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2024年6月の投稿

2024年6月25日 (火)

百姓の顔

6月20
 東京で仕事。

 仕事を終えるまでは考えなかったが、帰り道そわそわする。

 帰らなくちゃ、帰らなくちゃ。
 田植え、田植え!
 と思うのである。

 夕方赤羽から乗りこんできた長女梓と合流。
 ふたりともに、上尾駅を過ぎるあたりで百姓の顔になったかもしれない。

 家に着くなり苗運び。
 苗代(なわしろ)から、苗箱を運ぶのだ。

 長女梓が、苗箱を持ち上げて笑う。
「なんて軽い! うれし!」

 昨年、大苗となり苗代に根が張って、持ち上げるのに苦労したことを幾度聞かされたかしれない。苗代の上に敷くシートを厳選したことも、功を奏しているらしい。

 昨年、苗運びを梓と萌に任せきりにしたわたしには実感がないけれど、うれしそうにしている梓を見て、笑う。


6月21
 田植え。
 植えている田んぼに、カモがやってくる。
 昨年もやってきてくれたカモだろうか。1羽できて、検分しているのかもしれない。それにしても、田植機がカタカタと音をたて、縫うように稲を植えてゆく田んぼで、ゆうゆうとしているのは、どういうことだろうか。気を許してもらっているのだろうか。

 田植機を操るのは夫。
 梓とわたしは苗箱から苗をはがして、田植えにのせる役目を担当する。
 ことし苗代は具合よくいったが、苗箱から苗の根をはがす苦労が待っていた。
 通常、1枚板を苗箱に通せばすーっとはがれるところを、根の張りがつよく、それでははがれない。
 道具を使ってはがすこととなる。道具としてとわたしが選んだのは、さて、何でしょうか!

 **********

 お好み焼きのヘラです。

 田植えが終わったら、お好み焼きを食べよう。
 ヘラに感謝を伝えながら。
「起こし金」が正式名称であるヘラの身になって考えてみているのだが、どうだろう。こんなことまでするなんて!とヘラは思っているだろうか。ヘラと生まれて、田んぼでまで活躍できるなんて!と思っているだろうか。
 どちらにしても、ありがとう!

 午後7時過ぎ、家の前の田んぼ6反の田植えを終える。
 本日夏至。昼間がいちばん長い日だ。

 寝る前に田んぼに行くと、カモが5羽のんびりしている。


6月22
 きょう明日(土曜日曜)、親方である夫が映画上映のイベントのため、札幌と長野県上田市に出かけるので、梓とわたしは机上で仕事。ふみ虫舎から刊行予定の拙著が大詰めを迎えているのだ。

 オンラインで、デザイナーの柴田裕介さんと打ち合わせ。3人で仕事するとき、柴田さんは総指揮官となる。梓さんは、デスク。わたしは著者であってもいちばん頼りない存在で、宿題をためた小学生みたいな佇まいだ。
 打ち合わせ、みっちり2時間。あたらしい宿題がどっさり出される。
 するべきことをこぼさぬように、黒板に白墨で記してゆく。

「仕事してばかりいてはいけない」
 と、とつぜん梓デスクが云う。宿題の前におののくわたしは「え、いいの? 遊んでいいの?」と訊く。梓さんはデスクであるが、こうなると母さんでもあるような。
「駅まで自転車で行って、映画を観て、帰りにお寿司を食べましょう」
「え、いいの? 映画! お寿司!」

 映画(映画「おいハンサム‼︎」を観ました)と寿司のあと、うんたったラジオを収録し、原稿(「ハルメク」に連載ちゅうの「だから、好きな先輩」vol.101)を書く。
 誰も褒めてくれないから、自分で褒める。
「よくやったね」
「……ですね」

 これで明日、本の仕事に集中できる。

 夜田んぼに行くと、カモ1羽。


6月23日
 朝いちばんで「はじめに」を書く。
 こういうときはどうだろう、執筆者の顔をしているのか、わたしは。
 
 つづいて挿絵の仕事。
 となりでゲラを見ながら、デスクが「つぎは◯◯のイラスト。つぎは描き文字」と指示をくれる。描いて渡すと、デスクがスキャンしてデザイナーの柴田裕介さんに送る。
 せっせと描くわたしは、お絵かき顔になっているのか。

 昼、パンケーキを焼く、まかない屋の顔になって。
 蒸し鶏とセロリのマヨネーズ和え、焼きブロッコリ、チーズとともに食べるパターンと、友だち製のイチゴジャム、自家製のクランベリージャム、サワークリームとともに食べるパターンで食べる。


6月24
 夕方、再び苗運び。
 ことし初めての(稲作をやめたご近所の農家から借りた)田んぼ4反の田植えがはじまる。

 静かな田んぼ。
 あぜ道がひろく、ゆったりとした印象だ。

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\うんたったラジオ41/

前の田んぼの田植えが終わりました。
田んぼの周りを散歩しています。これまでの作業をふりかえって。
時間のつくり方。農業の時間軸。韓国ドラマ「涙の女王」で休憩?
おたよりが来た! 山本ふみこの新刊をつくっています。
今年は告知をするぞ! など。

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2024年6月18日 (火)

愉快な助け

6月11
「ふみ虫舎エッセイ講座」を、熊谷の家で開く。
 一昨年、一度開催したけれど、昨年は開催できなかった。
 いつ皆さんをお迎えするのがふさわしいか思案したり、農作業の予定を睨んだりしているうちに……、いやいちばんには皆さんと何を食べるか、がイメージできずに、日にちを決め損なったのだと思う。

 ことし開催できたのは、料理人であるたーけくんが、昼食を引き受けてくれたからだ。
 2日前の深夜から泊まりこみで、準備をしてくれた。

 午前11時から、22人がやってきてくださる。

「おうちが喜んでおられますね。声が聞こえるよう」
 と云ってくださったひと。

「せんせい(←わたしです)は、どうやって時間をつくるのですか」
 と心配してくださったひと。

 熊谷らしい暑さのなか、青い空のもと、やさしい時間が流れた。

〈昼食のメニュー〉*
・ルーロー飯
 (玄米あるいは、白米をとる)。
・豆カレー。
・釜揚げしらすと新じゃがの山椒和え。
・茄子のナムル。
・庭のビワとブルーチーズの白和え。
・鯵と菊花のマリネ。
・牛肉とハーブのサラダ。
・蒸し鶏の梅きゅうソース。
・ゆで卵もろ味噌&とびっ子
・スクランブルエッグのサラダ。

・ねぎま汁(**)

*〈昼食のメニュー〉はバイキング形式。
**ねぎま汁は、ふみこがつくりました。


6月12
 きのう聞いた「せんせい(←わたしです)は、どうやって時間をつくるのですか」との問いを思い返している。
 そうだったな……、とふり返る。
 仕事も立てこんでいたし、家では麦刈り→田植え、という日日のなか、皆さんとの時間を持つことができたのは、不思議といえば不思議だ。

 それで自分でも、どうやって時間をつくるのか、と考えさせられている。

 たーけくんのつくった茄子のマリネ、牛肉とハーブのサラダを使って、パスタに。それを昼に食べていたら答えが出た。

 時間は、自分でつくるものではないのかもしれない。

(いやだ、このパスタ、ものすごくおいしい……)。

 時間は、与えられるもののようだな。

 見えない誰かさんが、あの手この手で時間を送りこんでくれる。
 熊谷講座の前前日、取材の仕事が先方の都合で延期となったのも、そのうち。前の日トラクターの軸が折れて修理が必要になったのなんかもそうで、おかげで、田んぼの耕運ならず、夫も準備に参加できた。おかげでわたしはゆったりした。
 一所けん命やっていると、どこからか愉快な助けがくる。それを信じることが大事なんじゃないかな。


6月13
 10日〆切の、月いち連載の仕事を忘れていた!
 担当からメールあり、驚く。
 平気で忘れていて、本日急いで書いて送る。
 これも、愉快な助けのうちかもしれないなんて云ったら、不謹慎だろうか。


6月17
 本格的に田植えがはじまる。
 苗代から、田んぼに苗箱を運ぶ。

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6月14日、夫が田んぼに水を入れました。

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\うんたったラジオ40/
石﨑嵩人さんと藤村勇人さん(たーけくん)をお迎えして。
あずさが2人とやっているポッドキャスト「炊き込みご飯わくわく舎」の合宿を兼ねて、熊谷に集合。
くるみ中くるみだらけのタルト、推しの魚屋さん。特製の刺し身サラダ。
最近のあったこと(4月)、お便りをもらうにはどうすればいい? など。

ゲスト・色付け:石﨑嵩人・藤村勇人

◆長野・浅間温泉の神宮寺さん(あずさのブログ)
https://note.com/jamamotocapisa/n/n84dfa736e73a
◆石﨑さんが静岡・宇佐美で訪れたお寿司屋「すしとめ」さん
https://tabelog.com/shizuoka/A2205/A220503/22006977/
◆石﨑さんおすすめの静岡・伊藤の干物屋「杉国商店」さん
https://www.sugikuni.com

◉炊き込みご飯わくわく舎
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2024年6月11日 (火)

麦の伝言

6月5日
 朝早くから端刈(はたが)りに出かけた夫を追って、わたしも田んぼへ。
 このあたりでは「端刈り」と呼ぶが、「角刈(すみが)り」という云い方もあるようだ。田んぼや畑へのコンバインの導入部をつくるために、四隅を手刈りしておく作業を指す。
 これは稲刈りの時も同じで、端刈りは、麦刈り、稲刈りの幕開けとなる。
「いよいよはじまる」

 夫の代で初めて麦を育てた昨年、わたしは麦刈りを少しも手伝えなかった。
 何がそんなに忙しかったのかおぼえていないけれど、机にかじりついたり、出張したり、気がついたときには麦が田んぼから消えていたのである。
 消えていたばかりではない。
 すっかり水を張って田植え前の田んぼに様変わりしていたのだった。
 麦刈りに参加できない運命は、わたしに「そのことを考え過ぎぬように」という戒めを伝えた。

 できることをする。

 それを噛みしめたのである。

「いよいよはじまる」
 ことし、田んぼの端に立ってそうつぶやけることが、うれしかった。

 さてところで、ことしの麦刈りメンバーは、コンバインと夫と長女の梓、わたしの1台と3人。
 コンバインは、刈りとり→脱穀→藁(わら)の処理(裁断、もしくは束化)をする機械だ。
 麦の背丈が低かったため、コンバインが銜(くわ)えた麦を脱穀押しこみながら畑をまわる。

 暑い日だった。
 シークワーサーの果汁を混ぜこんだ水を、こまめに摂る。


6月6日
 晴天。
 暑くなりそうだ。

 きょう刈る麦は、昨日の麦よりも背丈高く育っていたから、コンバインがさくさくと刈りとって、どんどん脱穀してゆく。
 同じ刈りとりでも、稲は水田だから、さくさくとはゆかない。コンバインの刈り残しを手で刈って助けなければならない(うちのコンバインは、旧式であるから、なおさらだ)。

 途中コンバインと夫を残して、梓とふたり梅とびわの収穫をする。

 午後4時。
 夫が麦の籾(もみ)をカントリーエレベーターに運ぶ(出荷)あいだに、午後4時から、梓とふたりでコンバインの藁の片づけをはじめる。広い畑にコンバインが吐きだした裁断された藁を、くまでで集めて袋詰めする作業だ。
 これは1週間後に待ちかまえている田植え(稲作)の準備でもある。
 トラクターで二度耕運して、麦の切り株と畑に残った藁を土に鋤(す)きこむ。このとき裁断した藁を少しでも減らしておくほうが、耕運の助けとなるのだ。

「ああ、この一面の藁くずに火を放って焼くことができたなら……」
 そうすればくまででかき集めたり袋詰めにしなくてすむばかりか、藁の栄養分を土にもどせるのに(焼畑農法)。
 近くに住宅地がひろがるこの地域では、望むべくもないことだ。

 午後6時。
 昨年と同じ6反と、家の裏手の2反をすっかり刈り終える。

 夜、梅酒と梅シロップ、びわ酒を漬けこむ。


6月7日
 昨日の夕方の作業のつづき。せっせとくまでを使い、麦の裁断された藁まみれになりながら、思うこと。
 パンやらパスタ、ピッツァを食べない「グルテンフリー」、米を摂らない「炭水化物ダイエット」ということばに、ひっぱられそうになったこともあるけれど、わたしは小麦も米もありがたく食べるわたしであろう。
 その恵みを心身で知ってしまったのだから。

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2024年6月 4日 (火)

バラごころ

5月28
 庭の野菜たちが育っている。
 いちばん手はスナップエンドウ。これは天に向かって姿勢を立て、つるをのばして実をつけている。つづいていちご、雪小町(白い二十日大根)。ミニトマトの収穫も間もなくはじまる。

 昨夏、ある時期つい収穫を怠ったあと、庭に植えつけた野菜たちとのあいだに、簡単には埋められぬ距離が生まれた。こころがはなれてしまったのである。
 収穫というのは、畑仕事の肝だな、毎日毎日見て、収穫しなければ……ということを思い知ることとなった。毎日野菜たちと顔を合わせることこそが、肝なのだと思う。

 毎日収穫。
 この夏の決心だ。


5月30
 寝室の窓に目をやると、ピンクが揺れた。
「あ、また咲いた」

 ピンク色の花を咲かせるバラである。
 お母ちゃん(夫のはは)が植えたのだと思う。
「あ、また」というのは、どうやら四季咲きのバラだからだ。
 春咲いて、夏も小さいのがちょっと咲き、秋咲いて、冬咲く。
 バラの居場所は、母屋の東側の隅っこだ。ひとひとり通れなくはないが、何かの作業のときやら、草とりをするときやらに踏み入れるだけ。
 はははなぜこんな人目につかぬ場所にバラを植えたのだろうか。

 畑作業を手伝いにきてくれた萌(5人娘のひとり)に、訊いてみる。
「ね、お母ちゃんはどうしてこんな隅っこにバラを植えたのかな」
「元もここは寝室で、この窓辺におばあちゃんの鏡台があったでしょう? おばあちゃん、化粧水をつけるとき、ときどきお化粧するとき、ここからバラを見ていたんじゃないかな」
「……」
 農業(40年間ほどは養蚕も)、家のしごとに精出すたくましいお母ちゃん……。子や孫や、親戚、近隣のひとたちのための尽くした、やさしいお母ちゃん……。ふだんは化粧っ気なしだけれどけれど、出かけるときには眉を描き、口紅を引いて変身するお母ちゃん……。うどんをつくるお母ちゃん……。ほうれんそうを茹でるお母ちゃん……。
 いろんなお母ちゃんを見てきたつもりだったけれど、鏡台の前に坐り横の窓からバラをそっと眺めるお母ちゃんを、わたしは知らなかった。
「バラごころだね」
 と云うと、萌が笑う。
「うん、バラごころだね」


6月2日
 日が長くなった。
 1800まで机で仕事をして、支度をして庭の草とりをするのが、このところのルーティーンとなっている。
 18 : 00から19 : 00までの1時間。夢中で草を抜く。1日の締めくくりに草とりをするというのは、なかなか考え深い。

 さて、ときょうも支度しようとするが、外は雨だ。
 雨では、草とりができない。
 このめぐり合わせも床しい。
 一瞬、1日の締めくくりが歪むかにみえてくるけれど、これでもわたしは百姓だ。別の一手を打つこととする。
 台所で鰯を煮る。生姜をたーくさん刻んで、いっしょに煮る。晩ごはんのためではなくて、これは翌日のおかず。もっとたくさん鰯を買うのだったな、と思いかけるけれど、これでもわたしは厨人(くりやびと)だ。こんどまたたくさん買ってきて、梅干しといっしょに煮るとしよう、と思い直す。

 夜はちょっとヨガ人になり、読書人となる予定。

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雪小町さんです。
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茄子も元気。

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