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2025年6月の投稿

2025年6月24日 (火)

こんなはずじゃなかった

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 朝から暑い。
 湿度が高く、外に出ると、からだが蒸されるようだ。
「夕方には、水やりをするからね」
 庭の仲間たちに、声をかける。

 約束どおり、夕方、庭に盛大に水やりをしようと、一歩庭に踏みだして驚く。
 玄関前の、2鉢の真紅のゼラニウムが、見る影もないほど、萎(しお)れている。
「待ってて、待ってて」
 そう云いながら、巻きとり式のホースを、ぐるんぐるんとひき出す。「緊急事態、緊急事態」と、脳内で何かが鳴いている。

 ホースをひっぱって、勢いよくゼラニウムに水をやる。
 水を吸収してたちまち萎れが解消、とはならず、こちらも萎れたくなる。いや、ヒトだってことしはじめの熱風にやられて、萎れはじめているのかもしれない。水を飲んだり、ごはんを食べたり、部屋を涼しくしてぐうぐう眠ったりできるから、目の前のゼラニウムのようにはならないけれども。
 この夏を、萎れないで生き抜きたい。
 こころを瑞瑞しく保って。

 夜中、心配でゼラニウムの様子を見ると、まだ、ぐったりと萎れている。


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 ゼラニウムが萎れた日の翌朝、玄関の引き戸を開けて、ゼラニウムの方向を見た。おずおずと。
 すると、もとの元気な様子にもどっていた。
 それから毎日、様子を見ないではいられない。
 ゼラニウムは、この夏の信号灯となる。

 田植えが本格的にはじまる。
 苗箱運び。
 苗作りの田んぼから、田んぼへ苗箱を配るのだ。そこから田植え機に苗箱を積む。
 朝うろうろしていると、8時半、東京に住む友だちが門のところに立って、こちらを覗きこんでいる。
「マキコちゃん」
 きょうの働き手は、マキコちゃん、遊菜・萌姉妹、梓、Daichii。わたしは「ふみこ食堂」。

 ご飯(玄米と白米)
 春雨とにら、にんじんのスープ
 豚ひき肉の串団子
 中華もやしサラダ
 小松菜と油揚げの煮びたし
 きゅうりの即席漬け
 昆布のつくだ煮

 ところが、この日の夜「ふみこ食堂」のふみこさん、ダウン。こんなはずじゃなかった、と思う一方、こういうこともあってもいい……と自らに云い聞かせる。結局、2日間ベッドで休養。

「こんなはずじゃなかった」を編み直しながら、ぐーぐー眠る。

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2025年6月17日 (火)

するべきこと、自分にできること

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 農繁期が進行ちゅう。
 自分のするべきこと、自分にできることをじっとみつめていないと、すぐわたしはこんがらかる。
 ときには「きょうはこれで畑仕事から離脱します」と宣言して机仕事に移行する。するべきことが枝分かれしているから、注意深く。夫は……と書こうとして、手が止まった。
 これからはDaichiiと書くことにしようと思う。
 たしかに夫ではあるが、仕事仲間でもあり、友人でもあり、何より同居人であって、ところどころ(!)恋人でもあるひとを、「夫」とひと括りに記す違和感を、このところわたしは持ちつづけていたのである。
 日頃「ダイチー」とこのひとを呼んでいる。
 それがいちばんしっくりする。

 Daichiiは、わたしが「離脱します」と宣言すると、「オーケー」と云う。「裏切り者!」なんてことは云わないし、素振りにも見せない。わたしにわたしのするべきことがあるのを、知っているからだ。
 こちらとしても、土仕事をつづけられたらどんなにいいかと思っても、そうはしない。自分に、自分のするべきことがあるのを、知っているからだ。

 本日は、さつまいもの苗300株のうち、半分の植え付け。
 助っ人として、友人のケイさんと息子さん、熊谷市内に住むバタコさんとサキボウがきてくれる。うちからはDaichiiと梓。
 わたしのきょうのするべきこと、自分にできることは、昼ごはんづくり。名づけて「ふみこ食堂」。

 ご飯(玄米と白米)
 かきたま汁
 手羽中の甘煮
 じゃがいものそぼろ煮
 ブロッコリーとベーコンの炒め
 トマトと、きゅうり、えごまのマリネ
 レタスと塩昆布のサラダ

 これを居間(というか土間)のカウンターにならべて、バイキング形式で食べるようにした。

 さつまいもの苗を植え付けたひとと、食堂のわたしと、見ているものはちがうけれど、どこかがきゅっとつながっている。これこそ、するべきことと、自分にできることの領域なのではないか。

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\うんたったラジオ65/
今回は、ふみこ食堂の台所からお届けします。
とりさんからお便り、淋しいについて。
じゃがいもをコトコトしながらおしゃべり。
さつまいも植えの助っ人たちが登場のため、別のタイミングで収録。
能登のおばあちゃんは楽しくって散歩してない。
「うんたったファーム便り」。
『ことば飯』の詳細、など。


◆BOOKMARKET2025
7月19日(土)・20日(日)10:00〜17:00@台東館(東京都・浅草)
https://www.anonima-studio.com/bookmarket/

◆コーヒーロースターながみ「くつろぎエッセイ付き珈琲」、
第2弾好評発売中!
https://fumimushi.thebase.in/items/105020019

◆本屋さんをご紹介ください!
「一冊!取引所」を介して、卸売をしています。
https://1satsu.jp

▽お便りはこちら
https://forms.gle/rb9gqcwHJzKafpJr6

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2025年6月10日 (火)

麦刈り、はじまる

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 なっちゃんとたけちゃんの結婚式参列のため、東京・代官山へ。
 代官山というと、わたしはなんとなく身構える。

 あなたさまにも、想像していただきましょう。ゆきますよ。
 子どもを3人連れて、あなたは東京・代官山にやってきました。洒落た雑貨店に入り、さすが代官山はcoolである、と思いながら1階フロアをひとまわり。2階にも行ってみようと、はしごのような……、何と呼ぶのでしょうか、オープン階段かな、そこを上がり、2階もひとまわり。
 さ、1階にもどりましょう。オープン階段の中ほどあたりにさしかかりました。子連れで長居するには、あまりに繊細だしね、とひとりごとを云いかけたそのときです。
 2歳の末っ子が階段横にディスプレイされた筒状のアクリルのライトにぶつかりました。筒状の透明アクリルのなかには、水と、色とりどり、無数のスーパーボールがおさまって、スーパーボールは、ゆったりと水のなかを回転しているのです。ライトの高さは1メートル20センチほどでしょうかね。
 それが……2本、倒れました。
 どうなったか。
 ええ、2本の筒状のアクリルのなかから水とともに、無数のスーパーボールが流れ出し、階下に向かって散らばってゆきました。

 顛末はこうである。
(弁償するために、このあとひと月あまり、このお店で働くことになるな)
 と覚悟しながら、お店のスタッフに平謝り。買い取り金額28,000円ほどの支払いで済んだことはともかくとして、スタッフの皆さんも、そのとき店内にいたお客の皆さんも同情的で、ありがたかいことだった。
 子どもに適さぬ場所に2歳児を連れて行ったこと、注意が足らなかったことほか、いろいろ反省しましたが、スーパーボールと水が放たれた、アニメーションみたいな場面のは、いまもわたしをくすぐります。
 人生、なんとかなるさ! とね。

 何の話?
 ああ、代官山の思い出である。
 そんな代官山で、三女栞の幼馴染なっちゃんの結婚式とパーティーが開かれた。どのくらいの幼馴染かというと生後4か月、保育園で出会い、その後小学校中学校と同級生。ますます親しくなったのは、はたちの頃からだろうか、とわたしは密かに観察している。
 新夫婦は、栞のいるカナダ・バンクーバーにも行ってくれたし、栞のいない熊谷の家にも遊びにやってきてくれる。
 幼い頃から、送り迎えや外出をともにしてきたとはいえ、結婚式に夫とわたしを招いてくれるなんて、夢にも思っていなかった。ありがとうありがとう。そうしておめでとうおめでとう、おめでとう! わたしにとっても大事なふたりの友だちが、あたらしい扉をあける瞬間に立ちあうことができた。
 そうそう、栞はバンクーバーから、映像で参加。


6月6日
 麦刈り、はじまる。
 コンバインが田んぼに入り、刈りはじめるとき、コンバインに進行方向を向かせるために空き地が必要になる。手で麦を刈って、空き地をつくるのである。
 場所にもよるけれど、田んぼの角角に3畳ほどの空き地をつくる。
 この作業をすすめてゆく。
 麦はカサカサと豊かに乾いて、天にひっぱられるように直立している。いつも間にこんな色になったのだろう。5月の後半はまだ、青青として見えたのに。これが麦秋である。黄金色を超えて、幾分焦げた色となった皆さんは、貫禄を身につけている。ことしは豊作だ。
 テレビニュースでは、田植えのことばかり報じている。こうしてこの時期麦をつくっている農家もあるのですよ、と云いたくなるが、二毛作の誇りは慎ましく胸にしまおう。
 土仕事をするとき、わたしは幾分謙虚になる。
 みみずやかえる、土のなかの名前を知らない小さな生物にならって、幾分。黙って、あたりの気配を読みながら、動くのだ。

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たけちゃんとなっちゃん、尊敬する愛しいふたり。
おめでとう。2025年6月1日。

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\うんたったラジオ64/
ごぶさたしました! お元気でしたか? 
GWの前に高知市を旅しました。
「具合が悪いときはガマンせずに言おう」。
転がるかんづめさんからのお便り、ふたたび。
ぴーちゃんはすごい。ずる休みのススメ。
あずさのくよくよ期。
新コーナー「うんたったファームだより」。
BOOK MARKET2025でお披露目するのは『ことば飯』! 
来週もどうぞお楽しみに、など。


◆BOOKMARKET2025
7月19日(土)・20日(日)
10:00〜17:00@台東館(東京都・浅草)

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◆コーヒーロースターながみ「くつろぎエッセイ付き珈琲」、
第2弾好評発売中!
https://fumimushi.thebase.in/items/105020019

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2025年6月 3日 (火)

ひとりスキップ

5月27
 郵便受けから届いた封書やはがきをとり出して、庭の飛び石をはずんで母屋にもどる。
 目の端に動くものがあった。
 顔を向けると、地面がするすると動いている。近づいて、腰をかがめて眺める。赤、茶、灰色のまだら模様がするすると動いていたが、数秒止まる。

 へびだ。

 へびは、わたしが見ているのに気がついて、動きを止めたようだった。
 そっとその場を離れ、夫を呼びにゆく。わたしひとりで見るのはもったいない、それにこういうのは夫の、昔からの友だちだから、会わせなくては。
「いいから、早くきて」
 と、へびとは告げずに呼ぶ。
 夫がやってきたとき、地面は、再びするすると動きはじめて、あっという間に石蕗(つわぶき)の根方にもぐって見えなくなった。するするのお終いには尾が見えて、全長は1メートルと少しだ。
 尾と云っても、全身尾のようでもあるへびの、どこからどこまでが「尾」となるのだろう。はじまりと終わりがあるだけの、動くひものようなへびを、どうしてヒトは怖がったり嫌ったりするのか。
 カタチとしてはひもみたいな不用心な生物だから、へびは毒を持つのかもしれない。

「あずきだな」
 と夫は云う。
「あずき?」
「ぼくは、昔から、そう呼んでる。模様が小豆を散らしたみたいでしょ。毒はないよ」
 やっぱりね。幼馴染をわたしに紹介するような云い方だ。

 このところ、ヘビづいていて1週間前には夢にへびがあらわれた。白い子どものへびが、無数にわたしをとり巻いた。

 目覚めたとき、白いへびは金運上昇の合図じゃないかと思ったりしたが、お金の使い方がうまいとはいえず、ましてや運用の才のないわたしひとりに金運がついても仕方がない。
 blogに書いて、読者の皆さんに撒こう。

 どうぞ、お受けとりくださいまし。


5月30
 いま製作している本のカヴァの撮影のため、ブックデザイナーの柴田裕介さんと、写真家の有賀傑さんがうちにやってきてくれる。
 朝から密かにうかれている。
 大好きなふたりー、尊敬するふたりー。
 と、歌いだしてしまいそうなわたし。

 そして……、想像以上のスピードで、撮影が終わった。
 仕事というのは、うまくゆくときはどこか神がかっている、とわたしは信じている。それを感じるアンテナも大事で、気づいてありがたがって、調子にのる(のり過ぎては、いけない)とうますますまくゆく、というか。

 神がかりついでに、みんなでうなぎを食べに行く。


5月31
 家でひとりきりの日。
 雨がざんざん降っている。

 ひとりきり。雨。土曜日。

 それだけでたのしめる。
 まあ、1日じゅう仕事をするのだが、お昼に何をつくって食べようかなあとか、雨だから庭の草とり、水やりはお休みだ! とか、土曜日だから仕事の連絡はこないしなあ、とか。そんなことがけっこう「ひとりスキップ」なわけだ。
 スキップ好きである。
 子どものころ、いろんなことがあまりうまくできなかったわたしの、スキップは数少ない得意種目であった。
 哲学者の叔父が「ふみこちゃん、きみは、とてもコケティッシュだね」と云ったのがはじまりだった。
「おじちゃま、コケコッキュとは何?」「コケティッシュ(coquettish)だよ。フランス語はじまりのことばなんだよ。親しげで品があり、魅力的ってこと」
 頭をかしげているわたしに向かって、叔父が云う。
「歌える?」
「歌よりも、スキップのほうが上手です」
 そう云って、わたしは叔父のまわりを跳ねてみせる。
「ははは、それがコケティッシュだよ」

 叔父はきっと、わたしを励ましてくれたのだと思う。
 その後、coquettishには、男たらし、色仕掛けというような意味もあると知ったが、わたしのcoquettishは「スキップ」。
 叔父とのいちばん素敵な思い出の場面だ。

 だからときどき、家でスキップをしてみる。
 一応大人だから外でとつぜんスキップしたりはしない。けれど「ひとりスキップ」「こころスキップ」の技を持っているというわけだ。

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どくだみを干しました。
これは、虫さされや化膿止めとして使います。

つぎはお茶もつくります。

やっきになって抜いたり、
飾ったり、エキスを使わせてもらったり……。
「関係性」とは単一ではないですね。

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