« 2023年11月 | トップページ | 2024年1月 »

2023年12月の投稿

2023年12月26日 (火)

へいちゃら

1226
 2023年をふり返ってみようかな。
 そんな心持ちになるたび、いやいや、まだ早い、と頭を振ったりしていたけれど、もう、ふり返ってもよいのではないか、と思う。

 急流を漕ぐような、1年だった。
 どこで会う知人友人からも、同じ感想を聞いたのだ。
「ことしはここまで、ほんとうに早かった」
WBC2023 WORLD BASEBALL CLASSIC)→ 猛暑→ やっと寒くなったと思ったら大雪。これで1年が過ぎていったよ」

 ことしはわたしにとって、決着の年であった。
 これまで見て見ぬふりをしていたが、どうしたって決着させなければならない事ごとを、やっとのことで終わらせる、という年。
 あちらの仕事を片づけ、こちらの実務をこなしきり、という取りくみに没頭していたため、あたらしいことには向かう余裕がなかった。あたらしくいただいた仕事というのはあったけれども、わが胸に企てが湧き上がると、それを一旦横にずらすようなことが一度や二度ではなかった。
 そういうわけで地味な年となったわけだけれども、いま、1年を通して自分が強くなっていたという感慨を持っている。
 本来持っていた強さに気がついた、という云い換えもできるかもしれない。
 片づけたり、決着をつけたり、整理したりするうち、体内の底のほうから、「へいちゃら、へいちゃら」なる気配が立ちのぼったのだ。
 軽く、さりげなくのぼる。
 自覚していたのより重いものに片をつけていたと見える。

 そんなことも、こんなことも、いまのわたしはへいちゃらです。

 ところで、1年の過ぎる速度についてだが、これは、幸いの証だろうと思う。よくよく考えれば、さまざまなことに逢い、考え、たのしみ、笑ったり泣きそうになったりしたのである。

 皆さん、2023年も広場に集ってくださいまして、どうもありがとうございました。2024年も、この場所で待っています。
 どうか佳い年末年始をお過ごしくださいまし。

Santa_20231226121401 
クリスマスも終わりました。
12月1日から、家のなかに坐っていてくれた「このひと」を
クリスマスの箱に納めようとして、ふと。
まだしばらく、そばに坐っていてもらおうかな、と考えたりするのです。

Ee1df2a7049374c108993daacb39f01f
“天才のときの” 包装紙6種セット 
thebase「ふみ虫市場」で新発売!
https://fumimushi.thebase.in/items/81276538

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 
 


 




 

| | コメント (24)

2023年12月19日 (火)

ねじり鉢巻

12月5日
 パリから帰国しているtachikawa motoko(立川素子)とJR新宿駅で待ち合わせる。 motokoは自由学園の同級生で、20歳のとき渡仏し、アーティストとして活動してきた。
 ずいぶん昔のことになったお互い20歳だったその日、motokoをわたしは東京都中央区日本橋の箱崎のバスターミナルまで見送った。当時の感覚だが、成田空港はおそろしく遠かった。そこでわたしは海外への玄関口でもあった箱崎に見送りに出たのである。
 motokoはフランスで暮らしつづけることになるだろうと思ったわたしは、どうしても見送りをしたかった。そしてモスグリーンのコーディロイのパンツスーツを着たmotokoの姿を、記憶に大事にしまって今日に至っている。

 直接会うのはおそらく7年ぶりだ。
 しかしmotokoときたら、くすくすっと笑いながら、口元に左手をやる昔ながらの癖もそのまま、あらわれた。お互いにつくれた時間は2時間。ともかく早めの昼ごはんを食べながら、と思って、駅ビルのレストランの客となる。
 この10年、とくに心を砕いてきた家族のはなしを聞くこと1時間、現在の活動について聞くこと1時間。持ち時間はまたたく間に過ぎた。
 自分のはなしをする遑(いとま)はなかった。
 ……それでいい。今回はmotoko10年を分かち合わないではいられなかった。
「あたらしいmotokoのはじまりだね」
 と云ったら、
「そうだと思う」 
 とmotokoは神妙な顔をした。
 あたらしいmotokoをわたしはまた、パリに見送ることができた。


1211
 お伊勢参りから戻り、そうなるとはわかっていたが、やはりそうだった。
 ねじり鉢巻。
 ほんとのほんとうに鉢巻をしたわけではない。熱心に仕事にとり組むこととして、使っている。
「ねじり鉢巻」なんていうことばに出合うたび、わたしは辞書を引く。
 机の下に開いて重ねて置いてある2冊辞書のうち、まず上の辞書「新選・国語辞典」に当たる。ところがここでは、「ねじりはちまき」という見出しはみつからず、ひとさし指で「ねじ」のあたりをくるくる探して、「ねじ-はちまき」を発見。意味・用法の欄には「ねじりはちまき」も記されているが、驚いた。
「ねじはちまき、かあ」
 そうなれば重ねた2冊の下のほうの「広辞苑」も見たくなる。
「ねじ、ねじ、ねじ」と探したが、これまた独立した「ねじりはちまき」の見出しがないのである。
「ねじり(捩り)」の見出しの意味・用法の欄のなかに「―・はちまき」として坐っていた。
 仕事をずんずん進めなければならないときにも、つい、辞書の国を旅してしまう。これはしかし、わたしにとってもっとも大事なひとときといえるかもしれない。

 さてところで。
 ねじり鉢巻が、どうしたのだったか。
 そうそう、2泊3日の旅からもどって、この日、わたしはねじり鉢巻。4時間で連載エッセイ3本を仕上げたのだ。このタイムは新記録ではないだろうか。

 はい、わかっていますとも。
 タイムよりも、なかみ、です。


1214
 ことしさいごの、ふみ虫舎のエッセイ講座。
 24人が集ってくださる。

 この日は、講座後忘年会ならぬ「くつろぎの会」を開く。午後4時から2時間、飲んだり食べたり語ったり……。
 忘年会は、その年の苦労を忘れる、という意味だけれども、わたしにはどうもピンとこない。忘れたほうがいいことは、その場でどんどん忘れることにしているし、苦労があったとしても、そこには自らを讃えたい要素も含まれているからだ。
 それで「くつろぐ」ということばを引っぱりだしてみた。
 ゆったりとした心持ちで、ひとときをともに過ごしましょうというつもりで。
 幹事を引きうけてくださる会員の原田陽一さんがつくる番号くじで、席が決まる。
 くじで決まった席に坐って、それぞれが機嫌よく飲んだり食べたり、語ったりする。年齢も、会員歴も異なっているが、あちらこちらで笑い声が上がるのだ。大勢での飲食、「懇親会」なることばを好むたちではないのだが、この会には毎度感心する。そして、途中で二度ばかりこっそりつぶやく。
「世界一のコンシンカイ」

 東京で開く講座や、「くつろぎの会」に参加できない地方の会員や、講座を覗いてみたい皆さんに向けて、来年はあたらしい試みをしよう。乞うご期待。

Motoko01 
Motoko Tachikawa
We are still here

あたらしいカタログ

We are still here の
Weには、いろいろな意味がこめられているという。
ことにひとり娘の Yukiko の存在。

Motoko02
 Tachikawa  motoko をとり巻く植物の世界を

深く観察し、それに同化してゆく。

ドローイング、デジタルのコラージュ、
テキスタイルのアッサンブラージュなど、
さまざまな手法を通して、motokoは……。

ポピーの連作。

 Ee1df2a7049374c108993daacb39f01f
“天才のとき”の包装紙6種セット 
thebase「ふみ虫市場」で新発売!
https://fumimushi.thebase.in/items/81276538

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 
 


 

 

 

| | コメント (9)

2023年12月12日 (火)

S字フック

12月7日8日9日
 お伊勢参りに出かける。
 10月だったか、友人のキミちゃん(仮名)の前で「伊勢神宮に行きたいなあ」とつぶやいたら、キミちゃんたら、その2日後、「こんなツアーをみつけました」と知らせてきた。

 12月に3日間、机から離れることができるかどうか。
 それをちらっと考えたけれども、考えるよりも決めたほうが早い、と思って、予定表の日にちに力をこめて線を引き、「伊勢神宮と伊勢志摩めぐり」と書きこんだ。……これでよし。
「ちょっと時間ができたから、そうだ、この隙に伊勢神宮に行こう」
 とはなりにくいものだし、前もって予定を入れるやり方を、遅まきながらことし、わたしは学んでいる。
「行きます」
 と、キミちゃんに即答。
 こうして20歳のとき以来となる「お伊勢参り」が実現した。

 1日目 二見浦・二見興玉神社
 2日目 猿田彦神社
    伊勢神宮 外宮(豊受大神宮)
 3日目 伊勢神宮 内宮(皇大神宮)
    朝熊岳 金剛證寺(あさまだけ こんごうしょうじ)

 これがこのたびの、いわゆる「お伊勢参り」の日程である。この順番で参拝するのがしきたりとなっているそうだ。その順番を守りながら、間に、横山展望台からの眺望、英虞湾(あごわん)クルーズをはさんで、たのしむ。
 東京駅で豊橋駅まで新幹線で移動するほかは、バス、バス、バス。
 これまでツアー旅行は苦手、と決めつけていたわたしだが、キミチャンが最近、ツアー旅行に誘ってくれるようになってから、そのおもしろみがわかるようになってきた。
 同じバスに乗り、同じホテルに泊まる35人のひとたちへの興味も、尽きない。ご夫婦、友人同士のほか、ひとり参加の旅人もあって、わたしは仲間の観察に勤しむのだった。
 添乗員さん、ドライバーもね。
 3日間、ひとつかたまりとなって移動し、同じ場面に立つうち、グループにはいつしかやわらかい雰囲気が生まれている。労(いた)わる声かけ、共感のことばが飛び交う。

「伊勢神宮のご祭神へ、朝夕二度、お食事を奉(たてまつ)る神事が1600年もつづいているなんてねえ」(外宮)
「ここから正宮のお屋根が見えますよ。光り輝いていますね」(内宮)
「外宮も内宮も森ですね。この、うつくしい大木!」

 旅が終わるとき、それぞれに散ってゆく人たちの背中を見送る。
 なんともいえない寂しさに包まれながら、3日間の、袖振り合うような短くて、かすかな縁(えにし)の値打ちをしみじみ噛み締めたことだった。
 おそらくこの出会いと別れには、わたしが知らなければならない意味が、ある。

 ところで、この旅のなか、バス旅行に慣れている皆さんが携えているモノを発見した。当たり前の顔をして、バッグのなかからとり出すのは——。
 モノを引っかけるのに使う、S字フックである。
 これを座席の前の取っ手(立ち上がるとき、急ブレーキのかかるときなどに掴むためのものだろうか)にこれを引っかけて、荷物や買ったお土産品の袋を吊るす。

Photo_20231212114101
伊勢神宮皇大神宮(内宮)にて 

484620421023662130_20231212114201

\うんたったラジオ31/
映画「翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜」を観てきました。
西へのあこがれ。東京、23区以外の地域。
今シーズン観ているド
ラマ、など。

◆ドラマ「きのう何食べた?」を書いたあずさのブログ
https://note.com/jamamotocapisa/n/n0a2ed79ffcaa
▽お便りはこちら(リンク更新しました!)
https://forms.gle/yLG1SqZs3VKC2w7S8
▼anchor
https://anchor.fm/untatta-radio
▼Spotify
https://open.spotify.com/show/59ZOIe4r9tIc3nccw6BP97?si=kN4MLamFTBWub_Q6fONFfQ
▼Apple Podcast
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/%E3%81%86%E3%82%93%E3%81%9F%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA/id1666439319?i=1000632816052

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 
 

 

 

 

 

 

 

| | コメント (14)

2023年12月 5日 (火)

静かに漕ぎだしてゆく

1124
作家の伊集院静逝く。

「伊集院静・展」のプロデューサーを務めたのは、ちょうど30年前だ。
 銀座の日動画廊で、どのくらい開催したのだったか、半月? ひと月?
 当時、出版社を辞めて独立体制で仕事をはじめていたわたしは、職業を多角的にとらえようと考えていた。
 多角的なんのといったところで、じつのところ「書くこと」1本では生き延びられないかもしれないから、もう1本か2本道をつくっておいたほうがいいだろう、ともかくそういう構えで行こう、と思ったのである。それも計画なんかはまるでなかったから、声をかけてもらったことを片端からやってみるという、出会い頭操業だった。
 文藝春秋の事業部から請け負うかたちで、「伊集院静・展」の仕事ははじまった。所縁の品品の展示(そのなかには直木賞の副賞の懐中時計も、あった)、伊集院静の日常の映像展示、作品からの抜粋展示を企てた。

 抜粋展示とは何か。
 作品を読み、はっとするような数行を選び、それをたくさん小さなパネルにして、展示したのだ。展覧会全体を見る役目だったけれども、どうしてもそれは自分でしたかった。夜通し伊集院静の本を読み、数行を選びとることは、もっともうつくしい仕事の記憶だ。
 どの作品も打たれながら読んだが、分けても自伝的長編「海峡」3部作『海峡』(海峡——幼年篇)、『春雷』(海峡——少年篇)、『岬へ』(海峡——青春篇)との出会いは決定的だった。
 活字が、読んでゆくわたしの目を射し、こころを揺さぶる。選んだ数行を書き写した紙片は、重なっていった。それをパネルにして会場に展示しようにも、しきれないから、泣く泣く幾つもあきらめた。

 伊集院さんにくっついて競輪場に行ったり、自宅に伺ってくつろぐ姿を眺めたり、焼き鳥をご馳走になったりした。
 類稀なる愛情深き人間(ひと)の横顔と、佇まいが記憶に刻まれている。


1129
 脚本家で作家の山田太一逝く。

 いつ山田太一の書くものを好きになったかというと、それは『異人たちとの夏』の場面11の書きだしを読んだときだ。

 帰りのタクシーで、私は両親の節度に打たれていた。いいたいことをいっているようでいて、お前のマンションへ行きたい、というようなことは決して口にしなかった。それが哀しくも思えたし、 それをいい事に誘わない自分をやましくも感じたが、なにかそのあたりに、現実と非現実の一線がひかれていて、

 引用は、どうしたってこのあたりで慎まなければならないけれど、「節度」ということばに、胸をつかまれたことだけは書いておきたい。
 それまで煙たい目でこちらを見ていた「節度」ということばが、突如としてこの上もなく魅力的な一面をあらわしたのだった。
 ドラマというドラマ、作品という作品はすべて追いかけたつもりだが、10年ほど前、ある講演会でご一緒し、半日氏のそばで過ごしたときのことは、自分という本の帯になったようだった。
 帯にはこう書いてある。
「ハンバーグを食べながら、山田太一とハンナ・アーレントを語る」

 当時出版されたばかりの『ハンナ・アーレント——「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』(矢野久美子・著)について、話した。いや、聞いたのだ。
 明るくて居心地のいい食堂でハンバーグを食べながら、「イェルサレムのアイヒマン——悪の陳腐さへの報告」(アイヒマン:ゲシュタポのユダヤ人部門の責任者として行政的大量殺戮の実行を担った)について語るのを聞き、質問したのである。
 講演会の会場に向かうため、食堂の椅子から立ち上がるとき、山田太一が云う。
「リアリティが、大事ですね」

 伊集院静と山田太一が、そろってあちら側へと移動した。
 ふたりは静かに漕ぎだしていった。
 あとには、たくさんの著作(あらゆる作品)が残されている。
「死者との交わり。これを学ばなくてはなりません」
 と書いたのは、ハンナ・アーレントだ。
 著作がどうなるか、そのひとのことばや佇まいがどうなるかは、この世に生きるわたしたちがつくる世界の有りようにかかっている。

Photo_20231205083301
ひと月ほど前に、長女梓の家で
「じゃがいもと里いもの煮もの」を食べました。
これが美味しくて、なんとか似せてつくってみようとするが、
そのときの味わいに届かないのです。
何がちがうんだろ。
コツをおしえてもらわなければ……。
じゃがいもと里いもが、鍋のなかでいっしょだということにも
驚きました。

「北欧、暮らしの道具店」HPで山本ふみこの
連載エッセー『たゆたゆーくまがや日記』がはじまります。
第一回「ことばのバトン」は12/8アップ(掲載)。
下記HPアドレスで12/8からお読みいただけます。
https://hokuohkurashi.com/note/309271


484620421023662130
\うんたったラジオ30/
さみしさの種類。仲しい茸園の朝にヨガに目覚めたふみこ。
身体がかたいで思い出したこと。エセ関西弁。お便りに支えられています、など。
◆ふみことあずさがやっているB-lifeマリコさんのヨガ

https://www.youtube.com/@B-life
▽お便りはこちら!
https://forms.gle/tRfXEDg8NtUXg7e3A

▼anchor
https://anchor.fm/untatta-radio

▼Spotify
https://open.spotify.com/show/59ZOIe4r9tIc3nccw6BP97?si=kN4MLamFTBWub_Q6fONFfQ

▼Apple Podcast
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/%E3%81%86%E3%82%93%E3%81%9F%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA/id1666439319?i=1000632816052

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 
 

| | コメント (21)