊こう。
 ささげなら、ある。

 前の週に、「ふれあいセンター」(JAの特産物直売所)方面に出かける夫に「きゃべつ、こんにゃく、小豆」という買いものメモを渡した。帰ってきた夫の提げ袋にはきゃべつ、こんにゃく、ささげが入っていたのである。
「ささげはさ、小豆じゃないのよ」
「え」

 そういうわけでささげはあるが、もち米がない。
 うるち米で炊くこととする。ストーブの上で、ささげを茹でて、茹で汁を大切にとっておく。

 冷蔵庫を開けると、めざしがある。
 このめざしを揚げ焼きにして、南蛮漬けをつくろう。

 誕生日の食卓。
 赤飯
 すき焼き風煮もの(タジンで少しだけつくる)
 めざしのマリネ
 豆腐と春菊のサラダ
 わかめとちくわとのらぼう菜の酢のもの


2月5
 友だち3人と、新宿のホテルに泊まる。
 夕方待ち合わせて、わたしの気に入りの台湾料理の店(台湾マフィア風、と密かに呼んでいる)に行き、そのあと、赤ワインやらチョコレートやらナッツ類やらを買いこんでホテルに向かうというちっちゃな旅。

 夜の歌舞伎町を歩きながら、ふと、友だちと泊まるというのはわたしにしてはめずらしいことだな、と気がつく。たいてい旅先ではひとりきりか、夫や娘たちと泊まってきた。
 ホテルの割引券を持っているという友人が誘ってくれたのだが、この日のくるのがたのしみで仕方なかった。4人がふたりずつふた部屋に寝る。
 それぞれなんとなく気を遣いながらも、わりと勝手に過ごしている。お隣りの部屋に出かけてゆき、赤ワインを飲んで話しこむ。友だちと泊まる不思議なうれしさもいっしょに飲みこんでいる。

「わたしたち、平均年齢70歳よ」
 と誰かが云う。
 いちばん若いのは、わたしだ。うひゃー。

 明日は、朝食バイキングだ。


2月6
 夜、夫に呼ばれて庭に出る。
「月暈(つきがさ)が出てるんだ」
 見上げると、月のまわりに大きな光の輪ができている。雄大である。
「ひとりではとても見ていられない。怖いよ」
 夫のセーターの裾につかまりながら、見上げる。
 子どものころから、わたしは夜の空が怖いのだ。あまりにもうつくしくて、この世のことを超越している……。
 ひと足先に家に戻ると、また呼ばれた。

 すると、月暈は消えていて、大きな雲が2本、月をはさんでのびている。竜のかたちに見える。

 なんという夜だろう。
 恐ろしがりつつも、ありがたい心持ちになる。


2月9
 友だちからメール。
「新美南吉に『でんでんむしのかなしみ』という作品があるのを初めて知りました。ふんちゃんはこのおはなしを、知っていますか? こころに沁みました」

 ふんちゃんはこのおはなしを、知っていました。

 1匹のでんでんむし(カタツムリ)が、ある日、自分の背中の殻にかなしみが詰まっていることに気づくのだ。
 このかなしみをどうしたものかと友だちのもとを訪ねてまわると、どの友だちも、自分の背中の殻のなかにもかなしみがいっぱいだと云う……。
「かなしみはだれでももっているのだ」とでんでんむしは、知るのだった。

 広く愛される『ごんぎつね』の作者として知られる新美南吉の作品である。

 メールのつづきに、友だちは、自分に繊細な一面があるのを知ったと綴っている。そうか、それも、ふんちゃんは知っていたな、と思う。
「ちょっとやっかいだが、そんな自分の一面を認めたいと思う」
 と書く友だち。
 つぎの機会に、繊細だからこそ、あなたはやさしいのだ。やさしいあなたはもっともっと堂堂としていればいいよ、伝えよう。

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①めざしさん、あなたをどうしよう……。

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②南蛮漬けにしましたよ。

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2023年2月 7日 (火)

おでんをつくる

130
 夜、赤ワインのグラスを持って、机へ。
 飲みながら、ちょっと仕事をしようと思っている。が、グラスのなかみは脱アルコールの赤ワインである。
 半年くらい前に熊谷市立図書館の近くのカフェレストランでみつけ、赤と白1本ずつ求めてみた。飲んでみると、それなりに重みもあって、風味が生きている。とくに赤ワインに感心して、その後1ダース買ったのだ。

 机の左方から、今夜のうちにしておいたほうがいい事ごとが、こちらをじっと見ている。
「やれやれ」
 とか云ってみる。
 気がつくとわたしは立ってゆき、納屋からウィスキーの瓶を運んでいる。ショットグラスに注いだスコッチウィスキーをちびちび。脱アルコールの赤ワインを「あて」にして。
 仕様のないわたしだ。


1月31
 久しくおでんをつくってもいないし、食べてもいない。
 よし、とばかりに午前中買い出しに出て、おでん種をそろえる。
 大根。ちくわぶ。さつま揚げ。こんにゃく。はんぺん。
 帰るなり、ストーブの上で煮はじめる。卵と、うちで採れた里芋を茹でて加える。結び昆布も。
 おでんの煮えるにおいと音が、土間にひろがる。
 これは「過程」だ。夕食までともかく仕事をし、「おでん」に行き着くための過程。

 辻邦生が、チャールズ・ラムのことを書いたなかに、ある冬の日、雪に足をとられたラムが転倒するはなしが出てくる。それを見た煙突掃除の少年が腹を抱えて笑うのだ。
 ラムは、怒っただろうか。
 いや、怒ったりせずに「彼は少年を楽しく笑わせてやるために、紳士の対面さえ許せば、もう少し転がったままでいたかった」と書くのである。
 ここにはチャールズ・ラムの、たとえば煙突掃除人に対する見方があらわれている。そうだ、ラムはその存在をロンドンの大切な風物として讃えている。
 そればかりではない。日常のあらゆる場面、刻刻と過ぎてゆく時間をたのしむ生き方をしている。辻邦夫は、これこそがイギリス人の文化をつくり上げる土壌である、とあらわすのだ。イギリス人は、一瞬一瞬の、一歩一歩の手ごたえを愛している、と。
 現代のイギリスがどうなっているかはわからないけれど、少なくともチャールズ・ラムの傑作『エリア随筆』には、こうした人生の手ごたえが見事に描かれている。
 若い頃ラムは、想像を絶する悲劇的な事件に遭っているが、だからこそ一瞬一瞬の、一歩一歩の積み重ねにこめられた至福を忘れなかったともいえよう。ラムは「東インド会社」に勤めて帳簿つけをつづけていたことも記しておきたい。

 さて場面は、おでんを煮ながら机仕事をするわたしの本日に移るけれども、ここにだって一瞬一瞬の積み重ねのたのしみがひろがっている。これが過程の美学であり、生きるよろこびに直結している。


 2月3
 節分。
 この日がわたしのなかの柱となっている。1年を1冊の帖面にたとえるとすると、「節分」と翌日の「立春」の組み合わせは、あたらしいページにあたる。
 夫の実家の、農業の暦にも影響を受けて、そんなとらえ方が置かれたのかもしれない。たぶんそうだ。
 その実家に一昨年棲むようになってからは、実感として「節分」と「立春」が迫る。とうとう1年がはじまるな、というふうに。ああ、春が動きはじめたな、というふうに。

 夕方、夫とふたりで豆まき。
 近年、片づけのこともあって、落花生を撒くようにしている。
 家じゅうの明かりを消して窓をあけ、「福は内」「鬼は外」と叫ぶ。「福は内」を多めにはっきり云う。
「鬼は外」は、「鬼は……◯△□」という具合に、「外」にあたるところをにごして云う。
「鬼」に対する贔屓があらわれている。外にいっちゃわなくてもいいですよ、とね。どうしても「鬼」のような者の肩を持ちたくなるのである。
 そも、「鬼」って何だろうか。そこのところがわからない。

 ともかく、これであたらしいページがめくられた。

Photo_20230207101301
落花生に、家族の名前を書いて、
健康を祈りました。

ここに写したもののほかにも、
たーくさんの名前を書きましたよ。

F202322_16_12_20
熊谷での古民家暮らしがテレビ番組になりました。
BS11 2月12日(日)よる7時00分〜8時54分放送
のうちの30分くらいのようです。無料放送。
関心のある方はBS11のHPをご覧ください。
https://www.bs11.jp/education/oshikatsulife/

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