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2024年8月の投稿

2024年8月27日 (火)

試練

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 久しぶりに田んぼに行くと、青青とした葉のあいだに、稲に穂が出ていた。
 出穂(しゅっすい)と呼ぶそうだ。
 つづいて、ここにもうすぐ花が咲く。
 これまでわたしは花を見たことがない。ことしは見られるだろうか。こうした現象をつかむことも、つかまないことも、それはそれぞれ信号だという気がする。信号というのは、見たほうがいいですよ、という意味で。

 花を見られるかどうかわからないけれど、ともかく、本日は、穂を見ることができた。おおいによろこぼう。
 葉が光合成をして、穂に栄養分を送りこみ、秋に米を実らせる。そうだ、暑さ! ヒトにとって過酷な暑さも、それは稲にとってなくてはならない賜物である。そう考えると、暑さに対する思いが変わる。

 ヒトがときどき試練に遭うのだって、賜物なのかもしれない。ヒトは見た目には穂を出したり、花を咲かせたりすることはないけれど、内的には出穂あり、開花あり、米のようなものを生みだすではないか。
 少なくとも、試練を賜物として受けとめる神経を張りめぐらせないのは、つまらない。つまらないのを超えて、内的結実を見ないで終わることになりかねない。

 稲の穂に向かって、一礼。


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 ふみ虫舎エッセイ公開講座の日。
 この日、参加の皆さんおひとりおひとりの作品を、音読していただき、耳で聞いた。書き手の「いま」があふれ出す。
 おひとりおひとりの、あらゆる感情のつかみを、音でたしかめていると、個性というのは生半(なまなか)ではないことを思わずにはいられない。

 エッセイ、随筆を書くとき、読み手に何を伝えたいかということを考えておいたらどうだろうか、とわたしは話す。それだけじゃだめで、風、光が必要……モニョモニョ、と。
 ねえ、みなさん、文章のなかの風、光って何だと思いますか?


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 友だちふたりと島根、鳥取の旅へ。
 出雲大社や足立美術館、鳥取砂丘をまわった。
 実の詰まった旅だった。

 だけどだけど、
「何がもっとも印象に残っていますか?」
 と尋ねられたら、わたしはこう答える。

「夜ふつかつづけて行った、トランプ大会」

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★ハルメク365イベントのご案内★
海原純子さんと山本ふみこの特別対談
「幸せ上手になる生き方」
開催日:10月24日(木)14:00〜15:30
参加費:一般3,500円
会場:出版クラブホール(神保町駅から徒歩約2分)
募集人員:120名(先着順)
イベント詳細・お申込みは下記HPにてご確認ください。
https://halmek.co.jp/reservation/event/732/


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★池袋コミュニティ・カレッジ講座のご案内★
講師:詩人・井坂洋子 随筆家:山本ふみこ
『詩は、わたしの隣にいる』
開講日:10月26日(土)13:30〜15:00
受講料:3,520円
会場:池袋コミュニティ・カレッジ
〒171-8569 豊島区南池袋1-28-1西武池袋本店 別館8・9階
講座詳細・お申込みは下記HPにてご確認ください。
https://cul.7cn.co.jp/programs/program_1015602.html?shishaId=1001

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山本ふみこの新著『むべなるかな』
THE BASE「ふみ虫市場」で発売しています
下の書影は新著のデザイナーズカバー。
ご希望の方には著者がサインさせていただきます。

◇THE BASE「ふみ虫市場」
https://fumimushi.thebase.in

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
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2024年8月20日 (火)

見えないだけ

8月12
 気がつけば、お盆がはじまる。
 熊谷の、このあたりは、旧盆(8月)でいろいろの催しが行われる。
 明日は迎え盆である。

 ご先祖さま方は、この家でどんなふうに過ごしたいだろうか、と、考えてみている。よそゆきは、つまらない。いまのいま、この暮らしのなかにお迎えしたいなあ、というのが、わたしの答えだ。
 答えが出たところで、仕度にかかる。

 大きな花瓶に、黄色い花を生ける。
 禊萩(みそはぎ)を皿の上に置く。
 提灯を吊るす。
 線香立ての灰をふるう。
 精霊馬をつくる(きゅうりとなす)。

 農協の販売所に、買いものにゆく。盆棚に飾るため、スイカや梨を買う。かつては、座敷の扉をはずして盆棚をつくったそうだが、わたしたちの代では、大きな座卓を盆棚に見立てている。
 かぼちゃも飾りたい、と思って、ふとカットされたかぼちゃの前で、足を止める。
「かぼちゃ1個は、食べきるのが大変だけど、カット野菜を飾るわけにはいかねえでしょう?」
 と声をかけられる。
 声のほうに顔を向けると、あ、お母ちゃん。……じゃあないけれど、はは(夫の母)を思いだされる、女性が大きなかぼちゃをカゴに入れているではないか。ははより小柄だが、おしゃれしているところ、率直な語り口が似ている。
「そうですよね。かぼちゃ、まるごと買います」
 あわてて、相槌を打つ。

 こんなふうにときどき、お母ちゃんは、誰かの姿を通して、わたしに語りかけてくる。
「お母ちゃん、安心して。わたしたちなりにお盆の仕度をします」


8月13
 午前中、オンラインの打ち合わせがあり、お寺に皆さんを迎えに行けたのは、午後になってからだった。
「遅くなりました」
 ツアー旅行の添乗員よろしく、「皆さーん、こちらですよ。ついていらしてくださーい」と叫ぶ。

 この日、里芋、大根、にんじん、干し椎茸をさいの目にきざんで、澄んだ汁をこしらえた。お盆のあいだは、できるだけ精進でごはんをととのえようと思ってのことだ。


8月16
 送り盆。
 台風7号が接近して、雨が落ちそうな空模様だ。
 午前中に、お寺まで皆さんを送る。

 お盆が過ぎた。
 見えないだけで、たしかに存在する世界を常よりもさらに感じることができた。この世は、見えるものだけでつくられているのではないことをたしかめる日日。皆皆さま、どうもありがとうございました。


8月17日−19
 高知へ旅。
 仕事を持っての2泊3日の旅だったが、旅はどんなのも、冒険がつきもの、刺激的だ。けれど一方で、旅に出ると、自分が日常を旅気分で過ごしたいと希っていることに気づかされる。高知につくなり、日常が立ち上がった。いつもながらのおっちょこちょい、いつもながらのぶらぶら、いつもながらの食いしん坊、いつもながらのおもしろがり……。
 そうして夜はたちまち眠る。

 高知では、「このひととはどこかで会ったことがある」という気にさせられる、そんなひとたちと、幾人も袖振り合った。高知城のボランティアガイド氏、居酒屋の女将、高知龍馬空港のカフェのお兄さん……などなど。不思議に、なつかしい感覚。
 またきっと訪れることになるだろう。
 高知の日常に帰りたくなるだろうな。

 高知のおでん、おいしかったな。

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県立歴史博物館のカフェから、
高知城天守閣のしゃちほこです。

二度目の高知でした。
高知は、力のある土地だと、
あらためて感じました。

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\うんたったラジオ45/

お盆ですね。教えてふみこさんのコーナー。本と仲よくなるには? 
両親の本棚。読むと聞く。あなたのそれも読書です、など。

※ダイチーにお客様があり、すこし声が入っています。
わたしたちもさらにトンチンカンな会話に……?


◆話に登場した本たち
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 三宅香帆 著、集英社新書 刊
『1Q84』村上春樹 著、新潮社 刊
『メアリー・ポピンズ』※シリーズ P.L.トラヴァース 著、林 容吉 訳、岩波少年文庫 刊
『ドリトル先生物語』※シリーズ ヒュー・ロフティング 著、 井伏鱒二 訳、岩波書店 刊
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス 著 、鼓直 訳、新潮文庫 刊
・百年の孤独 読み解き支援キット
https://www.shinchosha.co.jp/special/205212/⁠
『蒼穹の昴』浅田次郎 著、講談社刊
『詩はあなたの隣にいる』井坂洋子 著、筑摩書房 刊

◆井坂洋子先生と山本ふみこの対談
「詩はわたしの隣にある」
日時|2024年10月26日(土)13:30〜15:00
場所|池袋コミュニティ・カレッジ(東京都豊島区南池袋1-28-18  西武池袋本店・別館 9階)
料金|3,520円
※オンライン配信も予定しています。まずはスケジュールを空けておいてくださいませ◎

◆『むべなるかな』好評販売中!
ふみ虫市場
⁠https://fumimushi.thebase.in⁠

▽お便りはこちら
https://forms.gle/rb9gqcwHJzKafpJr6

▼うんたったラジオ45
Spotify、Apple podcastで聴けます

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山本ふみこの新著『むべなるかな』
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ご希望の方には著者がサインさせていただきます。

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2024年8月13日 (火)

真冬のセミ

8月6日
 蒸し野菜に凝っている。
 大きくもない、小さくもない蒸し器に野菜をぎゅうと詰めて、火にかける。
 とうもろこし。じゃがいも。さつまいも。かぼちゃ。玉ねぎ。ごぼう。かぶ。なす。にんじん。オクラ。……。

 なかでも玉ねぎが好き。
 皮ごと蒸すから、箸で持ちあげると、思いのほかカサりとしている。それを皿にとり、口に運ぶ。
「え!」
 軽く裏切られる。と云っても、やさしそうに見えていた人物がじつは、無慈悲な奴であったというのではなく、何を考えているかわからないような奴が、とつぜんひとを救ったりするといったような、麗(うるわ)しの裏切りである。

「え! このとろりとした触感! この甘味、香りはいったい!」

 野菜はたいてい何を蒸してもおいしいけれど、問題はタレだ。
 塩よし、味噌よし、味噌マヨネーズよしなのだが、ちょっと凝りたいなあというときの知恵が、わたしには、ない。


8月7日
 鯵フライを揚げる。
 ふと思いついて、自分でつくったピクルスの残りを使って、タルタルソースをこしらえてみる。
 食べものの好き嫌いはほとんどないけれど、いっとき、タルタルソースが苦手だった。牡蠣フライやらミックスフライ(海老、イカ、カニクリームコロッケの皆さん)やらを注文して、上からタルタルソースがかかったのを供されると、「あ“―」と、濁点つきのため息が洩れたものだ。
 フォークとナイフを使って、タルタルソースを皿の上で片づける。
 いつ、あの苦手を返上したのか。
 こんなふうに、自分でタルタルソースをつくる日がくるなんて……、人生というのは、思いがけないことの連続だ。


8月11
 昨夜のことだ。
 どうしても片をつけたい仕事があり、それを仕上げて時計を見たら午前3時になっていた。やれやれ、またこんな時間になってしまった。しかし、寝床に横たわるなり、入眠。
 午前6時に目がさめる。
 夫がブルーベリーを摘もうと、起き上がる気配がする。
「よし、わたしも摘もう。摘んだあと、もうひと眠りしようっと」

 今シーズン、ブルーベリー摘みの勘所がいまひとつつかめていなかったのだが、今朝は、ちがう。
「わたしを摘んでください」
 というブルーベリーの声なき声が聞きとれる。
 盛りの季節を迎えているようだ。

 農協の「ふれあい市場」に11ケース出荷。


8月12
 とてもとても蒸し暑い日。
 しかし、わたしにはわかる。
 空気が入れかわっている。

 秋がしのび足でやってきた。
 昨夜はしきりに秋の虫が鳴いていた。

 お盆めがけてやってきてくれた長女の梓が、云う。
「夏が大好きなだいちーと、冬が大好きなお母(かあ)ぴー。うちはそれで守られている」
 それを聞いて、ちょっと勇気が湧く。
 いつへたばるか、という調子で夏を生きているわたしだって、寒くなってくれば、こちらのものだ。虫たちの多くは冬眠するなか、真冬のセミになってみせよう。
 わたしが鳴けば、まわりのみんなもめずらしがって、笑ってくれるかもしれない。そこらの苦悩や、さみしさを、少しばかり吹き飛ばせるかもしれない。

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出荷ケースに入れている手描きラベルです

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\うんたったラジオ44/
あたらしい収録方法にチャレンジ! 
わたしたちにとって大切なバックミュージックを調整してみました。
音はどうだろう?(変わらず眠れますか?)
うんたったネームを押し売りした方々からお便りが……!(嬉)
エピソードを間違えてしまったさらさらともこさん、また間違えてる……!(泣)
それぞれの素敵な親子関係。野菜が苦手な息子さんに向けたお弁当づくり。
熊谷の花火大会。夏の街、など。

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2024年8月 6日 (火)

8月のかなしみ

8月1
 月替わりの日。
 7月が行ってしまい、8月がやってきた。


8月2
 5月の終わりに仕事仲間から高知土産としてもらった「きし豆茶」を飲んでいる。細い細い小枝、葉っぱ、ちっちゃな鞘(さや)のようなものが、袋にぎっしり詰まっている。
「弘法茶とも呼ばれているんですって」
 弘法大師がひろめたということだろうか。それだけでありがたみがあり、元気がでそうだ。

 大袋のお茶の葉を、1回煮出す分のお茶袋に詰めかえる作業——こういうのが、わたしは好きだ。せっせと詰め替えながら、ぼんやり考えごとをしたり、思いだし笑いをしたり。
 この「きし豆茶」を運んできてくれたのは、先ごろ、熊谷に移住して暮らすわたしをテレビ番組にしてくれたディレクターである。プロデューサーも、ディレクターも、撮影も、音声も皆、女性だった。
 3日間かかったのには驚いたが、合宿みたいな日日で、自分の出番のほかはなんとなくふんわりしていられた。
 あのとき、わたしはこんなはなしをした。

思いつくように、半世紀以上も暮らした東京から熊谷に移り住んだ。
・熊谷での暮らしは3年になったが、この先のことはわからない。またどこかに移り住むかもしれない。
・先のことは、心配していない。困ることが起きたときに心配することにしている。
・計画はない。ほぼなりゆきでやってゆきたい。

 スタッフはそれを飲みこんでくれたが、番組的にはちょっと困ることもあるらしかった(太字のところなど、ときに)。……さもありなん。番組的にちょっと困ることもあるというわたしのやり方を、確かめることができた。確認の機会は、こんなふうにときどきめぐってくる。

「きし豆茶」、好みだ。
 熱いまま飲みたいお茶。


83
 朝、ブルーベリーを摘む。
 わたしの初摘み。
 どんどん摘んでいると、夫から「それはまだ早い。はじけそうに太った、こういうのを頼む」と注意される。
「ちぇーっ」
 まるで悪ガキみたいに口をとがらせ、実に向かって、目をこらす。
 だんだんはじけそうに太った実が見えてくる。

 夕方パソコンを買いにゆく。
 MacBook Air を手に入れた!
 これまでずっとデスクトップのパソコンを使ってきた。ノートパソコンのない時代もあったとして、買い替えのたびにどうしてデスクトップを選んできたものか、自分でもよくわからない。
 外で「書く」仕事をしない、と決めていたのだろうか。
 後悔はないが、いまのいま、こんなに軽量で薄い、まな板みたいに感じられるパソコンを持ってみて、ああ、自由だ!と感じる。
 どこででも仕事ができる、というのが、ふさわしいわたしになったということじゃないかな。


8月6日
 8月がぐんぐん進む。
「暑い暑い」と云われて、8月は嫌われ者になっていやしないか?
 ふと、8月のかなしみを思う。
 嫌っている場合じゃない。
 8月を二度とかなしませてはいけない。

 8月はもの想わせる、大切な月である。
 本日「原爆の日」。
 原爆投下から79年になる。

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夏の暑い盛りに、田んぼの水を抜いて
乾かす「中干し」を行います。

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1週間の中干し後、
田んぼに水を入れました。
ほっ。
(わたしも水入れしてほしい……)。

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