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2025年2月の投稿

2025年2月25日 (火)

足の指を数える

2月18
 朝、くつ下を履く。

 1年のうち、5月から10月までは素足に草履(ぞうり)を履いて、11月から4月まではくつ下に草履を履いて過ごしている。家の土間でのはなしだ。
 2月であるいまは、くつ下期間。
 くつ下は、5本指のを履く。朝、5本指くつ下を履くとき、わが胸に浮かび上がる感慨について、これまで幾度書いたことだろう。わかっていても、書かずにはいられない。

 ——ああ、きょうこそ、足の指がひとつなくなった。
 と思わない日はない、というはなしだ。

 今朝なんかは、右足のくつ下の指が決定的に余っていたから、はじめからやり直す。足先にひっかけたくつ下を神妙にとり去り、右手の親指と人差し指で、第1趾、第2趾、第3趾、第4趾、第5趾をつまんでゆく。
 こうしてみれば、指は5本ある。

 くつ下の指と、自分の指とのあいだに折り合いをつけながら、ゆっくりやり直す。
 履けた。
 5本指ソックスの裏側に穴があるのを発見する。

 ——困った、出かけるまでに、もう時間がない。
 とつぶやく胸のうちで、くつ下にあいた穴を愛しんでいる。どうしてこういう気持ちになるのか、さっぱりわからないけれど、このわからなさにつきあわないと、自分を見捨てることになりそうだ。
 穴といっしょに出かける。


2月19
 月一度の「ふみ虫舎エッセイ講座」の教室の日。
 きょうは、ブックデザイナーの柴田裕介さんをゲストに迎える。
 柴田さんの肩書きは何か、と訊いてみたところ、「エディトリアルデザイナー」ということばが返ってきた。雑誌をはじめとした印刷物に特化したデザイナーである。
 自分としてはどう呼ばれてもかまわないが、とことわりつつ、仕事をはじめたときに、師匠が「エディトリアルデザイナー」を名乗っていたから、聞かれたらそう答えることにしているとのこと。
「エディトリアル」には「編集」という意味がある。
 柴田裕介さんと仕事をするとき、「編集」分野についても大きく担っていただいている。いただこうと企てるわけではないが、いつのまにか……。

 デザインの歴史はこの半世紀のなかで大きく変化した。
 その前半期に、雑誌編集の仕事をしてきたわたしは、恥ずかしながらも(ほんとうに恥ずかしながらも)誌面のデザインをしていた。取材して、記事を書き、割付(わりつけ——雑誌や書籍のページの文字、挿絵や写真、図の配置を指定する——)をして入稿——印刷所に渡す——するのが、若かり日雑誌記者・雑誌編集者だったわたしの仕事だった。
 本格的にブックデザイナー、装幀家という仕事人に会ったのは、出版社から独立してからあとのことである。そこからは、自分で誌面のデザインをすることはなくなった。

 やがてわたしは、「デザイン」を交流、つながりの鍵だと考えるようになる。
 うつくしさ、おもしろさ、わかりやすさをひき出す鍵。「デザイン」に無頓着であると、ひととのあいだに橋がかかりにくいようだ。

 講座では、聞き役のわたしがポンコツであることを露呈しながらも、柴田裕介さんがそこにいて、落ち着いた口調で話をすることで「デザインとは何か」が伝わるのを感じていた。

「質問があるひと」
「はーい。柴田さんの、カーディガンのなかの、Tシャツの柄を見たいです」

 うん、そういうことかもしれないね。
 ……と、思う。
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2025年2月18日 (火)

従姉妹役

2月11
 机仕事がつづく。
 1日じゅう椅子に坐りこんで、働くことも少なくない。「それでも、」どうでもいい雑用をしたり、昼ごはんをこしらえたりするために立ち上がる。気を散らし散らし、仕事をしている感じだ。
 ふたたび「それでも、」わたしの職業は、坐り仕事中心である。

 せめて立って仕事したらどうだろうかと思って、このひと月あまり、机やテーブルに箱を置き、その上にノートパソコンをのせてパチパチやってみている。てがみも絵も、立って書く(描く)。
 世界のなかで、日本人は坐る時間がもっとも長いのだそうだ。情報番組で知った。立って会議をする海外の例、立ち机の種類などが紹介されていた。
 そうして、高さが合う箱をみつけて立って作業してみたら、具合がよかった。

 電車やバスのなかで、つい空いた座席を探すのは、どうしたわけだろう。やはり、坐り癖というか、坐りたがり癖がついているな、と思う。立ったままで一向にかまわないときにも、わたしはすぐ坐ろうとしていたもの。


2月14
 泊まり客あり。
 男性ふたり。

 昼間自分の仕事をしていたわたしが、さて、寝具くらい出しておくか、と客間を見ると、すでに布団がふたつ敷いてある。枕元に電灯もならんで置かれているではないか。
 うちの番頭の働きだ。
 こういうときは、おおげさに讃えないといけない。

「番頭さん、あなたはすごいです」

 自分のことを夫は「番頭」と称し、わたしの仕事を助けてくれたりするが、わたしはいったい、この家の何だろうか。
 料理人?
 小間使い? 
 うちには、主(あるじ)がいないなあと、気がついて笑う。この世に存在はなく、姿も見えないけれども、いまだ熊谷の家の主は、お父ちゃんとお母ちゃんだ。


2月16
 東京・錦糸町の駅で圭子さんと、午前10時に待ち合わせる。
 
 圭子さんのお母さまのご命日である。ひとり娘の圭子さんは、これまでひとりでお母さまを見送り、葬儀のこと、お墓のことを成し遂げてきた。
「お墓参りやご法事、わたしもくっついて行ってはいけない?」
 と訊いて、本日、初めてくっついてきた。

「お墓参りのあと、湯島にまわって、昼呑みしましょう」
 という提案にうかれながら、くっついてきた。

 バスに乗り、最寄りの停留所から歩いて、途中の小さな店で仏花をもとめる。これはわたしが納めさせてもらう。1対990円也。……気持ちだから、これでよしとする。
 店の主人と、先客が明るい声で会話をしている。
「いろいろ忘れていることがあってね。ま、昭和生まれだからしかたないね」
 と先客ががま口からお金を出しながら云う。
「そうだなー、昭和生まれだから、しかたないなあ」
 と店の主人が笑う。
 おばあさん、おじいさんという年齢だ。
「わたしたちも、昭和生まれです。忘れっぽいのは、昭和だからかあ」
 と云って、はなしに割りこむ。
「あんたらは、昭和は昭和でも若いほうじゃないですか。こっちは病気も持っているし、がたがきてますよ」
「だけど、元気ないいお声」
「あはは!声だけ声だけ」

 声は大事だと、あらためて感心する。
 声のいいおばあさんは、自転車にまたがり、颯爽と帰ってゆく。
 お寺ではご住職に挨拶。
 圭子さんのとなりで、怪しくない存在であることを証明するため、うやうやしく礼をする。
 寺の売店に寄って、お線香をもとめる。墓石屋さんのご夫婦だという。奥さんが、小型の卓上コンロのつまみをカチッとひねって、太巻きの線香に火をつけて渡してくれる。
 圭子さんは、墓石屋さんにも和菓子の箱を渡している。ご主人がうれしそうに出てきて、お辞儀をしている。ここでもわたしは、圭子さんの従姉妹という立ち位置でうやうやしく……。

 気持ちのいい、掃除の行き届いた墓地である。
 お墓、やっぱり好きだ。

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小型トラクターに「麦ふみローラー」を
連結して麦ふみ。

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\うんたったラジオ60/
嬉しいゲスト回が続きます! 
ブックマーケットを主催するアノニマ・スタジオの
「ずんさん」こと安西純さんと、
ナイスガイ編集部の「たろちゃん」こと橋本太郎さんが
熊谷に遊びに来てくれました。
ホルモンの名店「とんちゃん本店」で乾杯してきました! 
なので、皆ほろ酔いで2次会のような雰囲気に。
おつまみを用意したり、柿ピーをつまんだり、
いつもに増して自由気まま収録です。
ブックマーケット、ナイスガイとは? 
ワイロを送り合う。ニューヨークに行きたい、など。


色付け:ずんさんとたろちゃん
イラスト:たろちゃん

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2025年2月11日 (火)

こまごま・ちくちく・すってんころりん

2月4日
 午後2時、「有限会社うんたった」の企画会議。
「社長、ご挨拶を」
 と云ってみるが、挨拶はなし。

 20歳の年、出版社に入社して11年勤務した。退社後わたしは会社勤めをすることなく、フリーランスの立場で仕事をしてきた。
 さまざまな会社から依頼されて働くから、各会社の雰囲気、事情、方針について少しはわかるつもりだけれど、それでもピントはずれている。と、思う。

 それはさておき、「有限会社うんたった」についてである。
 昨年の夏のこと、「スコブル工房の社名を変更して、ふんちゃんと、梓(長女である)と3人の会社にしようと思う」と夫が云った。
 まるで「ラーメンが食べたくなったな。ね、ラーメン食べに行かない?」というような調子であったから、わたしもつい、「それはいいねえ。行こう行こう」というような調子で、返事をした。
 メールで梓にも知らせたが、このひともなんだか、「ラーメンを食べに行くなら、わたしも行く」というような調子だ。

「あたらしく会社をつくるにはお金もかかるし、有限会社(スコブル工房は有限会社)はいまもうつくれないから、そのおもしろみを残したらどうかと思う」と夫は云う。

 有限会社スコブル工房は、夫・代島治彦(だいしま・はるひこ)が28歳のとき(1987年)つくった会社で、映像やイベントを製作し、50歳代に入ってから主に映画製作をするようになる。ドキュメンタリー映画製作は、側(はた)で見ていても大変そうだったが、全部で8本(うち5本が自身の監督作品)つくった。
 あいだをうんと飛ばすが、どうして社名を変更してまで、わたしたちと会社をやろうと思ったかという質問に、代島はこう答えた。
「3年前からふたりで『うんたったラジオ』をはじめたでしょう?それがうらやましくなったんだよね。仲間に入れてもらいたくなった。自分に残された未来を考えたとき、もっとたのしくやろう、と思ったんだよ。うんたった、うんたった、とワルツのリズムで」

 企画会議は、2時間にも及んだ。
 お金のこと。書店への営業。あたらしい製作物。農業計画(農業も、会社の定款に入っている)。

 家内工業だなあ、と思う。
 それぞれ、大枠からはみ出しがちな性質を持ってはいるが、こまごました事務作業、ちくちく縫うような手作業が好きである。すぐころぶが、すぐ立ち上がり、つぎまたころぶまでてくてく歩けるたくましさ——いや、それはちがう。たくましいと書きたかったからそう書いたが、ほんとうはそれは「鈍感」によるものであることを、自覚している——を携えているところは、わるくない。

*「有限会社うんたった」は2024117日に登記しました。代表は代島治彦です。


2月6日
 郵便局に行く。
 
 昨年10月に郵便料金が変わったとき、ひゃーと小さく叫んだ。
 仕事でも、わたし個人でも、郵便を出す機会が多いから、ひゃーっとね。にもかかわらず、あたらしい110円切手、85円切手をうかれて買った。
 ところが、昨夜机に向かってぼんやりしていたら、手持ちの切手が「追加料金を貼ってくれなければ、働けない!」と、目の前を行進してゆくではないか。

 そうだった。
 定型郵便(25gまで/改定後は50gまでとなった)切手84円切手には26円分を、はがき63円には22円分を貼り足さなくてはならない。
 26円切手、22円切手というのは、あるのだろうか。
 調べてみると、ありました。

 これまで集めるともなく集めていた切手たちのためにも、差額分の切手を買う。郵便局の窓口で、自分で書いたメモを読み上げる。
1円、2円、5円、10円、16円、20円、22円、26円、30円、40円、50円切手をください」

2025
わたしのまわりでいちばん落ち着いて、
着々とのびているのが、麦さんたちです。
……ほらね。

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2025年2月 4日 (火)

旅のチカラ

 1月27
 金沢への旅。

 思えば金沢を訪れるのは、20歳のとき以来である。
 ひとりであちらこちら歩いたはずだが、記憶は彼方。そのときみつけて求めた小さな盃だけが旅の証となっている。
「こころを寄せる場所」と呼んでいるコーナーで、この世から旅立った愛しい皆さんへお水を供す器として盃は、ある。

 カナダ・バンクーバーから一時帰国している三女の栞と、旅をしようということになった。これまで、ずいぶん共に旅をしてきたつもりだったけれども、ふたり旅はなかった!
「ふたり旅、しようか」
 というつぶやきを、バンクーバーにいる栞のパートナーがキャッチして旅を贈ってくれたのだった。韓国系のカナダ人であるジェイははじめ、「お父さんは行かないのか」と心配してくれたが、父とは高校時代、大学時代にふたり韓国旅行を2回しているからいいのだ、「今回はお母さんと行く」ということとなる。

 高崎線で高崎駅まで行き、北陸新幹線で金沢へ向かう。
 なんという速さだろう。
 20歳のころは北陸新幹線がなかったから、東京から新幹線こだまで米原に出て、幾度か乗り換えて行き着いたのではなかったか。いや、飛行機(羽田↔︎小松)だったかな。どちらにしても、遠路であった。

 金沢駅に降り立つと、ひとはまばらで、しかもまばらなひとの9割は外国人のようだ。ホテルまで20分ほど行くだけで、金沢は歩きやすい、と親しみが湧く。

「和栗白露」でモンブランとお茶をたのしむ。

「刺身屋」(近江町市場)で、鮮魚と治部煮と日本酒(天狗舞)。
 
 どちらも、おとなりは英語圏の皆さんだった。


 128
 泊まったホテルは大きくはない、いわゆるデザイナーズホテル。
 意匠(いしょう)シンプルで、サービスも過剰でなく、居心地がいい。ちょっと仕事をする。

 午前中「金沢21世紀美術館」へ。
 あられが降ってきた。傘はささず。

「鶯」で中華そばを食べる。
 鶏白湯魚介そば(栞)
 香味中華そば(ふ)

 カウンター7席のみの小さな店で、たどり着いたとき、店の前に外国人4人家族がならんでいる。
Are you in line?」
 と栞が声をかける。
Yes
 Are you in line?は
「ならんでいますか?」という意味だそうだ。
「おぼえておくといいよ。よく使います」

 店内のさっぱりとした様子に、ガス台の上の大鍋(湯)のなかで丼を温める、麺を茹でる、丼のなかでスープをつくる、具をのせる手順に見惚れる。
 そしてそして、たいへんな美味。

 夜は「あらた」(片町/香林坊)で焼肉。


 129
 めずらしく夜11時に就寝。朝7時までぐっすり眠る。眠るっていいなあとからだが告げている。
「これからは、こんなふうに眠ってください。お願いしますよ」

 夜の間、雷が鳴ったそうで、外を見ると、雪が5センチほども積もっている。

Curio Espresso and Vintage Design」(キュリオ・エスプレッソ・ヴィンテージ・デザイン)でブランチ。

 ベジタリアンサンドとカフェモカ(栞)
 ブレックファーストサンドとゼスティーモカ(カフェモカの上にオレンジピールをトッピング/ふ)
 スープ(この日はクラムチャウダー)をシェア。

 このカフェ、また訪れたい。

 兼六園へ。
 雪が大降りになる。霞ケ池を眺めて、満足し、引き返す。
 午後帰る。


 130
 歩きながら話し話し生きてきたわたしたちだ。
 金沢の旅は、すべて徒歩だったところが、よかった。
 いま、ここにいる日本人はわたしたち2人だけ、という場面がつづいて、なんだか、海外旅行みたいだった。
 ホテルのスタッフに、「日本の方ですか?」と確かめられる始末。最近わたしは、よく中国人にまちがわれる。それをうれしいとも、うれしくないとも思わないけれども、「日本人なのですよ、ほんとうは」と、ときどき、小声ででも主張したくなった。

 それはともかく、旅はチカラを持っている。
 日常を見直せるといったらいいのか。
 旅が吹かせる風が、わたしのどこかを変えてゆくようだ。

 午前中オンライン会議。
 ああ、たちまち日常にくるまれる。

Kanazawa02  
20歳の日、金沢で求めた盃です。
いいでしょう、なんだか。

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金沢21世紀美術館の庭にて。

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\うんたったラジオ59/
『ペンギンの親戚』の著者・藤村勇人さん
(たーけくん)をゲストにお招きして。初めてのオンライン収録です。
ちょっとぎこちなさがありますが、それも合わせてお楽しみください。
『ペンギンの親戚』を読んでのメッセージ。
一緒にドジョウを食べました。モジモジおどし。
写真を撮るとき、何考えてる? 作るのが楽しい、など。

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