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2023年11月の投稿

2023年11月28日 (火)

バースデイ・シチュウ

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 友だちふたりと会って、散歩。
 久しぶりだったから、わたしは「二丁機関銃」のように、喋る。
 この時代に、庶民が「二丁拳銃」とか「機関銃」と云っても書いてもいけないと思うのだけれども、つい書きたくなるほどの勢いで、喋った。
 自然を観察できる、熊谷からそう遠くない町の公園に東京からやってきてくれたふたりは、弾丸を浴びながら、にこにことゆったり応じてくれている。

 昼過ぎ、うっかり公園からはみ出したところに蕎麦屋をみつけて、客となる。
 うれしや、新そばが出ている。十割蕎麦と二八蕎麦の二枚盛りというのを注文。ぶりの煮つけ定食という貼り紙をみつけて、「ぶりの煮つけだけいただきたいのですけれども」とたのむ。
 日本酒を飲みたくなったが、ぐっと我慢する。
 なぜかというと、夜、熊谷駅近くで「飲もう」という約束になっていたからだ。それにこの先また「二丁機関銃」」をつづけるとしたなら、正気でいなくてはならない。
 じつはわたし、いける口だ(そうでなかったらよかったのに、と思うこともあります)。だから少し飲んだくらいで正気を失うことはないのだが、その昔、父と交わした協約が、わたしを踏みとどまらせる。

「おまえ、いける口だな。うちのまき(=血縁集団)の血だな」
「そのようです」
「だがな、どんなときもがぶがぶ飲んだりしてはだめだぞ。いちにちのうち、昼も夜も飲むのもいけない。酒のいい面が薄まるからな」
「昼も夜もなんてことは、ないです」
「いや、そのうち、そんな機会もできるだろうよ。ぼくも戒めているのだよ。ハハハ」
「わかりました。約束します」
「父娘協定だな」

 いける口だとか、がぶがぶとか、昼も夜も飲んだりしない協定とか、まったくどうかしているなと思う。
 学問がいける口だったりしたら、どんなによかっただろう。
 しかし、父のきょうだいに混ざって「飲む」のはたのしかった。父の弟たち、妹たち、つまりそれはわたしにとっては叔父叔母になるわけだが、みんなうつくしいひとだったのである。うつくしいひとたちが結構な量飲むのだが、その所作は床しかった。

 さて、新そばを食べたあと、わたしたちはまた歩きに歩き、途中雑貨店に寄ったり、喫茶店で健康茶を飲んだりして、夜、熊谷の駅にほど近い店で、お酒を酌み交わしたのであった。


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 誕生日だ。
 気分は47歳という感じなのだが、どうやら65歳になったらしい。

 児童文学者で、ともに東京都武蔵野市の「子ども図書館文芸賞」の審査をする山花郁子さんが昨年、こう云うのを聞いた。
「わたしね、92歳になったみたいなの」
「え! それは何かのまちがいでしょう」
 ずいぶん長く仕事をご一緒している山花郁子さんのことを、わたしはいつも自分よりちょっと歳上、というふうに思ってきたからだ。
「まちがいではないのよ。このあいだうちの猫がね、こう仰向けにひっくり返って眠っているのを見ていたら……」
 そう云って、山花郁子さんは思い出し笑いをしている。
「猫さんがひっくり返って……?」
「ひっくり返っているから、わたしもひっくり返っちゃおうとね、思ったの。92歳をひっくり返すと、29歳じゃない? そんな感じでやってゆこうと思うのよ」
 そのやり方でゆくと、山花郁子さんはことし39歳になり、来年は49歳になる。その先はきっとまた別の案を生じさせて、「ことしは30歳ちょうどよ」なんて云われるのにちがいない。

 さてきょうは家にいて、せっせと仕事をする日だ。
 夫は麦播きをしている。
 シチュウでもつくろうと思いついて、ストーブの上でメイクィーンを皮のついたまま、2個茹でる。別の鍋で、野菜をオリーブオイルで炒め、小麦粉を加える。ルウをつくっているのである。ここに、茹でたメイクィーンを茹で汁ごと入れて、またストーブで煮こむのだ。
 仕事をする背中あたりに、美味しそうな香りがひろがっている。
「がんばれ、ふみこ」
Happy birthday to you!
 というふうに、ことことと。

 やがて牛乳を注ぎ入れ、前の日に火を入れておいた鱈(たら)——スーパーで安くなっているのをみつけた!——とバターを加え、小松菜も加えて完成。
 メイクィーンを割らずそのまま器によそう。豪快。


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 仕事をしているあいだに、履いていたはずの草履のうちのひとつがいなくなった。机にもぐって探すが、みつからない。家出したのかもしれない。
 しかたがないから、夫が土間で履いているサボ(サンダル)を片方借りて履く。片方草履、片方サボの足を見て、笑う。
 これは、2023年のわたしを象徴しているようだ。
 整理のつかなかった事ごとを整理し、草履は草履同士、サボはサボ同士合わせる、そんな年だった。

 そうだ、ことしの誕生日祝いに、わたしはわたしに土間用の草履を贈ろう。いま履いているのが擦り減ってきて、ちょっと滑るから。
「そうするがいいよ」
 と云いながら、家出を疑った草履が本棚の陰からあらわれた。

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2023年11月21日 (火)

やさしく無視する

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 これから1年間、月2回綴ることになるエッセイのための写真撮影日。
 担当編集者のマリエさんと、写真家のカズホさんがやってきた。
 ふたりとも、わたしの娘の年齢である。半年分の撮影を、どんどん進める。わたしはこういうとき、口を出さない。
 どうぞご自由に。
 カズホさんが静かに、被写体に向かって動きだす。カメラをかまえ、家のなかのもの、庭や畑を写しとってゆく様はたくましくも見える。仕事と興味がうまく混じりあっているなあ。

 撮影を終えて、食卓を囲んでいるとき、マリエさんがこう云った。
「3人の仕事がはじまりましたね」
 こころのなかで円陣を組んでいる感覚。
 さあまた、ひとり孤独に仕事をするのだと覚悟もしており、思いこんでもいたけれど、3人の仕事ということばに、力が湧く。
 わたし、少し変わってきたのかもしれない。と、思う。


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 庭に、大根(時なし大根)、のらぼう菜、パセリのタネを蒔く。
 10月のうちに蒔きたかったが、どうしてもかなわなかった。
 午後2時、机仕事から自分を引き剥がして、庭へ。
 土を夫が耕しておいてくれ、いわば甘やかししごとなのだが、それでも土に触れるうち、だんだんやる気が出てくる。
「ご無沙汰しちゃって」
 と、おずおずはじめた作業だったが、そんなことはどうでもよくなる。

「ね、あなた、移植ゴテどこに置いた? 決めたところに置かなくちゃ」
「大根、きょうは1列だけ蒔こう。収穫をずらすために」
「ここ、何を植えようね」
「水まくんですよ、タネ蒔いたのだから」
「また来週、働こうね、庭で」

 これはすべて独りごと。
 土の上では、わたしはやたらと独りごとを云う。


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 晴れた、暖かい日曜日の朝だ。
 きょうは「先祖祭り」の日。

 このところ、仕事や農業の合間に、せっせとひとりで準備を進めていたらしい夫を、わたしはやさしく無視していた。
 何もかもかまったり、知りたがると、めんどうだから、わたしはときどき「やさしく無視の術」を使う。
 夫には「やさしく無視されていますか」と訊かないでください。ただ無視するだけで、ちっともやさしくないと答えるかもしれないから。

 3日前のことだ。
「おやつを買って袋詰めにし、『先祖祭り』に参加の皆さんに渡したいんだけど。買いものつきあってくれる?」

「先祖祭りってなあに?」
 買いものにつきあいながら、そうわたしはやっと訊くのだ。
 町内に住む同じ苗字のひとたちが集まる「先祖祭り」。もう何十年もつづいてきたが、それを終いにする決断をしているという。
 集まるのを終いにするだけではない。一族の鎮守様を、八幡神社に合祀し、「先祖を供養する墓(八十八夜様)」は墓終いする。
 なかなか大変なときに、「先祖祭り」の当番を引き受けていたのだな、夫は。とうとうわたしの出番がきたようだ。
「『先祖祭り』、わたしも行きます」
「え、来てくれるの」
「行きます。行って手伝います。見てみたいです『先祖祭り』」

 こうして、町内の自治会館で「先祖祭り」の日を迎えた。
 フルメンバー16世帯(16人)の参加があり、欠席者のないのに驚かされる。
 近況報告をする皆さんのはなしを聞く。
 1000年前のご先祖の記録が残っている、と語るひとがあったが、16世帯のご先祖さまは同じ存在なのか。ずっとずっと昔、同じご先祖からヒトも、動物も、虫も、はじまったのではないかなあ、と過去に向かって想像がひっぱられてゆく。
「先祖祭り」にやってきてくださったご先祖さま方は、穏やかに、いまこの世にある子孫を慈しんでいるようだ。
 自治会館の部屋のなかに、まあるい光がいっぱいはずんでいたもの。

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廊下に、植物のコーナーをつくっています。
「フラワーロード」と、こっそり呼んだりして……。
多肉植物に花が咲いたり、
花瓶に生けた葉牡丹(ミニ)を見守ったり、
ちょこちょこここで、遊んでいます。
この夏、ここの植物を枯らしてしまったときは、
しょんぼりしましたが、少しずつ仲間がふえました。

日当たりがよく、ここにちゃぶ台を出して
仕事もします。

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\うんたったラジオ29/
仲しい茸園出張収録ー後編中努さんと、仲しい茸園でのBBQをいただきながら。
しいたけの焼き方。中さんの夢と、ふみこがこっそり悩んでいたこと。
「何が起こるかわからない」を楽しむ。(しいたけだけでなく)ししとううんまぁ! など。

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2023年11月14日 (火)

ひとつひとつの声に耳をかたむける

11月7日
 とうとう「仲しい茸園」へ行く日。
 何年も前から長女梓が、「ナカシイタケエン」「ナカシイタケエン」、「ナカサン」「ナカサン」と云うのを聞いて、いつしかまじないのコトバのように刷りこまれていた。

 梓の家に泊めてもらい、ふたりで10時半出発する。
 このひとは早足だから、遅れをとらぬように、いつもよりスピードを上げて歩く。
 ときどき必死になりながら、「なにさ」と思ったりする。
 かつては、わたしに遅れをとるまいと、あなたが必死でついてきたのにさ。しかし「逆転」なんてことはおくびにも出さず、急ぎ足でゆく。

「新大阪」まで行くのはわかっている。
 その先はどうなるのだろう。
 兵庫県川辺郡猪名川町ってどこ?2日間を予定のなかにぐいっと押しこんだあと、わたしは「仲しい茸園」の場所も成り立ちも調べることなく、本日を迎えた。
 新大阪→ 川西池田(JR)→ 川西能勢口(能勢電鉄日生線)という、わたしにはちょっと複雑な道程を経て、日生中央(にっせいちゅうおう)駅に到着する。

 駅の改札口で、背が高く、バレーボール選手のように背筋ののびた男(ひと)が笑顔で待っていてくれた。
 このひとこそ、「仲しい茸園」の中さんだ。
 仲しい茸園を営む仲さん夫妻のご長女と結婚したのが、この中さんなのだが、人偏(にんべん)のつく「仲」さんと、ついていない「中」さんについて、納得するまで時間を要した。
 ……仲さんと中さんが結婚したってことですね。

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 泊めていただいた部屋で目を覚ましたときに、「仲しい茸園」のお父さんお母さん(ふみことほぼ同年)は、ずーっと前に起きて仕事をはじめていた。
 仲さん夫妻、中さんと夫人のサオリさんと、息子さんたち(3人)と、大きな大きな牧羊犬2頭、小型犬1匹、セキセイインコ2羽とともに過ごした、昨夜の夕餉のひとときを、思い返している。
 よく食べ、よく話をした。

 午前中、中さんの案内で原木しい茸栽培の山へと向かう。
 ひととの共生によって成り立つ「里山」。ここに組まれた10万本余の原木から、原木しい茸は生じる。
 山に入ると、まず斜面の角度に驚かされた。急斜面に原木——これを榾木(ほだぎ)と呼んでいいのだろうか。いいだろうな、多分——が組んで置かれていて、梓とわたしも、摘みとりを体験させていただこうとしている。
 1本50キロにもなるという榾木を、山に組みながら並べてゆくところを想像しようとしても、想像が届かない。足を胸のあたりまで上げつつ急斜面を上がり、また下りながら、摘みとる。
 じゅうぶん大きくなったしい茸を、手で引くと、ぷちっと音をたてて榾木からしい茸ははずれる。
 原木しい茸栽培に適する、木漏れ日が実現する里山。
 そうだ、ここの住所に「木間生(こもお)」ということばがあったけれど、それは、この光を指しているのかもしれない。
 ずっとずっとこの山にいたかった。
 しばらく原木とともに在ったなら、わたしにも少ししい茸がわかるようになるだろうか。しいたけを栽培するひとの営みを感じるようにだろうか。「里山」という環境を循環させてゆくことの意味が、沁みてくるだろうか。

 その後、「仲しい茸園のBBQ場」にて、山山を眺めながら「うんたったラジオ」を収録。
 圧倒されつづけたわたしは、いつになく緊張して、もじもじしている。

10万本の原木栽培。
・家庭内分業(仲さん=お父さんは、しい茸栽培担当。仲さん=お母さんと、長女サオリさんは、販売、BBQほかの営業担当。中さんは週日東京で会社勤めをし、週末は「仲しい茸園」で活動。地域のしい茸園との協働、里山保全ほかにとり組む)。それを坦坦とこなしてゆく姿といったら!
・中さんの夢(「仲しい茸園」と職業それぞれに夢はあり、ふたつはどこかでつながっているように、わたしには見えた)と、それを支える家族……。

 すべてに圧倒された。
 仲さん=お父さんが語った「ひとつひとつの声に耳をかたむける」ということばを、胸にしまう。

*「うんたったラジオ」vol.28をどうぞ聞いてくださいまし。続編のvol.29は近日公開!
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11月9日
 いただいた原木しい茸、自分で狩ったハウス栽培のしい茸の、軸を切りとり、石づきをはずす。しい茸を冷蔵保存と冷凍保存とに分ける。軸はきざんで、干しておく(しい茸しょうゆをつくったり、感想しいたけとともに使ったりする予定)。

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 うちではサツマイモの収穫。
 夫曰く「もっと早く採ったらよかった」。
 ここが兼業の、むずかしいところだ。収穫期を読み間違えたり、逃すのは、経験不足もあるけれど、どうしても手が足りない。
 さてしかし、さつまいもをうんとたのしもう。

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仲しい茸園・出張収録ー前編やってきました
兵庫県川辺郡は猪名川町(いながわちょう)! 
原木しいたけを生産している「仲しい茸園」にて出張収録。
たくさんもてなしていただき、たくさん体験し、
いつになく緊張するふみこ。はりきるあずさ。
ゲストに仲しい茸園の中さんをお迎えして。

◆あずさと中さんの出会い「仲しい茸園」のHP
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◆中さんが初代にインタビューした回の「しい茸マガジン」
 
https://note.com/nakashiitakeen/n/n97b1f156039e 
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2023年11月 7日 (火)

「あなた、誰?」

11月1日
 10月というのは、スタートのときである。
 つづきもののあたらしい仕事は、たいてい10月からはじまる。ことしも、新連載の仕事が3つあり、ちょっとバタバタした。新連載が3つ? そりゃすごい! と思われる向きもあるかもしれないのだが、連載の仕事はいつか終わるのだから、ときどきあたらしいものがやってきてくれないと、困る。
 そういうわけでありがたく、わたしはバタバタした。

 連載初回の原稿を書くときは、いつも緊張する。
「はじめまして。山本ふみこです」
 なんてことを書こうとして、キーボードを打っていると、指先に色気が集まってくる。透明な「まっくろくろすけ」みたいなちっちゃい奴が、指先で遊んだり、爪の上をすべってころがり落ちたりする気配。

 これが案外やっかいで、こういうものが出ないほうがうまくゆく。
 それがわかっていても、知らず知らず出てくるものだから、初回はいつもあんまり、うまくゆかない。

 それでも長年この仕事をつづけてきたから、初回の「色気現象」にも慣れたもので、担当の編集者に向かって「初回は下手くそですよ」と、おかしな予告をしておいてから、何とか書き上げる。
 2回目になると、色気たちは退散して、とつぜん何ともなくなる。色気があってもなくても、書くものの質は変わらないが、わたしは楽になる。
 自分の仕事を、「求めに応じて書く」「求められたことに応じる」というところに位置づけているから、新聞社、出版社、雑誌社、その他の依頼主が何をわたしに求めているかを考える。それをつかんだあとは、読者の期待に応えられるように、書くわけだ。
 ……と位置づけている、と書いたが、「求めに応じて書く」「求められたことに応じる」を大切にしてきたのである。
 連載初回の「色気現象」は、おそらく、「求められていることをほんとにつかんでいるだろうか、わたしは」というあたりの揺らぎかもしれない。


114
 友人夫妻が車で訪ねてくれる。
 うちの近くにある「田舎っぺ」といううどん店に行ってみたいと云うから、11時にきてもらって、一緒に出かける。
 土曜日だし、11時過ぎに行けば並んだりすることもなかろうという読みは大きく外れ、列の尻尾について15分ほども待ったのだった。
 腰のあるうどん(店内で店主が打っている)を温かい汁、または冷たい汁につけて食するのだが(冬季は、野菜たっぷりの煮込みうどんあり)、驚く人気店である。つけ汁の種類が豊富である上、トッピングもたのしめる。うどんの茹で加減まで注文できるから、いつも、この複雑な注文を、よくまちがいなく聞き届けられるものだと感心して眺めている。
 やっとのことで卓につき、2週間ほど前のことを思いだした。

 元夫のムーくんが、バイクのツーリングに行くから、ちょっと寄る、というのだった。
「その日わたし、いますよ。じゃ、昼、一しょに『田舎っぺ』でうどんを食べましょう」
 夫が東京に仕事で出かけていたから、その日ふたりで店のカウンターに坐ることになった。何を話すのかって? ヤエばあ(ムーくんの母/わたしにとっては大好きな元姑)と、それぞれの子どもたちの近況、ちょっと昔話。
 ときどき、大きな声で笑いながらうどんを食べた。

「どういうご関係ですか」
 と誰が訊いてくれたらおもしろいのに。
 そう思ったが、そんなことになりはしない。
 訊かれたら「このひとは、元夫です」と答えるのはやぶさかではないが、訊いた相手は困るかもしれない。
 元夫とその家族たちとわたしたちが、友人としてつきあったり、誇りを持って認めあったりしているのは、望んでかなったことではなく、変わり者が集まったからだろうと思う。その意味で、わたしは変わり者を愛している。


115
 今朝のことだ。
 土間で仕事をしているわたしの前に、知らない男がぬっとあらわれた。
「あなた、誰?」
 それは夫だった。
 顔が腫れ上がって、別の誰かに見える。決しておおげさではない。まぶたは腫れ上がり、おでこはでこぼこ、顔のかたちもいつもとは異なるのだもの。

 そう云えば昨日夕方、暗くなってからトラクターで帰ってきた夫(田んぼを耕運して、麦播きの準備をするための作業がつづいている)が云っていたな。
「顔中『ぶよ』に刺されたみたいだ。前にも一度やられたのに、しまったなあ」
「ネットつきの帽子をかぶったほうがいいわね。明日はわたしのを貸したげます」

『ぶよ』って、すごい。
 秋から冬に向かうこの季節は、とくに注意、ということらしい。

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新連載のひとつ「日本農業新聞」の
エッセイの顔(タイトルまわり)づくりを
任されました。
わたしがタイトルを描くのもいいけれど、ね。
書くたび気持ちを盛り上げたいと、
友人のグラフィックデザイナー柴田裕介氏に
頼んで、これをつくってもらいましたー。

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\うんたったラジオ28/
仲しい茸園・出張収録ー前編やってきました
兵庫県川辺郡は猪名川町(いながわちょう)! 
原木しいたけを生産している「仲しい茸園」にて出張収録。
たくさんもてなしていただき、たくさん体験し、
いつになく緊張するふみこ。はりきるあずさ。
ゲストに仲しい茸園の中さんをお迎えして。

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