« 2024年6月 | トップページ | 2024年8月 »

2024年7月の投稿

2024年7月30日 (火)

とにかくきょうも生き抜こう

724
 夏の食卓の5割ほどが、ワンプレートごはんだ。
 大きめ(直径2426cm)の皿を数種類持っているのも、この季節に向けての、わたしなりの準備なのかもしれないな。
 ワンプレートにこだわるのは、楽をしたいからだ。洗いものが減る。そうして、遊びたいからだ。ワンプレートと呼んではいるけれど、小さな小さな鉢や豆皿を使って、ままごとみたいに遊ぶ。

 冷蔵庫があったって(うちにも、それはあります)、夏は11日つくっては食べきる「本日主義」でゆきたいから、ワンプレートのなかにそれを実現させる。
 たとえば切り干し大根の煮ものを、煮もの然として盛りつけたり、サラダ風に仕立てて盛りつけたり。常備菜だって食べきる。

 本日、わたしひとりの昼ごはん。

 玄米
 肉そぼろ
 野菜炒め

 をつくっては、のせてゆく。
 よし、目玉焼きをのせよう! 
 ひとりごはんのときもわたしはしっかり食べるが、ひとりのときはしごとが大雑把になる。大雑把を許すというか、大雑把に挑む感覚。
 卵ふたつで目玉焼きをつくり、肉そぼろと野菜炒めの境目めがけてドン、とのせた。
 大雑把で、すごくいい。
 食卓に運ぶとき、スキップをし損なって……、目玉焼きがひとつ皿から落ちる。
 あ“―。
 草履を履いた素足に落ちてきた。
 あぢー。

 きょうのはワンプレートごはんじゃなく、「ひとり暮らし・初めてつくった昼ごはん風」だったな、と思う。


726
 夜中、2024年パリオリンピックの開会式をテレビで覗く。
 セーヌ川の上を、選手たちをのせた船が流れてゆく。
 セーヌ川と云えば、「シェークスピア・アンド・カンパニー」だ。
 社会学者の日高六郎氏を神奈川県・葉山にお訪ねしたとき、聞いたはなし。

 1971年、パリ。
 日高六郎・暢子夫妻(暢子さんは画家)はセーヌ川のほとりで「シェークスピア・アンド・カンパニー」なる看板をみつけた。どうやら本屋であるらしい。なかに入ると、英語の本ばかりがならんでいる。
「シェークスピア・アンド・カンパニー」は第一次世界大戦直後、アメリカ人の若い女性が英米の本を扱うため、開いた書店だった。
 そこはいつしか作家やフランス文学者のたまり場となっていた。ロマン・ロラン、アンドレ・ジッド、ポール・バレリー、ジャームス・ジョイス……。
 イギリス、アメリカで発禁となったジョイスの傑作『ユリシーズ』、ここから初版本が出ている。

 日高夫妻のはなしはここで終わりではなかった。
「シェークスピア・アンド・カンパニー」の2階には店の主人の住まいだった。夥(おびただ)しい数の、文学と、社会運動の歴史に関する本がならんでいた。
「ストーブには火が燃え、大きな鍋がかかっていました。……いい匂い。旅のアメリカ人少女が、ソファに寝転んで本を読んでいた。店の主人は葡萄酒をあけ、スープをご馳走してくれました」
 帰国した夫妻の家には、若者が集うようになった。
 セーヌ川のほとりの店でみつけた熾火(おきび)を持ち帰り実現した「学びの場」「憩いの場」だったのである。

 ——思わぬ思いでの寄り道。
 2024年パリオリンピックのはなしの途中だった。

 選手の皆さん、そこに立っているだけで金メダル!

 この先の競技で得るメダルとか、メダルの色とか、そこはヒトの領域じゃないと思う。
 のびのびと競技をして、パリをたのしんで、胸を張って帰ってきておくれねー。

 競技人生について、まるでわかっちゃいないオバチャンの、声援のことばだよー。


729
 熊谷でとうとう40度超え。
 昼間クーラーを入れたベッドの部屋で、うとうとした。
 それで、夜中に仕事。
 ちょいと自堕落なことである。いいんだー、「とにかくきょうも生き抜こう!」の精神でゆく。

 旧暦のお盆が過ぎれば、秋がくる。
 そこまで生き抜こう!

Photo_20240730121101
何年も何年も前、
まだ東京と武蔵野市に住んでいたとき。
どこかの国でテロ事件が起きた翌日の朝でした。
次女の梢が、
出がけに玄関でこう云ったのですよ。
「とにかくきょうも生き抜こう」

そのとき書いて、玄関の棚上に
隠すようにおいた紙切れを、
いまも置いています。

Mubenarukana_hyoshi_20240730121401
Mubenarukana_cover_20240730121501
山本ふみこの新著『むべなるかな』は
THE BASE「ふみ虫市場」で絶賛発売中!

(下の書影は本のカバーです)
https://fumimushi.thebase.in

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
   
 
 




| | コメント (21)

2024年7月23日 (火)

祭りの日日

715
 夕方5時。
 やっと草とりの機会をつかむ。

 現在ふたりでとり組んでいる仕事のためにきてくれた長女の梓も、鎌を動かしている。長女ではあるが、仕事の相棒であり、草とりに関しては、師であるひとである。地面にお尻をつけ、草と向き合っている様子は、やはり師の風格。
 庭のあちらとこちらに離れて、黙黙と草をとってゆく。
 なかなか庭しごとができなかったため、ジャングルになりかけていて、目をやるたび、あやまりあやまり過ごしていたのだが、丈高くのびた草をとると、土があらわれる。地面にはびこる草がほとんどない。春に励んだ草とりが効いているのだ。
 1時間半働いて、ふたりでリヤカー2杯分の草を抜いた。
 
 庭で育てているトマトやきゅうり、アスパラガスの茎を支柱にのびた茎を、タコ糸で結びつける。

 白い二十日大根「雪小町」を、すっかり収穫。
 ピクルスをつくる。


716
 早起きする。

 こっそり、昨日漬けたピクルスを食べてみる。
 あ!
 いやだ、おいしい。


720
「ブックマーケット2024
 ——本好きのための本の夏祭りがことしも、はじまる(浅草/台東館)。
 61ブース74社出店の仲間入り。何が何だかわからなかった昨年にひきつづいての参加だから、朝、重い荷物を運びながら、わくわくする。ことしは拙著『むべなるかな』をひっさげてこの場に立った。
 本が動くといいなあとも思うけれども、それより何より、ひととの出会いを期待している。

 1017時、ブースの前にいた。
「ふみ虫、泣き虫、本の虫。」の広場の皆さん、「うんたったラジオ」のリスナーの皆さん、仕事仲間、友人たちがたくさん会いにきてくださる。
 ありがとう、ありがとうございました。


721
「ブックマーケット20242日目。
 暑い日だ。
 空調のおかげで会場は涼しいが、熱された街を通り抜けてやってきた人びとは皆、赤い顔をしている。

 会場をひとまわりしてきたひとは、たくさん本を抱えて「こんなに買っちゃった」と云って笑っている。本を好きなひとを見ているだけで、いいなあいいなあ、なんだかいいなあと思うのだ。

 夕方駆けつけてくれたブックデザイナーの柴田裕介さんも、「本を手にとってくれるひとを見ていたい」と云って、ブースに立っていてくれている。


7月22
 ブックマーケットに向けて1週間、梓の家に泊めてもらった。

 午後熊谷に帰る。
 熊谷は「うちわ祭り」の最終日。
 関東一の祇園として知られる祭りである。

 コロナ禍、神事のみの催行、縮小化された祭りがつづいて、ことしは5年ぶりに最終日の「打ち合い」も復活した。6月と7月休みなく動きまわっていたわたしは、少しくたびれていたが、祭りの音に包まれたくなる。
 熊谷市の12区それぞれにうつくしく、背の高い山車・屋台がくり出し、それぞれのお囃子がひろがる。12の山車が街のなかを練り歩き、夜、12基が広場に集まって「叩き合い」(お囃子と太鼓)をするのだ。

 音を浴びたな、と思う。
 魂に触れたな、と思う。

 わたしの67月のわたしの祭りも、終わる。

202401
202402

Mubenarukana_hyoshi_20240723123401
Mubenarukana_cover_20240723123401
「ブックマーケット2024」で初売りした
山本ふみこの新著『むべなるかな』は7/25(木)
THE BASE「ふみ虫市場」で発売予定。
(下の書影は本のカバーです)
https://fumimushi.thebase.in

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
   
 
 


| | コメント (17)

2024年7月16日 (火)

やりたいことはやっちまおう!

7月3日
 20年ぶりにあたらしい日本銀行券(紙幣)が発行された。
 そうか、20年ぶりかと思う一方で、世のなかの紙幣への対し方の変化を思わされている。財布に紙幣も小銭も入れていない、スマートフォンで決済するからクレジットカードも持っていない、というひとがふえている、という。
 と、ひとごとのように云うわたしも、近年現金を使う機会がぐっと減っている。
 だけど……。

 紙幣が好きである。

 ええ、これはお金が好き! という意味でもあるけれど、財布から紙幣をとり出す所作を気にしている。
 その昔、長財布からすっと紙幣を引き抜いて、支払いをする先輩があった。もうもう、それは惚れ惚れする所作で、わたしときたら、その仕草を真似して練習したのだった。自分の持っていた財布は紙幣を二つ折りにするタイプだったから、色紙を長財布のかたちに折って紙幣をおさめ、それを出したり入れたり……。20歳のころのことだ。そうして初めて長財布を買ったのだった。

 以来、長財布を愛用している。
 がま口が気に入りだから、この10年余り同じがま口型の長財布を使って、2年に一度買い換えてきた。
 けれど、紙幣の出し入れをまるでしないことも少なくない。わたしの場合は、カード決済がふえている。

「先輩たちの話を聞くと、出たり入ったり、いろんな場所に出かけたものだというけれど、わたしたちは、なんだか、同じ財布のなかにずっといますね」
「たまには、外の空気が吸いたいなあ」
「ひとの手に触れられて紙幣は育つと、云いたいです」

 紙幣たちは、そんなことを語り合いながら、まどろんでいるかもしれない。

 新紙幣とは、いつごろ出合うだろう。
 本日発行で、特定の銀行では扱いがはじまるそうだが、明日から本格的にでまわるらしい、と新聞もニュースも伝えている。


714
 新紙幣を見ることもないまま、この日を迎えた。

 1万円札の肖像に選ばれた渋沢栄一は、熊谷のおとなり深谷市の出身。500もの企業の解説に関わったとされ、「日本資本主義の父」と呼ばれる人物である。2021年、NHK大河ドラマの「青天を衝(つ)け」に主人公として描かれたころから、深谷市は盛り上がりを見せていた。

 この日、「新一万円札発行 祝賀パレード」が行われ、そこに「青天を衝く」に出演した役者の〈れおさん〉が登場するというので、出かけた。
 小雨の降るなか、沿道にひとは集まり、にぎわいをみせている。
〈れおさん〉を驚かせようと、わたしときたら、応援の黒い大うちわを3本つくって、携えている。 

 締切や、急ぎの仕事や、家のしごと、庭の草とりを横に置いて、うちわを作った時間は、わたしを相当に元気にした。

 やりたいことはやっちまおう!

 ところで本日、深谷市役所のロビーで、初めて本物の新1万円札を見た。
 ものものしいケースに飾られていたのである。

Photo_20240716091301

516960428354699441
\うんたったラジオ42/

残りの田んぼをやりとげました。
ひとつひとつのことをやって、新しい風が吹いてきた……? 
山本ふみこの新刊『むべなるかな』のこと。
ブックマーケット2024、お待ちしています。
ナイスガイのインパクト大の新刊にウキっとする。
嬉しいお便り。など


◆BOOK MARKET 2024
http://www.anonima-studio.com/bookmarket/

▽お便りはこちら
https://forms.gle/rb9gqcwHJzKafpJr6

▼うんたったラジオ42
Spotify、anchor、Apple podcastで聴けます

Mubenarukana_hyoshi_20240716091601
Mubenarukana_cover_20240716091901
2023年、山本ふみこの日記エッセイをお届けします。
日常の値打ちとは、こんなにもさりげなく、こんなにも独自。
〈楽しいおまけ付き〉


『むべなるかな』
山本ふみこ 著 ふみ虫舎 刊
2,200円(税込)

2024年7月20日(土)より
BASE「ふみ虫舎」ほかで発売予定。
Bookmarket2024_il_color_cmyk_20240716091601
新著『むべなるかな』初売りはBOOK MARKET2024。 
著者山本ふみこは二日間参加。サイン会やります!

会期:2024年7月20日(土)21日(日)10時〜17時
会場:台東館7F北側(東京都台東区花川戸2-6-5)
https://www.anonima-studio.com/bookmarket/

Nhk
山本ふみこがNHKEテレ『いろどりハピネス』に出演しました。
熊谷での古民家暮らし。7/18(木)再放送あります。

番組:NHKEテレ『いろどりハピネス』
再放送:2024年7月18日(木)午後0:15〜午後1:00(45分)
https://www.nhk.jp/p/ts/M7575GGW93/

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
   
 
 

| | コメント (18)

2024年7月 9日 (火)

「野ばら」

7月2日
 出かけて帰ってきてみたら、郵便受けに宅配便の「不在連絡票」が入っていた。
「いつもありがとうございます。お届けもの宅配BOXに入れておきます」
 と、ボールペンで書いてある。
「ありがとうなのは、こちらのほうですよー」
 そう思って、泣きそうになる。
 こういうことばに、わたしはすごく弱い。


7月3日
 立教大学へ。
 ことしもひとコマ受けもつことになっている。

 小川未明の「野ばら」をみんなでまわし読みする。
 これは100年前に発表された1編の童話である。児童文学作家・小川未明(18821961年)の作品は、かつて多くのひとに読まれ、わたしの小学生時代には、教科書に載っていた。そういえば、ある時期まで小川未明を女性だと思いこんでいたっけなあ。

 ところで「野ばら」。
 大きい国と、それより少し小さい国が隣り合っていた。
 両方の国からそれぞれ派遣された老人と青年兵士が、国境の石碑を守っている。国境には、だれが植えたということもなく、一株の野ばらがしげっていた。
 ふたりの兵士は立ち話をするようになり、いつしか将棋をさすほど親しくなった。やがてふたつの国は「利益問題」から戦争をはじめる。ふたりは敵、味方になったのだ。
 大きい国の少佐である老人は、自分の首を持ってゆけば、あなたは出世ができると、小さい国の青年に云う。
「なにをいわれますか。どうしてわたしとあなたが敵同士でしょう」と云い残し、青年は戦地への向かうのだった。
 小さい国は戦いに負け、その国の兵士はみなごろしになって戦争は終わる。老人は、青年が戦死したのではないかと気にかけながら石碑の礎(いしずえ)に腰をかけて、いつしかうとうととした。馬に乗り一列の軍隊を指揮する青年があらわれ、黙礼して野ばらの香りをかぐ。
 何が語りかけようとしたとき、老人は目がさまし、夢だったことを知った。その後しばらくして野ばらは枯れてしまった。

*****
 これが物語のあらすじである。
 本来、引用は謹しまなければならないが、この物語を読むと、世界で起きている戦争を考えさせられ、どきっとする。
 戦争というものは、こんなふうに親しくなったふたりを引き裂き、つまり大切な日常を壊すということを、若いひとと確認したかった。


7月7日
 出かける用事がつづいている。
 庭が、だんだん雑草ジャングルになってゆく。
 2時間ばかり草とりをすれば、ジャングルは庭にもどってゆく。問題は、気温との折り合い、時間をどうつくるか、だ。

Mubenarukana_hyoshi_20240709092601
Mubenarukana_cover
2023年、山本ふみこの日記エッセイをお届けします。
日常の値打ちとは、こんなにもさりげなく、こんなにも独自。
〈楽しいおまけ付き〉


『むべなるかな』
山本ふみこ 著 ふみ虫舎 刊
2,200円(税込)

2024年7月20日(土)より
BASE「ふみ虫舎」ほかで発売予定。

Bookmarket2024_il_color_cmyk
新著『むべなるかな』初売りはBOOK MARKET2024。 
著者山本ふみこも参加。サイン会やります!

会期:2024年7月20日(土)21日(日)10時〜17時
会場:台東館7F北側(東京都台東区花川戸2-6-5)
https://www.anonima-studio.com/bookmarket/

03cfb409721b95aafb54fbfb4e9eb89fc045ac79   
山本ふみこがNHKEテレ『いろどりハピネス』に出演します。
熊谷での古民家暮らし。ぜひご覧ください。

番組:NHKEテレ『いろどりハピネス』
放送日:2024年7月12日(金)午後8:00〜午後8:45(45分)
https://www.nhk.jp/p/ts/M7575GGW93/

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
   
 

| | コメント (27)

2024年7月 2日 (火)

「毎年、勉強なんよ」

6月25
 田植え最終日。

 家の西側にある小学校の、そのまた西側の田んぼを5反借りて、きょう初めて植える。

 行ってまいります。

 初めての田んぼである上、相棒の梓が福井県に仕事で出かけてしまい、夫とわたしのふたり作業である。苗の根を、苗箱からはがすとる作業が、わたしを待っている。はがして、それを、田植え機にのせてゆく。
 どうやら、苗の育て方に問題があったということらしいのだが、そんなこと、云っていられない。とにかく、お好み焼きのヘラではがすのだ。
 ふと、亡きちちの声が聞こえた。

「毎年、勉強なんよ」

 ちちが人生で経験した米づくりはおそらく80回
 小学校に上がった年から勘定すると、そうなる。ちちの代で兼業農家となったけれども、ちちに任されるようになって65回ほどだろうか。
「すべてうまくいった、順調だった、という年はなかったなあ」
 とふり返るちち。
 そうして「毎年、勉強なんよ」とつづくわけだ。

 どろんこになって作業していると、小柄な女性が近づいてきて、飲みものをくださる。この田んぼの持ち主の夫人、ミチコさんだ。
 長年、ふたりで稲作をしてきた夫と妻だったが、数年前夫君が脳梗塞を患い、4年間ミチコさんひとりで、耕運、代掻き、田植え、稲刈りをしてきたという。昨年、「ことしで終いにしようと思う」と立ち話で聞いた夫が、そのとき、どんなふうにこころを動かし、決心したものか、くわしく聞いてはいない。
 聞いてはいないけれども、よし、「ここを引き受けよう」と思ったのだろう。小学校まわりの田んぼを休耕にしたくないという、夫の気持ちはわかるつもりだ。

 奥まっているから、ひとも車も見えない静かな田んぼだ。田を囲む用水も豊かである。
「いい田んぼだねえ」
 と思わずつぶやく自分を、そっと笑う。

 あ、シマヘビ。
 あぜ道の先を這ってゆくヘビは、わたしが歩を止めると、自分も止まる。わたしが一歩踏みだすと、すぐさま動きだす。振動が伝わっているのだな。
 きれいなヘビ。そのうち、するすると草むらに入ったかと思うと、用水に飛びこんで泳いでいってしまった。

 午後7時、すっかり作業を終える。


6月26
 これまでわたしが知っている疲れは、「眠い」であったのかもしれないな、と思う。
 今朝、それとは異なる感覚がやってきていた。カラダが自分のものでないような、重たいような。ほら、ネジが「バカになる」、あんな感じだ。
 脳もつられて「バカになって」いる。

 それでも1本エッセイを書く。
 辻褄を合わせるのに、時間がかかった。何を発したいのですか、あなたは……と、自分のお尻を叩きながら、書く。
 担当編集者から届いた受けとりのメールに、「(原稿を読んで)クスっとしました」とあり、「バカになって」いるのがバレたか、と思う。

 眠いわけではない。
 田んぼ疲れは、いつごろ抜けるだろう。


6月30
 三女の栞の友人が遊びにきてくれる。
 保育園の0歳組から中学までいっしょのなっちゃん、小学校時代からいっしょのコウサカ(呼び捨てごめん)と、コウサカの親友で、なっちゃんの婚約者でもあるトモくんの、3人。優秀な若き友人たち!
 栞がいなくても、こんなふうにやってきてくれるのが、おもしろい。
 いや、ありがたい。

 うなぎの弁当を食べたり、冷奴を食べたり。
 とうもろこしに噛みついたり(皮ごと5分500w電子レンジにかける)。

 食べるほかは喋って喋って、笑って喋る。
 途中バンクーバーの栞とテレビ電話をつないで、また喋る。
「先のことはあまり考え過ぎず、いまの仕事、いまのたのしみに尽くそう」
 なんて、話している。

 3人に、ブルーベリーの木に防鳥ネットをかける作業を手伝ってもらう。
 30本のブルーベリーの上に、たちまちネットがセットされた。
 みんなで、田植えを終えたばかりの田んぼの様子を眺め、それから「雪くま」を食べに行く。
「雪くま」とは、熊谷のおいしい水でつくった貫目氷を粉雪のようにふわふわ、さらさらに削り、各店オリジナルのシロップをかけて食べる、熊谷の名物であります。

 やけにめまぐるしかった6月が、こうして幕を閉じた。

Photo_20240702103001
このヘラが大活躍。
ていねいに洗って、
感謝の気持ちから煮沸もしました。

どうもありがとうございました。
Photo_20240702103201
田植えに、これを持って出ました。

ことし2月につくった冷凍みかんです。
皮を剥いて、凍らせました。
救われましたー。

〈テレビ放送のお知らせ〉
山本ふみこの熊谷古民家暮らしを取材した
テレビ番組が下記の予定で放送されます。

放送局:NHK Eテレ
番組名:「いろどりハピネス」
放送日:7月12日(金)夜8:00〜8:44
再放送日:7月18日(金)午後0:15〜0:59

「いろどりハピネス」のHPサイト
https://www.nhk.jp/p/ts/M7575GGW93/

※HPは7/5から放送内容の広報画像が出ます。


〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 
 
 

| | コメント (19)