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2025年4月の投稿

2025年4月29日 (火)

どくだみさん

4月24
 詩人の井坂洋子せんせいとの対談の、2回目。
 このたびは、わたしがお仲間とつづけている「ふみ虫舎エッセイ講座」に組みこんで行った。

 いつ、わたしは井坂洋子せんせいと対談しようと考えたのだろうか。
 どうしてもしなければならないと、思った。
 そう思っていながら、もじもじする。

 このたび井坂せんせいにも、「え? もじもじ? あなたが?」と、笑われたのだが、体質としてわたしは「もじもじ族」である。こうしようと決めたら、脇目もふらず突進するところもあって、そこに注目すると大胆にも見えようが、そのじつ、「そこ」までそうとうもじもじする。

 もじもじ、もじもじ。

 いつ、わたしが井坂洋子せんせいと対談しようと考えたのかを思いだせないのは、「もじもじ」と「決断」のあいだに、あまりにもいきなり架橋が実現するからなのだ。

 井坂洋子せんせいはわたしの恩師である。
 あまりにも歳が近く、それからわたしが、ずっとずっと日常的に「井坂洋子」をむしゃむしゃと食べつづけてきたから、誰もそのことに気がついてはいない。何よりわたしの創作に、それが痕跡として刻まれないのが、いけない。
 けれどきょう詩人の牟礼慶子はなしになったとき、「牟礼慶子さんがわたしの詩の母だとすると、山本さんは牟礼慶子さんの孫弟子になるのかしらね」と云われたとき、目から氷の涙がカランコランと落ちた。

 どうして凍っていたのだろうか。
 たぶん、目を見開いたまま、凍りつくようにわたしが止まったからだ。

 いい日だった。
 お仲間の数人に混じって、井坂洋子せんせいと日本酒「作(ざく)」を呑む。
 透明感のある三重の地酒。
 透明感のある詩人。

 ぴったりだなと思いながら、ぐびっとゆく。


4月26
 庭で草とりをする日日。
 水やりもかかせない。
 タネを蒔いた土へ、苗を植えつけた土へ。

 草とり。
 対象はいま、7割がたドクダミだ。

 こんなにもうつくしく、きっぱりと潔い草を、わたしは雑草として抜くのである。鎌も使うこともあるが、ドクダミには素手で、触れたい。葉をつかんでひっぱると、たいていうぷちっと千切れるが、どうかすると、ずるずると土のなかから根があらわれることがある。
 気持ちよくひっぱりながら、ドクダミの未来を土のなかから抜きとるようで悲しくなる。
 ドクダミをなきものにしようとする自分をひっぱって、ずるずるとどこからか抜き去り、解放してやりたくなる。

 ね、どくだみさん、わたしの指はこのところ、あなたの香りに染まっています。みつければ、ひっぱりたくなるからね。
 6月になれば花も咲くだろう。
 それを書架に飾ろうか。
 葉は干してお茶にしようか。
 葉をグリセリンに漬けこんで化粧水をつくろうか。

 どくだみさん、ね、どくだみさん。

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いま、わたしのまわりでは
みどりが動き、花が動いています。
ブルーベリーも花をつけて、結実に向けて旅をはじめました。

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ふみ虫舎エッセイ講座傑作選
「週刊ことば山」note連載をはじめました。
面白いですよ。読んでくださいまし。
毎週火曜日に新しいエッセイをアップします。
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2025年4月22日 (火)

天から降ってきて、わたしを動かす

4月18
「深谷方面へわたしは歩いてゆくから、ホームセンターで会いましょうよ」
 深谷市の「深谷シネマ」に用事のある「車の」夫と、深谷市のホームセンターでいちごの苗を買いたい「歩きの」わたしである。
 歩きたいなと、ふと思って云ってみたが、この提案は通らないような気がする。夫は、なんというか、わたしの「無茶」を止(と)めようとする傾向があるからだ。自宅からホームセンターまでは徒(かち)で1時間半かかるし、暮れはじめる時間帯でもある。「明日にでも、また車を出すからさ」と云われる覚悟をしながら、おずおずと。
 ところが、「深谷シネマをぼくは午後615分ごろに出るから、計算して、歩いてきて。時間が変わったら、途中で拾うよ」と、夫は云った。

 夫とわたしの住む熊谷市と深谷市とは隣り同士、高崎線の駅だと、熊谷、籠原(かごはら)、深谷……となり、どんどん高崎に近くなってゆく位置関係だ。ここのところ、他者(ひと)の書いたものを読みに読んで、読みながら「ここは、こんな書き方もありますよ」とか、「構成をちょっと変えて、ここを書きだしにしたらどうでしょう」「この部分はトルとして、別の作品にすることをおすすめします」なんてことを青色のインクのペンで書きこむ作業をつづけていたものだから、歩きたくなった。
 庭の仕事も本格的にはじめたから、気分転換はできているが、「歩く」はわたしにとってまったき旅であり、ひとり歩きはひとり旅だ。
 午後5時出発。
 数時間の旅だから、帰宅してから食べるものを準備して(ラーメンを食べようと思い、ゆで卵をつくり、ほうれんそうを茹でておく)、靴を履いた。
 日が伸びたから、午後5時はまだ、昼間のつづきだ。だが、歩くひとには出会わない。車はびゅんびゅん脇を通るし、自転車も、学校帰りの中高生を乗せて走ってゆく。4年前まで暮らした東京では、ひねもす歩くひとがあった。早朝でも、深夜でもひとは道を踏んでいた。

 広い広い畑。そこにならぶ黄色い帽子を頭のてっぺんに乗せた、緑のボールたち、あれはなんだろう。ブロッコリじゃないか思うが、立ち枯れてように見え、収穫を待つ姿には見えない。整列しているから、枯れたブロッコリが放置されているのではないと思うのだが……、タネをとる? あ、向こうにも、同じような黄色い帽子のブロッコリの畑がある。どうしたことなのか、知りたい。
 
 コンビニエンスストアのあたりで、犬を連れて歩く女(ひと)に出会う。

 夫とホームセンターで会い、いちごの苗8株とルッコラとケールのタネを買う。
「ホームセンターには、しなちくは売ってないよね」
「……ないね」
 ラーメンのしなちくが妙に好きなわたしは、少しがっかりする。


4月20
 歩いた日に、「他者(ひと)の書いたものを読みに読んで、読みながら……」と書いたのを読み返して、わたしにとって「このこと」はいったい何だろうか、と考えている。
 きょうは歩く時間はないから、庭であれこれ植えつける作業をしながら、考える。
 エッセイ講座というのをわたしがはじめてから、どうやら10年か11年が過ぎたそうだ。講座のはじめのころからともに歩んできたお仲間が、そんな話をするのを聞いた。
 11人とともに歩きはじめて、いまは……、10倍以上のひとたちとやりとりをするようになっている。「このこと」は、わたしにものを思わせ、鍛える。
 そうしてどこへゆくときも、作品を持って、いる。
 電車のなかでも、待ち合わせの喫茶店のテーブルでも、歯科の待合室でもカバンからそっとそれらをとり出して、読む。これが書道や、柔道なら、級やら段やらが上がってゆき、皆さんとのやりとりのなかみも変わってゆくのだろうけれど、エッセイ・随筆には級も段も存在し得ない。
 そのかわりに、作品を編んで本をつくり、広く世に問いたいと考えるようになって、いま、その作業を進めている。それでますます、わたしの日常が「読む」に覆われたのだ。
 読んでいるとつい夢中になって、気がつくと朝になっていたりする。
 それにしても、と、思う。

 どうしてこの道を、わたしは選んだのだのだろう。

 自分で選んだのではないような気がする。
 天から降ってきて、動かされたのだ。
 託宣というのだろうか、ほら、ときどき、見えない何者かの声を聞いたり、夢を見たりするひとの話を聞くことがあるけれど、わたしのは、動かされる感覚。いきなり走りだして、自分で驚く、というような。
 長らく住んだ東京から、いきなり埼玉県熊谷市に引っ越したときもそうだった。「エッセイ講座」もそれに近い感覚ではじまったのかもしれないな。

 長靴を履き、虫除けのネットのついた帽子をかぶって、そんなことを考えていた。わたしには、土の仕事と、読み書きの仕事がある。

 今朝、ことし初めてのたけのこがとれたのだった。早く茹でなければ。
 でもね、これは仕事ではないの。夢のように愉快な遊び。

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ことし初めてのたけのこです。
裏庭に出てきます。

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転がるかんづめさんからのお便り、今年は春を楽しみました。
ぼちぼち同盟。ヒマラヤに登っているあずさ。
ちょっかいを出したい気持ちをこらえながら、応援するふみこ。
仲里依紗さんのYOUTUBEを参考に、「上手だった?」って聞こう。
あのひのさんの「anonami」のお洋服を迎えました。
元気をもらうことごと、など。


◆熊谷桜堤にて、菜の花とふみことあずさ(写真)
https://drive.google.com/file/d/13FOd8WUk-QkJCHNFmHSk0RRMSgGDMC5n/view?usp=sharing

◆BOOKMARKET2025 日程が決まりました! あけておいてください。
7月19日(土)・20日(日)それぞれ10:00〜17:00@台東館(東京都・浅草)

◆note「ことば山」がスタート!
ふみこの10年つづく名物講座から生まれたエッセイを連載します。
どうぞ驚いてください、くつろいでくださいまし。毎週火曜日にアップ予定。

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◆コーヒーロースターながみ くつろぎエッセイ付き珈琲、好評に第2弾販売開始!
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◆本屋さんをご紹介ください!
「一冊!取引所」を介して、卸売をしています。
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ふみ虫舎エッセイ講座傑作選 
週刊 ことば山 
連載第二回 「季節と初もの」いしいしげこ作
本日noteにアップしました。
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2025年4月15日 (火)

 麦のちから

4月9日
 埼玉県熊谷市には、「八木橋百貨店」がある。
 熊谷駅から徒歩15分、バスで5分という場所に、でん、と坐っている。
 国道17号(中山道/なかせんどう)の「鎌倉町交差点」北側に位置し、その奥には熊谷寺——これを「ゆうこくじ」と読む——があるここは、かつて熊谷の中心部であった。

 熊谷寺は父の代に大里郡熊谷郷の領主となった熊谷直実(くまがい・なおざね)の菩提寺である。
 直実の生涯の記録のなかに、自らに出家への道を選ばせるきっかけとなる場面がある。
 源平の戦い(はじめは平家側に属していたが、のちに源頼朝に臣従)のうちの「一の谷の戦い」にて、直実は平家の若武者を呼びとめ、一騎討ちを挑む。若者を馬から落としてみれば、気高い少年である。感じ入って逃そうとするもかなわず、首をとる。のちにそれが平敦盛(齢17/清盛の甥)であったことがわかる。この出来事は、直実にものを思わせ、出家を考えるようになるのだった。
 出家するための方法を模索して、およそ10年後師のもとで法力房蓮生(ほうりきぼう れんせい)となる。

 熊谷市に住むようになり、熊谷寺と八木橋百貨店のあたりにさしかかるたび、この地に所縁(ゆかり)の人びとの思いが伝わるのか、胸が波打つ。
 自分がこの地に呼ばれてきたことを、思わずにはいられなくなる。

 きょうは、買いものとは異なる相談をするため、八木橋百貨店にやってきている。思えば、百貨店に買いものでない用事でやってくるのは初めてのこと。なんだかあたらしい物語のはじまりみたい。
 そうだ。
 子どものころからわたしは百貨店・デパートが好きだった。
 いつごろからだろう、わたしが好きだった百貨店・デパートは変わりはじめた。いちばん変わったのは、場と客たるわたしの距離感だ。夢のようなその場と、そこに抱かれようというわたしの思いの交点がみつけにくくなってゆくのだった。
 だけど、だけど……、ここ八木橋百貨店にはまだ、居場所がある。
 幼い日、よそゆきの服を着せられ、レースのついた靴下まで履いて、母と手をつないで出かけたあの百貨店の、遠いような近いような不思議な感じが、ここにはまだ、ある。


4月10
 庭仕事をはじめている。
 草とりや、花の植えこみのほか、野菜づくりの計画も立てている。

 もうすぐ自分が向きあって5年目になろうとするこの庭には、いま、ちょっとした異変が起きている。思いもしなかった異変だ。
 庭のそこここに、生えている丈高い青い草。

 いったいアナタは誰?

 例年なら、西洋たんぽぽの群生が見られるはずだ。

「麦じゃないか」
 と、夫は笑う。
「昨秋、あなたが撒いた敷きわらから芽が出て、ここまで育ったんだ」
「……刈りとったむぎを、しばらくおいて、からからになったところで庭に撒いたのよ。そこから芽が、出るの?」
「タネがついていたんだね」
 よく見ると、すでに穂が出ている。
 こうなったら、庭でも麦畑でも麦刈りをしなくては。

 田んぼの麦も、庭の麦も、わたしに力を分けてくれるかな。

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これまで公式HPに掲載してきた「ふみ虫舎エッセイ講座」
から生まれたエッセイをnoteでも公開することにしました。

題して「ふみ虫舎エッセイ講座傑作選 週刊ことば山」。
https://note.com/fumimushisha/n/nbada7a87c92b

本日4月15日より連載スタート!
毎週火曜日に新しいエッセイをアップします。
ご愛読いただけましたら幸いです。

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2025年4月 8日 (火)

金色のかえる

3月29
 東京都武蔵野市の「ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」で小さなトークイベントが企画され、出かける。
「『読む』と『書く』はつながっている」という題名をつけて、おはなしをする。
 武蔵野市も「武蔵野プレイス」も、わたしには故郷のような場所だ。

「読む」は「書く」に劣らぬ創造的な営みである。
「書く」ことで、「読む」が実現する。

「本を読む」「本を読むとひとは賢くなる」を問いなおす。

「書店」「図書館」という居場所について。

 という話をしたくて、『現代の超克——本当の「読む」を取り戻す』(若松英輔 中島岳志/ミシマ社/2014年)、『幸福に驚く力』(清水眞砂子/かもがわ出版/2006年)、『古くてあたらしい仕事』(島田潤一郎/新潮社/2019年)から、少しずつ写しをつくって準備した。
 この3冊は、わたしにとって、大事な大事な本である。
 1冊読み通さなければ、読書とはいえないという思いこみ、本を読まないと教養が身につかないという常識から解放され、もっとゆったりと本と向きあいたいというわたしの考えが、伝わったのだとしたら、うれしい。
 読書の世界の常識を「非常識」だと決めつけようというのではない。その常識を超えようではないか、と提言したかった。


4月5日
 座敷のひと部屋に、仕事場を移した途端、なんだかひどく忙しくなった。
 こういう事態に陥るたび、「宿題をやり残した小学生のころの夏休みの最終週」の感覚が、どっと胸のなかにひろがる。

 いや、わたしは小学生ではない。
 しかも、あの頃のように遊んでばかりいるわけではなく、毎日働いている。

 そう云いわけしたくなる。仕事とそれにかかる雑用に追いかけられると、気が張って休まらなくなる。その「休まらなさ」が、小学生のころの「夏休みの最終週」を思わせるのかもしれない。仕事のことでいっぱいになると、止まれない。
 止まれば、気もからだも緩(ゆる)んで、いやになっちゃうような気がして、止まれない。
 しかし止まらないあいだ集中して仕事をしているかというと、そうでもない。どんどん能率が下がってくる。

「ね、お花見に行かない? せっかく一緒に暮らしているんだから、ふたりで桜を見に行きましょうよ」
 と突如として、夫に向かって云う。
 夫には、机仕事のほかに田畑の耕運の予定もあるけれど、そんなこと知ったことじゃないとばかりに、挑むのだ。
「せっかく何だって?」
「せっかく一緒に暮らしているんだから……」
「ははは」
 笑うのか? その口上を?

 17時出発。
 日がのびてきたとはいえ、荒川の土手を歩くうちに夜桜になるだろう。
 ふたりで、てくてくゆく。
「有限会社うんたった」のはなしをしたり、軽トラ(25年乗って、先週壊れて廃車にしたそ)を買う相談をしたり、あ、夏にはまた「うちわ祭り」と「花火大会」を見ようと誓いあったり。
 土手には黄色い菜の花が群れて咲いている。桜は八分咲きといったところ。露店のならぶ土手下の通りは、混みあっていたけれど、土手の上はひともまばらで、のんきに歩いた。
 思いきって出てきてよかった。
「せっかく一緒に暮らしてるからなー」
 と夫が云う。
 また、笑うのか。
 ……ク、クウ……。


4月6日
 朝いきなり、1時間庭仕事をする。
 ことしは、ここで計画的に野菜を育てるつもりだ。そんなことを考えながら草とりをしていたら、かえるが飛びだしてきた。小さくて、元気な白いかえる。じっと見たら、白地に金ラメがかかっているような模様。
 こういうのは「おつかい動物」だ。
「おつかい動物」とは、わたしが名づけたのだが、この世のものとは思えないような存在のことで、ごくたまに遭遇する。
 何年か前、上野動物園で会ったハシビロコウも、そんな感じだった。

 金色のかえるとの出会いは、吉兆。
 そう受けとめることにする。

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2025年4月 1日 (火)

 できないことがいっぱいの、わたしです。

3月23
 深夜(日付は24日になっていた)、顔の前で音がした。

 ぶーん。

 まさかね、と思う。

 ぶーん。

 またしても。
 右耳と頬のあいだあたりが痒くなる。
 やられました。

 ことしは3月のうちにやってきたね。
 蚊とり線香を焚く。


3月25
 熊谷市の健康診断の日。
 今年度のさいごもさいご、ぎりぎりに予約した結果のきょう。病院が苦手なわけでは決してないつもりなのだが、検査の類からは遠いわたしだ。

 さて、ところで。
 三女の栞バンクーバーへの帰国が迫るころのこと。
「とにかく、つぎ会う日まで、お互い生き抜こうね」
 と、約束しあう場面があった。
「健康には気をつけるし、たとえばいまの仕事を全部失うことになっても、近くのコンビニエンスストアで働かせてもらったりして、がんばろうと思う」
 とわたしは、覚悟を伝える。
「……」
 栞、黙る。
 え、わたしの覚悟を受けとめておくれよ。
「オンマ(わたしだ)に『コンビニエンスストア(以下、コンビニ)勤務』は無理だと思う」
 きっぱり決めつけられる。
「オンマのコンビニ勤務のイメージは、愛想をふりまきながら、レジに立つ、かもしれないけど、ちがうのよ。公共料金の支払いも受けつけるし、レジに立ちながらチキンを焼いたり、おでんを仕こんだり、商品の在庫チェックをしたり……、それからメルカリを出しにくるひともあります」
「……」
 こんどはこちらが黙る番だ。
 そういえば、学生時代の一時期、このひとはコンビニでアルバイトしたことがあったなあ。

 いつのまにかわたしは、「あれやこれやを、なんだってこなせる自分である」と思いこみかけていたかもしれない。
 ひとに助けられて、やっとのことで職業を成り立たせていることをつい忘れて。

 そんな会話以来、ずっと「できないことがいっぱいある自分」について考えてきての、本日の健康診断であった。
 夫と連れ立って出かける。
 あろうことか、わたしは健康保険証を忘れた(スマートフォンのなかに保険証を入れた気になっていたが、いまだ完了していなかった)。
 あらかじめ記入しておいたはずの問診票の1枚は、裏面の記入が漏れていた。親切なスタッフが、わたしに聞きとりをしながら、「レ」の印をつけてくださる。

「はい、タバコは吸いません」
「肺の病気にかかったことはありません」

 受付の段階で、わたしはすっかり恐縮している。

 という具合に、「できないこといがいっぱいの、自分」を確かめる日となる。なんとか検査9種類を終えることはできた。
 結果は郵送してもらうことにする。

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ある日、どうしてもパンが欲しくなり、
何も見ずにパンのようなものを焼きました。
強力粉。小麦粉。水。塩。砂糖。ドライイースト。
それらを適当に混ぜて……。
かたちはおかしいが、パンのようなものは、
美味しかったのですよ。

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\うんたったラジオ62/
もえさんのお便り、好きなことばと好きな声。
少年院・刑務所専用の求人誌
『Chance!!(チャンス)』編集長・三宅晶子さんにインタビューしました。
ふみこがシンパシーを感じる分野。
大分県日田市で文化を守る映画館「日田シネマテーク・リベルテ」を応援したい。
あのひのさんの販売会に行こう、など。


◆もえさんからのお便りで……
北欧暮らしの道具店「【随筆家のモーニングルーティン】
主婦が長年続けるごきげん朝習慣。山本ふみこさん編」
https://youtu.be/3UEUqfJEo-c?si=WGEofy9xx95m1YDr

◆あずさ渾身の記事
受刑者向け求人誌が問う「明日は我が身」の想像力。誰がために居場所はあるか
https://sdgs.yahoo.co.jp/featured/610.html

◆『Chance!!』最新号が読めます
https://www.human-comedy.com/『chance』最新号/

◆ふみこの特別な読書体験
『宣告(上)(下)』加賀乙彦著 新潮文庫刊
https://www.shinchosha.co.jp/book/106714

◆あずさのnote
映画館で「リベルテ(自由)」を得る
https://note.com/jamamotocapisa/n/n48cbeb52c388

◆映画館「日田シネマテーク・リベルテ」のクラウドファインディング
https://motion-gallery.net/projects/hitaliberte877

◆うんたった仲間のあのひのさんのブランド「anonami」の販売会やります!
(ふみことあずさは3/30に遊びに行く予定)
https://www.instagram.com/p/DG7YTYrTpeq/

◆くつろぎエッセイ+とびきりの珈琲(ドリップバッグ2種)
BASEにて発売開始!
ふみ虫市場
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