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2025年4月15日 (火)

 麦のちから

4月9日
 埼玉県熊谷市には、「八木橋百貨店」がある。
 熊谷駅から徒歩15分、バスで5分という場所に、でん、と坐っている。
 国道17号(中山道/なかせんどう)の「鎌倉町交差点」北側に位置し、その奥には熊谷寺——これを「ゆうこくじ」と読む——があるここは、かつて熊谷の中心部であった。

 熊谷寺は父の代に大里郡熊谷郷の領主となった熊谷直実(くまがい・なおざね)の菩提寺である。
 直実の生涯の記録のなかに、自らに出家への道を選ばせるきっかけとなる場面がある。
 源平の戦い(はじめは平家側に属していたが、のちに源頼朝に臣従)のうちの「一の谷の戦い」にて、直実は平家の若武者を呼びとめ、一騎討ちを挑む。若者を馬から落としてみれば、気高い少年である。感じ入って逃そうとするもかなわず、首をとる。のちにそれが平敦盛(齢17/清盛の甥)であったことがわかる。この出来事は、直実にものを思わせ、出家を考えるようになるのだった。
 出家するための方法を模索して、およそ10年後師のもとで法力房蓮生(ほうりきぼう れんせい)となる。

 熊谷市に住むようになり、熊谷寺と八木橋百貨店のあたりにさしかかるたび、この地に所縁(ゆかり)の人びとの思いが伝わるのか、胸が波打つ。
 自分がこの地に呼ばれてきたことを、思わずにはいられなくなる。

 きょうは、買いものとは異なる相談をするため、八木橋百貨店にやってきている。思えば、百貨店に買いものでない用事でやってくるのは初めてのこと。なんだかあたらしい物語のはじまりみたい。
 そうだ。
 子どものころからわたしは百貨店・デパートが好きだった。
 いつごろからだろう、わたしが好きだった百貨店・デパートは変わりはじめた。いちばん変わったのは、場と客たるわたしの距離感だ。夢のようなその場と、そこに抱かれようというわたしの思いの交点がみつけにくくなってゆくのだった。
 だけど、だけど……、ここ八木橋百貨店にはまだ、居場所がある。
 幼い日、よそゆきの服を着せられ、レースのついた靴下まで履いて、母と手をつないで出かけたあの百貨店の、遠いような近いような不思議な感じが、ここにはまだ、ある。


4月10
 庭仕事をはじめている。
 草とりや、花の植えこみのほか、野菜づくりの計画も立てている。

 もうすぐ自分が向きあって5年目になろうとするこの庭には、いま、ちょっとした異変が起きている。思いもしなかった異変だ。
 庭のそこここに、生えている丈高い青い草。

 いったいアナタは誰?

 例年なら、西洋たんぽぽの群生が見られるはずだ。

「麦じゃないか」
 と、夫は笑う。
「昨秋、あなたが撒いた敷きわらから芽が出て、ここまで育ったんだ」
「……刈りとったむぎを、しばらくおいて、からからになったところで庭に撒いたのよ。そこから芽が、出るの?」
「タネがついていたんだね」
 よく見ると、すでに穂が出ている。
 こうなったら、庭でも麦畑でも麦刈りをしなくては。

 田んぼの麦も、庭の麦も、わたしに力を分けてくれるかな。

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Fumimushishakotobayama
これまで公式HPに掲載してきた「ふみ虫舎エッセイ講座」
から生まれたエッセイをnoteでも公開することにしました。

題して「ふみ虫舎エッセイ講座傑作選 週刊ことば山」。
https://note.com/fumimushisha/n/nbada7a87c92b

本日4月15日より連載スタート!
毎週火曜日に新しいエッセイをアップします。
ご愛読いただけましたら幸いです。

〈公式HP〉
https://www.fumimushi.com/
〈公式ブログ〉
http://fumimushi.cocolog-nifty.com/fumimushi/
〈公式Instagram〉
https://instagram.com/y_fumimushi
 

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「日記」カテゴリの記事

コメント

大変 ご無沙汰しています。
ずっと読むだけの人になってました。
ふみこさんに励ましてほしくてコメントしています😅

次男がこの4月から大学院生になりました。8月に教員採用試験を受けます。全盲の英語の先生になれたらいいな…と思いますが 現実はどうなんでしょうか。
視覚障害者雇用について、なんの勉強もしてないわたし…。最近 反省ばっかりしています。
本人は頑張ってるんだから、
元気にならないと!

投稿: 背の高い松の木 | 2025年4月15日 (火) 10時29分

ふんちゃん皆様こんにちは。

力強い麦がそばにあると心強いですね。


さて、私のメンテナンスは終わりました。全て異常なし。また1年頑張るぞ!という感じです。

未来のことを不安になっていたりしましたが、今を楽しむわ忘れがちなこの頃。

健康に感謝してすごしていきます。

この記事の投稿が自分の誕生日、と言うのも縁を感じます

投稿: たまこ | 2025年4月15日 (火) 12時03分

ふみこ先生、みなさま

こんにちは。
来ては去る雨と風のくりかえしで桜もチューリップも
花びらが散っています。
でも、こちらのちょっと前は風にそよいでいた麦たち
が今日は穂をつけてピンと空を向いていました。
麦が黄金色になる頃、今度はまわりの山々の若葉色に
元気をもらいます。
先日、とうとうわが家の横の道を車通りのある大きな
道からゆっくり鹿が裏山へ向かって歩いてきました。
夫に呼ばれてそうーと外に出てみると上の野原をピョ
ーんと走り抜けていきました。
里山では、今や害獣扱いですが白いお尻で軽やかに
はねる鹿に見惚れてしまいました。
どうにかして共存という道はないのでしょうか。
ちなみにわが家のミミズをエサとしている謎の四つ足
くんとは、掘られれば埋めて苗を起こすを繰り返して
いるうちにジャガイモもエンドウもしっかり育って
います。
夫の検査日が延びてしまったので楽しみを前倒しにし
ようと急きょ来週空いているホテルを検索し、下呂温
泉に行ってきます。
白川郷、飛騨高山の美しい風景とおいしいものを楽し
んで来ます。

せんせい、みなさま
今週も春のよき日をお過ごしくださいね。

投稿: 岡山のこんちゃん | 2025年4月15日 (火) 13時48分

寒暖差、強風ですが、庭の牡丹と芍薬の蕾はふくらんでいます。
あおい麦も揺れていて、刈り入れの黄金色の麦穂の波も、自然は心にやわらかに刺激をくれるなあと感じます。いにしえの記憶が細胞の中にきざまれているのでしょうか。

高い空からツバメの声がして見上げてみると小さなドローンみたいに風の中、羽ばたいていました。

目線が狭くなりがちなこの頃、遠くへ、広々と心も解放したいわたしです。

投稿: こんぺいとう | 2025年4月15日 (火) 19時06分

ふみこさま


おはようございます。

庭の麦のあざやかな緑たちいいですね。
何かあたらしいことへ挑戦するふみこさんへのエール
みたいですね。ふふ。百貨店での新しい物語のお話も
わくわくします。また続きのお話し楽しみにしてますね。

こちらの中庭の木々のいちょうたちも今年はおそいな~~とおもっていたらあっというまに赤ちゃん葉っぱ達芽吹いていてパワーもらってます。あなたは誰といえば。。うちのベランダのフリージアのとなりのハイビスカスくん。
冬越しは室内にいれたほうがいいというけれどそのままにしていて3月に一つだけきれいにさいてくれました~~。
隣のフリージアに「3月に咲いてね~」と言っていたので
はりきってさいてくれたのかな?と不思議でした。今は
大好きな黄色のモッコウバラが鮮やかです。

ではふみこさんもみなさんも今日も春のいい一日お過ごしくださいね。

投稿: 真砂 | 2025年4月16日 (水) 07時14分

背の高い松の木 さん

わたしの宝ものである
「忘れない人」
をとり出して、先週、
背の高い松の木さんのご二男
(第2王子)の写真を眺めていたのです。

驚きました。
つながっているな、と、うれしくなりました。

8月の教員採用試験めざして、
祈ろうと思います。
背の高い松の木さんのように、
黙って、信じて見守る応援を、わたしは
好きです。

いい道が拓けてゆくことを、
心から信じています。

投稿: ふみ虫。 | 2025年4月16日 (水) 14時24分

たまこ さん

お誕生日おめでとうございます。

春のお生まれなのですね。
どうかまた、元気な、笑顔の1年を。
たくましくもうつくし……ね。

Happy birthday to you!
Happy birthday to you!

大声で歌いながら、これを書いています。

投稿: ふみ虫。 | 2025年4月16日 (水) 14時26分

岡山のこんちゃん さん

こんちゃん、そう来なくっちゃ。
いろいろ考え過ぎないためにも、
旅に出ちゃおう!

なんて潔いこと。
そういうところに、
さわやかな風が通るんだと思います。

投稿: ふみ虫。 | 2025年4月16日 (水) 15時11分

こんぺいとう さん

もの思わせられるこの季節を、
鳥や植物や、風や雨が、しっかりと支えて
くれていますね。

ヒトは、ちょっと頼りなく揺れているような。

ひろびろと、のびのびとゆきましょう。ね。

投稿: ふみ虫。 | 2025年4月16日 (水) 15時15分

ふみこさま

土地によばれる って感じ。
いいですね〜。
私も、結婚して実家から車で20分のところに来ましたが、結婚当初は、小さなお店があっただけなのに、今ではスーパーが3軒、電気屋さん、本屋さん、100円ショップなど、いろいろできて便利になりました。
私も、36年、この土地にいるんだなぁ。
実家の頃より長いんだな〜。
びっくり。

さて、バンドの名前が決まりました。
花音音楽教室で出会った3人なので、kanonz(カノンズ)といいます。
5月の朗読カフェで、デビューします。
私の詩に曲をつけてくれた 「ちいさなあなたへ」という歌を、なんと、私が歌います。
あと、ギターとキーボード。
ドキドキです〜。

投稿: こぐま | 2025年4月16日 (水) 21時16分

ふんちゃんへ

今回のお便りで恥ずかしながら「熊谷直実」を知りました。
今朝のテレビで気仙沼に熊谷市の方たちが震災後に「熊谷桜」を寄贈してくれて、その桜が年々増えている…とニュースで観ました。
少し調べてみると直実の孫の直宗が800年前に気仙沼に移り住んだそうです。
2014年に88本の苗木が贈られたのが始まりとの事でした。
熊谷桜は八重桜なのですね。

秋田ではようやく桜が咲きました。
歩いて買い物に行く途中の踏切の横の山桜も
いくつか花が咲いてました。
熊谷はもう新緑が眩しい季節でしょうか…。

投稿: ハチミツ | 2025年4月17日 (木) 11時12分

こぐま さん

kanonz 結成おめでとうございます。

音と、kanonzの風を、
世界じゅうに。

投稿: ふみ虫。 | 2025年4月19日 (土) 14時16分

ふんちゃん

 こんばんは。
 夜にお邪魔します。
 いつもいたわりのおことばをありがとうございます!
 少しずつ、忙しさが落ち着いてきました。
 仕事も始まり、戻ってきたな……と
 感じられるようになってきました。
 週末は、久しぶりに慌てる用事もなく、
 ゆっくり過ごせました。

 麦の写真を見て、背筋が伸びました。
 す~っと伸びる麦は、かっこいいですね。
 エネルギーを感じます。

 「現代の超克」を少し読んで……、
 コーフンしています。
 おお~っ、と学んでいる感じです。
 「読む」ことの奥深さみたいなものを
 改めて感じています。
 「読む」ことは、「感じる」ことでもあって、
 「想像する」ことでもあって……と考えていくと、
 わたしが仕事で出会うひとたちと会話するときの
 姿勢というか、こころもちのようなものと
 共通するところがあるなぁ……とも感じました。
 おもしろいです。

 まだまだ新しい環境に慣れない子どもたちが、
 次々といろんな話を持ち込んできます。
 一緒にドキドキしながら、学びながら……、
 あっという間に時間が過ぎていきます。
 それぞれの道で、がんばっているのは、
 ドラマを見ているようでもあります。
 わたしも、少しずつ自分の作業を再開したいなぁ……と、
 思っています。

 背の高い松の木さんの第2王子さまのこれからが、
 たのしみですね!
 素敵なお話をうかがって、
 また元気をいただきました。
 ありがとうございます!!

投稿: 空色めがね | 2025年4月20日 (日) 21時57分

空色めがね さん

皆さんのがんばりを、わたしも
吸いこませていただいています。

吸いこんでむせないように、
少しずつ……。

空色めがねさんは、まんなかあたりで、
どんとかまえて、ときどきその「まんなか」で
ぐーぐー眠ったり、わははと笑ったり、ね。
つまり、空色めがねさんがいればいいってことです。

庭に立つだけで、みどりたち、虫たち、
鳥たちが、わたしを揺さぶります。
風も、光も。
きのうは、ちょっぴり雨も。

揺さぶられるわたしは、
勇気を得ています。

空色めがねさん、
しばらくしばらく、がんばってーーーー。

投稿: ふみ虫。 | 2025年4月21日 (月) 16時50分

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