ジャムを煮る
5月27日
机の上の「ING」のふた無しの箱に、新聞の切り抜きがのっいる。
スクラップブックに貼りつけるところだが、記事のなかの写真の笑顔に惹かれて、そのままにしてある。
日付を見ると「2024年6月22日」(毎日新聞夕刊)。もう2年近くもそのままにしてきたことになるのには、さすがに驚く。
「会いたい2024年夏」——脚本家山田太一さん(2023年死去 享年89)の記事。視線を斜め上にのばした笑顔で、両手を顎の前あたりで組んでいる写真は、かつてお目にかかったときの印象そのままだ。
「一緒に道を歩くと、山田さんは向こうから来る人をよけて、道の端に寄って行ってしまう。最後には側溝のコンクリートの蓋(ふた)の上を歩いている……」という、山田太一晩年、6年にわたってインタビューした作家頭木弘樹氏のことばがこの記事のなかにある。
山田さんとわたしが待ち合わせをしたのは、小田急線の経堂駅だった。10年よりさらにいく年か前のことだ。「山田太一さんでいらっしゃいますね。山本ふみこでございます」と声をかけた。
その日講演をなさる山田さんのそばについて、余計なお世話を焼くという役目を、わたしは担っていた。講演前に昼食をとることになっていたから、その店まで歩くとき、頭木弘樹氏が述べた前述の様子と、まるで同じことが起こった。
気がつくと山田さんは、道の端のほうに寄って行き、このままではどこかへ落ちこんでしまいかねないという佇まいだ。
「どうぞ、こちらへ」
と少しばかり中央寄りを歩いていただこうとしても、またいつしか、端に寄っている。謙虚であるからにちがいないけれど、このあたりからでないとみつけられない何かにじっと目を凝らしているようでもあって、わたしは、なんとも云えない気持ちになる。
昼食の店の、これまたもっとも端っこのテーブルについたとき、山田さんはバッグのなかから、当時刊行されたばかりの新書『ハンナ・アーレント』(矢野久美子著/中公新書/2014年)をとり出した。
ハンナ・アーレントは政治哲学者(1906―75)であり、戦争の世紀を独自の思考を以て生き抜いた女性だ。山田さんは、この本のなかの「アイヒマン論争」について、静かに、しかし熱く語る。
アドルフ・アイヒマンはナチ親衛隊のユダヤ人問題の専門家。それにより出世して、ゲシュタボのユダヤ人部門の責任者となる。この表現だと、伝わらないかもしれないが、ドイツや、ドイツが占領した地域のユダヤ人たちを強制収容所や絶滅収容所に移送する指揮をとった人物である。行政的大量殺戮の実行を担ったという意味において、悪の権化のように位置付けられた。
しかし、アイヒマン裁判(イェルサレム)を通して、アーレントはアイヒマンを、「怪物的な悪の権化」ではなく、思考の欠如した凡庸な男と描いたのだった。
このことにより、犯罪者アイヒマンの責任を軽くし、抵抗運動の価値を貶(おとし)めるばかりか、ユダヤ人を共犯者と仕立て上げようとしていると決めつけられたアーレントは、追い詰められる。彼女が書いた『イェルサレムのアイヒマン』を1行たりとも読んでいない人びとからも、攻撃された。
それまで親しかったユダヤ人の友人からも絶縁を宣言されている。
山田さんとともに、このことをふり返りながら、わたしは大事な場面で根本的には何もしない(非難したり、攻撃することはあっても)大衆の習性のようなものをみつめていた。そうしてその大衆に、自ら身を投じ、何もしないわたしに……、なりつづけてきた……のだ、と考えていた。
*このときの会話、「アイヒマン裁判」のあれこれについて、これまで幾度も書いてきました。これから先も、思いだすたびわたしは書くだろうと思います。
5月28日
小梅の実をとろうとろうと思っていたのに、できなかった。
もうほとんど落ちてしまっていた黄色い実を2キロ拾って、ジャムにする。茹でてタネを除き、砂糖を加えて煮た。
「いつもいつも後手にまわって……、ごめんなさいね」
と云いながら、鍋の前に立つ。
「ごめんなさいね」
を受けとめてもらえたものか、美味しいジャムとなる。
5月30日
庭のラズベリーを摘んで、洗ってよくよくつぶして、しばらくおいてこれもジャムにする。
『あるジャム屋の話』(安房直子/あわ・なおこ)を思いだして、目の裏が熱くなる。好きで好きでたまらない物語である。
ジャムを煮ることで、わたしは救われていたのだな、という気がしてくるのだった。何から救われたのだかは、いま、ちょっとわからないのだけれども。
ブルーベリーの実がこんなにふくらんできました。
ことしは、収穫をがんばります。
昨年はカナダにいて、あまり摘めなかった……。
\うんたったラジオ93/
ちょっとおすまししてスタート。「仕事どう?」からの、占い師に言われたことばが忘れられないというふみこ。ARASHIの話。5月31日にファイナルを迎える彼らに、どうもありがとうを伝えたいよね、など。
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コメント
こんばんは。
うちもブルーベリーふくらんできているのか気になるので明日見てみようと思います。
いろいろなジャムいいですね。
たまにはジャムに挑戦してみようかな。
投稿: 聖美 | 2026年6月 2日 (火) 18時48分
台風の風雨の音の中です。
とおりすがりのおうちの紫陽花の青紫がしっとり見えます。
被害が困るけれど、これからの季節の雨は好きなわたしです。
下の子が家を出て、わたしたち家族の生活が変わって数ヶ月たちました。
住めば都という言葉は伊達じゃなく、わたしとオットの暮らしも慣れてきて、このままずっとここで過ごすのかも、とおもったり。
凧の糸のように、離れていても子どもたちの暮らしと、どこかくっついている感覚のまま、ときには気楽なふたり暮らしです。
くっついて過ごしていたころ、ストレスや悩み、もどかしさをはらいたい、とおもっていたけれど、そのことの持つエネルギーのようなものに突き動かされていたと、いまはわかります。
大きく構えて揺るぎない、という心でありたいけれど‥‥舌にイターイ口内炎ができたのは、ここ何日かの息子のアレコレのせいだと発覚、まだまだ修行が足りません。
断捨離でいうと、いつか、は来ない、を合言葉のように片づけますが、いつか夜中にジャムを煮るワタシはありカモ、なんて想像してます。
ふみこさま みなさま
雨にも負けず風にも負けず、がんばらないを、がんばりましょう。
投稿: こんぺいとう | 2026年6月 2日 (火) 19時39分
ふみこせんせい みなさま
こんばんは。
夜になって台風の影響の雨音が強くなって来ました。
太平洋側を台風が通過するときには、奈義町にある
那岐山にあたって吹き下ろしてくる「広戸風」が起き
ると言われています。
その風に倒されないように今年もきれいに咲いてくれ
た「スカシユリ」たちを玄関に避難させました。
甘い香りが漂っています。
台風の進路を見ながらまずはおきょうさんの旅路が気に
かかり静岡近くを通過ということでユリの木の花子さま
のことが気にかかっています。
そして高知の長男家族の二人の孫の通学のことが気にか
かり夕方LINEしてみるとおかあさんから
「○○○ 骨折しました!」と包帯の巻かれた指の写真。
台風の風か雨のせいかとびっくり「え、いつ、なぜ?」
「今日の体育のバスケで突き指かと思ったら折れてまし
た!」
台風のせいじゃなかったことに安心したりなぜこんな日
に骨折するかなとなんか彼らしいなと夫と話しています。
「しばらくギター弾けないね。落ち込まないでね。でも
じいじが○○○にはボーカルがあるって言ってるよ」と
伝えると「治るまで後輩の指導をする」と常にポジティ
ブな彼らしい返事に安心しました。
ほんとうに予期せぬことが起こるものですね。
せんせい みなさま
どうぞ被害なく台風が過ぎていきますように。
投稿: 岡山のこんちゃん | 2026年6月 2日 (火) 21時04分
ふみこさま
おはようございます。
こちらも雨音が強くなってきた朝です。
でも6月にはいり次々にだいすきなるりまつりが咲き始めて
くれてうれしいです。地中海ブルーと天使の白の花につられて買ったこの花ももう10年くらいお世話もしないのに
元気です~。
そうそう梅のみといえば。。
府中郷土の森のあじさい祭りがはじまったので週末行ってきました~。様々な色合いのあじさいの美しさもさることながら。。そのおくにある梅林一面におちている梅のみ
のいい香りにうっとりでした~。以前木の下で大きな布を広げて梅の実を収穫しているのを見たこともあります。この熟したオレンジの実は梅ジュースとか梅ジャムにするのかな~なんておもいながら広い梅林のなか歩いてみました。
こちらもさっそく梅の実をかってきて梅酒作ってみました。3本あるので誰かにあげるのも楽しみです。
ではふみこさんもみなさんも今日も台風にきをつけていい一日お過ごしくださいね。
投稿: 真砂 | 2026年6月 3日 (水) 07時30分
ふんちゃん皆様こんにちは。
家庭菜園があることは嬉しいこと、心の拠り所ですよね。
我が家も今いちごがたくさんできて
練乳で食べたり、そのまま食べたり、かき氷用にしたり。
毎日おうちに帰ってから採るのが習慣です。
子供達の思い出になるといいな
投稿: たまこ | 2026年6月 3日 (水) 12時11分
ふんちゃんへ
昨日宮城へ戻りました。
台風は今、近づいてきたようで雨風が強くなってます。
色々な所で被害が出ているようです。
これ以上ひどくならないことを祈ります。
いちごとリンゴのジャムをその季節になると作っていましたが、しばらくお休みしてました。
安房直子さんの作品は『きつねの窓』の一部分を覚えていました。
何年か前に思い出したように、図書館で借りていくつか作品を読みました。
また読みたいな…思い出させていただき、ありがとうごさいます。
気づけば、もう6月。
ふんちゃん、広場の皆さん 佳き夏になりますように…。
投稿: ハチミツ | 2026年6月 3日 (水) 12時30分
聖美 さん
ブルーベリーの木の背が高くなったので、
ことし、ネットの高さを上げることにしました。
そのはなし、いつか、ブログで読んでいただこうと
思います。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 4日 (木) 11時13分
こんぺいとう さん
口内炎って、
ことが過ぎた頃、ちょっとホッとする場面で
出てきます。
……わたしはいつもそうです。
ものすごいのができて辛いけれど、
「生き抜いたなあ、やり遂げたかなあ」
と思います。
夜中のジャムづくり、
素敵。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 4日 (木) 11時36分
岡山のこんちゃん さん
天気予報でも、事件でも、熊の出現でも、
広場の皆さんのことを、考えます。
日本列島に、皆さんのお姿(お目にかかったことの
ない方もあるけれど、イメージできます)が
浮かびます。
骨折は、思いもよらなかったけれど、
きっと人生に活かせる経験となることでしょうね。
こんちゃん族の皆さんのことですから。
……うん、ボーカルもありですね。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 4日 (木) 11時41分
真砂 さん
田んぼの準備に追われ……、
麦刈の予定に心ふるわせ……、
あ、梅の実とらなくては……と
焦りがちなこの時期ですが、
ことしは、なんとなくのんびりかまえています。
なんとかなる。
なるようになる。
と思ってみると、
ほんとうにそうなのですね。
焦りは、ほんとうに無駄だなあ、と
思うきょうこのごろです。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 4日 (木) 11時45分
たまこ さん
庭、田畑には、
ほんとうに救われています。
作業は待った無しですが、
土のおかげで、ヒトでいられる……。
そんな気持ちです。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 4日 (木) 11時47分
ハチミツ さん
安房直子の「あるジャム屋の話」を、わたし、
ほんとうに好きなのです。
必ず、えーんと、泣くところがあります。
あ、豊かな「えーん」ですから、安心して。
ふたりで、泣きましょう。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 4日 (木) 11時49分
ふんちゃん
ハンナアーレントのお話。
ずっしりと……しみいりました。
今……、どんどんと変な方向へ行っているような気がする世の中で、
何もせず、黙っているのでいいのか?と、
いろんなところから言われている気がしていました。
少しでも何か動いてみているひとのSNSをみたりして、
何もしていない自分にちょっともやもやしてみたりして……。
ただ……、毎日、祈ってはみています。
実際的に何もならないかもしれないけれど、
でも何もしないよりは……と思って……。
今は、きっと世の中戦時中でもありますよね……。
日本が戦争をしていないから、普通に過ごせているけれど……。
ハンナアーレントの本は、いつか……
じっくり読みたい……です。
ウチのブルーベリーも、ようやく少し実の形になっていました。
わたしも、ジャムを作ってどんどん食べようと思います!
100字日記を書くノートと、
手帳とかを入れておけるポーチ(?)も届きました~!
うれしくて、さっそく使っています。
不思議なものですね。
ふんちゃんの文字や絵が描かれているっていうだけで、
ウキウキしちゃいます。
明日は、ようやく野菜の苗を植える予定です。
土いじり……たのしみです。
それにしても……熊谷の直売所に行きたい!
どこでもドアがこんなにほしくなるなんて!という感じです(笑)
投稿: 空色めがね | 2026年6月 5日 (金) 22時29分
空色めがね さん
結局、「なにもしなかった」という見方は、
当時もいまも、受けいれがたいことなのだと
感じています。
何かに手をくだしたひとが怪物で、
なにもしなかったひとが、ただただ犠牲者だとなると……。
その2本の線はどこも重ならず交わらず、
同じことがくり返されるのではないでしょうか。
ブログに書くことに寄り添っていただいて、
ありがたいです。
日常愛を大事にしながら生きているつもりだけれど、
それは、ある日とつぜんくつがえることもあります。
知らなくてはいけない、
学ばなくてはいけない、
考えなくてはいけない、なと。
ふ
投稿: ふみ虫。 | 2026年6月 6日 (土) 09時35分